2016年5月7日土曜日

2016/3/6~3/12の知財高裁判決



201636日から2016312日までになされた裁判は、侵害訴訟3件(特許2件、不競法1件)、審決取消訴訟6件(特許6件)です。

1.侵害訴訟

(1) 平成27()10104  特許権侵害差止等(東京地方裁判所 平成26()3344
平成2839日判決 控訴棄却(4部)
特許権 (ピタバスタチンカルシウム塩の結晶,ピタバスタチンカルシウム塩の保存方法)
構成要件充足性,均等侵害

*コメント
本件につきましては、どうにも関連訴訟が多数提起されているようで、どういう事情なのでしょうかね。

(2)平成27()10108  特許権侵害差止等(東京地方裁判所 平成26()688
平成2839日判決 控訴棄却(4部)
特許権 (ピタバスタチンカルシウム塩の結晶,ピタバスタチンカルシウム塩の保存方法)
構成要件充足性,均等侵害

*コメント
同上ですが、数値限定が狭すぎるため、構成要件充足性がすべての訴訟で認められず、特許権者には厳しい結果となりました。

(3)平成27()10118  損害賠償(東京地方裁判所 平成25()20534
平成2838日判決 控訴棄却(3部)
不正競争
営業秘密

*コメント
争点はいろいろありますが、営業秘密の該当性につきましては、やはり秘密管理性が争点となっております。本件情報へのアクセス管理やパスワードの設定、秘密情報の区別管理等がなされていないこと、就業規則、誓約書等にある秘密保持義務の対象となる情報が不明確であること、などから、本件情報が秘密として認識できないものとされ、秘密管理性は認められませんでした。

2.審決取消訴訟

(1) 平成27(行ケ)10080  審決(無効・不成立)取消
平成28310日判決 請求棄却(3部)
特許権 (斜面保護方法及び逆巻き施工斜面保護方法)
進歩性(相違点の判断),明細書の記載要件(明確性,実施可能要件),補正・訂正の許否(新規事項の追加)

*コメント
記載要件等については、明細書の記載からなんとか明らかであるとされ、進歩性については、本件発明とする動機付けがないとされ、特許審決に違法性はないとされました。記載要件については、裁判所がかなり助け舟を出してくれたイメージです。

(2)平成27()10015  審決(無効・不成立)取消
平成28310日判決 請求棄却(1部)
特許権 (窒化ガリウム系化合物半導体チップの製造方法)
進歩性,補正・訂正の許否

*コメントはありません

(3)平成27(行ケ)10105  審決(無効・不成立)取消
平成2839日判決 請求棄却(2部)
特許権 (オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤)
明細書の記載要件(明確性)

*コメント
「からなる」の解釈について争われました。「Aからなる」について、「Aのみからなる」のか「Bを含んでも良いか」のか、ということになりますが、裁判所は「Bを含んでもよい」と判断しました(当然、特許権者に有利な判断です)。「からなる」については、無難に「含む」とか「有する」とかにしておいた方がよさそうです。

(4)平成27(行ケ)10097  審決(無効・成立)取消
平成2838日判決 審決取消(3部)
特許権 (発光装置)
進歩性(引用発明の認定,相違点の認定,相違点の判断)

*コメント
本件発明の「(特定物質の)内部発光効率を80%以上」とする構成については容易に想到できないと認定されました。引例には(他の物質について)発光効率を「29%から51%」とすることは開示されていましたので、一昔前では、80%以上という数値は設計事項とされる可能性が高かったと思いますが、設計事項の認定が多少緩くなったのかと思います。

(5)平成27()10043  審決(拒絶)取消
平成2838日判決 請求棄却(3部)
特許権 (トランスフェクションおよび免疫活性化のためのRNAの複合化)
進歩性(引用発明の認定,相違点の判断)

*コメントはありません。

(6)平成27()10121  審決(拒絶)取消
平成2838日判決 請求棄却(1部)
特許権 (低カリウム含有量葉菜およびその栽培方法)
進歩性(引用発明の認定,相違点の判断)

*コメント
本件発明の育成期間「710日」については設計事項と認定されました。引例には育成期間「2週間」が開示されており、顕著な効果もないことから、このような判断となったと思います。そうしますと、設計事項の認定が多少緩くなったということもいえないのかとも思います・・・。引例と数値範囲に大きな相違がなく、顕著な効果がない場合には、数値限定は設計事項とされてしまうといえるでしょうか。




2016年4月24日日曜日

2016/2/28~3/5の知財高裁判決



2016228日から201635日までになされた裁判は、侵害訴訟1件(商標)、審決取消訴訟1件(特許)です。

1.侵害訴訟

(1) 平成27()10117  商標権侵害行為差止等(東京地方裁判所 平成26()29617
平成28229日判決 控訴棄却(2部)
商標権
損害額,類似性

*コメント
会社の破産手続きに伴って、破産会社の使用していた標章を被告が使用したことが、原告の商標権を侵害することになりました。会社が破産しますと、財産の処理や、それに伴う権利関係が錯綜しやすくなるため、不用意に標章を使用しない方がよいといえます。

2.審決取消訴訟

(1) 平成27()10078  審決(拒絶)取消
平成2832日判決 審決取消(4部)
特許権 (眼鏡レンズ加工装置)
進歩性(相違点の判断)

*コメント
引用例には、本件発明の課題や効果等の、本件発明の構成を採用する動機づけとなる記載がなく、本件発明の容易想到性は認められないとされました。引用例はダブルスピンドル、本件発明はシングルスピンドルということで、スピンドルを1つ減らしただけではないかとされてしまいがちですが、本件発明の課題・構成・効果が引用例に示されていないことを総合的に説明できれば、特許されることもあるということでしょうか。
ダブルスピンドル方式は、シングルスピンドル方式より、剛性的に有利であるので、あえて剛性的に劣るシングルスピンドル方式を採る技術的理由もなかったという事情もありました。



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