2012年3月31日土曜日

特許権の売却について(その2)

さて、今回は農工大が船井電機に特許権を販売することを考えたいと思います。船井電機に特許権を買ってもらうためにはどのような検討をすればよいのでしょうか。

営業をするとか、販売価格を安くするとかの方法が考えられますが、ここでは技術的な面からのアプローチを考えたいと思います。

例えば、農工大の特許権の技術分野が船井電機の求める技術にマッチしていれば、購入してもらえる可能性が高まります。技術的なマッチングを確認する方法としては特許情報を解析する手法があります。

農工大特許の技術分野を特許公報で確認しますと、IPCでいえば、G06F 3/033、G06F 3/041、G06F 3/048あたりですので、この分野の船井電機の出願状況を確認してみましょう。

ちなみにIPC(国際特許分類)は、国際的に統一されて用いられる特許文献の技術内容による分類のことをいいます。すべての特許出願にはこのIPCが割り振られておりますので、特許解析に用いるには非常に便利です。

また、G06Fは「電気的デジタルデータ処理」を示す分類です(特許電子図書館のパテントマップガイダンスで詳細な内容を確認することができます)。

まず、船井電機のIPC別出願件数を時系列で確認します。




上の図の縦軸がIPC、横軸が出願年です。なお、図では2010年以降の出願がほとんどありませんが、これは出願公開は出願から1年6ヶ月以降になされるため、出願の有無を確認できないからです。

赤枠内が、船井電機のG06F 3/033、G06F 3/041、G06F 3/048の時系列の出願件数を示しております(丸(バブル)の大きさが出願件数の多さを示しております)。

図からわかりますように、船井電機はこの技術分野の出願を2004年から始めており2009年まで出願件数は増加傾向にあります。

したがって、船井電機はこの分野に多くの投資を行なっていることが想像できますので、特許権を売却できる可能性は高いと判断できます。

次回は、農工大特許と船井電機の技術との関係を考えたいと思います。

2012年3月27日火曜日

特許権の売却について(その1)

少々前ですが、東京農工大が情報端末の画面操作性を高める特許5件を船井電機に売却するなどして2億6千万円超の収入を得たとのニュースがありました。⇒【特許ウォーズ(上)】生き残りかけた争奪戦 宝の山を守れるのか 

ということで、これを題材に特許権の売却について考えたいと思います。

実際に売却されたのは以下の5件の特許権です。

番号
特 許 名 称
番 号
発明者
所 有 者
概 要
Human Interactive
Type Display System
U.S. Patent
No. 6,128,014
(2000.10.3)
中川 正樹
小國 健
国立大学法人
東京農工大学
ペン先の移動量と移動速度に応じてウインドウをスクロールする方法
Human Interactive
Type Display System
U.S. Patent
No. 6,683,628
(2004.1.27)
中川 正樹
小國 健
国立大学法人
東京農工大学
上記で、間接指示でありながら直接指示の感覚を与える関係を図示
表示装置の表示内容
制御方法
特許3475235
15926
登録
中川 正樹
澤田 伸一
小國 健
堀田 耕一郎
国立大学法人
東京農工大学
ペン操作に適したGUIの操作方法
表示装置の表示内容
制御方法
特許3959462
19525
登録
中川 正樹
澤田 伸一
小國 健
堀田 耕一郎
国立大学法人
東京農工大学
ペン操作に適したGUIの操作方法
Method for
Controlling Displayed
Contents on a Display
Device
U.S. Patent
No. 6,862,712
(2005.3.1)
中川 正樹
澤田 伸一
小國 健
堀田 耕一郎
国立大学法人
東京農工大学
ペン操作に適したGUIの操作方法


表にあるように、5件中3件が米国特許で2件が日本国特許です。ご存知のように船井電機は日本では特に製品を販売しておらず、もっぱら欧米を中心に液晶テレビなどを販売している会社です。

したがって、この米国特許の存在は、船井電機の購入の決断に有効に作用したことが想像できます。

また、発明の名称から上記特許はスマホ等に使用されるタッチパネル関係の特許であることがわかります。

スマホ関連の特許は米国では1件当たり50万ドル程度の値段が相場であるそうですので(参考:アップルが電機業界に促す「特許戦略の転換」:日本経済新聞)、5件で2億6千万円という価格は概ね妥当と考えられます。

