2012年3月7日水曜日

参入促進のための知財について

特許権をとる意味としては他社に対する参入障壁を築くことがあります。

これは、自社技術について独占排他権である特許権を多数取得して特許網を築くことにより、他社が自社事業に侵入することを防止し、事業を独占するという考えです。

大企業の場合には多数の特許出願を行うことができるため、特許権による参入障壁を築くことが知財戦略の基本となります。

一方、中小企業の場合には、多数の特許出願を行うことができないため、完全な参入障壁を築くことはできません。したがって、特許出願をしても無駄になることが多く、特許出願の意義について疑問をもつ企業も多いのではないでしょうか。

しかしながら、特許権というものは参入障壁という機能を持つだけではなく、参入促進という機能も持つことにも留意が必要です。参入促進機能としては以下のようなものがあるかと思います。

1つ目は、他社から権利行使されにくくなることです。中小企業が新規事業に参入する場合には、既にその事業領域に存在する企業から特許権の行使等の妨害を受けることとなります。

その場合、必須特許を1、2個持っていれば、 他社から権利行使される可能性が低くなります。なぜなら、こちらには必須特許があるので、訴えられたら訴え返せばよいからです。訴訟合戦を防ぐためにも相手は権利行使に慎重になるでしょう。

2つ目は、アライアンスの目安となることです。大企業は常に特許情報に目を光らせてますので、特許出願を行うことにより、自社の技術が大企業の目に留まる可能性があります。技術の補完効果が高ければ大企業とのアライアンスにより、その技術分野に参入することができます。

3つ目は、銀行から融資を受けやすくなることです。必須特許をいくつか保有していれば、会社の技術力の証明になりますし、事業が成功する可能性も高まりますので銀行から融資を受けやすくなります。資金力があれば新規参入も容易になるでしょう。

このように、中小企業の場合には、特許権の参入促進機能が今後は重要となると思います。

また、中小企業の特許戦略は、ただ特許出願を沢山だすのではなく、必須特許に絞って、効果的に出願を行うことが重要と思いますので、特許戦略を立てる場合には参考にしていただければと思います。

2012年3月4日日曜日

知財コンサルティングについて

最近、知財コンサルティングという言葉をよく聞きます。知財コンサルティングとは、知財によって顧客の課題を解決することをいいます。

知財コンサルティングの背景としては、特許出願の数が企業の競争力強化に必ずしもつながっていないことや、特許出願件数が減少し特許出願以外の業務を開発する必要がある弁理士側の事情などがあります。

知財コンサルティングの手法については開発途上であり、確固たるコンサルティングスタイルはありません。現状の知財コンサルティングは以下の2つのスタイルがあると思います。

一つ目は、一般的な経営コンサルティングを主体とする方法です。これは、財務分析、SWOT、3C、4P、バランストスコアカード、バリューチェインなど既存の経営コンサルのフレームワークを使用して行うコンサルティングです。

この手法の場合には、知財が考慮される部分が少なく、知財コンサルティングではなく、ただの経営コンサルティングとなる場合があります。

経営コンサルティングの結果に基づいて、特許出願をしましょう、知財教育をしましょう、となりますので、経営上の課題と、解決手段としての知財と、の結びつきのロジックが弱くなります。

二つ目は、コンテンツコンサルティングです。これは、特許出願しましょう、知財教育をしましょう、とひたすら顧客に提案する手法です。

この手法は顧客の課題を解決するものではなく、解決手段を顧客に提示するのみでありますので、顧客が課題を認識していない場合には効果がありません。

このように、解決手段としての知財権の取得につながる、実践的な課題分析手法がない、ことが現状の知財コンサルティングの課題ということができると思います。

この課題を解決するための一つの方法としては、特許情報を活用することがあると思います。特許情報には様々な情報が含まれていますので、これを利用して経営分析を行えば、経営と知財権との関係が明らかになるのではないでしょうか。

例えば、特許情報を3C分析に適用する場合を考えれば、「市場(customer)」については、特許情報のマクロ分析により技術動向を分析することが可能です。「競合(competitor)」、「自社(company)」については、出願人ごとの出願件数や技術動向を分析することが可能です。

さらに、特許解析ソフト(マップソフト)を使用すれば、技術内容の対比や、時系列変化を自動的にPCで処理したアウトプットを容易に得ることが可能です。

このように既存の手法をアレンジすれば簡単にアイデアが出ると思いますので、特許情報を活用した知財コンサルティング手法をいろいろ開発してみてはいかがでしょうか。

2012年2月23日木曜日

売れる特許明細書の書き方について

特許を出願する場合には特許明細書を作成する必要があることはご存知と思います。特許明細書の作成には技術的な側面と法律的な側面があります。

技術的な側面としましては、明細書を読んだ当業者が発明を実施できる程度に記載しなければなりません。また、法律的な側面としましては、新規性、進歩性等を満たすよう明細書を記載しなければなりません。

大企業の明細書の場合には、上記の2つの側面以外に、不必要な記載はできるだけ削除し、より抽象的な表現を使うなどの点に気が使われます。

これは、不必要な記載はノウハウが漏れるおそれがあるためで、抽象的な表現が使われるのは発明が限定的に解釈されることを防止するためです。

したがって、大企業の明細書を読んでも記載が最小限であり抽象的であることから、第三者が読んでも技術がよくわからない場合があります。

それでは中小企業や大学の場合、明細書の書き方は大企業と同じで良いのでしょうか?

