2016年4月24日日曜日

2016/2/28~3/5の知財高裁判決



2016228日から201635日までになされた裁判は、侵害訴訟1件(商標)、審決取消訴訟1件(特許)です。

1.侵害訴訟

(1) 平成27()10117  商標権侵害行為差止等(東京地方裁判所 平成26()29617
平成28229日判決 控訴棄却(2部)
商標権
損害額,類似性

*コメント
会社の破産手続きに伴って、破産会社の使用していた標章を被告が使用したことが、原告の商標権を侵害することになりました。会社が破産しますと、財産の処理や、それに伴う権利関係が錯綜しやすくなるため、不用意に標章を使用しない方がよいといえます。

2.審決取消訴訟

(1) 平成27()10078  審決(拒絶)取消
平成2832日判決 審決取消(4部)
特許権 (眼鏡レンズ加工装置)
進歩性(相違点の判断)

*コメント
引用例には、本件発明の課題や効果等の、本件発明の構成を採用する動機づけとなる記載がなく、本件発明の容易想到性は認められないとされました。引用例はダブルスピンドル、本件発明はシングルスピンドルということで、スピンドルを1つ減らしただけではないかとされてしまいがちですが、本件発明の課題・構成・効果が引用例に示されていないことを総合的に説明できれば、特許されることもあるということでしょうか。
ダブルスピンドル方式は、シングルスピンドル方式より、剛性的に有利であるので、あえて剛性的に劣るシングルスピンドル方式を採る技術的理由もなかったという事情もありました。



2016年4月23日土曜日

2016/2/21~2/27の知財高裁判決



2016221日から2016227日までになされた裁判は、侵害訴訟4(特許1件、不競法1件、著作権2)、審決取消訴訟5件(特許5件)です。

世間はもうすぐGWですが、まだ、2月の裁判例にとどまっています。

読むのがつらいのが特許の審決取消の判決なので、省略しようと思いましたが、自分の仕事には一番役立つ部分でもあり、とりあえず、特許庁の判断が覆された事件は追って行こうと思います。

1.侵害訴訟

(1)平成27()10119  損害賠償(東京地方裁判所 平成26()31864
平成28224日判決 控訴棄却(2部)
不正競争
品質誤認表示,虚偽事実の陳述流布

*コメントはありません

(2)平成27()10062  著作権侵害差止等(東京地方裁判所 平成25()28342
平成28224日判決 原判決変更(4部)
著作権
契約の成否・解除,その他

*コメントはありません

(3)平成26()10117  著作物使用差止等(東京地方裁判所 平成25()9989
平成28224日判決 控訴棄却(4部)
その他
その他

*コメントはありません

(4)平成27()10080  特許権侵害差止等(東京地方裁判所 平成26()5187
平成28224日判決 控訴棄却(4部)
特許権 (ピタバスタチンカルシウム塩の結晶,ピタバスタチンカルシウム塩の保存方法)
構成要件充足性,均等侵害

*コメント
数値限定の解釈が争われましたが、数値の拡大解釈は一切認められませんでした。

2.審決取消訴訟

(1)平成27(行ケ)10095  審決(拒絶)取消
平成28225日判決 請求棄却(1部)
特許権 (内燃機関の燃費削減装置)
進歩性(引用発明の認定,相違点の判断)

*コメント
原告、引用発明を限定解釈して本願との相違を主張、引用発明は未完成であるとの主張、いずれも認められませんでした。また、引用発明及び引用技術は,課題を共通にし,いずれも密接に関連する技術分野に属するものであるから,当業者が,引用発明に引用技術を適用する動機付けがあり,引用発明に引用技術を適用することについて阻害要因とすべき事情も認められないとされました。

(2)平成26(行ケ)10275  審決(無効・成立)取消
平成28224日判決 請求棄却(4部)
特許権 (歯列矯正ブラケットおよび歯列矯正ブラケット用ツール)
冒認