なお、米国では発明の名称に「スマートフォン」 と入っているだけで、かなりの値段がつくそうですので、ややバブル気味とも思います。

しかしながら、スマホ関連特許については米国に確実にマーケットが存在するわけで、特許権の価値判断を簡略にできるマーケット法を使用できる点で、やはり日本にも特許市場が欲しいと思わせます。

さて、次回は特許情報から見た特許権の売却についてまとめてみたいと思います。

2012年3月24日土曜日

ノウハウの管理について

近年、企業内の技術的なノウハウを秘密情報として管理することが求められています。

これは、ノウハウも企業の重要な知的資産であり、不正競争防止法上の保護を受けるためには適切に管理する必要があるからです。

したがって、取引先に技術情報を開示するときや、従業員が退職する際などには、ノウハウに関する秘密保持契約を結ぶ必要があります。

さて、この場合、客体としてのノウハウをどのように特定すればよろしいでしょうか。

例えば、「~に関するデータ」や「◯◯装置に関する情報」など概括的な特定の方法があると思います。ただし、ノウハウ部分以外も含む広い表現となりますので、秘密保持義務が過大となる可能性があります。

また、「Xノートに記録された情報」、「Yメモリーに格納された情報」など媒体で特定することも考えられます。この場合も上記と同様の問題があります。

特定法の一つとしては、特許明細書と同様のフォーマットでノウハウに関する明細書を記載することが考えられます。

明細書化することにより、ノウハウの範囲の解釈に、判例の蓄積がある特許明細書の解釈手法を流用できますので、ノウハウの範囲を明確に定めることが可能となります。

なおかつ、特許発明とノウハウとが同一フォーマットで作成されるため、会社内の特許・ノウハウを含めた技術ポートフォリオの管理やノウハウ創作者の特定が容易となるでしょう。

さて、ノウハウの明細書の記載はどうあるべきでしょうか。特許庁で審査を受けるわけではありませんので、ある程度簡略化してもよいと思います。ただし、特許法の要件(新規性、記載要件)はある程度満たすような記載とした方が、後々役に立つと思います。

例えば、ノウハウの範囲につきましては新規性を満たすことを特許調査により確認したほうがよいと思います。これは不正競争防止法上の秘密情報として保護されるためには、非公知性の要件を満たす必要があるからです。

また、非公知性を確認することにより、法上保護されない不要なノウハウを管理することを避けられ、管理工数を削減することが可能となります。

実際問題としてノウハウの明細書を作成することは、コスト的に厳しいため(弁理士に頼めば1件20~30万円必要)、すべてのノウハウに適用することは難しいと思いますが、重要な案件についてはトライされてみてはいかがでしょうか。

2012年3月17日土曜日

TOPページの写真について

今は沢山の方がブログを書かれていて、中には非常にセンスを感じさせるデザインが見受けられます。

個人的にはシンプルなデザインが好きなのですが、私はページ作成の技術がないため、ブログの機能に依存するページ作りとなり、結局ごちゃごちゃしたページとなってしまいます。

ということで、デザインが悪化することがわかりつつもトップページに写真を入れてみました。(2012.4.2追記:うまく表示できないようですので写真は削除いたしました。すいません。)

この写真は私がNikonのP300で撮影した戦艦三笠です。よくみると、マストにZ旗が掲げられていることがわかると思います。 このお正月休みに横須賀で撮影してまいりました。

戦艦三笠が活躍した戦争といえば日露戦争ですが、当時のロシアと日本との間には27倍もの国力の差があり、普通に戦争を行えば勝ち目はまったくないといえると思います。

しかしながら、結果としては何とか勝利(ほぼ引き分け)の状態にまで持ち込んだわけで、当時の日本人の優秀さには感服してしまいます。

日本が勝利した要因の1つとしては、満州地域の局地戦に持ち込んだことがあると思います。

日本とロシアとの間には何倍もの戦力差がありましたが、ロシアは広い国土に戦力を分散させておりましたので、満州という局地でいえば日本の方が戦力が上回る状態を作り出すことに成功しました。

