2011年12月8日木曜日

無形の力について

大変遅ればせながら野村監督の書かれた「弱者の兵法」を読みました。この本には印象に残る考え方(成功する確率の高い作戦を採用するだけ、プロフェッショナルのプロはプロセスのプロなど)が、様々記載されておりますが、知財の仕事をしている当方に特に印象に残った言葉は、弱者が強者に打ち勝つには「無形の力」を使うしか無いという言葉でした。

野村監督が現役当時には王、長島という超天才がライバルとして存在したため、通常の努力ではとてもかなわないことが明白であり、野村監督がどう対処したかといえば情報を様々集めて分析することにより(すなわち、無形の力)、天才を超える成績を残すことを可能としたそうです。

体力や技術(すなわち有形の力)は有限であるのに対し、情報(すなわち無形の力) は無限ですので、アメリカ人に体力が劣り、技術で天才に劣る人間には、この無限の力を利用することが有用であるということです。

さて、企業の経営に話を転じれば、中小企業においてもこの無形の力を利用することが、大企業に打ち勝つ一つの方法といえるでしょう。したがって、技術開発においては特許情報を検索して解析し、自社の戦略にフィードバックすることが必要です。

この無形の力を最大限利用している国といえば、やはり米国でしょう。アメリカは国にCIAという組織があることからもわかるように、企業でも情報の収集や分析に多額の予算を投じております。また、コンペティティブ・インテリジェンスといって、様々な情報を企業の競争力に結びつける研究も盛んです。

また、アップルの株の時価総額は世界一となりましたが、企業価値を構成する要素の大部分が特許やブランド、そして社外秘ノウハウ等の無形財産であるといわれています。

このように強者である米国ですら無形の力を活用しているのですから、日本企業がこの先生きのこるためにも、無形の力を利用することを真剣に考えなければならないでしょう。

2011年12月3日土曜日

知財の必要性について

いろいろな方のご意見を伺うと、弊社には特許は必要ない、というご意見を伺うことがあります。確かに、特許出願には費用がかかりますので、出費を押さえるためには特許出願を行わないという考え方もあるのかと思います。

しかしながら、特許活動(知財活動)は、特許出願のみではなく、付帯する様々な活動を含みますので、この点まず理解が必要でしょう。知財活動とは、知財の創造・保護・活用を行う活動と一般にはいわれています。ここでは知財活動の意義を考えてみましょう。

1.知財の創造
知財の創造では特許情報の活用が鍵となります。先行技術を調査することにより重複する研究によるムダな投資を防止できます。また、発明創出には様々なアイデアを出さなければなりませんが、特許情報から課題や解決手段を抽出することにより、容易にアイデアのネタを収集することができます。

2.知財の保護
せっかく考えた発明も権利化しなければ他社に模倣されてしまいます。適切な権利行使を行うためにも権利化は必須といえます。

3.知財の活用
知財とは特許権等、権利化することにより財産的活用が可能となります。特許権を有することにより製品やビジネスを独占できますので、不要な競争を排除でき利益率を高くできます。また、ライセンスにより特許料を得ることもできます。

このように、技術系の企業において知財活動は必須とも思いますが、それでは、逆に特許活動が不要な技術系の企業とはどのような企業なのでしょうか。

一つは大企業の下請けを主とする企業なのかと思います。技術的な課題や開発分野は大企業から提示されますので、特許情報を収集する必要は生じません。 権利化は大企業側でやりますし、権利行使も大企業側で行います。

そういう意味では下請けというのは事業戦略の一部を省略できますので、合理的なシステムといえるかもしれません。しかしながら、大企業に余力のなくなった昨今では、事業戦略を大企業に委ねることは経営上非常にリスクが高いのではないでしょうか。

