大学の特許出願の仕事をさせていただくことが度々あります。大学出願の場合に必ずといっていい程問題になるのが、学会での発表との兼ね合いです。
特定の技術について学会で発表しますと、その技術は公知となり新規性を失いますので、その技術については特許を受けることができなくなります。
したがって、学会での発表の前に(もしくは、予稿集等の発行の前に)、特許出願を完了させる必要があります。
ただし、特許法には、発明の新規性喪失の例外規定(特許法第30条)があり、所定の手続きを行うことにより、学会での発表後も新規性が喪失しないものとして取り扱う規定があります。
この規定は、学会での発表は産業の発展にも寄与しますので、一定の範囲で例外を認めてもよいではないか、という考えにより設けられた規定です。
では、この制度を利用すればよいではないかと思われますが、少々注意が必要です。
例えば、Aさんがとてもよい発明をした場合を考えてみましょう。学会の発表まで期間がない場合には学会での発表を優先し、その後、新規性喪失の例外規定を利用して発表から6ヶ月以内に出願すればいいと考えてしまいます。
ところが、Aさんの発表を学会で聞いた大企業B社の方が、これはいい発明だということで、研究開発部、知財部の総力を上げて、改良技術をどんどん発明し、短期間に100件出願してしまったとします(極端な例ですが・・・)。
そうすると、Aさんが出願する頃には、すでにB社により強力な特許出願網が構築されてしまっておりますので、Aさんが発明を実用化しようとしても、実用化においてはB社が圧倒的に優位な位置を占めることになります。
さらに、B社の発明が先願である場合には、Aさんの出願が拒絶されてしまう場合もあります。(新規性喪失の例外規定では、出願日が遡及するわけではありません。)
したがって、 新規性喪失の例外規定の利用は基本的には避けて、公開前に出願したほうがリスクは格段に低くなるといえるでしょう。
また、学会発表に限らず、技術情報の公開は知財管理上の様々なリスクが伴いますので、公開の目的を明確とし、慎重の上に慎重を期することが必要でしょう。
追記)
改正特許法の施行(平成24年4月1日)により、発明の新規性喪失の例外規定の適用対象とされていなかった、集会・セミナー等(特許庁長官の指定のない学会等)で公開された発明、テレビ・ラジオ等で公開された発明、及び、販売によって公開された発明等が、新たに適用対象となりました。
詳しくは、特許庁HPを参照下さい。