2015年6月10日水曜日

周知技術について

中間処理で拒絶理由を解消すべく補正して対処したところ、周知文献をいくつか追加的に提示されて拒絶査定となるケースが、何件か続きました。

周知文献を拒絶理由通知時に提示してもらえれば対処の方法もあるのですが、後出し的に証拠を出されると手の打ちようがありません。

大企業であれば、拒絶査定不服審判を請求すればよいので、あまり問題ないのかもしれませんが、中小企業に審判を請求させることは費用的に酷と思われます。

ユーザーフレンドリーな審査を目指すのであれば、

(1)進歩性を否定する根拠となる証拠については拒絶理由にすべて明示する。

(2)新たな証拠を追加する場合には、再度の拒絶理由を通知する。

となると思いますが、審査の迅速化の要請のためか、上記の無理な運用になっているようです。

そう考えると、今後の中間処理は、周知文献という「見えない証拠」があることを前提に対応する必要があると思います。

例えば、

(1)中間処理時には、出願人自ら「補足的な特許調査」を行い、拒絶査定にて不意打ち的に追加される可能性のある証拠を事前に把握する。

特許調査には費用がかかりますが、審判請求の費用に比べれば安くできると思いますので、検討の余地はあると思います。

追加的な特許調査を行わない場合には以下のような対応かと思います。

(2) 補正は、引用文献との差別化を図るだけで安心せず、拒絶査定にて不意打ち的に追加される可能性のある証拠の存在を前提に、さらなる減縮を図る。

過度に減縮補正をすることにより、周知技術とされるリスクを低減できます。ただし、権利範囲が必要以上に狭くなりますので、使えない特許権が量産されることになるかもしれません。

話はそれますが、最近は、中小企業が特許出願する意味を少し考えてしまいます。特許出願するにしても、審判、訴訟と結構な費用がかかりますので、技術開発やマーケティングにその費用を投じたほうが有益なのではとも考えてしまいます。

せめて、特許庁には手続きコストを押さえる審査を期待したいところです。

2015年5月2日土曜日

外部環境の変化について

私の知り合いが相次いで職場を辞めて、別の職場に移りました。

理由は、経営者の経営方針と合わないとか、組織変更のあおりをうけて居場所がなくなったとか、そういう理由です。

こういう、自分には原因がないのに、外部の環境変化で辞めざるを得ない状況というのは、誰にでも多々あると思います。

内に原因がある場合には、自分自身を改善してゆけばよいわけで、やることは単純です。

しかし、外に原因がある場合には、外を変えるというのは個人の力では無理ですので、対処を考える必要があります。

対応の一つとしては、職場を変えるなど、異なる外部環境へ移動することです。

A特許事務所がだめならB特許事務所へ、C大学がだめならD大学へ、日本がだめならアメリカへ、などです。

これは、移動先でも同じ状況となるリスクや、景気が悪いときなどはそもそも転職が困難というリスクもあります。

したがって、今の職場でうまくいっているとしても、日ごろから転職の情報収集を行い、転職可能な状態を維持する努力が必要となります。

他の対応としては、「ビバーク」があります。

ビバークとは山等で緊急避難的に野営することをいいます。これは、嵐や大雪の中で行動すると体力を消耗し命の危険が生ずるため、穴などに一時退避して体力を温存するものです。

職場でも、外部環境に逆らって活動するよりは、一時的に死んだふりをして目立たぬようにし、外部環境の変化を待ちます。

外部環境は一定ではなく、数年で改善することもありますので、その機会を狙って、活動を再開する作戦です。

この作戦の欠点は、外部環境の変化がいつになるか予期できないことと、人生の時間をロスすることにもなりますので、研究者やスポーツマン、芸能人など旬が短い仕事の人には向かないことです。

自分の経験でいえば、大学院は一年休学して「ビバーク」しました。その1年の間にそりの合わない方がいなくなりましたので、1年無駄にしたとは思いますが、修士号はなんとかとれました。

NEC時代は、私が仕事とする生産現場がなくなる方向にあり、会社に残っても仕事がないことと、年齢も30歳を超え、転職も難しくなることから、「ビバーク」はあきらめ、異なる分野への移動を図りました。

結局、転職は「場所」を移動する、ビバークは「時間」を移動する点で、移動することでは同じかと思います。

あとは、外部環境の変化にも動じないほどの実力をつければよいかと思いますが、私のような凡人にはなかなか難しく、悲しいですが 外部環境の変化に右往左往することがずっと続くと思います。



