2011年12月28日水曜日

パラダイムシフトについて

羽生善治さんの「決断力」を読みました。羽生さんといえば将棋の棋士であり、七冠を達成したことで有名なのは言うまでもありません。私も子供の頃、将棋をやったことがありますが、全く強くなく、将棋の強い方はどのようにして勝負に挑むのか興味がありました。

羽生さんの時代から、コンピュータを使ったデータ重視の将棋に移行したようで、戦う前のデータ解析や戦略策定が勝負を左右するとのことでした。つまり、経験以上にデータ解析が重要な時代に変化しました。

このあたりは野村監督のデータ野球と共通するところでもありますが、勝負に勝つための定石なのかもしれません。もちろんデータをただ集めるだけではなく、データに基づいて新しい戦略を導き出す必要はあります。

さて、私がこの本を読んで感じたのは、パラダイムシフトの怖さです。従来の将棋の世界では、威圧感や精神の持久力、人の嫌がる手を打つなど、人間の駆け引きが勝負の鍵を握っていました。ところが、コンピュータの登場により必勝法が大きく変わってしまいました。

従来の将棋の世界で強みを発揮していた棋士は、データ重視の作戦が浸透するにつれ、全く勝てなくなっていったと推測されます。もし自分がそのとき棋士であったどうしただろうと考えると恐怖を感じました。

データ重視の作戦をまねすればよいという考えもありますが、そう簡単にはゆきません。たとえ真似を始めても先行者はさらに先を行ってしまいますのでキャッチアップすることは非常に難しく、遅れている不利はなかなか解消できるものではありません。ということで、私が棋士でなくて安心しました。

ただし、安心するのはまだ早く、このようなパラダイムシフトはビジネスの世界でも起きてしまいます。例えば、レコードからCD、フィルムカメラからデジカメ、最近では、ガラケーからスマートフォンなどです。このように、自分の仕事が古いパラダイムとなってしまっていたら、仕事にあぶれてしまいます。

それでは、パラダイムシフトを無事に乗り切るにはどうしたらよいのでしょうか?2つ対策を考えてみました。

1.自らパラダイムシフトを起こす人となる
スティーブ・ジョブスのようにイノベーティブな人は自らの力でパラダイムシフトを起こしますので、世の中の変化を恐れる必要はありません(当たり前ですが・・・)。誰もが彼のような天才になれるわけではありませんが、毎日少しづつ新しいことを始めるなど自らを変革してゆく心構えがあれば、世の中の変化に対応しやすいのではないでしょうか。

2.パラダイムシフトを素早く感じ取り、すぐに先行者のまねを始める。
タイムラグがあると先行者に追いつくことが難しくなりますので、とにかく早くまねを始めることが考えられます。 60、70年代ころの日本は欧米の真似をして技術のキャッチアップを果たしましたし、最近の韓国、中国も基本的に先行者を真似して今の地位を得ました。ただし、真似をする場合には、先行者の知的財産を侵害していないか判断が必要ではありますが。

さて、今年はいろいろなことがありましたが、2011年はおそらく日本にパラダイムシフトが起きた年として将来評価されることとなるのではないでしょうか。パラダイムシフトの内容は、私にはよくわかりませんが、もう行動を起こしている企業や人は沢山いると思います。

したがって、それらの情報を集めて、自らどのような行動を起こすべきか、考えてみてはいかがでしょうか。

2011年12月19日月曜日

知識と知恵について

先日のニュースで弁護士の就職難が深刻化していることが報じられました。弁護士会の会費は年間50万円程だそうで、それ以上の売上を上げられなければ登録すらできません。

一昔前では弁護士といえば高収入が保証された仕事でしたが、なぜこのような事態となったのでしょうか。弁護士の需要と供給に不均衡が生じていることが主たる理由と思いますが、知識の価値が低下してることも理由の一つと思います。

弁護士になるには1日24時間厳しい勉強をして法律の知識を身につけなければなりません。昔はこの知識自体に非常に価値があったといえます。しかしながら、ネットが普及した現在ではある程度の法律の知識は無料で入手できますので、知識の価値は低下しているといえるでしょう。

また、社会の変化が早く、複雑化しており、所詮過去の体系である知識がたくさんあっても役に立たないという事情もあると思います。

現在求められているのは、 知識を使いこなす知恵だと思います。知恵はネットを調べて身につくものではなく、また、社会の変化や複雑化に対応するために必要な能力と思います。

ただし、知恵というものは学校で学べるものではなく、実務を通じて悩んだり、課題を解決することを通じて身につくものと思います。そう考えると、就職先のない弁護士はまずどうにかして実務経験を得る必要があるということになります。

