2012年11月3日土曜日

技術力と事業について

「技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか」は妹尾先生の有名な本ですが、技術開発をやっている人間にとっては、どうしても技術力の向上が目的化してしまう傾向があります。

私も技術者をやっていたためか、無意識にそういう考えをしてしまうことがあります。

何年か前、母校の大学を訪問し、私の元指導教官とお話する機会がありました。最近の日本の競争力低下が話題になりましたが、私は「日本は自動車よりナノテクのような未来の技術に投資したほうがよいのではないか」などど意見を述べたところ、元指導教官にこう言われました。

「ナノテクは扱う質量が小さいので雇用を生み出す産業になりにくい。その点、自動車産業は裾野が広く雇用を生み出し、日本人がそれで生活できる。ナノテクは果たしてそういう産業になるのか?」

もちろん、ナノテクも技術の発展によっては主要な産業になる可能性はあると思いますが、当時の私は、技術力のみ目を奪われ、日本人全体の生活にまで考えが及んでいませんでした。

つまり、技術力はあくまで手段であって、日本人の生活向上が目的であるという当たり前のことに気がついていなかった訳です。

そう考えれば、技術力というのも必ずしも必須の要件では無いことにも気が付きます。

例えば、日露戦争で活躍した戦艦三笠は日本製ではなくイギリス製です。当時の明治政府の首脳は、戊辰戦争、西南戦争などの戦火の生き残りですので、最新の兵器しか役に立たないことが実感としてあったとされます。

したがって、戦争に勝つ目的のために、外国の最新技術を導入することは当たり前であり、自国技術にこだわることはありませんでした。

また、企業には知財部というものがあり、主に特許出願業務などを行なっていますが、今から40~50年くらい前は特許部といい、その主な業務は、外国からの技術導入でした。

当時の日本企業は発展途上であり、外国の優れた技術を導入して事業化するのが一般的でした。当時の特許マンはアメリカ、ヨーロッパを飛び回り、いろいろな企業のライセンスを得ることが、重要な任務でした。

外国の空港で、ライバル企業の人間と出会うと、どのような企業とライセンス交渉を行なっているかバレてしまいますので、海外では変装したり、中国人を装っていたりスパイ小説のようなこともあったそうです。

しかしながら、日本企業はこのライセンス導入により大きく力をつけ、現在。世界的な成功を得ることができたのは、ご存知のことと思います。

まとめますと、技術力というのはあくまでも手段であって、目的ではありません。技術力があっても事業に失敗することはありますし、逆に、技術力がなくても事業に成功することは可能です。

したがって、まずは、目的を明確化することが必要といえるでしょう。