*コメント
冒認について争われました。証拠として、FAX、発明ノート、議事録、書簡、電子メール等が提出され、これらを時系列で分析して、A氏が、発明の特徴部分を着想したか検討され、A氏も発明者と認定されました。常日頃から、発明ノートを作製して、確定日付を得ておくことの重要性がわかる事件です。

(3)平成27(行ケ)10115  審決(拒絶)取消
平成28224日判決 請求棄却(2部)
特許権 (光源モジュール及び表示装置)
進歩性(相違点の判断),補正・訂正の許否

*コメントはありません。

(4)平成27(行ケ)10130  審決(拒絶)取消
平成28224日判決 請求棄却(4部)
特許権 (省エネ行動シート)
手続違背,その他

*コメント
本願発明に係る「省エネ行動シート」は自然法則を利用しておらず発明ではないとされました。シートへの軸の書き方等は精神活動に向けられる人為的取り決めに過ぎないので、自然法則を利用していないということで、自分であれば、どういう風な明細書を書くだろうかと考えてしまいます。まあ、著作権で保護するしかないかもしれません。

(5)平成27(行ケ)10081  審決(無効・成立)取消
平成28224日判決 審決取消(4部)
特許権 (ピタバスタチンカルシウム塩の結晶)
新規性,進歩性(相違点の判断),補正・訂正の許否(新規事項の追加)

*コメント
引用文献等から甲に示す結晶を製造することは容易になしえるが、甲結晶は本件発明と構成が異なるので、引用文献等から本件発明を容易に想到し得るとはいえないとされました。論理展開の一部に問題があったということになるでしょうか。


2016年4月10日日曜日

無形資産は化ける?

少し前に、無形資産評価の研修を受けました。講師は、ベンチャーキャピタルなどで活躍されている方でした。

研修の最後に質問時間が設けられ、いくつか質問があったのですが、その中に印象に残る質問がありました。

「アップルの時価総額はトヨタの時価総額の倍以上ある。トヨタは工場もたくさんあるし、従業員もたくさんいるので価値があることはわかる。一方、アップルには何もない。なんで時価総額にそんな差が出るのか理由がわからない。」という感じでした(正確ではありません。)

質問された方は弁理士であったので、無体財産を守るのが仕事である弁理士がこういう質問をするのもなんだかと思いましたが、確かに、そう考えたくなる気持ちも、やはりわかります。

トヨタといえば、名古屋や世界中の多数の工場を所有し、その土地や施設・設備の価値を考えれば、膨大な額となると思います。また、従業員も世界で何十万人もいると思われ、系列会社も考えますと大企業というイメージです。

一方、アップルはカリフォルニアあたりに本社があるのかな・・・、というイメージしかわきません。工場もまったくありませんし、正直どこに価値があるのかイメージしにくいものがあります。

講師の方の回答は、アップルの有している無形資産に価値がある、ということでしたが、質問した方はあまり納得できなかったようです。

とはいえ、講師の方の話の中に、これまた印象に残る言葉がありました。それは、「無形資産は化ける」 という言葉です。

講師の方は元VCの方ですので、企業に投資するのが仕事となりますが、その考えの基本が「無形資産は化ける」ということになるかと思います。

要は、無形資産を有する企業は化ける可能性があるから、優先的に投資するということになるでしょうか。

工場などの有形資産は、ある程度の価値を生み出しますが、それは予想の範囲にとどまり、予想を超えて大きく儲かるということはないと思います。

一方、無形資産を有する企業は、(ダメになる企業も多いと思いますが)、予想を超えて儲かる可能性があり、 VCとしては、投資した企業の1社でも当たれば儲かるという感じで投資しているとのことです。

そう考えますと、米国企業はファブレス企業が多いですが、これは、有形資産に投資しても企業価値が高まらないため、無形資産に集中的に投資して企業価値を高めていると考えられます。

ということで、日本企業も無形資産の構築を図ることが、企業価値を高めるために必要といえます。

もちろん、アップルも今はたまたま調子がよいだけで、何年かしたらやっぱり有形資産も重要ということになるのかもしれませんが、これはどうなるかよくわかりません。


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