2013年10月12日土曜日

部分意匠について

部分意匠とは、ある製品の特定の箇所について権利化したい場合に用いる出願制度です。権利化したい部分を実線で描き、他の部分を点線で描いて出願します。

こうすることにより、製品の特定の部分の意匠に関して類否が判断されることになりますので、意匠全体が非類似の場合でも、特定の部分の意匠を保護することが可能となります。

例えば、スマートフォンの画面を意匠で保護したい場合には、外形を点線で描き、画面を実線で描き出願します。このような出願を「クレーム型」と呼ぶそうです。

私は、部分意匠といえばこの「クレーム型」と考えていたのですが、その他に「ディスクレーム型」というのもあるそうです。

例えば、スマートフォンの外形を実線で描き、画面を点線で描いて出願をする場合はディスクレーム型となります。これによれば、画面の形にかかわらず外形が保護されますので、外形に特徴がある場合には、ディスクレーム型が有効です。

スマートフォンの外形のみで意匠出願すればよいかと思いますが、例えば、画面形状に特徴があるスマートフォンが他社により製造された場合、画面形状が意匠の類否に影響を与え、意匠が非類似と判断されてしまう可能性があります(利用関係で権利行使できる場合もあります)。

したがって、ディスクレーム型の出願を行うことにより、いかなる画面形状に対するスマートフォンに対しても外形が類似していれば権利行使できることになります。

なお、ディスクレーム型の出願は審査で拒絶される可能性が高いため、特に新規な製品について有効な出願といえます。

ということで、新規な製品を販売する場合には、次のような意匠出願を組み合わせることが、権利行使のためには有効と思われます。

(1)全体意匠(製品の意匠をそのまま保護)
(2)部分意匠(ディスクレーム型:外形形状の保護)
(3)部分意匠(クレーム型:特徴的な部分の保護)

まとめとしましては、部分意匠制度とは、特定の部分を審査して欲しい場合に利用する制度であるとともに、特定の部分を審査してほしくない場合にも利用できる制度といえます。

したがって、意匠出願の際には、全体と部分の組み合わせをいろいろ考えて出願することも今後は必要と思います。

2013年10月10日木曜日

意匠出願について

私は主に特許の仕事をしているのですが、時たま意匠権侵害の相談を受けることがあります。

その場合、登録意匠と侵害しているであろう実際の製品とを比較して、意匠の類否を判断すればよいと思いますが、実はそうではありません。

意匠の類否を判断する前に、まず意匠の要部を認定する必要があります。意匠の要部とは、 創作が特徴的な部分とか、見る人が最も注意を引かれる部分と言われる特定の部分です。

意匠の類否には、この要部の形状や模様等が大きな影響を与えますので、登録意匠のみならず、公知意匠を参照して要部を認定してゆかなければなりません。 

そうすると、相談されたその場で、2つのデザインを比較して意匠の類否や意匠権侵害の判断をするということは、非常に難しいといえます。

相談者は、デザインは目で見て明らかであるから意匠の類否の判断は容易であると思い違いをしている場合もありますので、その場合は少々申し訳ない気持ちにもなります。

意匠の登録率は約80%といわれ比較的簡単に権利化されるのですが、いざ権利行使をしようとすると、 このような意匠特有の難しい問題がでてくることになります。

そういう観点からは、意匠の要部というものを出願時にある程度、出願人の側で確定して出願すれば、意匠の要部の認定、ひいては、意匠の類否の判断を、出願人の想定通りにもってゆくことが可能となり、権利行使が容易になります。

そういう出願法としては、部分意匠出願制度と、関連意匠出願制度の利用が考えられます。

部分意匠(ぶぶんいしょう)とは、物品全体の形態の中で一定の範囲を占める部分を保護するための意匠のこと。たとえば、コップの縁の部分に特徴あるデザインの場合、そのコップの縁の部分について部分意匠を受けることができる(wiki)。

関連意匠制度では、登録を受けようとする意匠に類似する関連意匠にも、一般の意匠の権利とほぼ同様の効力が与えられる(wiki)。

先日、部分意匠及び関連意匠の活用法についての研修を受けてきましたので、次回は具体的な出願法について書きたいと思います。

2013年10月4日金曜日

TPPと知財について

最近ニュースでTPPが話題になっています。wikiによればTPPとは以下の意味のようです。

環太平洋戦略的経済連携協定(Trans-Pacific Strategic Economic Partnership Agreement または単に Trans-Pacific Partnership,(トランスパシフィックパートナーシップ) TPP,環太平洋経済協定、環太平洋連携協定、環太平洋経済連携協定、環太平洋パートナーシップ協定)は、環太平洋地域の国々による経済の自由化を目的とした多角的な経済連携協定 (EPA) である。

経済貿易協定といえば、一昔前はGATTやWTOの場で話し合われて来ましたが、多数の国の協議では利害が衝突しやすく、近年は、利害を調整しやすい二国間や地域別の協定を結ぶことが盛んに行われているようです。

さて、TPPの話を聞くと私はどうしてもGATTのウルグアイ・ラウンドのことを思い出してしまいます。

ウルグアイ・ラウンドとは、1986年にウルグアイで交渉開始が宣言された、GATT(関税貿易一般協定)の多角的貿易交渉のこと。自由貿易の拡大を目指して新しい貿易ルールを作る交渉である。期間は4年間で交渉は15項目。GATTは2国間に貿易問題が起きたとき仲裁する立場だったが、貿易の形も次第に複雑化し、複数国の間で利害問題が浮上してきたため、多角的貿易交渉(ラウンド)へ移行していく。ウルグアイラウンドでは特許権、商標権、著作権といった知的所有権の取り扱いから、旅行、金融、情報通信など、物品をともなわないサービス貿易の国際的取引の自由化、農産物の例外なき関税化について交渉した。124カ国が参加したこの会議は難航をきわめ、94年に合意に至った(ASCII.jpデジタル用語辞典) 。

