2015年12月17日木曜日

会社の終わりについて

先日、出願費用の支払いをいただいていない会社へ確認の電話をしたところ、この電話は使われておりません、とのアナウンスがあり、それではと、会社を訪ねたところ、もぬけの殻となっていました。

仕事がら様々な会社とお付き合いがありますが、会社の終わる瞬間に出くわすことが、(辛いですが)あります。

会社がうまくゆくかどうかは、わからない部分もありますので、仕方がないとも言えます。しかし、終わり方には注意が必要と思います。

会社がつぶれましても、人間の人生はその後も続きますので、終わり方がよろしくないと、再起ができず、残りの人生が苦しいものとなります。

とはいっても、特別なことはする必要はなく、弁護士に頼んで法的に粛々と会社を清算すればよいと思います。雲隠れは印象がよくありません。

私の記憶に残っている方は、会社が倒産した際にも、個別に連絡いただき、売掛金となっている特許の調査費用をわざわざ支払っていただいた方です。このときは、本当に申し訳ない気持ちになりました。

また、こういうケースで感じますのが、自分が無力であることです。こうなる前に、もう少し何らかのアドバイスができなかったのかと思います。

私が、農工大MOTへ入学したのも、特許出願だけではなく、中小企業に対してもう少し経営よりの加勢をしたいと思ったからなのですが、まだまだ修行不足のようです。

また、起業を志す方には、こういう厳しい状況になることがあると知っていただきたいです。そうすると思い付きで起業するのではなく、知識面、金銭面、人材面で充実を図れる状況で起業していただきたいです。

会社を作りますと、ビジネスアイデアだけではどうにもならず(アイデアは重要ではあるのですが・・・)、マーケティングや、財務、法務、知財、税務等の様々な問題が生じ、一人の力で解決するのはとても無理です。

したがって、それらについてアドバイスを(安く)受けられる人を探しておくことも必要と思います。 そして、最悪のケースとして会社が倒産したらどうするか考えておくことも必要かと思います。

2015年12月12日土曜日

外部環境を変えることについて


前回の記事では標準化戦略の要諦として

一. 自社と他社の実施領域を切り離す
一. 他社を多数呼び込んで競争させる

としました。

http://chizai-design.blogspot.jp/2015/12/blog-post_5.html

これは、簡単にいえば、自社は(できるだけ)競争しない、他社には競争してもらう、という考えと思います。

競争戦略とは競争しない戦略である、とはよくいいますが、日本人的な考えとしては、少々卑怯な考えとも思います。

特に、企業のトップにおられる方は、小さいころからの受験戦争や会社での出世競争を勝ち抜いてきた方なので、競争に勝ち抜くことが正しいという考えにもなってしまうかもしれません。

とはいえ、競争に勝ち抜くには、自分が変化するのではなく、外部環境を変えるという手段もあると思います。要は、自己が変わるのではなく、自己が有利になるように、周囲の環境を変えてしまう考えです。

外部環境を有利に変えるには、国であれば条約や法律、個人であれば各種契約、企業であれば、契約、知財、標準などの内容を、自分に有利な内容とすることになります。

例えば、お医者さんが儲かるのは、お医者さんは努力しているとは思いますが、国の方針で医者の数を制限している政策となっていることが大きいと思います。つまり医者に有利な外部環境ができているといえます。

企業が外部環境を能動的に変える手段としては、知財や標準があるということになります。自社の事業領域に自社知財をちりばめることにより、他社のビジネスを阻害し、自社が有利に動ける環境が出来上がります。

また、自社に有利な標準を定めることにより、他社の技術的長所を無力化し、自社に有利な環境が出来上がります。

この自分を変えるのではなく、周りを変える、というのは、なんとなく納得できない考えとも思いますが、どうやったら自分が有利になるか考えてみるのも面白いと思います。

2015年12月5日土曜日

標準化戦略など


以前、このブログで中小企業のオープン/クローズ戦略を誰か作ってくれないか、と書いたことがあります。

http://chizai-design.blogspot.jp/2015/08/blog-post_19.html

この間、弁理士会の研修にでましたら、中小企業の標準化戦略がテーマとなっており、そこで中小企業向けの標準化として、性能試験標準というものが紹介されていました。やはり頭の良い方はいるものです。

性能試験標準とは、自社技術を評価する試験方法や評価方法を標準化することをいいます。自社技術自体を標準化するものではありませんので、自社技術を秘匿できるというメリットがあります。

