2017年7月12日水曜日

ものつくりの考え方について

日本はものつくり立国だ、という話がよくされます。私も前職はものつくり技術者だったので、そうなのかと思いますが、私が技術者をやってた頃から比べると、ものつくりの概念が変わってきていると最近思い始めました。

旧来のものづくりといえば、主に品質向上を図る技術開発を行うことを意味していたと思います。品質向上のためには、地道な実験等を行うような自然法則と向き合うような姿勢が必要であり、技術者には、そのような資質が求められます。

今でもこのような概念でものつくりを語る向きもありますが、それでは足りないことが、2000年以降明らかになったと思います。例えば、技術で勝って事業に負けるような事態の発生です。単なる技術開発ではなくマーケティングも求められるようになりました。

そこで、最近はデザイン思考、ブランド思考に代表されるような顧客心理への影響を考えたものづくりがされるようになりました 。人間心理は自然法則の及ばない領域ですので、今までとは違う観点でものづくりをしなければなりません。

と、ここまでが2017年までの考えですが、今後さらに課題となるのが仮想世界の存在です、AIやらIOTやら仮想世界の存在が現実界に影響を与える時代が迫っています。

仮想世界は人為的取り決めが100%の世界ですので、自然法則は当然及ばず、考え方も世界を知るというよりは、世界を作るようなスタンスが求められます。仮想世界では、世界を作る人が当然有利になりますので、受け身でいると不利になります。

例えば、自動運転車というのは、仮想世界のポジションの取り方が雌雄を決するかもしれません。

特許法や技術標準も一種の仮想世界かもしれません。特許法も技術標準も人為的取り決めにすぎません。しかし、自然法則に適合し顧客ニーズのある製品でも、特許法に抵触し、技術標準に不適合だと、製品の製造はできません。

ということで、今後のものづくりは、自然界、人間界、仮想界の3つの世界の狭間で、どのようにポジションをとってゆくかが、悩みどころでもあり、面白いところとなると思います。

2017年7月5日水曜日

ブランドとデザインについて

ブランドデザイン保護 経産省、意匠法改正を検討」という記事をネット上に見かけました(新聞社の記事のリンクはすぐに消えてしまいますので、リンクは割愛いたします。)

その新聞社の会員ではありませんので、記事を最後まで読めないのですが、記事の題名に違和感を感じました。

「ブランドデザイン」というのが意味不明ですし、そもそも「ブランド」と「デザイン」とは異なる概念ですので、無造作にくっつけてよいのかと思います。

その後、経産省のホームページで以下のニュースリリースを見つけました(リンクあり)

「産業競争力とデザインを考える研究会」を設置します


先のニュースはこの研究会のことをいっているのかと思います。

この1次ソースを読みますと、「ブランドデザイン」なる用語は一言も使われておらず、 「ブランド」と「デザイン」をきちんと区別して使用しております。

官庁は新聞社とは異なり慎重に用語を選んで使っているようです。やはり、1次ソースに当たることが重要とあらためて思いました。

研究会でどのようなことが議論されるのかはよくわかりませんが、ブランドアイデンティティたる物品の形態について、効果的に意匠権で保護できるよう、意匠法の改正を念頭においた議論を行うようです。

このような考えは方向性としてはありと思いますが、そうはうまくゆかない事情もあります。一番の問題は意匠権には存続期間20年という縛りがあることです。

例えば、自社ブランドアイデンティティたる商品の形態について無事に意匠権が取れたとします。そうすると、商品形態が保護された状態で自社ビジネスを行うことができます。

しかしながら20年後には意匠権が消滅しますので、法律の建前上、誰でもその商品形態を実施することが可能となります。

20年間商品形態を実施することにより、ブランド価値が高まりますが、意匠権消滅後は誰でも実施できますので、20年間のブランド価値を高める活動が無意味となる、おかしな結果となります。

ブランドというのは半永続的に使用することにより価値が高まりますので、存続期間に限りのある権利とはマッチングが悪いことになります。やはり、半永久的に保護可能な商標権による保護が望ましいことになります。

研究会では、このあたりも議論されると思いますので(されないかもしれませんが・・・)、本年度末に出される結論に注目したいと思います。

2017年7月2日日曜日

課題分析型コンサルティングの課題について

今月号のパテント誌の特集は弁理士キャラバンでした(パテント誌の内容は3か月後に弁理士会ホームページで公開されますので、10月ごろには誰でも見れるようになります)。