そういう意味では日本は、敵を上回る戦力を投入する、という基本に忠実な戦略を実行したといえるでしょう。

さて、戦争を持ちだして企業経営を語ることも不謹慎とは思いますが、中小企業が大企業に対抗するには同じような戦術を取る必要があると思います。

つまり、特定の技術分野にリソースを投入し、大企業よりも戦力で上回る状態を局地的に作り出すことが必要でしょう。

選択と集中といわれますが、単に集中するだけではなく、人員、投資額、特許権の数、など、客観的な数字で上回る必要があると思います。

戦艦三笠の船体には、戦歴を記録したプレートが取り付けてあります。


少々見にくいですが、この船は引退までのすべての戦いに勝利していることがわかります。 戦いに勝つには優れた戦略があったことはいうまでもないでしょう。

2012年3月15日木曜日

サービスイノベーションについて

私は以前、メーカーで技術者をしておりました。メーカーでは技術開発が重要な活動となります。これは、他社と差別化した製品を開発することにより、売上を増大するためであることはいうまでもありません。

今は転職して、どちらかといえばサービス業をやっております。最近感じることは、サービス業でも新製品を開発することの必要性です。既存のサービスの提供では、他社と差別化できませんし、大きな会社相手では勝ち目がありません。

ただし、せっかく新サービスを開発しても模倣されやすいという欠点があります。製品の場合には、特許網を築くことにより参入障壁を築けます。一方、サービスは人為的取り決めでありますので、自然法則を利用しておらず、特許権を取ることが無理な場合があります。

それではサービスの模倣を防ぐににはどうすればよいでしょうか?

まずは、サービスの一部をクローズド・ブラックボックス化し、他者から見えなくすることが考えられます。牛丼チェーンでいえば、フランチャイズというビジネスモデルを選択しつつも、牛丼のレシピは外部に公開しないことにより、ビジネス全体の模倣を防ぐという考えです。

レシピについて秘密として管理すれば不正競争防止法による保護が可能ですし、マニュアル化すれば著作権法で守ることも可能と思います。

また、 ビジネスモデルの一部にコンピュータによる情報処理が行われる部分があれば、特許権による保護を受けることも可能かと思います。牛丼チェーンでいえば、コンピュータによる在庫管理システムなどが特許権化できる可能性があります。

さらに、サービスをブランド化できれば、単なる模倣業者に対しては優位な位置を占めることも可能でしょう。もちろんサービスマークについては商標権をとっておきます。

このように、サービスについても知財を組み合わせることにより、完全とはいえませんがある程度模倣を防ぐことが可能です。

私のビジネスでいえば、商標として「御社の知財部」というのは確保しましたが、その他のサービスの開発はまだまだです。クローズドの部分を如何にして作るか考えどころです。

2012年3月7日水曜日

参入促進のための知財について

特許権をとる意味としては他社に対する参入障壁を築くことがあります。

これは、自社技術について独占排他権である特許権を多数取得して特許網を築くことにより、他社が自社事業に侵入することを防止し、事業を独占するという考えです。

大企業の場合には多数の特許出願を行うことができるため、特許権による参入障壁を築くことが知財戦略の基本となります。

一方、中小企業の場合には、多数の特許出願を行うことができないため、完全な参入障壁を築くことはできません。したがって、特許出願をしても無駄になることが多く、特許出願の意義について疑問をもつ企業も多いのではないでしょうか。

しかしながら、特許権というものは参入障壁という機能を持つだけではなく、参入促進という機能も持つことにも留意が必要です。参入促進機能としては以下のようなものがあるかと思います。

1つ目は、他社から権利行使されにくくなることです。中小企業が新規事業に参入する場合には、既にその事業領域に存在する企業から特許権の行使等の妨害を受けることとなります。

その場合、必須特許を1、2個持っていれば、 他社から権利行使される可能性が低くなります。なぜなら、こちらには必須特許があるので、訴えられたら訴え返せばよいからです。訴訟合戦を防ぐためにも相手は権利行使に慎重になるでしょう。

2つ目は、アライアンスの目安となることです。大企業は常に特許情報に目を光らせてますので、特許出願を行うことにより、自社の技術が大企業の目に留まる可能性があります。技術の補完効果が高ければ大企業とのアライアンスにより、その技術分野に参入することができます。

3つ目は、銀行から融資を受けやすくなることです。必須特許をいくつか保有していれば、会社の技術力の証明になりますし、事業が成功する可能性も高まりますので銀行から融資を受けやすくなります。資金力があれば新規参入も容易になるでしょう。

