2021年12月30日木曜日

有効な特許権について(雑な私見)

ちまたの特許戦略本を読みますと、「特許は数を出すのは無意味で、有効な特許を出すことが必要だ」的な言説を見かけます。

今の会社にはお金がありませんので、出願経費削減の理由づけに上記言説が利用されることもあります。

しかし、有効な特許権とはどのようなものかと考えますと、なかなか難しいものがあります。

(1)訴訟に使える説

訴訟で使えるのが有効な特許権という説があります。つまり、出願の要否を訴訟で使えるか否か、という判断基準で選別する考えです。

確かにその通りですが、具体的にはどんな特許なんでしょう?

請求項を広めの表現で記載し特許できれば、権利行使しやすそうです。しかし、広い請求項は無効にされやすいという大きな欠点があります。

一方、無効にされにくい狭い権利としますと、今度は非侵害とされる可能性が高くなります。

そうしますと、技術的範囲は適度に広く、無効にされないよう適度に狭い請求項が有効な特許権の条件となります。

あまりに抽象的すぎてよくわかりません・・・。銀河英雄伝説の「高度の柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対処する」 というセリフを思い出します。

技術的範囲の広さについては、将来上市されるであろう製品の構成を想定する、いわゆる予知能力のようなものが必要となるかと思いますが、そんなこと人間にできるでしょうか?

無効にされない狭さについては、世界中に存在する公知文献をすべて把握できればできるかもしれませんが、調査費用は青天井となると思います。 

訴訟に使える特許というものは事例としては存在しますが、これは、いわゆる後知恵の分析(事後諸葛亮)が多いのではないでしょうか。

たまたまうまくいったケースは裁判例などで目立ちますので、有効な特許権の事例と紹介されがちで、無駄な特許権は無視されるようなイメージです。

(2)事業を守れる説

自社事業をサポートできる特許権が有効という説です。確かにその通りですが、具体的にはどんな特許なんでしょう? 

例えば、事業Aと事業Bとがあって、それぞれサポートする特許を100件ずつ出願したとします。

ところが、事業Aは成功し、事業Bは失敗した場合には、事業Aで出願した特許は有効で、事業Bで出願した特許は無駄という結論となるのでしょうか。

事業が成功する確率は千三つ程度ですので、ほとんどの特許は無駄となります。

また、成功した事業Aについても、その後ビジネスの内容が変化してゆくと思われますので、請求項については、将来上市されるであろう製品の構成を想定する、いわゆる予知能力のようなものが必要となるかと思いますが、そんなこと人間にできるでしょうか?

ビジネスに使える特許というものは事例としては存在しますが、これもまた、いわゆる後知恵の分析(事後諸葛亮)が多いのではないでしょうか。

(3)私見(ガトリング砲理論)

戦闘機のF-35が搭載しているGAU-22というガトリング砲は、一分間に3300発の砲弾を発射します。

なんでこんなに発射する必要があるかといえば、戦闘機の速度は速いので、狙って撃っても当たらないからです。要は、戦闘機を狙うというより、将来戦闘機の存在するであろう空間へ何百発も一斉発射することになります。

そのうち1、2発も当たれば十分ということになります。残りの90発は無駄となるかと思います。旧日本軍の人であれば、一撃必殺が好ましい、弾が無駄だ、などと文句を言うかもしれません。

特許も同様で、未来は人間にはわからないので、可能性のある分野へ、特許権を多数ばらまいておくべきと思います(あくまで雑な私見です)。

そうすれば、将来、その中の1、2件が、「有効な特許権」だった、事後諸葛亮の方々から評価を受けるかもしれません。

ちなみに私はこの話をお客さんにすることはありません。こういうことを言いますと、「この弁理士は出願件数を増やしたいからこんなことをいっているんだ」といわれる可能性があるからです。

結論としましては、「有効な特許権とは、事前にはわからない」と、「有効な特許権があると思っているのは、事後諸葛亮の方々のみ」 と、「下手な鉄砲、数打てばあたる」、ということになるでしょうか。

2021年12月29日水曜日

知財は資産か費用か?

年末年始休暇に入り、暇となりましたので、たまには知財の現状について、個人的に考えてゆきたいと思います。

テーマは、

(1) 知財は資産か費用か?

(2) 有効な特許権とは?

(3) ((1),(2)にもかかわらず)特許権をとる意義とは?

について、まったく個人的な意見を述べたいと思いますが、やっぱり休みたくなりましたら、残りはまたいつかの機会に述べたいと思います。

今回は、(1)知財は資産か費用か?をテーマとしたいと思います。

最近、略称「知財・無形資産ガバナンスガイドライン」案が公開されました。

これを読みますと、強調されておりますのが、知財を費用としてではなく、資産として認識すべき、ということです。

「資産」とはいろいろな捉え方がありますが、会計上の定義は以下の通りです。 

そうしますと、特許権は無形固定資産に該当しますので、形式的には、資産といえます・・・とここで話が終わってしまいますが・・・。

資産であるなら、世の企業は積極的に特許権を取得するはずですが、そうではないのは、上記のごとく特許権は費用という考えの人の方が多いからと思います。

どうして費用ととらえてしまうのか、その理由を考えてみました。

(1)価格が不明

都内の住宅地を歩いておりますと、高級車が停まった豪邸を見かけることがあります。こういう家はいわゆる資産家といわれます。

資産家の保有資産といえば、不動産、株、高級車、金塊?となるでしょうか。これらの共通点といえば、価格がわかる、ということになります。

なぜ価格が分かるかといえば市場が整備されているからです。市場があれば売り買いもできますので、現金化もできます。

一方、特許権は市場はありませんし、売ろうと思っても誰も買ってくれません。したがって、特許権を幾ら持っていても、悲しいことに資産家といわれることはありません・・・。 

売り買いできない、ということは、価値は「0円」と同等ということもできてしまいますので、世間的には資産と見なされないのではないでしょうか。

(2)権利を実現できない

自分の土地に誰か見知らぬ人が勝手に建物を建てた場合には、民事、刑事で排除することができますし、株や金塊を奪われた場合でも同様に取り戻すことができます。

特許権についても、他社が勝手に使用した場合には民事訴訟を提起することになります。

ところが、侵害訴訟の勝訴率は2割ともいわれ(最近はもっと増えたかもしれませんが・・・)、基本的には勝つことは難しいのが現状です。

また、大企業を訴えたりしますと、カウンターで無効審判を請求されたり、相手方代理人に元知財高裁判事の方が出てきたり、訴訟も高裁、最高裁と、何年も続くことになり、金銭的、精神的に非常に厳しい状態となります。

また、勝訴したとしても、得られる賠償金は低く、訴訟費用を賄えればラッキーの程度となります。

そうしますと、特許権をもってても、あまり役に立たない見なされているのが現状で、このことから、世間的には資産と見なされないのではないでしょうか。

このように、株や不動産と比べて、特許権は資産として見劣りがするような気がします。

ガイドラインで、知財を費用としてではなく、資産として認識すべき、というのは私もそう思いますし、非常に結構なのですが、これらの課題を解決しませんと、知財は費用との認識を変えることは難しいのではないでしょうか。

この話は、日本での話で、例えば、米国では違うのかもしれません。米国では賠償額も高額ですし、特許市場を設けるトライも昔からされております。

そういう意味では、米国では特許権は資産と見なされており、したがって、多くの企業は(日本には出願せずに・・・)米国へ多数出願をしているのかもしれませんね。

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