この性能試験標準をもって、標準化戦略が一通り出そろったと思いますので、まとめみました。
 
①オープン化パターン

・製品の実施に必要な特許(いわゆる必須特許)をすべて含む形で標準化します。
・自社で必須特許を多数確保し、必須特許からのライセンス収入を得ることで収益を得ます。

②オープン/クローズ化パターン

・自社技術をオープン領域とクローズ領域とに分け、オープン領域を自社特許を含む形で標準化します
・オープン領域の自社特許は無料で開放します。これにより、オープン領域への他社の参入を促進し、技術の普及と市場拡大を図ります。
・クローズ領域については、自社で独占実施することにより収益を得ます。

③クローズ化パターン

・自社技術をノウハウとしてクローズ化し、自社技術を評価する試験方法や評価方法を標準化します。
・クローズ領域については、自社で独占実施することにより、収益を得ます。

上記説明では、オープン/クローズ、標準、特許、ノウハウの関係がよくわからないと思いますので、フレームワークにまとめてみました。(図がはみ出していると思いますが。すいません。)
 


オレンジで塗りつぶした部分が、 各領域に存在する要素です。白抜きは各領域に存在しない要素です。

こう見てみますと、各パターンの特徴が見えてきます。

①のオープン化パターンは、オープン領域にすべての要素が集結しています。

自社特許と他社特許を合わせてパテントプールをつくりますので、自社の虎の子特許が二束三文(RAND条件)で、他社に使用されてしまいます。

また、自社実施と他社実施が重複しておりますので、結局のところ価格競争が発生し、あまり儲かりません(当該技術は標準化に伴う低価格化により普及しますが・・・。)

そうしますと、標準化したのに自社のシェアが下がって儲からない、という最悪のパターンも考えられます。

そう考えますと、このオープン化パターンは今後は流行らないかもしれません。

②のオープン/クローズ化パターンは、自社実施領域と他社実施領域が分かれている点で優れていると思います。

オープン領域に多数の会社を呼び込んで価格競争させ全体のコストを下げ、自社のみがクローズ領域を実施することにより、自社の利益を確保できます。パソコンが安くなり、一気に普及したのもこの戦略パターンのおかげかと思います。

とはいえ、オープン領域とクローズ領域を自社に有利にコントロールするのが難しそうであります。また、クローズ領域の自社技術レベルが圧倒的(インテルのMPUなど)でないと、他社がわざわさオープン領域に入ってくることもないと思われます。

そう考えますと、このオープン/クローズ化パターンは理想的ではありますが、実行できるのは一握りの企業となるかと思います。

③のクローズ化パターンは、他社を呼び込むためのオープン領域がありませんので、うまくやらないと、標準は作ってみたが、実施しているのは自社のみという寂しい状況になることが考えられます。

そう考えますと、上記パターンに共通する標準化戦略の要諦としては

一. 自社と他社の実施領域を切り離す

一. 他社を多数呼び込んで競争させる

の2点になるかと思います。 そしてこれを実現する手段として、知財や標準を組み合わせて使うということになるかと思います。


2015年11月27日金曜日

研修修了について

先日、弁理士キャラバンの支援員になりました。

9月の研修が終わった後、なぜかやる気が低下し、まあ別に支援員にならなくてもよいかと思うようになりましたが、せっかく研修もすべて出席しましたので、費やした時間がもったいないと思い、11月に条件を満たすべく、コンサルを行い、何とか、支援員となったようです。

なったようです、というのは、履修を終了しても、辞令のようなものもありませんし、登録番号のようなものもありませんので、はたして、自分が支援員になっているのかよくわからないからです。弁理士会から履修証書が1枚送られてきたのみです。

googleで「履修支援員」を検索しますと、まったくHITしませんので、実際に支援員になった人は少ないのかと思いますし、実際に中小企業でコンサルしている人も少ないと推測します。

さて、支援員となった以上は、これからはキャラバンの仕事をやりたいと思いますが、はたしてできるか不安もあります。

コンサルを実際に行って感じたのは、結構工数がかかるということです。想定される工数内で作業を行うことは、現状では、ほぼ無理です。手を抜けばなんとかなるかもしれませんが、それでは、仕事として意味がありませんので、難しいところです。