このように、中小企業の場合には、特許権の参入促進機能が今後は重要となると思います。

また、中小企業の特許戦略は、ただ特許出願を沢山だすのではなく、必須特許に絞って、効果的に出願を行うことが重要と思いますので、特許戦略を立てる場合には参考にしていただければと思います。

2012年3月4日日曜日

知財コンサルティングについて

最近、知財コンサルティングという言葉をよく聞きます。知財コンサルティングとは、知財によって顧客の課題を解決することをいいます。

知財コンサルティングの背景としては、特許出願の数が企業の競争力強化に必ずしもつながっていないことや、特許出願件数が減少し特許出願以外の業務を開発する必要がある弁理士側の事情などがあります。

知財コンサルティングの手法については開発途上であり、確固たるコンサルティングスタイルはありません。現状の知財コンサルティングは以下の2つのスタイルがあると思います。

一つ目は、一般的な経営コンサルティングを主体とする方法です。これは、財務分析、SWOT、3C、4P、バランストスコアカード、バリューチェインなど既存の経営コンサルのフレームワークを使用して行うコンサルティングです。

この手法の場合には、知財が考慮される部分が少なく、知財コンサルティングではなく、ただの経営コンサルティングとなる場合があります。

経営コンサルティングの結果に基づいて、特許出願をしましょう、知財教育をしましょう、となりますので、経営上の課題と、解決手段としての知財と、の結びつきのロジックが弱くなります。

二つ目は、コンテンツコンサルティングです。これは、特許出願しましょう、知財教育をしましょう、とひたすら顧客に提案する手法です。

この手法は顧客の課題を解決するものではなく、解決手段を顧客に提示するのみでありますので、顧客が課題を認識していない場合には効果がありません。

このように、解決手段としての知財権の取得につながる、実践的な課題分析手法がない、ことが現状の知財コンサルティングの課題ということができると思います。

この課題を解決するための一つの方法としては、特許情報を活用することがあると思います。特許情報には様々な情報が含まれていますので、これを利用して経営分析を行えば、経営と知財権との関係が明らかになるのではないでしょうか。

例えば、特許情報を3C分析に適用する場合を考えれば、「市場(customer)」については、特許情報のマクロ分析により技術動向を分析することが可能です。「競合(competitor)」、「自社(company)」については、出願人ごとの出願件数や技術動向を分析することが可能です。

さらに、特許解析ソフト(マップソフト)を使用すれば、技術内容の対比や、時系列変化を自動的にPCで処理したアウトプットを容易に得ることが可能です。

このように既存の手法をアレンジすれば簡単にアイデアが出ると思いますので、特許情報を活用した知財コンサルティング手法をいろいろ開発してみてはいかがでしょうか。

2012年2月23日木曜日

売れる特許明細書の書き方について

特許を出願する場合には特許明細書を作成する必要があることはご存知と思います。特許明細書の作成には技術的な側面と法律的な側面があります。

技術的な側面としましては、明細書を読んだ当業者が発明を実施できる程度に記載しなければなりません。また、法律的な側面としましては、新規性、進歩性等を満たすよう明細書を記載しなければなりません。

大企業の明細書の場合には、上記の2つの側面以外に、不必要な記載はできるだけ削除し、より抽象的な表現を使うなどの点に気が使われます。

これは、不必要な記載はノウハウが漏れるおそれがあるためで、抽象的な表現が使われるのは発明が限定的に解釈されることを防止するためです。

したがって、大企業の明細書を読んでも記載が最小限であり抽象的であることから、第三者が読んでも技術がよくわからない場合があります。

それでは中小企業や大学の場合、明細書の書き方は大企業と同じで良いのでしょうか?

大企業は特許発明を自社で実施することが多いのに対し、中小企業や大学は、アライアンスやライセンスなどにより他社に使ってもらいたい技術が多いと思います。

その場合には、何よりターゲットとする企業に注目してもらえる明細書に仕上げることが重要と思います。簡単にいえば特許明細書を宣伝に使用するという考えです。

それでは、宣伝効果のある特許明細書の記載について考えてみましょう。

まず、【発明の名称】ですが、具体的な製品を想起できる名称がいいでしょう。例えば、「画像形成装置」とするより、「省エネ型プリンタ」としたほうがわかりやすいと思います。

【先行技術文献】については、ターゲットとする会社の出願を特許文献として上げることがいいと思います。これは、ターゲット企業による特許検索に引っかかりやすくなる効果と、ターゲット企業の課題を解決できる技術として売り込める効果があるからです。

