2013年4月21日日曜日

公開の代償?としての特許権について

無料で受講できるとのことで、無料好きな私は、この4月から週1コマで某大学の知財系の講座を受講しています。

この時期の大学は新入生もいるせいか非常に活気があり、自分の学生時代を思い出したりもします。

5月に入ると真面目に講義に出席する学生も減り、雰囲気も落ち着くようですが・・・。

2回目の講義は、特許法を知らない学生が多いためか、特許法の基礎について説明がありました。

講義では質問すると加点対象となるようで、学生さんも積極的に質問しておりました。質問の中に、次のようなものがありました。

「公開の代償として特許権を付与するのに、拒絶査定となってしまった出願は公開されるだけで特許権は付与されないのだから、損なだけではないか?」

確かに、ごもっともな意見だと思いました。

出願費用が無駄になるだけではなく、公開した技術は誰でも実施できるため、 自社の技術が公開されることによる不利益は非常に大きいものとなります。

特許庁の工業所有権法逐条解説によれば、出願公開制度の趣旨としましては、出願された発明の内容が長期間公開されないことによる、企業活動の不安定化や、重複研究、重複投資、(重複出願)という弊害の除去にあるとされます。

したがって、出願公開制度は、出願人の利益を守るというよりも、公益性の高い制度といえると思います。

講師の方は学生に対して、「拒絶される出願は価値がないので問題ない」というような回答をされていましたが、これは少々乱暴かなと感じました。

拒絶理由にはいろいろあるのですが、新規性がない場合には確かに価値はあまり無いといえると思います。

しかし、進歩性がないと判断された出願については、技術的価値がまったくないとはいえません。

進歩性の判断は難しいので、審査官の判断にばらつきがあり、他の審査官が審査した場合には、特許されたかも知れません。

また、審査の厳しい時期、ゆるい時期などもありますので、時期をずらせば特許されたかもしれません。

さらに、審査でダメでも、拒絶査定不服審判や審決取消訴訟へ進むことにより、特許される場合もありますが、費用がかかりますので、あきらめてしまう会社も多いと思います。

さらに、記載要件違反や単一性違反で拒絶された場合には、技術の価値は判断されず、もっぱら明細書の書き方が悪いという理由だけで、権利化できません。

このように技術的価値がある出願についても、権利化されずただ公開されてしまうケースも多いと思われ、この場合出願人の不利益が大きくなると思います。

そこで、出願人としては、特許化されずに公開されることを防ぐことが重要となります。

そのためには、出願前に先行技術調査を行い、特許性をある程度確認してから出願を行うことや、早期審査を利用して公開前に査定を得てしまうことなどが考えられます。

大学の講義は7月まで続くのですが、どういう質問がされるかとても楽しみです。こういう本質をつく質問は大変勉強になります。

2013年3月30日土曜日

明細書の作成について

企業の方から明細書の書き方を教えて欲しいとの要望がよくあります。

弁理士に明細書作成の依頼をすると、数十万円の費用が発生しますので、社内で作成できれば経費の節約になるような気もします。

では、私が明細書の書き方を教えられるかというと、形式的なことは教えられますが、短時間で教えることはちょっとむずかしいです。

特許事務所で明細書を書いている人は、特許事務所に入所して、先輩の指導のもと時間をかけて明細書の書き方をマスターして行きます。

明細書作成には、形式知のみならず暗黙知的な知識も必要ですので、書き方をマスターするには自分なりに試行錯誤する時間がどうしても必要です。

では、 企業の方が明細書作成の知識を得ることが無駄かというと、そういうわけでもありません。

しっかりした明細書を完成させるためには、弁理士に適宜内容の指示を出してゆく必要がありますが、明細書作成の知識がある程度ないと、的確な指示を出すことができません。

企業の方が明細書の書き方をマスターする一番確かな方法は、実際に明細書を書いてみることだと思います。

ただし最初のうちは弁理士に修正をお願いして出願をしてもらった方がいいと思います。月1件、5年くらい出願を行えば、一人で明細書をかけるレベルになるのではないでしょうか。

社内にこういう方を一人育成してゆくことも、今後は必要かもしれません。

2013年3月10日日曜日

特許保険について

先日、ある会社の方から特許保険について質問されたのですが、恥ずかしいことに特許保険の存在自体を知りませんでした。そこで備忘録的に調べてみました。

特許保険は、AIU保険会社の法人向け商品のようで、以下のような内容の商品です。

AIUの特許等知的財産権特約は、貴社のサービスや商品が、第三者の知的財産権を侵害しているとして、損害賠償請求(注1)を受けた結果、貴社が負担する法律上の損害賠償金・争訟費用(注2)を支払限度額1,000万円まで補償します。

(参考URL) http://www.aiu.co.jp/business/product/liability/kojin_joho/ippan/patent.htm