いくつかコンサルの仕事をして、経験値を上げ、仕事を効率化できれば、なんとかなるかもしれません。 まあ、仕事の依頼があればの話となりますが・・・。

2015年11月23日月曜日

新しい考えを理解してもらうことについて

先日、ある大学院生の方の研究の進捗の説明会に参加してまいりました。大学院生の方が自分の研究について説明してくれるのですが、ほとんど理解できませんでした。

なんでこのようなことになるかと考えましたが、私の頭が悪いのもありますが、自分の構築した新しい理論のみが説明されていたためかとも思いました。

新規の理論は世の中のいろいろな評価を経ていませんし、そもそも従来にない考え方ですので、論理が正しいのか、いちいちチェックする必要があります。

とはいえ、その場で論理をリアルタイムでいちいち確認するというのは、凡人には無理ですので、話しているそばから理解不能となり、最後までわからないということになると思います。

こういう事態を防ぐには、従来の理論を織り交ぜて、従来理論との相違点を説明することが有効と思います。

従来研究は世間の評価を経ておりますので、論理的妥当性はまあまあ確認されていますし、従来研究については、あらかじめ時間をかけて読み込むこともできますので、凡人でも理解できています。

あとは、従来研究に関連付けて新規の部分を説明すれば、万人にわかりやすいと思います。 (特許明細書もこのような構成になっています。)

そうすると、従来研究の説明9割、新規部分の説明1割くらいで説明すれば、いいのではないかと思います。

しかし、新規の部分が少ないと研究としてはどうかと思いますので、聞く人の能力に応じて8:2とか7:3に調節することになるかと思います。 

そう考えますと、新しいことを人に理解してもらうということは、非常に大変であることがわかります。

例えば、掃除機を開発する場合、吸引力を5%改善した掃除機というのは実現し易いと思います。

なぜなら、この程度の改善でしたら、メカニズムのほとんどは、従来の掃除機と同等ですので、経営陣にも理解しやすいですし、開発のGOサインが出やすいと思います。

また、ユーザーも同様に機能が想像しやすいので、買ってみようという気持ちになると思います。

ところが、ロボット掃除機となると、今では普及していますが、出た当時としては会社の人も、ユーザーも機能や構造を理解できませんので、開発のGOサインはでないでしょうし、たとえ販売しても誰も買う人はいないと思われます。

そう考えますと、日本の技術は改良が多いといわれますが、これは日本人に創造性がないのではなく、新しいものは関係者の理解・説得が難しく、実現しにくい事情があると思います。

ということで、従来にない新しい考えを理解してもらうのは、なかなか難しく、実現はさらに難しいという話でした。

2015年11月17日火曜日

周知技術問題について(最終回)


以前何回かこのブログで、1回目の拒絶理由通知で新たな事項を組み込む補正をすると、周知技術で拒絶査定となり困っていることを記事にしたことがあります。

http://chizai-design.blogspot.jp/2015/10/blog-post_18.html

結局、全件拒絶査定不服審判を請求して、何とか全件特許査定となりました。

本屋で、「拒絶理由通知との対話」というような題名の本を見かけたことがあります。(読んではいません。)

私もこのような感じで、拒絶理由は審査官からのメッセージと捉えて、拒絶理由通知を事細かに分析して対応することが正しいという考えで仕事を進めてきました。

しかし今回の件で、この考えにはリスクがあることがわかりました。

要は、拒絶理由通知には記載も示唆もされていない、審査官の考えのようなものがあるということです。

また、一発で拒絶査定ということは、審査官側には、出願人とコミュニケーションをとる意欲もあまりないといえるかと思います。

したがって、今後は拒絶理由通知の分析だけではなく、例えば、面接なども駆使して、審査官の意図を探って行こうと思います。

拒絶理由通知に際し、全件面接を義務付けている企業もあるようですが、 無用な審判請求を避けるためには確実な方法かもしれません。

今回は、審判請求により権利化できましたが、出願人が審判請求の意思を示さなければ権利化できず、資金を投入した開発の成果を他社にただで提供するような、ひどい状況となるところでした。

2015年11月15日日曜日

言葉の使い方などについて

最近は少なくなりましたが、駅前で楽器を演奏して歌っている人がいます。こういうのを聞くととても迷惑な気分になることが多いです。

それはなぜかと考えましたら、駅前で歌うような素人の作る曲というのは、自己顕示欲を満たすためのものが多く、歌詞なども自分の感情を押し出すのみであり、聞く人のことを考えていないからと思います。

