2015年4月10日金曜日

長い明細書について

私は弁理士の仕事しつつ、企業の知財部支援の仕事もやらせていただいております。

知財部的な仕事をする際に避けて通れないのが、他の弁理士等が書いた明細書の評価です。他の弁理士の書いた明細書を読ませていただくのは、自分にも非常に勉強になります。

そうするといろいろな明細書が見受けられるのですが、長文の明細書に出会うことが多々あります。こういう明細書は読むのもしんどいですし、理解するのも大変、時間がかかります。

日本の国語教育を受けていると長文に価値があると感じてしまいがちですので、こういう明細書が喜ばれる素地があるのかもしれません。

とはいえ、明細書は小学校の作文と違いますので、長ければよいというものではなく、デメリットもいくつかあります。

一つ目は、明細書作成コストがかかるということです。

弁理士に明細書作成を依頼する場合には、ページ数に応じてその料金が上昇しますので、長い明細書はコスト高といえます(弁理士には売上が上がるのでメリットともいえますが・・・)。

二つ目は、翻訳費用がかかるということです。

外国へ出願する場合には、原則各国の言語に明細書を翻訳する必要があります。出願する国数に応じて翻訳費用がレバレッジされて増加します。

三つ目は、不要な開示を含む可能性があるということです

明細書で公開された情報は、公知になるとともに、権利範囲に含まれない部分については、誰でも自由に実施できることになります。

したがって、権利に関係ない部分の記載については、「ただ」で情報をあげているようなものになりますので、記載は厳選して減らすようにしなければなりません。

四つ目は、検討コストがかかるということです。

拒絶理由対応や侵害対応をする場合、担当者が明細書を読み込む必要がありますが、長い明細書は読むのも時間ががかりますので、検討に工数が多く必要となります。

担当者が複数の場合には、担当者数でレバレッジされて工数が必要となります。

五つ目は、論理不明確となりやすいことです。

明細書は論理を組み立てて、矛盾が生じないように記載する必要がありますが、文章が長くなりますと、論理に齟齬が生じる可能性が高くなります。

論理に矛盾がある場合には、記載不備として拒絶される可能性が高くなりますし、侵害訴訟では矛盾を突かれて、権利範囲が狭く解釈される可能性があります。

結局、明細書は短くする努力というのが最終的には必要となると思います。

それでも、長い明細書が製造されてしまう理由としましては、やはり、拒絶査定となったときの言い訳とできるからなのかと思います。

拒絶査定となると、弁理士の責任が問われる可能性がありますが、長文に価値があると感じてしまいがちですので、これだけ一生懸命書いたのだから、しょうがないといいやすいと思います。

また、明細書が長い方が、高額を請求できるという事情もあると思います。

したがって、弁理士の側から明細書を短文化するというのは、難しいと思いますので、クライアントの側が明細書を精査して短くするのが現実的と思います。

2015年4月8日水曜日

弁護士のマーケティングについて

この間twitterを見ていましたら、「仕事がない弁護士はマーケティングをすればよい。コトラーを読め」的なツイートを見かけました。

確かにそうなのかもしれませんが、少々違和感がありました。まあ、話半分なのかもしれませんが。

ということで、私なりに弁護士のマーケティングを考えてみました(弁護士ではありませんが・・・。)

マーケティングといえば、いろいろなフレームワークがありますが、有名なのが4Pです。

4Pとは、製品(Product)、価格(Price)、流通(Place)、プロモーション(Promotion)の各要件について、市場に受け入れられる組み合わせを考えるようなことをいいます。

ます、製品(Product)ですが、弁護士の業務は民事、刑事、渉外等の法律事務ですので、業務自体で差別化することはできません。

ただし、レベルの高い仕事をすることにより、質で差別化することは可能です。

したがって、製品(Product)の面からは、実務をこなし、裁判例を研究するなどして実務能力を向上することがマーケティング的には有効と思います。

次に、価格(Price)ですが、手数料を安くすれば差別化することは可能です。

しかし、ここで考えなければならないのは、弁護士はプロフェッショナルであるということです。

波頭亮さんの「プロフェッショナル原論」という本には、「プロは値引きをしない」とありますので、これはなし、ということになります。(詳しくはこの本を読んでください。とてもよい本です。)

流通(Place)につきましては、なかなかピンときませんが、例えば、人が集まるいろいろなところ(商工会、異業種交流会、同窓会、・・・)に顔を出して活動し、名前を売る活動をすることにより、仕事の紹介が得られるかもしれません。

プロモーション(Promotion)につきましては、プロフェッショナルは営業してはならないという固有のルールがあることが悩ましいところです。

波頭亮さんの「プロフェッショナル原論」という本には「プロフェッショナルの仕事はクライアントの依頼があって初めて発生するものなのである。つまり自ら売り込んだり営業活動を行ってはならない」との記載があります。

したがって、プロモーション(Promotion)もなし、ということになります。

そうすると、4Pから考える弁護士のマーケティングとは、実務能力を高め、いろいろなところに顔を出す、ということになります。

しかしこのようなことは、当たり前のことで、わざわざコトラーを持ち出す必要もありません。

先ほどのツィートは、通常のビジネスには当てはまりますが、弁護士というプロフェッショナルの特性を知らないで、つぶやいたのかもしれません。

ということで、コトラーを読む暇があるのなら、判例の研究でもしたほうが、マーケティング的には正しいということになります。

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