2014年3月6日木曜日

知財のガラパゴス化について

先日研修で大企業の知財部長の方のお話を聞いてまいりました。

やはり大企業ということで、グローバルな観点から知財を捉えている点に強い印象を受けました。

その中で少々気になりましたのが、日本への特許出願の位置づけです。大企業の方から見れば、もはや日本は世界の中の一地域に過ぎません。

大企業は、出願して意味のある国には出願しますが、意味のない国には出願しません。日本はどちらかと言えば、出願する意味のない国になりつつあるようです。

その理由としては、まず、訴訟の勝訴率が低いことがあります。現在日本の特許訴訟の勝訴率は20%位といわれています。

簡単にいえば裁判になれば負けるわけですので、事実上権利行使不能といえます。コストをかけて特許権を取得しても、お飾りにすぎないともいえます。

一方、米国や中国などでは特許権者は訴訟を起こして、侵害する会社を排除することが日常的に行われておりますので、これら国に重点的に出願をすることが経営上有効となります。

さらに、米国などでは特許権の売買も積極的に行われており、特許権自体が価値を持ちますので、このような国で特許権を取ることは、資産形成上にも役に立ちます。

一方、日本では特許権を単独で売却することは難しく、売却できても売却金額は特許権の取得・維持に要した費用程度にしかなりません。

結局、企業のグローバル化が進むと、日本で特許出願する意義が弱くなります。ある企業の方が今でも日本に出願する理由として、技術者のモチベーションの維持くらいしかない、とおっしゃってました。

出願をやめると技術者のモチベーションが下がるので、 お付き合い程度に日本に出願しているといえます。したがって、明細書の品質は特に高くなくてもよいので、安く仕事をしてくれる特許事務所に仕事を出すそうです。

弁理士には辛い話ですが、これが今の日本の現実のようです。

そういう意味では、日本の知財制度はガラパゴス化しているのではと考えます。もう少し特許権が価値を持てるような制度設計や運用をしないと、特許出願件数は減り続けるのではないでしょうか。

そうすると特許出願件数の多い国の発言力が増して、日本の知財の存在感は低下してしまうのではと危惧します。

2014年2月23日日曜日

ドーナツの穴について

本日、次のようなニュースを見つけました。

「ドーナツを穴だけ残して食べる方法」とは 2ちゃんねるの「難問」に阪大教員が大真面目に答えた!(J-CASTニュース)

残念ながら、この本を私は読んでいないのですが、「穴」という虚無の状態をどう捉えるかについて、アカデミックな考察がなされていると思います。

この「穴」というのは特許請求の範囲を記載する際にも、いろいろ悩むところであります。

特許請求の範囲には、発明の構成要件を記載するのですが、「穴」は実体のない空虚な存在ですので、 実体を記載すべき特許請求の範囲に記載して良いものか、という問題があります。

事実、日本の審査では、特許請求の範囲に「穴」を記載しても記載不備(拒絶理由)とはならない可能性がありますが、アメリカでは「穴」を記載すると記載不備となり、拒絶されるようです。

したがって、構成要件に「穴」と直接的に記載するのではなく、「穴を有する部材」のような実体を伴う構成として、特許請求の範囲に書く工夫が必要となります。

また、「穴」以外にも実体のない表現として、「溝」とか、切り餅事件のような「~がない」とかいう表現も、実際に使えるか注意が必要です。

さらに「穴」として特許された場合に、今度は権利行使できるのかが問題となります。権利行使時にはまず特許請求の範囲の属否を判断することになりますが、その際、構成要件の対比を行うことになります。

実体のある構成要件を対比することは容易ですが、「穴」は実体として存在しませんので、存在しないものを対比するという、なんだかよくわからないことになります。

実際的には「穴を有する部材」として拡大解釈して、対比することになると思います。

さて、「ドーナツを穴だけ残して食べる方法」ですが、私なりに考えますと、 ドーナツを周辺から食べ始めますと、ドーナッツ本体の幅が徐々に縮小し、ドーナツの幅が「0」になった瞬間、ドーナツの穴は認識できなくなります。