多くの人は他人に興味はありませんので、通勤通学途中に、無理やり聞かされても迷惑というわけです。

そう考えますと、プロのつくる音楽というものは、自分の考えを押し出すというよりは、聞く人の感情を引き出すような仕掛けがされていると思います。

聞く人の記憶につながるような言葉を選んで歌詞として構成し、聞く人の感情を引き出すことにより、自分の曲として聞けるようになり、それでCDを買おうという行動につながると思います。

もちろんそういう歌詞を書くためには、詞の勉強も必要ですし、生きた言葉とするにはそれなりの苦労をした人生経験も必要かと思います。

・・・

特許の仕事も言葉を使って明細書という文章を作るという点で、言葉を使用する仕事といえます。

明細書作成は国語的というよりは、機械設計、回路設計、プログラミングのような世界に近いです。論理に基づいて言葉を組み立ててゆくのみです。

そんな特許の世界ですが、感情を引き出そうと努力する場面があります。

それは、審査・審判・訴訟の段階において、審査官・審判官・裁判官に、発明の進歩性を主張する場面です。

少々まずいのは、自分は進歩性があると思う、とか、特許すべきとか、一方的に自分の感情を審査官にストレートにぶつけてしまうケースです。

しかし、これでは、審査官の心証は動きませんので、ほとんど意味はないと思います。そうすると、、審査官の感情を引き出して共感を得て、進歩性を認めさせる必要があります

たまに見かけるのが 、審査官の悪い感情を引き出す言葉の使用です。

例えば、「審査官殿の認定は片腹痛い」、「笑止千万」、「技術がわかっていない」、「愚かである」・・・、等、読んでいるだけで怒りが生じる言葉です。

もちろん、 審査官が怒れば、非論理的になり、進歩性否定のロジックに穴があけられるという高等戦術もあると思いますが、たいていは、良い結果につながらないと思います。

できれば、審査官の良い感情を引き出したいところですが、 ポイントは「意外感」となると思います。

これまたまずいのが、法律論のみで攻めることです。例えば、組み合わせの動議づけや、阻害要因などを一生懸命論じることです。

しかし、審査官も、そのあたりの検討は十分にやっていますので、声高に主張しても意外感がなく、あまり効果的ではありません。

そこで、意外感を演出するには、技術論に持ち込むことが効果的と思います。

審査官は技術開発を実際にしているわけではありませんので、技術開発の細かい点まで検討できているわけでもありません。そこで、技術論に持ち込めば意外性が出てきます。

例えば、技術的な背景、技術の詳細、発明をなすことが困難であった技術的理由、などです。そして、技術論を法律論に変換することにより、進歩性があるとの心証を得ることができるかと思います。

もちろん、技術論で攻めるにしても、うわべだけの言葉では死んだ言葉となってしまいますので、その技術分野の深い知識や、開発に苦労した経験に基づく、生きた言葉にしなければなりません。

そうすると、企業での開発経験がある弁理士に文書作成を依頼したり、発明者の生の言葉をつかって反論したりすることが有効となります。

・・・

ということで、音楽にせよ特許にせよ、仕事として言葉を使うには、たゆまぬ勉強と血肉となる経験が必要ということになるかと思います。

2015年11月3日火曜日

文化の日について

本日は文化の日ということで、近くの小学校にて文化祭が開かれていました。そこに集まる子供たちを見ていると、自分もこのころが一番楽しかったと感じます。

その理由としては、小学校には男女がいて、勉強ができる・できない、運動が得意・不得意と、いろいろな人がいて、いろいろな価値観の中で、特定の価値観に固定されずに過ごせたからと思います。

しかしながら、成長とともに属する集団の価値観が狭まってきたように感じます。

中学では都内の男子校に入ったため、男の(まあまあ)賢い集団に属することになりました。価値観としては、男女→男のみ、勉強ができるできない→勉強が(まあまあ)できると、一気に1/4の大きさとなったため、かなり息苦しかった覚えがあります。

大学ではさらに理系単科大学に入ったため、理系・文系→理系のみと、さらに1/2の集団となり、昔からの1/8の狭い価値観のなかで研究生活を送り、その後、メーカに入りましたが、そこも大学と似たような感じでした。

こういう狭い考えの世界というのは、適応できる人にとっては天国のような環境ですが、そうでない人は、なかなか苦しい環境となります。

・・・

近年、商品開発に際し、デザイン思考という考えが広まっています。デザイン思考の方法論としては、 (1)ユーザー視点、(2)多様な選択肢と統合、(3)視覚化、が重要なステップとなります。