また、本商品についての分析が以下のHPでされています。

知財保険の研究(⽇本弁理⼠会近畿⽀部 知的財産制度検討委員会)

(参考URL) http://www.kjpaa.jp/public/pu_01studies/pdf/2012kenkyuu.pdf

支払い限度額1000万円ということで、今は試験的に提供している保険のようです。今後本保険にニーズがあれば、支払い限度額も大きくなり、使い勝手もよくなると思います。

では、このような特許保険は有効なのでしょうか。

今後支払限度額が大きくなれば損害賠償金を補填する意味で有効とは思います。

ただし、特許訴訟では、損害賠償よりも、差し止めにより将来得られるべき利益が失われることによるダメージの方が大きい場合もあります。

将来得られるべき利益の金額については、当然補償の対象とはなりませんので、特許保険の効果は限定的かと思います。

したがって、保険があるから安心、というのではなく、基本に忠実に特許調査をしっかり行って侵害を回避する努力を行い、補完的に特許保険を利用することがよいと思います。

2013年2月14日木曜日

『企業力アップのための知財セミナー』のご案内

神奈川県内の企業様向け
『企業力アップのための知財セミナー』のご案内
~知的財産の戦略的活用をデザインします~

■日 時 : 平成25年3月13日(水) 19:00~20:30
(受付開始18:30)

■会 場 : かながわ県民活動サポートセンター会議室403号室

■セミナー内容
(1)中小企業の知財管理について
(担当講師:川上)19:00~19:40
講師からのコメント
 近年知財の重要性が叫ばれ、知財を軸にした経営戦略が様々提案されております。しかし ながら、それらの多くは大企業向けのものであり、中小企業で適切な知財管理を行うことは 難しいといえます。そこで今回は、中小企業の経営から見た知財の必要性について考えたいと思います。そして、知財を有効に活用するための知財管理の方法をご紹介します。

(2)優先権を使った海外への知財活動の展開
(担当講師:高木)19:50~20:30
講師からのコメント
 マーケットとして,生産拠点として,調達先として等、ビジネスを諸外国で展開することが益々盛んになっております。日本で権利を取得しているから大丈 夫!その考え方は間違っています。知財活動も海外へ展開しなければ安心とは言えません。本セミナーは、国内での知財活動を基礎として優先権を使った海外へ の知財活動の展開について説明します。

■受付期間:平成25年2月13日~(定員20名様になり次第締め切らせて頂きます)

■受講料:1,000円(当日受付にてお支払下さい、領収書をお渡しします)

■会場アクセス:かながわ県民活動サポートセンター会議室403号室
(神奈川鶴屋町2-24-2 : 横浜駅より徒歩5分です)

■講師のご紹介
川上 成年(弁理士)
日本電気株式会社で半導体関連の製造装置の設計・製造業務に関わる。弁理士試験合格後、特許事務所で特許出願実務に関わる。2011年に中小企業の知財戦略を支援するための会社、㈱知財デザインを設立。現在、㈱知財デザイン代表取締役。㈱知財デザイン ホームページ http://www.ip-design.co.jp/

高木康志(弁理士)
京浜工業地域にある化学薬品メーカーの技術開発職を経て、現在、高木特許事務所の所長に至る。『企業技術開発職』と『事務所弁理士職』の両方の経験を活か した知的財産専門家としてのサービスを提供することを理念とする。昨年度、担当企業が特許庁長官表彰知財功労賞を受賞された。高木特許事務所ホームページ  http://takagi-pat.com/

■セミナーのお問い合わせ(セミナー事務局)
高木特許事務所 担当:高木 までご連絡ください。
Tel:045-651-4008 / E-Mail:office@takagi-pat.com

■セミナーのお申し込みはセミナー申し込みページからお願いいたします。


よろしくお願いいたします。
 

2013年2月13日水曜日

イノベーションを防ぐ方法について

近年、イノベーションの重要性がいろいろなところでいわれております。イノベーティブな製品は市場をあっという間に席巻し、旧来の製品を駆逐してゆきます。

日本企業もイノベーションを起こすことが求められていますが、大企業ともなれば経営者や従業員の官僚化や保守化が進みますので、イノベーションを起こすアイデアもなかなか生まれて来にくいのが実情です。

ただし、イノベーションが起きなければ、既存の市場の中で大企業も強みを発揮し続けることができるともいえます。したがって、少々後ろ向きではありますが、大企業としてはイノベーションの目を潰す戦術も有効と思います。

イノべーションを妨害する方法はいろいろあると思いますが、高い参入障壁を築く方法、例えば、技術標準(規格)を利用する方法などがあると思います。

特定の技術分野において技術標準が定められれば、それに反する製品を製造することはできませんので、新製品誕生の芽を積むことができます。

なおかつ、技術標準の内容を高い技術レベルに設定出来れば、新規参入してくる企業もおいそれとは現れないでしょう。例えば、自動車であれば、環境規格や安全規格を高い数値とすれば、高い参入障壁となると思います。

