適切に権利行使するためには、請求項の書き方が重要であると言われています。
これは、権利一体の原則という考え方があり、特許発明の技術的範囲は、特許請求の範囲に記載されたすべての構成を備えた物または方法のみに限られるとされるからです。
したがって、請求項に使用する表現には広い概念の用語を使用する、不要な構成の記載を行わない、請求項の長さを短くする、ことなどが求められております。
さて、装置、部品、方法と様々な請求項を設けることにより、発明を多面的に保護することが可能となりますが、一般的に装置の請求項は請求項の記載がどうしても長くなり、権利行使が難しい場合もあります。
逆に部品の請求項は記載が短くなり、権利行使しやすいというメリットがあります。(ただし、特許性[新規性、進歩性]を満たすことは難しいともいえます。)
ということで、部品の請求項をどんどん書きましょう!といいたいところですが、部品の請求項の実例をみてみましょう。
【請求項1】
互いに圧接する第1及び第2の負圧発生部材を収納するとともに液体供給部と大気連通部とを備える負圧発生部材収納室と、該負圧発生部材収納室と連通する連通部を備えると共に実質的な密閉空間を形成するとともに前記負圧発生部材へ供給される液体を貯溜する液体収納室と、前記負圧発生部材収納室と前記液体収納室とを仕切るとともに前記連通部を形成するための仕切り壁と、を有する液体収納容器において、
前記第1及び第2の負圧発生部材の圧接部の界面は前記仕切り壁と交差し、前記第1の負圧発生部材は前記連通部と連通するとともに前記圧接部の界面を介してのみ前記大気連通部と連通可能であると共に、前記第2の負圧発生部材は前記圧接部の界面を介してのみ前記連通部と連通可能であり、
前記圧接部の界面の毛管力が第1及び第2の負圧発生部材(132A、132B)の毛管力より高く、かつ、液体収納容器の姿勢によらずに前記圧接部の界面全体が液体を保持可能な量の液体が負圧発生部材収納室内に充填されていることを特徴とする液体収納容器。(特許第3278410号:キヤノン株式会社)
これは、有名なキヤノンのインクカートリッジの発明ですが、請求項の長さははっきり言って長いです。これでは権利行使が難しいと思うのですが、最高裁まで充分に戦える請求項でした。
その理由は、インクカートリッジの侵害品とは、空になったインクカートリッジにインクを補充するものですので、侵害品はデットコピーにならざるを得ないことがあると思います。
したがって、請求項の広さ、狭さは重要ではなく、自社のインクカートリッジを守れれば狭い表現でも大丈夫といえます。
また、請求項の長さが長いことにより、無効とされる可能性も低く、訴訟を安定して戦うことも出来ます。