3月も半ばとなりましたが、コロナウィルスの世界的蔓延が止まりません。心理的には、東日本大震災のときのような不安感があります。
コロナウィルス対策の決め手となるのは、ワクチン開発、抗ウィルス剤開発と思いますので、関係機関には頑張ってもらいたいと思います。
さて、コロナウィルス感染の診断には、現状PCR検査が主に使用されています。しかし、PCR検査の確度は100%ではなく、偽陽性もありますし、偽陰性もあります。
偽陽性とは、陰性であるのに間違って陽性と判定されることをいい、偽陰性とは陽性であるのに間違って陰性と判断されることをいいます。
偽陰性の場合には、陽性であるのに間違っておりますので、感染を正しく判断できず、よろしくない判断ともいえるかと思います。
偽陽性の場合には、陰性であるのに間違っておりますので、安全サイドに考えれば問題ないのかもしれませんが、日本のように医療資源に限界がある場合には、偽陽性の人が病院に殺到し医療崩壊の原因にもなりかねないので、こちらもよろしくはありません。
と、専門外のことについて語るとボロがでますので、ここでやめます。
似たような判断は、特許でもあります。特許出願時には、特許されるか、拒絶されるか予想して、出願して審査結果を得るのですが、その関係は以下の行列のような関係になるかと思います。
行列内の「特」は、特許されると予想し、審査結果も特許のもの
行列内の「偽特」は、特許されると予想し、審査結果は拒絶のもの
行列内の「偽拒」は、拒絶されると予想し、審査結果は特許のもの
行列内の「拒」は、拒絶されると予想し、審査結果も拒絶のもの
「偽拒」と「拒」は、出願時に拒絶が予想されているので、出願が行われることは基本的にはなく、このケースを想定するのは意味がないかもしれません。
例えば、特許査定率90%以上を宣伝文句とする特許事務所における特許査定率とは
特許査定率(90%)=「特」件数 (例えば90件)/(「特」件数(例えば90件)+「偽特」件数(例えば10件))
となります。
予想に問題がないのは「特」と「拒」であり、これを100%できるのが完ぺきな弁理士となりますが、実際には進歩性の判断にあいまいな部分もあることから、必然的に「偽特」と「偽拒」が生じてしまいます。
特に目立つのは「偽特」となります。つまり、特許と思ったのに拒絶となったケースです。このようなケースでは、クライアントによっては弁理士に不信感を持ち、仕事がなくなったりします。
そうしますと、弁理士としては、商売あがったりにならないように「偽特」を減らすような行動をとることになります。具体的には、特許性判断基準を厳しくして、特許の見込みの低い発明は出願しないように誘導する、などです。
そうしますと、特許査定率も上がり、クライアントも弁理士も万々歳となるような気もしますが、本当でしょうか?
このように「偽特」を減らす行動をとると「偽拒」が増えることになります。つまり、本来特許されるのに、出願されない(すなわち権利化されない)発明が増大します。
「偽拒」については出願しませんので、「偽拒」は通常はみえず、「偽拒」の有無は出願時には問題とはなりません。
しかし、「偽拒」について、競合他社が自由実施し始めたり、競合他社が権利化してしまった場合には、「偽特」を減らす行動をしたことのリスクが、突如表出することになります。
したがって、「偽拒」を出願できる判断もしなければなりませんが、弁理士は上記の事情もあり、積極的には言えません。企業の知財部も同様かと思います。
結局、「偽拒」を出願する判断ができるのは、リスク判断ができる企業の経営層となるかと思います。
経営層が知財に積極的に関与している企業は、②「特」と「偽拒」を出願でき、知財部が孤立して知財活動をしている企業は、①「特」と「偽特」を出願することになるでしょうか。
現実的には、「偽特」と「偽拒」のバランスをとる(「偽特」を減らしすぎない、など)ことが必要と思います。そういう意味では、特許査定率を実務品質の基準とするのは危険と思います(もちろん、目安にはなりますが)。