では、実務経験を積めば安心なのかというとそうでもありません。 実務に注力しすぎて知識のインプットが不足してくると、自分の中の知識が陳腐化してゆきます。知恵というのは、知識の組み合わせを考えることですので、知識が陳腐化すると知恵も陳腐化してしまいます。

また、知識が不足していると知識の組み合わせの数も不足しますので、知恵の絶対量も不足することになります。このように、知識と知恵というものは、互いに関係するものであり、実務経験を積みつつ継続して知識を増やす努力が必要といえます。

そういう意味では、ロースクールとは、実務経験のある社会人を受け入れたり、実務家教員を雇ったりして、実務と知識をうまくバランスさせることができる筈でしたが、就職難が生じていることを考えると、まだまだ改善の余地があるようです。

2011年12月11日日曜日

情報の活用について

NHKで「坂の上の雲」の最終章が始まりました。私も録画したものをやや遅れて視聴いたしました。第一回目は旅順要塞攻略の部分であり、日本海海戦とならんで日露戦争で語られることが多い戦いです。

さて、旅順要塞の攻略には非常な犠牲を払うこととなるのですが、その理由の1つとしてドラマの中では旅順要塞の情報が全くないことが挙げられていました。情報があれば守りの弱い部分に攻撃を集中して要塞を攻略できる可能性が高まります。

ただし、当時は情報収集手段として内部にスパイをもぐりこませることなどしかありませんから、情報が欠乏するのも仕方がないことといえるでしょう。結果的に兵を突撃させて砲やマシンガンの配置や数を確認することになるのですが、当然犠牲者の数も多くなります。

同じことは企業経営にもいえるのではないでしょうか。技術開発を行うにしても、競合、課題、用途、・・・等の情報を調査せずに方針を決定することは、 企業の体力を無意味に消耗することになるでしょう。さらに、現在ではインターネットという便利な情報収集手段がありますので、情報収集のコストはとても低くなっており、やらない理由はありません。

また、ドラマに戻りますと、203高地の攻略や28サンチ榴弾砲の使用というアイデアが、戦いの初期の段階から提案されていたのに対し、現地の作戦参謀はこれらの提案を無視しました。確かに、現場のことは現場の参謀が一番知っておりますので、現場の判断を優先することは当然と言えます。

しかしながら、これらの情報を採用すれば攻略も早まったわけで、 外部の情報が活用されていればとも思ってしまいます。

したがって、企業も情報を収集するだけではなく、収集した情報を分析して活用する仕組みを社内に設ける必要があるでしょう。そうすればより容易に目標を達成することが可能となるのではないでしょうか。

いずれにせよ、情報の収集、分析、活用が重要なことは、日露戦争当時も、現在も変わることはありません。

2011年12月8日木曜日

無形の力について

大変遅ればせながら野村監督の書かれた「弱者の兵法」を読みました。この本には印象に残る考え方(成功する確率の高い作戦を採用するだけ、プロフェッショナルのプロはプロセスのプロなど)が、様々記載されておりますが、知財の仕事をしている当方に特に印象に残った言葉は、弱者が強者に打ち勝つには「無形の力」を使うしか無いという言葉でした。

野村監督が現役当時には王、長島という超天才がライバルとして存在したため、通常の努力ではとてもかなわないことが明白であり、野村監督がどう対処したかといえば情報を様々集めて分析することにより(すなわち、無形の力)、天才を超える成績を残すことを可能としたそうです。

体力や技術(すなわち有形の力)は有限であるのに対し、情報(すなわち無形の力) は無限ですので、アメリカ人に体力が劣り、技術で天才に劣る人間には、この無限の力を利用することが有用であるということです。

さて、企業の経営に話を転じれば、中小企業においてもこの無形の力を利用することが、大企業に打ち勝つ一つの方法といえるでしょう。したがって、技術開発においては特許情報を検索して解析し、自社の戦略にフィードバックすることが必要です。

この無形の力を最大限利用している国といえば、やはり米国でしょう。アメリカは国にCIAという組織があることからもわかるように、企業でも情報の収集や分析に多額の予算を投じております。また、コンペティティブ・インテリジェンスといって、様々な情報を企業の競争力に結びつける研究も盛んです。

また、アップルの株の時価総額は世界一となりましたが、企業価値を構成する要素の大部分が特許やブランド、そして社外秘ノウハウ等の無形財産であるといわれています。

このように強者である米国ですら無形の力を活用しているのですから、日本企業がこの先生きのこるためにも、無形の力を利用することを真剣に考えなければならないでしょう。

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