このうち、(2)多様な選択肢と統合に際しては、多人数によるブレーンストーミングを行い、選択肢を増やすことが推奨されます。

ただし、ブレーンストーミングに参加するメンバーによって、その効果が異なります。メンバーの同質性が高い場合には、アイデアの質は向上しますが、ブレークスルーに結びつくアイデアはほとんどでません。

一方、多様なメンバーによってブレインストーミングをすれば、アイデアの質は低下しますが、たまにブレークスルーに結びつくアイデアが出やすくなります。

したがって、既存の技術の改善を目的とする場合には、同質性の高いメンバーでブレインストーミングを行うことが有効ですが、何か新しいことをやりたい場合には、多様性のあるメンバーで行う必要があります。

そう考えますと、日本のメーカーの開発部門には、理系の勉強のまあできる男子が集まっていることから、同質性が高く、技術の改良には向いていますが、突飛もないアイデアというものは出にくい状況なのではと考えます。

そうすると、新しいことをやるには、考えの異質性のようなものを積極的に確保する必要がありますが、そのような方法論に、デザイン・ドリブン・イノベーションがあるのかと思います。

・・・

個人にせよ、組織にせよ、一つのことに集中することが時間的、コスト的に効率が高いですし、成果も出易いと思います。

しかし、それでは、新しいアイデアが浮かばない状態となり、集中した一つの分野の沈没とともに自身も沈没することになると思います。

そうすると、効率は悪いですが、個人にせよ、組織にせよ、異質なものを受け入れることが、変化の速い現在の世の中では必要なのかと考えます。

2015年10月31日土曜日

特別顕著性について

BABYMETALの人形がアメリカで販売されるそうです。

(FunkoのHP)
http://funko.com/blogs/news/72330947-straight-from-japan

こういうデフォルメした人形は、アニメのキャラクターが主で、実在の人間の人形が作られるのはなかなかないようです。

それはやはり、アニメのキャラクターは外観上の特徴が捉えやすいのに対し、実在の人間はそうとはいきませんので、デフォルメしにくいからなのではないでしょうか。

そう意味では、BABYMETALの外観は万人にわかる特徴があるといえます。こういう状態を知財的には、「特別顕著性」があるということになるかと思います。

特別顕著性があるとされるには、(1)ありふれた形態でない、(2)機能から定まる形態でない、(3) 周知である、という要件をすべて満たす必要があります。

それでは、余計なことかもしれませんが、暇つぶしに、各要件について確認したいと思います。

まず、「ありふれた形態」ですが、 BABYMETALのコスチュームはいわゆるゴシックロリータと呼ばれるそうですが、このゴシックロリータ自体はありふれていますので、これだけでは足りません。

次に、BABYMETALは3人グループですので、3人ともゴシックロリータということで、少しありふれていない感が出てくると思います。

次に、3人が並んだとき、真ん中の人が背が高く、両端の人は背が低く、かつ、同じくらいの背となります。つまり、シンメトリーとなりますので、外観のありふれていない感が強まります。

さらに、真ん中の人が、ポニーテールで、両端の人がツインテールで、シンメトリーであり、このあたりで、ありふれていない外観となるかと思います。

そう考えると、両端の人が、「そっくり」というところに、外観上の特徴があるかと思います。(実際、人形は見分けがつきません。)

「機能上の形態」ですが、機械ではありませんので、これは考慮しなくてもよいかと思います。

「周知性」ですが、これは興味深いところで、他の人形が、ビートルズやマイケルジャクソンというレジェンドクラスであり、人形になって当然と思われるのに対し、 BABYMETALは短期間に周知性を獲得している点です。

周知性があるとされるには、(1)広告宣伝の実績(費用、地域)、(2)広告宣伝に外観がちゃんと表示されている、(3)外観の特徴を変更せずに使用し続けていること、などが考慮されます。

「広告宣伝実績」ですが、これは、よくわかりません。 BABYMETALが所属している事務所は上場しているそうですので、財務諸表やIR資料からわかるかもしれません。

「広告への外観表示」ですが、これはインタビューを受ける際にもコスチュームを着用し、3人の並びも変更ないようにしていますので、気を使っているのだと思います。

逆に、コスチューム以外の服装を見せることや、3人ばらばらに活動することは、周知性に悪影響がありそうです。

「外観の不変更」ですが、これはデビュー以来、ずっと同じような恰好をしておりますので、厳しく守られているようです。これは、ヘビーメタルという様式を重んじるジャンルから自然とこうなっているのかと思います。