下請けを抜け出し、中小企業独自の事業戦略を構築したいのであれば、ある程度のリソースを投入して独自の知財活動を行う必要があるといえるでしょう。

2011年11月25日金曜日

請求項の長さについて

適切に権利行使するためには、請求項の書き方が重要であると言われています。

これは、権利一体の原則という考え方があり、特許発明の技術的範囲は、特許請求の範囲に記載されたすべての構成を備えた物または方法のみに限られるとされるからです。

したがって、請求項に使用する表現には広い概念の用語を使用する、不要な構成の記載を行わない、請求項の長さを短くする、ことなどが求められております。

さて、装置、部品、方法と様々な請求項を設けることにより、発明を多面的に保護することが可能となりますが、一般的に装置の請求項は請求項の記載がどうしても長くなり、権利行使が難しい場合もあります。

逆に部品の請求項は記載が短くなり、権利行使しやすいというメリットがあります。(ただし、特許性[新規性、進歩性]を満たすことは難しいともいえます。)

ということで、部品の請求項をどんどん書きましょう!といいたいところですが、部品の請求項の実例をみてみましょう。

【請求項1】
 互いに圧接する第1及び第2の負圧発生部材を収納するとともに液体供給部と大気連通部とを備える負圧発生部材収納室と、該負圧発生部材収納室と連通する連通部を備えると共に実質的な密閉空間を形成するとともに前記負圧発生部材へ供給される液体を貯溜する液体収納室と、前記負圧発生部材収納室と前記液体収納室とを仕切るとともに前記連通部を形成するための仕切り壁と、を有する液体収納容器において、
 前記第1及び第2の負圧発生部材の圧接部の界面は前記仕切り壁と交差し、前記第1の負圧発生部材は前記連通部と連通するとともに前記圧接部の界面を介してのみ前記大気連通部と連通可能であると共に、前記第2の負圧発生部材は前記圧接部の界面を介してのみ前記連通部と連通可能であり、
 前記圧接部の界面の毛管力が第1及び第2の負圧発生部材(132A132B)の毛管力より高く、かつ、液体収納容器の姿勢によらずに前記圧接部の界面全体が液体を保持可能な量の液体が負圧発生部材収納室内に充填されていることを特徴とする液体収納容器。(特許第3278410号:キヤノン株式会社)

これは、有名なキヤノンのインクカートリッジの発明ですが、請求項の長さははっきり言って長いです。これでは権利行使が難しいと思うのですが、最高裁まで充分に戦える請求項でした。

その理由は、インクカートリッジの侵害品とは、空になったインクカートリッジにインクを補充するものですので、侵害品はデットコピーにならざるを得ないことがあると思います。

したがって、請求項の広さ、狭さは重要ではなく、自社のインクカートリッジを守れれば狭い表現でも大丈夫といえます。

また、請求項の長さが長いことにより、無効とされる可能性も低く、訴訟を安定して戦うことも出来ます。

このように、単純に請求項の広さ、狭さを考えるのではなく、侵害品を想定して請求項の表現を考えることが重要といえるでしょう。

2011年11月19日土曜日

2011.11.18 弊社秋期知財セミナー(第3回)開催

2011年11月18日(金)に、秋期知財セミナーの第3回目が行われました。講師は新井先生です。「中小企業における知財のケーススタディ 」をテーマに、中小企業における特許出願の注意点、及び、意匠出願の戦略的出願方法など、実務的に役立つセミナー内容でした。

特に意匠につきましては、なかなか実務について書かれた書籍などないため、権利行使を考えてどの形態で出願すべきか、部分意匠をどう利用するか、意匠の類比の判断はどう行われるかなど、私にとっても非常に勉強になりました。

(セミナー風景)

ご参加頂きました皆様、誠にありがとうございました。次回の講師は鶴見先生が担当させていただきますのでよろしくお願いいたします。
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(セミナーのご案内)
本セミナー最終回が11月30日(水)に開催されます。今回のセミナーは中小企業の知財管理の事例を交えた実戦的な内容となっておりますので、お役に立つ情報を提供できると思います。最終回のみご参加も歓迎しております。最終回は広い教室しか空いていなかった関係上、お席には余裕があります。詳しくは弊社ホームページへの下記リンクをクリック願います。


ふるってご参加下さい。

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