私は以前はメカ屋をやっておりました。私の世代はちょうど手書き図面から3D-CADへの移行期にあたる世代で、私はどちらの設計法でも機械設計が可能な最期?の世代となります。
手書きで機械設計というのは、干渉チェックや動作や構造のチェックが、実際の機械を組み立ててからでないとわからない部分もあり、手直しが多く発生し、経験がものをいう世界でした。
一方、3D-CADを使用しますと、干渉等のチェックを、設計をしながら確認できますので、設計の手直しをなくすことができ、省力化につながります。
すなわち、CADの方で設計者の経験不足を補助し、それなりの完成度の機械をはじめから設計できることになります。
その後転職して、明細書を書いておりますが、いつも感じますのが、何か便利ツールはないかな…、ということとなります。
現状の明細書作成は、機械設計における「手書き時代」に相当するかと思います。拒絶理由(29条、36条)のチェックが、審査請求をしてからでないとわからない部分があり、中間処理が多く発生し、経験がものをいう世界となります。
そうしますと、機械設計における3D-CADのような、拒絶理由の可能性をチェックしながら明細書を作成できるツールがあれば、中間処理を減らすことができ、省力化につながると思います。
ツールの方で、明細書作成者の経験不足を補助し、それなりの完成度の明細書をはじめから作成できるようになればよいと思いますし、まあ、近い将来はそうなるのかな、と思います。
明細書作成自動化という考え自体は、以前からありましたが、技術的に困難であることから、実用化に至ったものは存在しないと思います。
状況が変わったのは、いわゆる人工知能を使用すれば何とかなるのではないかという期待感があります。
しかし、現状の人工知能は、29条のざっくりとした判断ができるのみですが、明細書を作成するということは29条のみならず、36条もクリアできる必要があります。
すなわち36条対応の人工知能ができるかどうかが、明細書作成対応のポイントとなります。
私の考える、明細書作成AIの処理手順は以下のようになります。
STEP1.請求項を人間が作成する。
請求項をAIが作成するというのは、すなわち、AIが発明するということになりますので、これはこれで興味深いテーマですが、ここでは人間が作成することにします。
ここでは、請求項をA+B+Cとしておきます。
STEP2.AIが類似文献抽出
AIが請求項A+B+Cに類似する文献を抽出します。これは、現状のAIでも処理可能です。また、AとBは文献1に類似し、Cが文献2に類似するとします。
STEP3.AIが段落抽出
AIが文献1(明細書)からAとBに関する説明が記載された段落を抽出する。同様に文献2からCに関する段落を抽出する。これも現状の技術でできそうです。
STEP4.AIが明細書生成
AIが抽出した段落を適当に組み合わせて明細書を作成する(ここでの「適当」という言葉は悪い意味で使用してはおりません)。
適当に組みあわせただけでは論理的な文章にならず、36条で拒絶されると思いますので、ここで凝った処理が必要となると思います。どういう処理になるかは私にはわかりません。
この適当な明細書を人間が36条を満たすように修正するという、というのが現実的なところでしょうか。弁理士にこういう仕事が回ってきて、ディスカウントを迫られる未来が見えるようです・・・。
この凝った処理をAIにやらせるような開発も考えられますが、開発にはお金がかかりますので、市場性があるかどうかがポイントとなります。
逆に言えば、現状、明細書作成ツールが開発されていないのは、単に儲からない(開発費を回収できない)という理由だけかもしれません・・・。