2017年5月13日土曜日

意味のイノベーションについて

前前前回の記事で、コンデジはスマホに対抗しようがないという、救いのない内容を書いてしまいましたが、それでは思考停止過ぎですので、少し考えてみました。

破壊的イノベーションに対抗するには、こちらも新たなイノベーションを起こすのが有効と思われます。

使えそうなイノベーション手法に、デザイン・ドリブン・イノベーションというのがあります。これは、製品の意味を探求するイノベーション手法です。

写真の意味は「記録」というものがあり、カメラはこの意味において性能を発揮するよう技術開発が行われてきました。

スマホのカメラの場合には、「共有」という新たな意味が見いだされ、この意味の重要性が高い場合には、ユーザーはこの意味を受け入れ始めます。

古い意味性しかないカメラは廃れ、スマホにユーザーは移行するという流れとなります。

そうしますと、スマホに対抗するには「共有」を超える意味性を見出すことが考えられるかと思います。

といっても、新たな意味を見出すにはどうすればよいのかとなりますが、これは「デザイン・ドリブン・イノベーション」という本に書いてあります。

まずは、自分一人で「写真」の意味を考えるという、なんとも哲学的な作業となります。

次に、意味を考えついたら、その意味をいろいろな専門家に解釈してもらい、意味を評価してもらいます。

通常の製品開発では、製品の評価はユーザーにゆだねますが、デザイン・ドリブン・イノベーションでは、歴史学者とか文化人類学者、マーケティングの専門家やら、日頃から物事を深く探求している人に解釈してもらうことが重要となります。

さて、このように意味を見出す作業となりますが、「技術」のウェイトがこの段階では高くないことになります。つまり、開発というと技術開発を考えがちですが、 デザイン・ドリブン・イノベーションの場合にはまず意味開発となります。

逆にいえば、新たな意味が開発できれば、技術自体は既存のものの組み合わせでも構いません(「枯れた技術の水平展開」とかいいます)。

もちろん、新たな意味に、新たな技術が組み合わされば、鬼に金棒ですので、技術が無意味ということではありません(「技術が悟る瞬間」とかいいます)。

では、具体的にはどうするかといえば、私は、カメラの専門家でないので、よくわかりません・・・。とはいえ、意味という観点で考えると、カメラも新しい製品がいろいろ出てきていることがわかります。

例えば、GoProなどのウェアラブルカメラがあります。この意味は何かといえば、「視線」とかそういうものになるでしょうか。

また、チェキのような取ってすぐにプリントできるカメラがあると思います。この製品の意味はなんでしょうか?同様なカメラは昔からポラロイドカメラとしてありますので、技術的には陳腐であり、一度は廃れた製品ですので、新たな意味性があると思います。

パーティーとかの集合写真で使われるようですので、「今の切り取り」とかそういうことになるのでしょうか。

個人的には、新たな意味性を見出しつつある製品として、 カシオの肌をきれいに加工してしまうカメラがあると思います。従来のカメラは「記録」するために、忠実な絵作りを実現しようとしていましたが、「フィクション」にまで加工してしまうというのは新たな意味と思います。

こういう考えると、意味を考えるのには、ソムリエのような語彙力が必要であることに今気が付きました。これからの技術者は、技術の本だけではなく、文学も読んだ方がよいかもしれません。

2017年5月10日水曜日

ブランドと不自由さについて

GWに、とある城下町を観光してきました。

武家屋敷を見学したところ、武家屋敷の構造・高さには、幕府の厳しいお達しがあり、設計の自由度はかなり低いようでした。幕府のお達しに逆らうと、お家取りつぶしのような厳しい処分がなされます。

前回の記事で、江戸時代の街並みに統一感があるのはコスト的制約からとしましたが、幕府の厳しいお達しの方もかなりの制約条件といえ、これらの過剰な制約から、似たような構造にならざる得なかったと思われます。

結局、これらの過剰な制約による不自由さから、逆に町全体の統一感が生じているという皮肉な結果ともいえます。

今は自由な世の中ですので、昔のような不自由さはありませんが、逆に、自由さゆえにブランド的には難しいのかと思います。

例えば、製品開発などする場合には、ユーザーニーズや技術革新の成果を積極的に取り入れて設計したりできますが、逆にいえば、ブランド属性がユーザーニーズや技術革新に合わせて、ころころ変わることになり、ブランドの継続性というものが感じられなくなると思います。

また、競合も当然ユーザーニーズや技術革新を取り入れた設計をしてきますので、似たり寄ったりの製品になりがちで、やはりブランドの個性というものが感じられなくなります。

例えば、自動車などは、昔はメーカーごとに個性があったものですが、今はもうどこの車か区別がつきにくくなっております。

そうすると、ブランド的には、あえて不自由さを入れてゆくことが、ブランドを確立するためによいのかと思います。

例えば、スバルという会社は水平対向エンジンに固執しており、これが他メーカとの大きな差となっております。

昔は水平対向エンジンにより低重心化が図れるという技術的意味があったと思いますが、今は、他の形式のエンジンの改良も進んだため、水平対向エンジンによるメリットはほとんどないと思います。

