私のように高度に?訓練された弁理士は、明細書を書く際に、技術的事項と非技術的事項を無意識に判断して、明細書には非技術的事項を意識せずとも記載しません。
ここでいう技術的、非技術的とは、自然法則を利用しているかどうかが判断基準となります。例えば、人為的取り決めは、非技術的事項となります。人為的取り決めは、自然法則を利用しませんので、特許になりません。
このような非技術的な記載をしますと特許庁から拒絶理由がばんばん来て、お客さんからは能力のない弁理士という烙印を押されてしまい、仕事がなくなりますので、仕事がなくなる恐怖心から上記のように思考が高度に訓練されてしまう訳です。
という状況下で、最近話題の「いきなりステーキ特許」に関する研修に行ってまいりました。
この「いきなりステーキ特許」の明細書は、私のように高度に訓練された弁理士には、びっくりの内容なのですが、知財高裁でも決定は取り消され、見事に特許が維持されております。
なお、以下は、ほとんど私見ですので、参考にはなりませんことを了解願います。
私は「いきなりステーキ」に行ったことがありません。行こうとは思うのですが、いつも店の前に長蛇の列ができており、また、ランチとするには少々お高いので、私のような貧乏弁理士は、なかなかいけません。
伝え聞くところによると、いきなりステーキは、肉の測り売りをしており、このような個別のオーダーで、肉を焼いてお客さんに提供するのが、ビジネス上の特徴のようです。
明細書や請求項にも、上記ビジネス上の特徴が記載されているのですが、肉の測り売りをしており、このような個別のオーダーで、肉を焼いてお客さんに提供するのは人為的取り決めですので、発明とはなりません。
もちろん、上記工程を機械で自動化すれば発明にはなりますが、人間が作業しておりますので発明になりません。
では、なぜ特許になったかといえば、上記肉の提供手法自体が新規であり、その非技術的効果の大きさが裁判官にの心証に影響を与えたのではないかと思います。
裁判官は工学系の人間ではなく、私のように思考が(特許庁により)訓練されているわけもありませんので、非技術的なビジネス上の効果を素直に評価して、発明として守るべきと考えたのではないでしょうか。
それで、今後の実務をどうするかとなりますが、これはもう、積極的に、非技術的事項を請求項と明細書に記載してゆくしかありません。
ただし、非技術的事項のみではさすがに特許とはなりませんので、例えば、
請求項1:非技術的事項80%、技術的事項20%(いきなりステーキレベル)
請求項2:非技術的事項50%、技術的事項50%(多少安全をみる)
請求項3:非技術的事項20%、技術的事項80%(厳しい審査官にはこれが限界)
請求項4:技術的事項100%
のような割合で、非技術的事項と技術的事項を、発明特定事項に振り分けて、段階的に記載した請求項を複数作成することが考えられます。
なお、上記事項はあくまでも日本限定の話となります。米国や欧州では、非技術的事項を請求項に入れますと、拒絶理由がばんばんくることになり、無能の烙印を押されますので、日本向けと外国向けのクレームは変える対処が必要です。
今回の判決ですが、個人的にはよかったのではないかとは思います。私もお客さんの発明相談で困るのが、これは人為的取り決めなので出願できません、と言わざるを得ないケースが多々あることです。
しかし、経済はソフト化しておりますので、昔のような、ハードウェア主体の製品開発というのは、少なくなり、ビジネスモデルとか仕組みとか、そういうところに特徴のある製品・サービス開発が今後は主体となると思います・
これからは、そういうものも権利化できる可能性がでてまいりましたので、私も、高度に訓練された思考を一旦リセットして、今後の実務に臨みたいと思います。