写真は、GWに行った鞆の浦です。

この港は、瀬戸内海の潮の流れのちょうど境界に位置するそうで、江戸時代のような無動力の船の時代には、潮の流れの変化を待つ船で賑わったそうです。

つまり、鞆の浦はビバーク地点であったわけで、人生にもこういう場所があればよいと思います。

2015年4月25日土曜日

弁理士の営業について

プロフェッショナルは営業してはいけないのが原則ですが、開業したての頃は仕事がありませんので、背に腹は代えられず、営業をすることになります。

営業をして実際に仕事に結びつく確率というのは1%もないと思いますので、 数百社から千社程度、飛び込み営業をする必要があります。

1日5社営業に回るとしても、数か月から半年は営業をし続けて、何とか仕事をいくつか貰えるレベルといえます。

ただし、数十社断られ続けた段階で、多くの人は心が折れてしまいますので、もう少し営業の効率を高めたいところです。

特許の場合には、特許データベースを利用して、営業先を絞り込むことができるかと思います。

例えば、 出願人住所を「神奈川県」に絞り込んで検索すれば、神奈川県内で出願を行っている会社を知ることができます。

また、さらに、特許分類(IPC、FI、Fターム)で絞り込めば、自分が対応できる技術(機械、電気、化学等)を有する会社に、さらに絞り込むことができます。

さらに、マップソフトをつかえば、出願件数動向から、出願の意欲の高い会社を知ることができます。

出願人住所検索はJ-PlatPatではできませんので、有料の特許データベースを利用する必要があります。

ただし、特許情報を利用しても、仕事を得られる確率が劇的に向上するとも思いませんので、 多少の効率化が図れる程度と考えたほうがよいと思います。

また、特許情報のみではなく、企業のIR情報やその他開示されている情報をさらに分析して確率を高めることも考えられます。

しかし、こういう作業も時間がかかりますので、分析に時間をかけるよりも、適当な段階で実際に回ったほうが早い場合もあると思います。

とはいえ、何とか引き合いがあった場合でも、会社によっては、足元を見られて、最初は無料で出願してくれ、と無理な要求がなされる場合も多々あるのがつらいところですが・・・。

2015年4月10日金曜日

長い明細書について

私は弁理士の仕事しつつ、企業の知財部支援の仕事もやらせていただいております。

知財部的な仕事をする際に避けて通れないのが、他の弁理士等が書いた明細書の評価です。他の弁理士の書いた明細書を読ませていただくのは、自分にも非常に勉強になります。

そうするといろいろな明細書が見受けられるのですが、長文の明細書に出会うことが多々あります。こういう明細書は読むのもしんどいですし、理解するのも大変、時間がかかります。

日本の国語教育を受けていると長文に価値があると感じてしまいがちですので、こういう明細書が喜ばれる素地があるのかもしれません。

とはいえ、明細書は小学校の作文と違いますので、長ければよいというものではなく、デメリットもいくつかあります。

一つ目は、明細書作成コストがかかるということです。

弁理士に明細書作成を依頼する場合には、ページ数に応じてその料金が上昇しますので、長い明細書はコスト高といえます(弁理士には売上が上がるのでメリットともいえますが・・・)。

二つ目は、翻訳費用がかかるということです。

外国へ出願する場合には、原則各国の言語に明細書を翻訳する必要があります。出願する国数に応じて翻訳費用がレバレッジされて増加します。

三つ目は、不要な開示を含む可能性があるということです

明細書で公開された情報は、公知になるとともに、権利範囲に含まれない部分については、誰でも自由に実施できることになります。

したがって、権利に関係ない部分の記載については、「ただ」で情報をあげているようなものになりますので、記載は厳選して減らすようにしなければなりません。

四つ目は、検討コストがかかるということです。

拒絶理由対応や侵害対応をする場合、担当者が明細書を読み込む必要がありますが、長い明細書は読むのも時間ががかりますので、検討に工数が多く必要となります。

担当者が複数の場合には、担当者数でレバレッジされて工数が必要となります。

五つ目は、論理不明確となりやすいことです。

明細書は論理を組み立てて、矛盾が生じないように記載する必要がありますが、文章が長くなりますと、論理に齟齬が生じる可能性が高くなります。

論理に矛盾がある場合には、記載不備として拒絶される可能性が高くなりますし、侵害訴訟では矛盾を突かれて、権利範囲が狭く解釈される可能性があります。

結局、明細書は短くする努力というのが最終的には必要となると思います。

それでも、長い明細書が製造されてしまう理由としましては、やはり、拒絶査定となったときの言い訳とできるからなのかと思います。

拒絶査定となると、弁理士の責任が問われる可能性がありますが、長文に価値があると感じてしまいがちですので、これだけ一生懸命書いたのだから、しょうがないといいやすいと思います。

また、明細書が長い方が、高額を請求できるという事情もあると思います。

したがって、弁理士の側から明細書を短文化するというのは、難しいと思いますので、クライアントの側が明細書を精査して短くするのが現実的と思います。

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