今思い返せば、このウルグアイ・ラウンドが、日本のいわゆる失われた20年を創りだした一つの要因とも思います。

この交渉では様々な協定が成立したのですが、例えば、TRIPS協定が成立したものの一つです。

TRIPS協定(知的所有権の貿易関連の側面に関する協定:Agreement on Trade-Related Aspects of Intellectual Property Rights)は、1994年に作成された世界貿易機関を設立するマラケシュ協定の一部(附属書1c)を成す知的財産に関する条約である(wiki)。

この協定により、発展途上国も知的財産権の保護を実行あるものとする義務が生じましたので、プロパテント政策を推し進めるアメリカには有利に働き、その後のアメリカの復活の要因の一つとなりました。

また、TBT協定というのも成立しました。 TBT協定(貿易の技術的障害に関する協定:Agreement on Technical Barriers to Trade)は、東京ラウンドにおいて1979年に「GATTスタンダードコード」として合意し、ウルグアイラウンドにおいて1994年にTBT協定として改定合意されて、1995年に世界貿易機関を設立するマラケシュ協定(WTO設立協定)に包含した標準化に関する条約である(wiki)。

この協定によって、規格を国際規格(国際標準)に整合化する義務が生じました。このため、日本のたて型洗濯機が輸出できなくなったりしました。

国際標準の策定についてはヨーロッパ勢が優位に立っておりますので、ヨーロッパに有利な標準が成立しやすく、ヨーロッパの存在感の向上に寄与しました。

さて、日本といえば何をやっていたかというと、もっぱら「コメの自由化阻止」でした。ウルグアイ・ラウンド対策として農村にお金がばらまかれ、余ったお金で温泉センターが乱立したりもしました。

ウルグアイ・ラウンドではコメの完全自由化は阻止されましたので、目的は達成されたかもしれませんが、国益という観点では、TRIPS協定やTBT協定をねじ込んだアメリカやヨーロッパにしてやられた感があると思います。

今回のTPPの件でも農業の保護が主要な論点となると、ウルグアイ・ラウンドの二の舞いとなる恐れがあります。

やはり、日本として今後発展してゆく分野は何かを見定め、交渉に力を入れてゆくことが必要となると思います。

前回と違い今回は知財も大きなトピックとなっておりますので、交渉の行方を見守りたいと思います。

2013年9月27日金曜日

発明の特別な技術的特徴を変更する補正・・・について

本日は弁理士会の研修で、「発明の単一性の要件」及び「発明の特別な技術的特徴を変更する補正」の審査基準の改訂について勉強して参りました。

この中の「発明の特別な技術的特徴を変更する補正」とは、平成18年の特許法改正により新たに設けられた規定で、特許法第17条の2第4項に以下の規定があります。

前項に規定するもののほか、第一項各号に掲げる場合において特許請求の範囲について補正をするときは、その補正前に受けた拒絶理由通知において特許をすることができないものか否かについての判断が示された発明と、その補正後の特許請求の範囲に記載される事項により特定される発明とが、第三十七条の発明の単一性の要件を満たす一群の発明に該当するものとなるようにしなければならない。

上記規定の「第三十七条の発明の単一性の要件を満たす」とは、特別な技術的特徴(STF)を共有する関係をいいます。

そして、発明の特別な技術的特徴(STF)を変更する補正は、拒絶の理由(特49条1号)となります。

なぜこのような規定が設けられたかといえば、請求項の補正を自由に認めると審査の負担が増えるからです。つまり、審査に時間を掛けたくないという行政庁からの要望により設けられた規定といえます。

私はここ数年この規定に非常に悩まされてきました。本規定の認定は審査官の裁量が大きく、多少乱用気味の時期もあったと思います。

請求項に進歩性なし(29条違反)⇒進歩性もないのでSTFもなし(37条違反)⇒STFを追加する補正は技術的特徴の変更に該当(特17条の2違反)の連続攻撃には非常にまいりました。

ストリートファイターというゲームにコンボ攻撃というものがありました、まさにこのような抜けられない状態となり非常に困りました。

特許法第17条の2第4項の拒絶理由が通知されると、審査官の裁量が大きいため反論は事実上不可能であり、審判を請求するか分割出願を行い、審査官、審判官を違う人にするしかありません。

ただし、資力に乏しい中小企業の場合には、審判や分割出願を行うことは費用的に難しい場合もあり、その場合には拒絶理由を受け入れるしかありません。

ただし、これは非常に問題です。なぜなら、 特許法第17条の2第4項の拒絶理由は形式的要件にすぎないからです。

新規性や進歩性のような実体的要件により拒絶されるのであれば、権利化をあきらめることもしょうがないと思いますが、補正の仕方うんぬんで権利化できないのは問題があります。

例えば、青色LEDの製法のような革新的な発明が、補正うんぬんで拒絶されてしまっては、国家的損失につながると思います。

さらに、このような形式的要件にエネルギーを投入することは非生産的でもあり、知財の創造という生産的な活動にエネルギーを投入したいという希望もありました。

さて、本規定の運用はよほど評判が悪かったのか、平成25年7月1日以降の審査から運用が変わりました。

具体的には「必要以上に厳格に適用することがないようにする」だそうです。今後の審査がよりよく改善されることを期待しております。

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