このように高い参入障壁を築くことによって、イノベーションの起きにくい市場を形成することが可能となりますが、これをやり過ぎるといわゆるガラパゴス化した市場となりますので、ある程度はイノベーションが生じるしくみを取り入れたほうがよいとは思います。

また、高い参入障壁は諸刃の剣となる可能性もあります。ホンダが小型ジェットに参入したのも、高い参入障壁を突破出来れば、その後のライバルは、ビーチやセスナなどの自動車ほどの競争が熾烈でない企業となりますので充分に勝てると考えたからです。

ということで、イノベーションを起こすだけでなく、イノベーションを邪魔する戦略も考えてみてはいかがでしょうか。
 

2013年1月25日金曜日

変化できるものが生き残る?

強いものが生き残るのではない。変化するものが生き残る、という有名な名言があります。ダーウィンの言葉と言われてますが、実際には言った事実は無いようです。

よくこの言葉を引用して、日本の企業は変化しないからダメなのだとか言われたりします。生き残るには変化しなければいけないな、と思ったりもします。

しかし、本当に変化することがよいことなのでしょうか?

この言葉をさらに正確にいえば、変化する生物は「大部分は死滅するが、ごく稀に」生き残る、となると思います。

なぜなら、変化が環境に適合できるかどうかは、偶然に頼るしかないからです。ただし、生き残った生物は、環境に最高度に適合し、既存の生物を淘汰してゆくでしょう。

そう考えると日本企業が変化しない理由もわかります。それは変化すると会社が潰れるリスクが高まるからです。

日本では会社が潰れると、社長は会社の債務の連帯保証人となっていたり、従業員も年金、退職金が減額され、個人の生活に大きな影響がありますので、何としても避けなければなりません。

一方、アメリカなどでは会社を潰すことに対する抵抗感は日本ほどありませんので、どんどん変化して、潰れる会社は多くとも、一部の環境に適合した強力な会社が誕生しやすいともいえます。

ということで、変化できるものが生き残るのは確かですが、それは、多くの生き残れないものの上になりたつ考えであることを冷静に考えて欲しいと思います。

2013年1月6日日曜日

液晶テレビについて

年末年始を利用して小旅行に行って参りました。といっても、お金の節約のため、泊まるホテルは安宿ばかりでした。安いホテルに泊まってまず感じたことは、液晶テレビの性能が低いことでした。


スピーカーの性能が低いのか、ボリュームを大きくしても声がよく聞き取れません。また、処理速度が遅く、番組表の表示やチャンネルの切替に微妙に時間がかかり、とてもいらいらしました。

これらの液晶テレビは当然日本製ではなく、メーカーもよく知らないテレビでした。なぜこのようなテレビがホテルに据え付けられることになるかというと、単に安いからです。

これは日本のホテルに限らず、安い液晶テレビは全世界的に受け入れられており、高性能の日本の液晶テレビが苦境に立っているのはご存知のことと思います。

思えば、日本のものづくりはひたすら高性能化を図る技術開発が行われてきました。それにより、1990年前後には日本の製造業は世界を席巻するレベルに達しました。

この成功体験をひきずって、今でも技術力重視の製品開発が行われていると思います(私は、製造現場から離れて10年立ちますので、この部分は私の推測です。間違っていたらすいません。)


しかしながら、技術力を考える場合には、もうひとつ世の中のニーズとのマッチングを考える必要があると思います。


図のように、企業の開発活動により技術力は急激に高まりますが、世の中のニーズは、ゆるやかに高まりますので、ある時点で需要者が技術力の向上のありがたさを感じにくくなります。

日本でいえば、電気製品や自動車の性能向上は、1990年くらいまでは非常に意味があるものでしたが、それ以降は、高性能は逆にコスト増大要因となり、結局安く製造できる、新興国の製品がありがたがれることになりました(いわゆる、イノベーションのジレンマ)。

したがって、日本の製造業が復活するには、少々やり方を変える必要があると思います。

例えば、世の中のニーズを満たすほどに技術が進化していない他の分野へ進出するとか、技術力が十分な分野については、ニーズを満たす範囲で性能を落とし、コストを低減した製品を販売するなどです。

安いホテルの安い液晶テレビも1晩テレビを見る分には我慢ができるレベルと思いますので、こういう割り切りも必要なのかと思います。真面目に開発に取り組んでいる技術者の方には面白くないかもしれませんが・・・。

2013年1月2日水曜日

謹賀新年

あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願い致します。



写真は、伊是名島の場外飛行場です。空高く離陸できる年としたいものです。


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