2021年12月19日日曜日

発明を寝かせる

今はやっておりませんが、以前は個人発明家の相談業務をしていたことがありました。

発明相談では、発明の特許性のアドバイスや明細書の書き方アドバイスをするのですが、もちこまれる内容は様々でした。

私は、特許性の判断はできるのですが、実際の製品化については良いアドバイスができず、困ることが多かったです。

発明としては、それなりのレベルが多いのですが、はたして売れるのだろうか?とか、特許出願に費用をかけても果たして回収できるのだろうか?、という疑念が多かったです。

例えば、とてもメカニカルなスピーカーについて相談を受けたことがあるのですが、発明としてはかなりのレベルなのですが、今は音楽はヘッドフォンで聞くことが多く、スピーカーの需要は以前ほどないと思いますし、メカニカルなことから、スピーカー自体の価格も高額になることが予想されます。

そうしますと、発明としては問題ないのですが、市場性には問題がある、ということになります。

発明相談の場でもそういう話を簡単に議論しますが、そもそも答えのない話ですし、あまり追及して発明をつぶしてしまうことも問題ですので、課題の提示のみで議論は終了することになります。

こういう場合どうすればいいのか考えてみましたが、一つの考えとして、特許権だけはとっておいて、発明を寝かせておき、状況が変化したら製品化してみてはどうか、と思いましたがいかがでしょう?

そもそも製品がヒットする条件としては、製品としてよいこともありますが、むしろ、外部環境の変化にたまたま適合したというものも多いと思います。

例えるなら、春を待って冬眠する熊のようなイメージとなります。

先ほどのスピーカも、例えば、日本人の多くが防音の効いた立派な家に住むようになり、筐体をガラス製としてメカ部分をシースルーにしてインテリア性を高めつつ、スピーカーで音楽を聴くような状況になれば、売れる可能性が高まります。

特許権の存続期間は20年あり、冬眠期間をしばらくとれますので、外部環境の変化を待つ時間が取れます。もちろん待つだけではなく、営業活動や製品の改良を進めることでもよいです。

現実的な冬眠期間は10年となりますでしょうか。10年を超えますと権利維持費用が高額になりますし、存続期間の残りが少なくなりますと、特許により得られる利益額も少なくなります。

技術の変化は激しいですから10年あれば見切りをつける期間としても十分なのではないでしょうか。 

この作戦のよいところは、特許権があれば他社は参入できませんので、10年の猶予期間ができることにあります。そういう意味では将来の事業化可能性を特許権により確保できることがメリットとなります。

ということで、事業化の見込みが見通せない場合には、ひとまず特許を使って発明を寝かせてみてはいかがでしょうか。

2021年11月28日日曜日

知財学会の発表が終わりました。

知財学会の発表が無事?に終わりました。

当初の予想では発表時間が余りそうでしたので、ゆっくり目にしゃべろうとしましたが、結果としては発表時間オーバーとなりました。まだまだ修行が足りないようです。

次回来年のテーマは今のところありませんので、年明けにでも探そうかと思います。

学会の所感ですが、知財情報分析については、市販の特許マップソフトに頼らない発表が多く、とてもよいと思いました。

具体的には、エクセルやパイソンや私のようなKHcoderなどを使ったオリジナルの分析が多く、以前のようなどこかで見たような特許マップをズラリ出すというような発表ではなくなりました。

おそらく今後は分析にパイソンを使う人が増えてくると思いますので、私もその波に乗り遅れないようにしたいと思います。

また、特許庁からのAPIを利用した発明の品質分析が増えてくると思います。従来の特許情報分析に加えて、特許品質分析が特許分析の2本柱に育ってゆくとよいなと思います。

今回の発表内容については、文書にまとめてどこかで公表できるようにしたいと思います。

2021年11月23日火曜日

知財学会の予稿集についての雑感

11/27,28に開催の知財学会の予稿集が入手できました。その雑感を述べたいと思います。

ただし、内容について多く触れますと問題があると思いますので、問題にならない程度にしたいと思います。

なお、本ブログのアクセスは1記事1件くらいしかありませんので、何を書いても問題にはならないとは思いますが・・・。

私の発表は「その他」のカテゴリとなるのですが、申込時は「ブランド・デザイン」でした。事務局により「その他」へ変更されました。

そこで「ブランド・デザイン」を見ますと、やはり意匠法・商標法の発表がほとんどとなります。こういうことでしたら来年以降は「意匠・商標」へカテゴリ名を改名することをお勧めします。