しかしながら、コンサルティングを受けた企業の感想が書かれているのみで、実際にどのようなコンサルティングが行われたかは、よくわかりませんでした。

感想からコンサルティング内容を推測すると、複数の弁理士が複数回中小企業を訪問して、その企業の課題を分析して、中小企業の経営者様に報告する、というような手順のようです。

こういうコンサルティングの手法の課題としてよくいわれるのが、課題が放置されるとか、課題が解決されない、という事態の発生です。

例えば、分析の結果、特許出願件数が少ない、という課題が発見されて、その旨企業の方に報告した場合には、「そうですね・・・。」と納得感の高い反応があると思います。

それでは、その課題が解決されるかといえば、いつかやろう、と考えて先の伸ばしになり、そのままうやむやとなるケースが多いのではないでしょうか。

これは中小企業の場合には仕方のないことともいえます。他に業務を抱えた人が多いですので、課題解決に回せる人もいないですし、予算もありません。(大企業であればプロジェクトチームを作ったり、予算を当てたりするのでしょうけど。)

そう考えると、中小企業には課題分析型コンサルティングよりも、企業の課題はとりあえず横に置いておいて、社内で知財活動が回るよう、社内規程を整える、組織を作る、人材教育をする、というような足元を固めるところから始めた方がよいのかもしれません。

足元を固めれば、課題についても外部の人間に指摘されるまでもなく自然と社内のリソースで解決できるようになります。これ以上書くと弊社の宣伝になりますので、このあたりでやめておきます・・・。

話は変わりますが、弁理士キャラバンは無料でのサービスとなりますので、中小企業にとっては使いやすいサービスなのですが(コストパフォーマンスが無限大!)、同様に中小企業に対するサービスを行っているコンサルタントからみると事業が圧迫される存在でもあります。

ということで、民業圧迫とならない程度で活動いただければというのが希望となります。

2017年6月26日月曜日

調査なしの出願について

今月号のパテント誌は弁理士キャラバンの特集号でした。

私も認定コンサルタント(正式名称は忘れました・・・)なのですが、何年も依頼が来ない幽霊状態ですので、本当にやっているのかと感心しました・・・。

そのような中で少し気になったのが、キャラバン弁理士が企業の方からヒアリングした際、「以前、弁理士から特許調査に時間をかけるくらいなら早く特許出願したほうがいいといわれたことがある」というような話が出た部分です。

どのような状況下でその弁理士はこのようなアドバイスをしたのかわかりませんが、特許調査をせずに特許出願をする場合には、次の2つのリスクに注意しなければなりません。

1つ目は、拒絶査定となるリスクです。特許調査をせずに特許出願をするということは、特許性が不明なまま出願をすることになりますので、審査で近い文献が見つかり、拒絶査定となる可能性は大です。

特許出願には50~100万円の費用が掛かりますので、拒絶査定となった場合には、そのコストが無駄になることになります。この程度の費用の無駄はなんともない、という会社でしたら問題ないのですが、そうではないと思いますので、少し考えようということになります。

特許調査自体は、調査会社で5~10万円程度で調査してもらえますので、費用は掛かりますが、あきらかに特許性がない発明は調査でわかりますので、出願費用が無駄となることを削減できると思います。

2つ目は、1発で特許査定となるリスクです。特許になればいいではないか、と考えてしまいがちですが、1発で特許査定ということは先行文献が0ということですから、不必要に狭い権利となっている可能性があります。

拒絶理由通知が1回でもあれば、先行文献の存在がわかりますので、あとは、特許になるギリギリの線を狙って請求項を減縮補正するのですが、1発特許査定ですとそれもできません。

この場合には、分割出願してもう少し広い請求項に置き換えたいところですが、特許査定が出たので分割出願しましょう、などと担当者の方に説明しても、「なんで?」となるでしょうし、分割出願にも通常出願と同等の費用が掛かりますので、余計に出願費用がかかるということにもなりかねません。

そう考えますと、調査するくらいなら出願した方がいいとはいわずに、きちんと調査をした方が、結果的に、出願コストは安くなると思います。

逆にいえば、調査をしない方が、手続きが増えて弁理士は儲かるともいえてしまいますので、まあそう思われないようにしなくてはなりません・・・。

私の場合には、基本的に調査をしてから出願してもらうようにしています。これは上記2つのリスクに加えて、拒絶査定となるとメンタル的にダメージがありますので、自分は弁理士としてだめだ・・・、無力だ・・・と感じて仕事の意欲が低下することもあり、できるだけ調査して特許性を高めてから出願するようにしています。

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