2017年6月10日土曜日

製品と組織について

スマホは今や海外メーカーが主流となりましたが、よく考えてみますとスマホは日本の技術力で十分製造可能ですので、日本メーカの存在感がないというのは不思議なことともいえます。

この理由としては、スマホは(国際)水平分業で作られることにより、低コストの製造が可能となるので、垂直統合的な組織の日本メーカーでは高コストにならざるを得ず、価格競争力がない、という説明がよくなされます。

では、日本メーカーも水平分業的になればよいではないかと思いますが、そうは簡単にはいかないようです。

日本の電機メーカといえば、従業員数が数万人~10万人という規模になりますので、垂直統合をやめて水平分業的な組織に移行しようと考えた場合には、大規模な組織変更、人員整理が必要となると思います。

そうすると、役員会の意思統一や労働組合との交渉など、多大な労力が必要となりますので、社長の相当な力量が必要ですが、創業者でもない、サラリーマン社長の立場では、そこまでの改革は困難と思います。

日本の電機メーカーはスマホだけ作っているのではなく、国や電力企業からのインフラ製造の仕事もしており、こちらも有力な収入源となっています(というより、こちらに注力しています)。

インフラ関係は垂直統合的な組織でも対応できる仕事ですので、社内に垂直統合組織と水平分業組織を両立させるのも非効率であり、スマホを捨てて、垂直統合、インフラへ電機メーカーが進むのも合理的といえます。

そう考えますと、ソニーやパナソニックのように国の仕事に依存していない企業や、シャープのように外資系となった企業であれば、水平分業的な組織に移行しやすいと思われます。

私も、NECに以前勤めておりましたが、売上高、株価とも、私が辞めた年がピークであり、今は売上高1/2、株価1/3となっているそうです。そう考えると、組織変更に伴い、自分は実のところ人員整理された側の人間といえるのかもしれません・・・。

2017年5月13日土曜日

意味のイノベーションについて

前前前回の記事で、コンデジはスマホに対抗しようがないという、救いのない内容を書いてしまいましたが、それでは思考停止過ぎですので、少し考えてみました。

破壊的イノベーションに対抗するには、こちらも新たなイノベーションを起こすのが有効と思われます。

使えそうなイノベーション手法に、デザイン・ドリブン・イノベーションというのがあります。これは、製品の意味を探求するイノベーション手法です。

写真の意味は「記録」というものがあり、カメラはこの意味において性能を発揮するよう技術開発が行われてきました。

スマホのカメラの場合には、「共有」という新たな意味が見いだされ、この意味の重要性が高い場合には、ユーザーはこの意味を受け入れ始めます。

古い意味性しかないカメラは廃れ、スマホにユーザーは移行するという流れとなります。

そうしますと、スマホに対抗するには「共有」を超える意味性を見出すことが考えられるかと思います。

といっても、新たな意味を見出すにはどうすればよいのかとなりますが、これは「デザイン・ドリブン・イノベーション」という本に書いてあります。

まずは、自分一人で「写真」の意味を考えるという、なんとも哲学的な作業となります。

次に、意味を考えついたら、その意味をいろいろな専門家に解釈してもらい、意味を評価してもらいます。

通常の製品開発では、製品の評価はユーザーにゆだねますが、デザイン・ドリブン・イノベーションでは、歴史学者とか文化人類学者、マーケティングの専門家やら、日頃から物事を深く探求している人に解釈してもらうことが重要となります。

さて、このように意味を見出す作業となりますが、「技術」のウェイトがこの段階では高くないことになります。つまり、開発というと技術開発を考えがちですが、 デザイン・ドリブン・イノベーションの場合にはまず意味開発となります。

逆にいえば、新たな意味が開発できれば、技術自体は既存のものの組み合わせでも構いません(「枯れた技術の水平展開」とかいいます)。

もちろん、新たな意味に、新たな技術が組み合わされば、鬼に金棒ですので、技術が無意味ということではありません(「技術が悟る瞬間」とかいいます)。

では、具体的にはどうするかといえば、私は、カメラの専門家でないので、よくわかりません・・・。とはいえ、意味という観点で考えると、カメラも新しい製品がいろいろ出てきていることがわかります。

例えば、GoProなどのウェアラブルカメラがあります。この意味は何かといえば、「視線」とかそういうものになるでしょうか。

また、チェキのような取ってすぐにプリントできるカメラがあると思います。この製品の意味はなんでしょうか?同様なカメラは昔からポラロイドカメラとしてありますので、技術的には陳腐であり、一度は廃れた製品ですので、新たな意味性があると思います。

パーティーとかの集合写真で使われるようですので、「今の切り取り」とかそういうことになるのでしょうか。

個人的には、新たな意味性を見出しつつある製品として、 カシオの肌をきれいに加工してしまうカメラがあると思います。従来のカメラは「記録」するために、忠実な絵作りを実現しようとしていましたが、「フィクション」にまで加工してしまうというのは新たな意味と思います。

