2015年10月31日土曜日

特別顕著性について

BABYMETALの人形がアメリカで販売されるそうです。

(FunkoのHP)
http://funko.com/blogs/news/72330947-straight-from-japan

こういうデフォルメした人形は、アニメのキャラクターが主で、実在の人間の人形が作られるのはなかなかないようです。

それはやはり、アニメのキャラクターは外観上の特徴が捉えやすいのに対し、実在の人間はそうとはいきませんので、デフォルメしにくいからなのではないでしょうか。

そう意味では、BABYMETALの外観は万人にわかる特徴があるといえます。こういう状態を知財的には、「特別顕著性」があるということになるかと思います。

特別顕著性があるとされるには、(1)ありふれた形態でない、(2)機能から定まる形態でない、(3) 周知である、という要件をすべて満たす必要があります。

それでは、余計なことかもしれませんが、暇つぶしに、各要件について確認したいと思います。

まず、「ありふれた形態」ですが、 BABYMETALのコスチュームはいわゆるゴシックロリータと呼ばれるそうですが、このゴシックロリータ自体はありふれていますので、これだけでは足りません。

次に、BABYMETALは3人グループですので、3人ともゴシックロリータということで、少しありふれていない感が出てくると思います。

次に、3人が並んだとき、真ん中の人が背が高く、両端の人は背が低く、かつ、同じくらいの背となります。つまり、シンメトリーとなりますので、外観のありふれていない感が強まります。

さらに、真ん中の人が、ポニーテールで、両端の人がツインテールで、シンメトリーであり、このあたりで、ありふれていない外観となるかと思います。

そう考えると、両端の人が、「そっくり」というところに、外観上の特徴があるかと思います。(実際、人形は見分けがつきません。)

「機能上の形態」ですが、機械ではありませんので、これは考慮しなくてもよいかと思います。

「周知性」ですが、これは興味深いところで、他の人形が、ビートルズやマイケルジャクソンというレジェンドクラスであり、人形になって当然と思われるのに対し、 BABYMETALは短期間に周知性を獲得している点です。

周知性があるとされるには、(1)広告宣伝の実績(費用、地域)、(2)広告宣伝に外観がちゃんと表示されている、(3)外観の特徴を変更せずに使用し続けていること、などが考慮されます。

「広告宣伝実績」ですが、これは、よくわかりません。 BABYMETALが所属している事務所は上場しているそうですので、財務諸表やIR資料からわかるかもしれません。

「広告への外観表示」ですが、これはインタビューを受ける際にもコスチュームを着用し、3人の並びも変更ないようにしていますので、気を使っているのだと思います。

逆に、コスチューム以外の服装を見せることや、3人ばらばらに活動することは、周知性に悪影響がありそうです。

「外観の不変更」ですが、これはデビュー以来、ずっと同じような恰好をしておりますので、厳しく守られているようです。これは、ヘビーメタルという様式を重んじるジャンルから自然とこうなっているのかと思います。

以上から、総合的に考えますと、 BABYMETALの外観は特別顕著性があるということになるかと思います。

これは、戦略的にやっているのか、偶然なのかはよくわかりません。しかし、今後は、この特別顕著性を利用したビジネス(キャラクター商品、多メディア展開)も可能となるかと思います。

また、特別顕著性を有していることから、BABYMETALを模倣したグループは参入しにくい状況かもしれません。

ということで、いいことづくめのようですが、一つ問題となるのが、イメージチェンジができないということになると思います。つまり、メタル以外の音楽をやりたくなった場合どうするか、ということです。

イメージチェンジしますと、せっかく築いた特別顕著性がリセットされますので、また、0からの活動となります。このあたりの舵取りは難しいところですが、外野としては興味深いところであります。

2015年10月24日土曜日

ノウハウ秘匿について

先日、とあるセミナーに参加しましたところ、帰りがけに雑誌記事のコピーを渡されまして、帰りの電車の中で読んだところ、次のようなことが書いてありました。

とあるコンサルタントの方が、とある中小企業を訪問した際に、特許出願を見せてもらったところ、明細書に製造ノウハウが事細かに記載されており、大丈夫なのかと心配になったとのこと。

しかも、その明細書を書いた代理人を確認したところ、弁理士会の会長(副会長?)をされていた方ということで、 二重に驚いたとのこと。

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上記の記事の内容はさておき、近年、製造方法等はノウハウとして秘匿すべきとの考えが強くなっています。それは当然誤りではないのですが、何も考えずに製造方法であればノウハウ秘匿とするのは、ちょっと危ないと思います。

そこで、以下のノウハウ秘匿判断ツリーを考えてみました。(はみ出しているかもしれませんが・・・。)



まず考えるべきは、そのノウハウについて、他社が権利化する可能性があるかどうかです。他社が権利化してしまえば、もはや自社はそのノウハウを実施することはできません。

コカ・コーラの製造方法のように他社が絶対に製造不能のものもありますが、たいていのノウハウについては、技術者の試行錯誤により到達できる技術レベルと思います。そうすると、他社により権利化される状況も考慮しなければなりません。

他社に権利化された場合の対策として、先使用権を主張することが考えられます。ただし、先使用権を主張するためには、特許法79条の要件事実をすべて立証する必要がありますので、常日頃から証拠を確保する活動が社内に必要となります。

そのような体制がない場合には、自社で先に特許出願して権利化してしまうという考えもあるかもしれません。

また、他社の権利化の可能性が低い場合には、ノウハウ秘匿とすることは、大いに考えられますが、その場合には、自社に営業秘密が流出しないような管理体制があることが必要となります。