次に、「その他」ですが、ポイントとなりますのが私の一緒のセッションの方の発表となりますので、簡単に(上辺だけ)見たいと思います。

一人目の方が、インテンシブ発表(発表論文3つくらい必要なレベルの高い内容)で、テーマは論文軸・特許軸・科研費軸による分析・・・とのことです。

内容としましては、テーマ名の3軸の立体グラフを作成して、気付きを得るというものです。

論文軸・特許軸・科研費軸のグラフですのでなかなか迫力がありますが、軸がIPC、JST分類、科研費審査分類となっておりますので、図をみましても、各種分類を知らない人には理解が難しいタイプの図となっております。

最近のIPランドスケープの図を見ましても、分類をそのまま軸に使用する図はほぼなく、人が理解しやすい用語に置き換えているものがほとんどですので、そのように改良すれば、より分かりやすい図となると思います。 

あとは軸が細かすぎて、老眼が進んだ私には文字が視認できませんので、このあたりも改良いただければと思います。

二人目の方が、テーマは、審査経過と特許品質との関係の考察・・・となります。

中間処理書類を分析して、拒絶理由の内容と特許クレームの広さとの関係を考察した内容となります。(どういう関係があったのか、無かったのか、については、発表をお聞きください。)

この予稿をみますと、気になる一文がありました。

それは「中間書類の取得には特許庁がトライアル提供中のAPIを使用した」 

このような分析は、やろうと思えば誰でもできたのですが、中間処理書類を入手して分析するのに多大な工数が必要ですので、誰もやりませんでした。

しかし、上記一文にあるようなAPIを使用すれば、データ入手が容易になり、もしかしたら、より少ない工数で分析できるのかもしれません。

このあたりは、私は完全に見逃していました。これだけでもこの発表は聞く価値があるかもしれません。

さて、私の方ですが、パワーポイントの修正をしております。日曜最後の発表ですので、まあどうなんでしょうか。

2021年10月20日水曜日

混合研究法について

 

 

 

前回、知財デザインの分析フェーズは、量的分析と質的分析とからなる、と勝手に決めました。

しかし、この量的分析と質的分析との関係はどうしたらよいのでしょう?まったく別個としますと、あまりやる意味がありませんので、何らかの関係性を持たせたいものです。

それで、何か先行事例がないか探しますと、混合研究法というものを見つけました。

混合研究法とは、課題を理解するために、量的データと質的データの両方を収集し、2つを統合し、両方のデータ解釈を導き出す、社会、行動、そして健康科学における研究アプローチである、とされます。

それで。混合研究法において、量的データと質的データをどのように統合しているかといえば、主に以下の3つとなります。

(1)説明的順次デザイン

 

説明的順次デザインは、まず、量的分析を行い、その量的分析の結果の説明のために、質的分析を行う、というような統合手法となります。

特許情報分析で言えば、まず、マクロ分析を行い、そのマクロ分析の結果の説明のために、ミクロ分析を行う、ような進め方となります。

マーケティングプロセスもこのような形の進め方であり、いろいろな分野で、なじみ深い統合手法といえます。

(2)探索的順次デザイン

 

探索的順次デザインは、まず、質的分析を行い、その質的分析の結果を用いて、量的分析を行う、というような統合手法となります。

あまり、見かけない手法ですが、去年と今年の私の知財学会の発表では、ミクロ分析からマクロ分析を行っておりますので、探索的順次デザインに近い分析手法かなと思います。

(3)収斂デザイン

 

質的分析の結果と量的分析の結果をみて、人間が解釈するという、おおざっぱ統合手法となります。

質的分析の結果と量的分析の結果が、補完関係にある場合には、 このような統合手法が用いられます。

順次デザインの方が、 質的分析の結果と量的分析の結果とのシナジーが得られるような気がして、良いようにも感じますが、こういうおおざっぱなものでもよい、ということでしょうか。

知財デザインでは、あまり他の方がやっていない「探索的順次デザイン」を前面に押し出して、旧来の分析手法との差別化を図ってみるのも面白いかもしれません。

次回(次々回?)当たりの知財学会での発表テーマとしようかと思います。

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