ドーナツの穴は、もともと実体がありませんので、 ドーナツの幅が「0」になった瞬間、消滅するのではなく、認識できなくなるだけです。

したがって、認識できるよう別の手段を考えればよいわけで、例えば、ドーナツを食べる過程を画像・動画で撮影し、ドーナツの幅が「0」になった瞬間を記録するとか、ドーナツの穴に、気体、液体、固体を充満させ、虚無の状態を実体化させておくとかすればよいと思います。

2014年2月14日金曜日

起業するときに気をつけたいこと

日本は起業家が少ないといわれますが、それでも起業にチャレンジする人も多いです。しかしながら現実は厳しく、生き残る企業は5年で半分ともいわれています。

起業した当初は売上も少なく、資金繰りに苦労する場合も多いと思います。とはいえ、起業するときには是非気をつけてほしいことがあります。

それは、自社の事業に関係すると思われる知的財産権の確認です。

例えば、会社を登記するときに会社名を定めることになりますが、自社企業名が他社の商標と類似する場合には、自社名を業務に使えなくなるおそれがあります。

登記後に他社商標が見つかった場合には、社名変更に手続き・費用がかかってしまいますし、プレスリリースや商材を作成済みの場合には、取り消す必要もあり目も当てられない状況となります。

したがって、社名を決定する際には商標調査を行っておく必要があります。

商標調査はIPDLにより個人でもできますが、調査に漏れがあった場合には上記の問題が生じることになりますので、調査会社や特許事務所に調査を依頼することがリスク管理上必要と思います。

もちろん、調査を依頼しますとそれなりの料金が発生しますので、起業時のお金のない状態で調査を依頼することは気が進まないかもしれません。

しかし、会社のスタートからつまずいてしまうのも縁起が悪いと思いますので、何とか予算を確保してほしいと思います。

また、自社名に関し先行する商標がない場合には、商標登録出願を行なって自社商標を確保したほうがよいと思います。これにより、他社による類似商標の使用を排除できます。

商標登録にもお金が必要ですので、これも気が進まないかもしれませんが、会社を作るということは、法律を知り、積極的に利用してゆく姿勢が求められますので、何とか予算を確保してほしいと思います。

実務的には、会社名の候補を幾つか出願して、商標登録されたものから会社名を選ぶことになります。

その後、その決定した会社名で法人登記を行ったり、商材を作成することになります。

つまり、商標出願は会社設立前に前倒しで済ませておくことになりますので、会社設立のスケジュール作成の際、ご留意いただければと思います。

2014年2月2日日曜日

明細書のチェック法について

前回はよい明細書について書かせていただきましたが、逆にいえば、それらを予め踏まえて明細書をチェックすれば、よい明細書となると思います。

まずは、 第三者的な観点で明細書を見直す必要があると思います。実際に第三者にチェックしてもらう方法もありますが、人からいろいろ言われ気落ちすることにもなりますので、とりあえず自分でするのがよいでしょう。

例えば、明細書を完成してから1日おいて確認作業を行えば、頭の中がリセットされておりますので、第三者的な気分で確認できるかもしれません。

次に特許性を確認するために、審査官になった気分で明細書を見直します。審査官のつもりで新規性、進歩性を確認するとともに、記載不備がないかを確認します。

このあたりは中間処理の実務を経験している人でないとなかなか難しいと思いますが、例えば、追加的な先行技術調査を行なって、近い先行技術ときちんと差別化できているかを確認すればよいと思います。

最後に、権利行使できる請求項の表現となっているかを確認します。例えば、ライバルメーカーの技術者になったつもりで、権利侵害とならないような代替設計ができるかを検討します。

もし、抜け道となるような設計ができるようであれば、その内容を実施例に加える事により、より強固な権利とできると思います。このあたりも実際に侵害事件の当事者となった方ならば真剣に考えることであると思います。

このように視点をいろいろ変えて明細書をチェックすれば、隙のない明細書に仕上がると思います。

ただし、特許明細書の出願のタイミングも重要です。明細書のチェックに時間をかければ完成度は高まりますが、出願が遅れ、出願日の利益が得られなくなるおそれもあります。

したがって、現実的にはある程度のチェックが完了したら、早期に出願を行う決断を行う必要もあると思います。

そういう意味では明細書の完成度を高めることはなかなか難しいのかもしれません。

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