他の形式のエンジンの改良がさらに進んだ場合には、スバルは水平対向エンジンをやめるという選択肢もでてくると思いますが、その場合にはブランド属性が他メーカーと相違しなくなるため、ブランド力は低下すると思います。

そう考えると、最終的には、ユーザーが不自由さを許容するかどうかが、ブランド維持に大きくかかわるのかと思います。

ハーレーダビッドソンは、ニーズや技術革新とは無縁な古臭いバイクを作っておりますが、これは根強いファンがいるからできることです。ファンづくりがブランド維持に欠かせないのではないでしょうか。

2017年5月3日水曜日

コストと統一感について


ゴールデンウィークとなると、国内小旅行に出かけることが多いですが、国内を旅行していて感じるのは、江戸時代以前のコンテンツの強さです。

地方の名物といえば、街並み、食べ物、祭り等、江戸時代以前に成立したものが多く、こういうものがある地方は、このようなコンテンツを利用して観光客を集めています。

江戸時代以前の街並みのよいところは、風景に統一感があることです。似たような建物が並ぶことにより、建物単体ではなく、地域としてのブランド価値が生じます。

ブランド戦略の要諦は、ブランド属性のコントロールにありますが、昔の街並みはこれができているということになります。

ブランドマネージャーみたいな人がいない時代で、どうしてこういうことができたかといえば、その理由にロジスティクスが未発達であったことがあると思います。

昔は物の輸送にはコストがかかるため、家を建てる際には、近場で入手できる材料を使わざるを得ない状況があります。また、大工さんも遠くの人を呼ぶにはコストがかかるため近場の人に頼まざるをえません。

結局、似たような材料で似たような人が建築しますので、町全体が似たような建物だらけになり統一感が生まれます。結局、コスト的制約が統一感を生み出しているといえるでしょう。

現代では、個々が自由な設計で自由な材料で建物を建てますので全体としてはごちゃ混ぜ感のあるアジア的な風景となってしまいます。もちろん、こういうアジア的な風景も味わい深いものがあります・・・。

地域ブランドが最近話題ですが、地域全体としてブランド属性をそろえて、統一感を出せるかがポイントとなると思います。

例えば、特産品として醤油を作ろうとした場合、ブランド属性として、原材料、製法等があると思いますが、輸入の大豆、輸入の塩、水道水、他の地域の製法を使った場合には、ブランド属性がバラバラとなり、ブランドをユーザーが認識できなくなります。

ブランド的には、地元の大豆、塩、湧き水、地元独自の発酵手法を使いたいところですが、そうすると今度はコストがかかりますのでとても高い醤油となり、商品としては微妙になります。

 そうすると地域ブランドというのは、コストと地域性とのバランスをどうとるかという部分が課題となり、このあたりがマネージャーの腕の見せ所となりそうです。

2017年4月22日土曜日

破壊的イノベーションの怖さについて

桜の季節も終わりとなりました。満開となると写真を撮りたくなるものですが、今はもうスマホで写真を撮っている人がほとんどです。

写真といえば、大昔は、一眼レフのカメラ、少し前はコンパクトデジタルカメラと相場が決まっておりましたが、今は、写真マニアを除いてカメラを持ち歩くことはなくなりました。

こういうスペックに劣る製品が先行製品を駆逐するさまを破壊的イノベーションといいます。 1995年ごろクリステンセンという方が唱えた説で、今ではもう一般化した考えです。

スマホは破壊的イノベーションの代表選手みたいなもので、携帯電話、携帯音楽プレーヤー、ナビゲーション、カメラ、パソコン等を次々と市場から駆逐し、日本の電機メーカーも苦しい立場となりました。

とはいえ、破壊的イノベーションという考えは昔からありますので、例えば、カメラメーカーは対策をとれなかったのでしょうか?

そう考えると、破壊的イノベーションの怖さがわかります。つまり、一度破壊的イノベーションが始まりますと、旧来の企業は対策の立てようがないということです。

カメラメーカーもカメラの性能を向上したり、ネットワークに接続しやすくしたりして製品の改良を進めましたが、あまり効果はありませんでした。

スマホの使い勝手の良さの前に、カメラを単独の製品として成立させることはもう無理といえるでしょう(マニア向けや特殊用途は除く)。

自分がカメラメーカーの技術者であったらどうするかと考えてみましたが、私もあまりいいアイデアがありません。

自社でカメラ機能に特化したスマホを作ってみればいいとも思いましたが、スマホ自体、日本のメーカーがほぼ駆逐された状況であり、また、リスクをとって新規事業を始める気力も日本企業にないでしょうから、あとは製品の寿命を1年でも伸ばし、撤退の時期を先延ばしするような努力をするのがせいぜいとなります。

さて、次の破壊的イノベーションが生じる分野は、誰でもわかる通り自動車なのですが、現状の自動車メーカーは対策をとれるのか、それとも撤退に追い込まれるのか、注目したいと思います。

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