具体的には、営業秘密管理規程を作成し、従業員の教育を行い、社内システムを整備する、ことなどです。

しかしながら、最近、新日鉄の方向性電磁鋼板の技術が退職者を通じて、韓国・中国へ流出したことがニュースとなりましたが、営業秘密管理をしっかりやっている会社でも、技術情報が流出してしまう場合があります。

一度情報が洩れますと、情報は無体物ですから回収することは難しいですし、拡散を止める手立てはありません。

したがって、そのようなリスクがある場合には、やはり、自社で先に特許出願して権利化してしまうという考えもあるかもしれません。

最後に、ノウハウの特許出願ですが、これは、早期審査制度を利用することをお勧めします。通常の出願ですと、出願公開されたのち、査定がなされるケースが多いと思われます。

特許査定であれば何の問題もありませんが、拒絶査定となった場合には、ノウハウが無駄に公開されてしまうことになります。(公開されたノウハウは誰でも自由に実施できます。)

早期審査制度を利用することにより、出願公開前に査定(特許、拒絶)を得ることが可能となりますので、拒絶査定となった場合でも、そのノウハウが公開されることはありません。

なお、早期審査制度の利用には、一定の要件があり、誰でも利用できるというものではありませんので、特許庁HPで確認いただければと思います。

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上の記事につきましても、表面的には弁理士のミスのようにも感じられますが、実際のところは、様々な事情を考慮しないと何とも言えないといえます。

また、ノウハウを積極的に公開することにより、市場形成に成功した例として、即席麺の事例もありますし、要は、目的があればノウハウ開示もありうるということになります。

したがって、ノウハウ秘匿は絶対であるとして、思考停止になることは避けたいと思いました。

2015年10月18日日曜日

周知技術問題について


以前このブログで、1回目の拒絶理由通知で新たな事項を組み込む補正をすると、周知技術で拒絶査定となり困っていることを記事にしたことがあります。

http://chizai-design.blogspot.jp/2015_06_07_archive.html

審査基準も新しくなりましたので、この周知技術問題(と、勝手に名付けましたが・・・)が新審査基準下で今後どう扱われるのか、考えてみたいと思います。

まず、審査基準の「第III部 第2章 第2節  進歩性」の「3.3 進歩性の判断における留意事項」には以下の記載があります。

(3)審査官は、論理付けのために引用発明として用いたり、設計変更等の根拠として用いたりする周知技術について、周知技術であるという理由だけで、論理付けができるか否かの検討(その周知技術の適用に阻害要因がないか等の検討)を省略してはならない.

ということは、周知技術で拒絶するには、論理付けもしなければならないのが原則といえますので、論理付けを明示するために、次のアクションは、再度の拒絶理由となるのが素直な考えと思います。

拒絶査定の「備考」で、無理やり論理付けをしてしまうという荒業もあるかもしれませんが・・・。これは、止めてほしいです・・・。

次に、審査基準の「第I部 第2章 第2節 先行技術調査及び新規性・進歩性等の判断」 の「2.2 調査対象を決定する際に考慮すべき事項」には以下の記載があります。

(2)審査官は、査定までの審査の効率性を踏まえて、補正により請求項に繰り入れられることが合理的に予測できる事項も調査対象として考慮に入れる。

つまり、補正により請求項に繰り入れられそうな事項についても、先行技術調査の範囲にあらかじめ組み込まれていることから、周知技術についても、最初の拒絶理由通知時に周知文献として先回り的に出願人に提示することもできるのではないでしょうか。

拒絶査定にていきなり不意打ち的に周知文献を提示するよりも、このようにしていただいた方が、出願人も対応の方針を立てやすいと思います。

以上のように、審査基準の内容は、実は結構ユーザーフレンドリーな内容となっています。あとは、この審査基準に基づいて粛々と審査がなされれば、周知技術問題も自然となくなると思います。さて、どうなるでしょうか。

2015年10月16日金曜日

特許、意匠の審査基準など

本日は、知的財産権制度説明会というものに参加してまいりました。講義の題目は「特許審査基準」と「意匠審査基準」でした。

特に、特許審査基準は2015年10月1日に改定されたばかりですので、何か新しい話が聞けるのではと思いました。

結果的には、特に目新しい話はありませんでした。しかし、これはこれでよいことです。

この手の説明会は新しい知識を仕入れるというより、自分の知識に穴がないか、認識に誤りがないかを確認する意味が大きいです。

特に、審査基準に関する認識が誤っていた場合には、大きな手続き上のミスにつながり、お客さんに回復不能な損害を与えることになります。

説明会の内容がすんなり入ってくるということは、実務上の勘が鈍っていないといえますので、しばらくは、弁理士としての仕事を無難にすることができそうです。

逆に、審査基準説明会の内容がよくわからなくなって来たら、この仕事をやめる時期が来た、すなわち引退の時期と思います。

さて、上で申し上げましたように、特許の審査基準は2015年10月1日に改定されました。

改定の考え方としては、簡潔・明瞭化、事例・裁判例の充実、英語に翻訳できる日本語を使用(今の記載では外国人に説明するのがしんどいですし)・・・、というようなコンセプトのようで、従前の780ページから、約500ページへとボリュームが減らされました。

単純な私は読む量が減ると思って喜んだのですが、ぬか喜びでした・・・。

審査基準は確かに簡略化されましたが、やはり、簡略化しにくい部分もありますので、それらは、「新・審査ハンドブック」に移動したようです(すいません、私はまだ読めていません)。

新・審査ハンドブックは、従前の140ページから2000ページ!へと大ボリュームアップされました。

したがって、今後は基本的なところは「審査基準」でおさえて、よりつっこんだところは、「審査ハンドブック」を参照して実務をこなす必要がありそうです。

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