大企業は特許発明を自社で実施することが多いのに対し、中小企業や大学は、アライアンスやライセンスなどにより他社に使ってもらいたい技術が多いと思います。

その場合には、何よりターゲットとする企業に注目してもらえる明細書に仕上げることが重要と思います。簡単にいえば特許明細書を宣伝に使用するという考えです。

それでは、宣伝効果のある特許明細書の記載について考えてみましょう。

まず、【発明の名称】ですが、具体的な製品を想起できる名称がいいでしょう。例えば、「画像形成装置」とするより、「省エネ型プリンタ」としたほうがわかりやすいと思います。

【先行技術文献】については、ターゲットとする会社の出願を特許文献として上げることがいいと思います。これは、ターゲット企業による特許検索に引っかかりやすくなる効果と、ターゲット企業の課題を解決できる技術として売り込める効果があるからです。

【発明の効果】については、技術的効果のみならず経済的効果を含めることができれば売りやすいと思います。

【発明を実施するための形態】については、ターゲット企業がよく使用する技術用語(キーワード)を散りばめて、ターゲット企業による特許検索に引っかかりやすくすることが好ましいです。

技術用語というのは会社ごとの方言(歯車とギア、光ファイバと光学ファイバなど)がありますので、ターゲット企業の明細書によく使用されている用語を使用することによりターゲット企業の技術者が見てくれる可能性が高まります。

【実施例】については、ターゲット企業の装置に適用する手法や、適用した場合の効果を、あたかもカタログや取説の用に記載すれば、技術者にとっては実際のイメージがわきやすいと思います。

このように、余分な記載が増えますので少々邪道ともいえますが、ポイントとしてはターゲット企業の特許検索に引っかかりやすい記載とすることと、技術者の方が読んですぐ理解できる記載とすることと思います。

ライセンスやアライアンスを考えている方は明細書を使う宣伝を試みてみてはいかがでしょうか。

2012年2月20日月曜日

中小企業と大企業について

世の中には様々な会社がありますが、大雑把に分ければ大企業と中小企業に分けられます。

中小企業の数の割合は97%くらいですので、数でいえばほとんど中小企業ということになります。しかしながら、売上の規模でいえば67%が大企業(製造業)を占めておりますので、 力の差は歴然と思います。

しかし、大企業に関しましてはあまり景気の良いニュースを最近聞きません。一部商社などは利益を上げているようですが、製造業(特に電機関係)につきましては、大きな赤字を出している企業も多いようです。

高度成長期においては大企業は大きな利益を上げてきました。これは、ニーズがはっきりしており、そのニーズを満たすために組織をあげてリソースをどんどん投入してゆけば、それなりに利益を挙げられたからと思います。つまり、大企業であることの規模のメリットが活かせた時代だったと思います。

しかしながら、成熟化した世の中では明確なニーズが存在しません。したがって、経営戦略をどんどん変化させてニーズを追いかける必要がありますが、これができないため大企業は苦戦しているのだと思います。

変化できない理由の1つとして、大企業は人件費、製造設備等、固定費が多いため、容易に製造品目を変更することができないことがあると思います。

例えば、樹脂製のトイレが、その施工の容易さや軽量さによりにシェアを拡大しておりますが、ライバル企業が参入できるかというとそうでもありません。

これは、従来の陶器製トイレは焼き物であるため、寸法の収縮や割れを防止するために、高度な製造工程を有しており、これが強みでもあるのですが、樹脂製のトイレに参入した場合にはこれら製造設備や職人さんが不要になってしまうからです。

さらに、2つめの理由として、大企業は固定費の大きさから、参入できる分野は大きな利益を挙げられる分野に限られることがあると思います。

最近のニュースで、日本の電機メーカはなぜルンバをつくれなかったか、というニュースがありましたが、それは当たり前のことで、ロボット掃除機というニッチな分野に大企業が参入しても採算があわないのは明白でしょう。

また、3つめの理由として、会社の意思決定を行うためには、社内政治等にエネルギーを割く必要もあり、迅速な意思決定はなかなかできないことがあると思います。

一方、中小企業では、これら大企業のデメリットがないというのが、強みと思います。中小企業であればニッチな分野に進出することも可能ですし、社長がトップダウンで意思決定をすれば、迅速な対応も可能と思います。

したがって、世の中が低成長、成熟化してゆく中で、今後は大企業が淘汰される一方で、どんどん伸びてゆく中小企業が増えてゆくのではないでしょうか。

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