2012年7月3日火曜日

特許出願をする前に

良いアイデアが浮かぶと特許出願をしたくなります。出願すれば確かに特許されるかもしれません。ただし、本当にそれでよいのか考えてみましょう。

特許庁の審査では新規性、進歩性のみ判断されますので、特許されたからといってその経済的価値が保証されるわけではありません。

特許出願には結構な額の費用が必要ですので、経済的価値を考慮せずに特許出願を行った場合には、特許されたのに大赤字ということになりかねません。

例えば、新しい洗濯ばさみの構造を考案し特許をとった場合を考えます。洗濯ばさみの単価を50円として1年で1,000個売れるとすると、年間売上は5万円です。実施料率を3%とすると、1年で1500円しか収益を得られません。

そうすると10年で1万5千円しか収益が得られないわけで、特許に費やした金額数十万円には全く足りません。

逆に大ヒットして年間1億個売れたとすると、年間売上は50億円となり、年間1億5千万円、10年で15億の収益が得られ、十分にペイします。

売上の予測は非常に難しいですが、例えば、業界団体が出している統計を利用し、特許製品がどの程度のシェアを獲得できるか予測する方法などがあります。

このように、特許製品の売上がどの程度となるか予測して特許出願を行うことにより、特許出願は無駄だった・・・と、あとで後悔することもなくなると思います。

2012年6月22日金曜日

【広告】特許情報コンサルティングサービスのご案内

市場の環境変化に伴い、新製品開発や新事業へのチャレンジなど事業戦略の再構築を図る必要性が高まっております。このような事業戦略を新たに構築する際には、特許情報を活用することを考えてみてはいかがでしょうか。

特許情報は誰でも入手できる貴重な情報源です。特許情報から抽出できる情報には、権利情報だけではなく、課題、解決手段などの技術情報や、製品、出願人企業などのマーケティング情報も含みます。

これら情報を抽出し解析することにより、貴社の事業戦略の妥当性を検討する場合の有用なエビデンスが得られます。

弊社では特許情報解析ソフトを使用して、御社の事業戦略活動に資する情報を分析するコンサルティングを提供します。是非ご利用下さい。

詳しくは、弊社ホームページを参照願います。

2012年6月15日金曜日

特許はコストか財産か?

昨今の不景気下では、特許出願件数を削減して、コスト削減に努めようという企業も多いと思います 。

特許出願から登録まで、ざっくり50万円程度の金額がかかりますので、確かに大きなコスト削減となるかもしれません。

しかし、本当に出願件数を削減してよいのでしょうか?

特許権は知的財産権ともいわれます。つまり、財産的価値があるとされます。

例えば、先日の切り餅事件訴訟では、越後製菓は14億5000万円の損害賠償を勝ち取り、逆にサトウ食品は差止めにより200億円程度の市場シェアを失うことになりました。

つまり、越後製菓の特許権の財産的価値は、10~100億円となるのではないでしょうか(かなり大まかな考えですが)。

このように、特許権の価値が明らかになれば、特許出願の50万円程度のコストは安いものであり、大きな問題ではないことがわかると思います。

逆に、コスト削減にとらわれ特許出願を減らした場合には、将来の自社の財産を減らしている可能性があります。

したがって、 特許が市場に与える金額的影響を予測し、大きな利益があるのであれば、コストを気にせずどんどん出願することも必要でしょう。

2012年6月4日月曜日

切り餅事件と請求項の記載について

サトウの切り餅事件を調べる機会がありましたので、ついでに越後製菓の特許権の請求項の記載がどうなっているか調べて見ました。

【請求項1】
焼き網に載置して焼き上げて食する輪郭形状が方形の小片餅体である切餅の載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に、この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に長さを有する一若しくは複数の切り込み部又は溝部を設け、この切り込み部又は溝部は、この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に一周連続させて角環状とした若しくは前記立直側面である側周表面の対向二側面に形成した切り込み部又は溝部として、焼き上げるに際して前記切り込み部又は溝部の上側が下側に対して持ち上がり、最中やサンドウイッチのように上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされている状態に膨化変形することで膨化による外部への噴き出しを抑制するように構成したことを特徴とする餅。

このように一見して理解が難しい非常に長い請求項となっております。単純に 「側面に切り込みが入った餅」では、ダメなのかとも思ってしまいます。

このような複雑な請求項の記載は、読む人間によって解釈が分かれるリスクがあります。実際、地裁では越後製菓が敗訴し、高裁で越後製菓が勝訴したのは、請求項の解釈が地裁と高裁で分かれたためです。

解釈が分かれた部分は「切餅の載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に」の「なく」の部分です。「なく」の解釈によっては、切り込みは上面、底面には「なく」と解釈されますので、上面に切り込みのあるサトウ食品の餅は越後製菓の特許権を侵害しないことになります。

一般に「ない」という表現は請求の範囲の記載に使用しないことが好ましいとされます。請求の範囲には発明の構成として存在するものを記載してゆきますので、「ない」と書いた場合には、では何があるのか?不明確になるためです。(同様な理由で、数値「0」や「穴」なども使用に注意が必要です。)

訴訟では請求項の語句の解釈が厳密に行われますので、「ない」について地裁と高裁とで分かれた判断となりました。もう少し簡単に請求項を記載すれば解釈が分かれる可能性も低くなり、場合によっては判決によらずとも和解で早期に解決できる可能性もあったかもしれません。

ただし、このように複雑な請求項の記載となるのは特別なことではありません。なぜなら、特許されるためには、審査官に本発明が特許性(進歩性、新規性)を有すると認めてもらわなければならないからです。

日本の審査では進歩性が厳しく見られますので、 「側面に切り込みが入った餅」だけでは、当業者には容易に想到できるとして、確実に拒絶査定となったでしょう。特許性(新規性、進歩性)を満たすためには構成要件を多くし請求項の記載を長くして、先行技術と差別化を図るしか方法がありません。

このあたりが請求項の記載の難しいところであり、苦しいところです。

しかしながら、特許されなければ本訴訟を提起することができなかったことを考えれば、越後製菓にとっては、請求項の記載はともかくとして、特許されたという事実がまず重要であったといえるでしょう。

note へしばらく移転します。

  https://note.com/ip_design  へしばらく移転します。