2012年3月31日土曜日

特許権の売却について(その2)

さて、今回は農工大が船井電機に特許権を販売することを考えたいと思います。船井電機に特許権を買ってもらうためにはどのような検討をすればよいのでしょうか。

営業をするとか、販売価格を安くするとかの方法が考えられますが、ここでは技術的な面からのアプローチを考えたいと思います。

例えば、農工大の特許権の技術分野が船井電機の求める技術にマッチしていれば、購入してもらえる可能性が高まります。技術的なマッチングを確認する方法としては特許情報を解析する手法があります。

農工大特許の技術分野を特許公報で確認しますと、IPCでいえば、G06F 3/033、G06F 3/041、G06F 3/048あたりですので、この分野の船井電機の出願状況を確認してみましょう。

ちなみにIPC(国際特許分類)は、国際的に統一されて用いられる特許文献の技術内容による分類のことをいいます。すべての特許出願にはこのIPCが割り振られておりますので、特許解析に用いるには非常に便利です。

また、G06Fは「電気的デジタルデータ処理」を示す分類です(特許電子図書館のパテントマップガイダンスで詳細な内容を確認することができます)。

まず、船井電機のIPC別出願件数を時系列で確認します。




上の図の縦軸がIPC、横軸が出願年です。なお、図では2010年以降の出願がほとんどありませんが、これは出願公開は出願から1年6ヶ月以降になされるため、出願の有無を確認できないからです。

赤枠内が、船井電機のG06F 3/033、G06F 3/041、G06F 3/048の時系列の出願件数を示しております(丸(バブル)の大きさが出願件数の多さを示しております)。

図からわかりますように、船井電機はこの技術分野の出願を2004年から始めており2009年まで出願件数は増加傾向にあります。

したがって、船井電機はこの分野に多くの投資を行なっていることが想像できますので、特許権を売却できる可能性は高いと判断できます。

次回は、農工大特許と船井電機の技術との関係を考えたいと思います。

2012年3月27日火曜日

特許権の売却について(その1)

少々前ですが、東京農工大が情報端末の画面操作性を高める特許5件を船井電機に売却するなどして2億6千万円超の収入を得たとのニュースがありました。⇒【特許ウォーズ(上)】生き残りかけた争奪戦 宝の山を守れるのか 

ということで、これを題材に特許権の売却について考えたいと思います。

実際に売却されたのは以下の5件の特許権です。

番号
特 許 名 称
番 号
発明者
所 有 者
概 要
Human Interactive
Type Display System
U.S. Patent
No. 6,128,014
(2000.10.3)
中川 正樹
小國 健
国立大学法人
東京農工大学
ペン先の移動量と移動速度に応じてウインドウをスクロールする方法
Human Interactive
Type Display System
U.S. Patent
No. 6,683,628
(2004.1.27)
中川 正樹
小國 健
国立大学法人
東京農工大学
上記で、間接指示でありながら直接指示の感覚を与える関係を図示
表示装置の表示内容
制御方法
特許3475235
15926
登録
中川 正樹
澤田 伸一
小國 健
堀田 耕一郎
国立大学法人
東京農工大学
ペン操作に適したGUIの操作方法
表示装置の表示内容
制御方法
特許3959462
19525
登録
中川 正樹
澤田 伸一
小國 健
堀田 耕一郎
国立大学法人
東京農工大学
ペン操作に適したGUIの操作方法
Method for
Controlling Displayed
Contents on a Display
Device
U.S. Patent
No. 6,862,712
(2005.3.1)
中川 正樹
澤田 伸一
小國 健
堀田 耕一郎
国立大学法人
東京農工大学
ペン操作に適したGUIの操作方法


表にあるように、5件中3件が米国特許で2件が日本国特許です。ご存知のように船井電機は日本では特に製品を販売しておらず、もっぱら欧米を中心に液晶テレビなどを販売している会社です。

したがって、この米国特許の存在は、船井電機の購入の決断に有効に作用したことが想像できます。

また、発明の名称から上記特許はスマホ等に使用されるタッチパネル関係の特許であることがわかります。

スマホ関連の特許は米国では1件当たり50万ドル程度の値段が相場であるそうですので(参考:アップルが電機業界に促す「特許戦略の転換」:日本経済新聞)、5件で2億6千万円という価格は概ね妥当と考えられます。

なお、米国では発明の名称に「スマートフォン」 と入っているだけで、かなりの値段がつくそうですので、ややバブル気味とも思います。

しかしながら、スマホ関連特許については米国に確実にマーケットが存在するわけで、特許権の価値判断を簡略にできるマーケット法を使用できる点で、やはり日本にも特許市場が欲しいと思わせます。

さて、次回は特許情報から見た特許権の売却についてまとめてみたいと思います。

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