以上から、総合的に考えますと、 BABYMETALの外観は特別顕著性があるということになるかと思います。

これは、戦略的にやっているのか、偶然なのかはよくわかりません。しかし、今後は、この特別顕著性を利用したビジネス(キャラクター商品、多メディア展開)も可能となるかと思います。

また、特別顕著性を有していることから、BABYMETALを模倣したグループは参入しにくい状況かもしれません。

ということで、いいことづくめのようですが、一つ問題となるのが、イメージチェンジができないということになると思います。つまり、メタル以外の音楽をやりたくなった場合どうするか、ということです。

イメージチェンジしますと、せっかく築いた特別顕著性がリセットされますので、また、0からの活動となります。このあたりの舵取りは難しいところですが、外野としては興味深いところであります。

2015年10月24日土曜日

ノウハウ秘匿について

先日、とあるセミナーに参加しましたところ、帰りがけに雑誌記事のコピーを渡されまして、帰りの電車の中で読んだところ、次のようなことが書いてありました。

とあるコンサルタントの方が、とある中小企業を訪問した際に、特許出願を見せてもらったところ、明細書に製造ノウハウが事細かに記載されており、大丈夫なのかと心配になったとのこと。

しかも、その明細書を書いた代理人を確認したところ、弁理士会の会長(副会長?)をされていた方ということで、 二重に驚いたとのこと。

・・・

上記の記事の内容はさておき、近年、製造方法等はノウハウとして秘匿すべきとの考えが強くなっています。それは当然誤りではないのですが、何も考えずに製造方法であればノウハウ秘匿とするのは、ちょっと危ないと思います。

そこで、以下のノウハウ秘匿判断ツリーを考えてみました。(はみ出しているかもしれませんが・・・。)



まず考えるべきは、そのノウハウについて、他社が権利化する可能性があるかどうかです。他社が権利化してしまえば、もはや自社はそのノウハウを実施することはできません。

コカ・コーラの製造方法のように他社が絶対に製造不能のものもありますが、たいていのノウハウについては、技術者の試行錯誤により到達できる技術レベルと思います。そうすると、他社により権利化される状況も考慮しなければなりません。

他社に権利化された場合の対策として、先使用権を主張することが考えられます。ただし、先使用権を主張するためには、特許法79条の要件事実をすべて立証する必要がありますので、常日頃から証拠を確保する活動が社内に必要となります。

そのような体制がない場合には、自社で先に特許出願して権利化してしまうという考えもあるかもしれません。

また、他社の権利化の可能性が低い場合には、ノウハウ秘匿とすることは、大いに考えられますが、その場合には、自社に営業秘密が流出しないような管理体制があることが必要となります。

具体的には、営業秘密管理規程を作成し、従業員の教育を行い、社内システムを整備する、ことなどです。

しかしながら、最近、新日鉄の方向性電磁鋼板の技術が退職者を通じて、韓国・中国へ流出したことがニュースとなりましたが、営業秘密管理をしっかりやっている会社でも、技術情報が流出してしまう場合があります。

一度情報が洩れますと、情報は無体物ですから回収することは難しいですし、拡散を止める手立てはありません。

したがって、そのようなリスクがある場合には、やはり、自社で先に特許出願して権利化してしまうという考えもあるかもしれません。

最後に、ノウハウの特許出願ですが、これは、早期審査制度を利用することをお勧めします。通常の出願ですと、出願公開されたのち、査定がなされるケースが多いと思われます。

特許査定であれば何の問題もありませんが、拒絶査定となった場合には、ノウハウが無駄に公開されてしまうことになります。(公開されたノウハウは誰でも自由に実施できます。)

早期審査制度を利用することにより、出願公開前に査定(特許、拒絶)を得ることが可能となりますので、拒絶査定となった場合でも、そのノウハウが公開されることはありません。

なお、早期審査制度の利用には、一定の要件があり、誰でも利用できるというものではありませんので、特許庁HPで確認いただければと思います。

・・・

上の記事につきましても、表面的には弁理士のミスのようにも感じられますが、実際のところは、様々な事情を考慮しないと何とも言えないといえます。

また、ノウハウを積極的に公開することにより、市場形成に成功した例として、即席麺の事例もありますし、要は、目的があればノウハウ開示もありうるということになります。

したがって、ノウハウ秘匿は絶対であるとして、思考停止になることは避けたいと思いました。

note へしばらく移転します。

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