こういう考えると、意味を考えるのには、ソムリエのような語彙力が必要であることに今気が付きました。これからの技術者は、技術の本だけではなく、文学も読んだ方がよいかもしれません。

2017年5月10日水曜日

ブランドと不自由さについて

GWに、とある城下町を観光してきました。

武家屋敷を見学したところ、武家屋敷の構造・高さには、幕府の厳しいお達しがあり、設計の自由度はかなり低いようでした。幕府のお達しに逆らうと、お家取りつぶしのような厳しい処分がなされます。

前回の記事で、江戸時代の街並みに統一感があるのはコスト的制約からとしましたが、幕府の厳しいお達しの方もかなりの制約条件といえ、これらの過剰な制約から、似たような構造にならざる得なかったと思われます。

結局、これらの過剰な制約による不自由さから、逆に町全体の統一感が生じているという皮肉な結果ともいえます。

今は自由な世の中ですので、昔のような不自由さはありませんが、逆に、自由さゆえにブランド的には難しいのかと思います。

例えば、製品開発などする場合には、ユーザーニーズや技術革新の成果を積極的に取り入れて設計したりできますが、逆にいえば、ブランド属性がユーザーニーズや技術革新に合わせて、ころころ変わることになり、ブランドの継続性というものが感じられなくなると思います。

また、競合も当然ユーザーニーズや技術革新を取り入れた設計をしてきますので、似たり寄ったりの製品になりがちで、やはりブランドの個性というものが感じられなくなります。

例えば、自動車などは、昔はメーカーごとに個性があったものですが、今はもうどこの車か区別がつきにくくなっております。

そうすると、ブランド的には、あえて不自由さを入れてゆくことが、ブランドを確立するためによいのかと思います。

例えば、スバルという会社は水平対向エンジンに固執しており、これが他メーカとの大きな差となっております。

昔は水平対向エンジンにより低重心化が図れるという技術的意味があったと思いますが、今は、他の形式のエンジンの改良も進んだため、水平対向エンジンによるメリットはほとんどないと思います。

他の形式のエンジンの改良がさらに進んだ場合には、スバルは水平対向エンジンをやめるという選択肢もでてくると思いますが、その場合にはブランド属性が他メーカーと相違しなくなるため、ブランド力は低下すると思います。

そう考えると、最終的には、ユーザーが不自由さを許容するかどうかが、ブランド維持に大きくかかわるのかと思います。

ハーレーダビッドソンは、ニーズや技術革新とは無縁な古臭いバイクを作っておりますが、これは根強いファンがいるからできることです。ファンづくりがブランド維持に欠かせないのではないでしょうか。

2017年5月3日水曜日

コストと統一感について


ゴールデンウィークとなると、国内小旅行に出かけることが多いですが、国内を旅行していて感じるのは、江戸時代以前のコンテンツの強さです。

地方の名物といえば、街並み、食べ物、祭り等、江戸時代以前に成立したものが多く、こういうものがある地方は、このようなコンテンツを利用して観光客を集めています。

江戸時代以前の街並みのよいところは、風景に統一感があることです。似たような建物が並ぶことにより、建物単体ではなく、地域としてのブランド価値が生じます。

ブランド戦略の要諦は、ブランド属性のコントロールにありますが、昔の街並みはこれができているということになります。

ブランドマネージャーみたいな人がいない時代で、どうしてこういうことができたかといえば、その理由にロジスティクスが未発達であったことがあると思います。

昔は物の輸送にはコストがかかるため、家を建てる際には、近場で入手できる材料を使わざるを得ない状況があります。また、大工さんも遠くの人を呼ぶにはコストがかかるため近場の人に頼まざるをえません。

結局、似たような材料で似たような人が建築しますので、町全体が似たような建物だらけになり統一感が生まれます。結局、コスト的制約が統一感を生み出しているといえるでしょう。

現代では、個々が自由な設計で自由な材料で建物を建てますので全体としてはごちゃ混ぜ感のあるアジア的な風景となってしまいます。もちろん、こういうアジア的な風景も味わい深いものがあります・・・。

地域ブランドが最近話題ですが、地域全体としてブランド属性をそろえて、統一感を出せるかがポイントとなると思います。

例えば、特産品として醤油を作ろうとした場合、ブランド属性として、原材料、製法等があると思いますが、輸入の大豆、輸入の塩、水道水、他の地域の製法を使った場合には、ブランド属性がバラバラとなり、ブランドをユーザーが認識できなくなります。

ブランド的には、地元の大豆、塩、湧き水、地元独自の発酵手法を使いたいところですが、そうすると今度はコストがかかりますのでとても高い醤油となり、商品としては微妙になります。

 そうすると地域ブランドというのは、コストと地域性とのバランスをどうとるかという部分が課題となり、このあたりがマネージャーの腕の見せ所となりそうです。

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