【発明の効果】については、技術的効果のみならず経済的効果を含めることができれば売りやすいと思います。

【発明を実施するための形態】については、ターゲット企業がよく使用する技術用語(キーワード)を散りばめて、ターゲット企業による特許検索に引っかかりやすくすることが好ましいです。

技術用語というのは会社ごとの方言(歯車とギア、光ファイバと光学ファイバなど)がありますので、ターゲット企業の明細書によく使用されている用語を使用することによりターゲット企業の技術者が見てくれる可能性が高まります。

【実施例】については、ターゲット企業の装置に適用する手法や、適用した場合の効果を、あたかもカタログや取説の用に記載すれば、技術者にとっては実際のイメージがわきやすいと思います。

このように、余分な記載が増えますので少々邪道ともいえますが、ポイントとしてはターゲット企業の特許検索に引っかかりやすい記載とすることと、技術者の方が読んですぐ理解できる記載とすることと思います。

ライセンスやアライアンスを考えている方は明細書を使う宣伝を試みてみてはいかがでしょうか。

2012年2月20日月曜日

中小企業と大企業について

世の中には様々な会社がありますが、大雑把に分ければ大企業と中小企業に分けられます。

中小企業の数の割合は97%くらいですので、数でいえばほとんど中小企業ということになります。しかしながら、売上の規模でいえば67%が大企業(製造業)を占めておりますので、 力の差は歴然と思います。

しかし、大企業に関しましてはあまり景気の良いニュースを最近聞きません。一部商社などは利益を上げているようですが、製造業(特に電機関係)につきましては、大きな赤字を出している企業も多いようです。

高度成長期においては大企業は大きな利益を上げてきました。これは、ニーズがはっきりしており、そのニーズを満たすために組織をあげてリソースをどんどん投入してゆけば、それなりに利益を挙げられたからと思います。つまり、大企業であることの規模のメリットが活かせた時代だったと思います。

しかしながら、成熟化した世の中では明確なニーズが存在しません。したがって、経営戦略をどんどん変化させてニーズを追いかける必要がありますが、これができないため大企業は苦戦しているのだと思います。

変化できない理由の1つとして、大企業は人件費、製造設備等、固定費が多いため、容易に製造品目を変更することができないことがあると思います。

例えば、樹脂製のトイレが、その施工の容易さや軽量さによりにシェアを拡大しておりますが、ライバル企業が参入できるかというとそうでもありません。

これは、従来の陶器製トイレは焼き物であるため、寸法の収縮や割れを防止するために、高度な製造工程を有しており、これが強みでもあるのですが、樹脂製のトイレに参入した場合にはこれら製造設備や職人さんが不要になってしまうからです。

さらに、2つめの理由として、大企業は固定費の大きさから、参入できる分野は大きな利益を挙げられる分野に限られることがあると思います。

最近のニュースで、日本の電機メーカはなぜルンバをつくれなかったか、というニュースがありましたが、それは当たり前のことで、ロボット掃除機というニッチな分野に大企業が参入しても採算があわないのは明白でしょう。

また、3つめの理由として、会社の意思決定を行うためには、社内政治等にエネルギーを割く必要もあり、迅速な意思決定はなかなかできないことがあると思います。

一方、中小企業では、これら大企業のデメリットがないというのが、強みと思います。中小企業であればニッチな分野に進出することも可能ですし、社長がトップダウンで意思決定をすれば、迅速な対応も可能と思います。

したがって、世の中が低成長、成熟化してゆく中で、今後は大企業が淘汰される一方で、どんどん伸びてゆく中小企業が増えてゆくのではないでしょうか。

2012年2月17日金曜日

特許権の売却について

この仕事をしていると特許権を売却したいとの要望が寄せられることがあります。この場合には買ってくれそうな企業を当たるとか、特許流通業者の方に相談するなどの対応をとります。

しかしながら、適当な売却先を見つけることは非常に難しいです。以前、特許流通業者の方に相談したことがあったのですが、「この特許は売れません」の一言で帰られてしまいました。専門業者の方でこの状態ですから一般の方が売却先を見つけることはほぼ不可能といえるでしょう。

特許権は知的財産権の一種であり財産的価値があるとされます。したがって、すぐに売れてもいいような気がしますが実際にはそうはなりません。なぜでしょうか?

私の勝手な考えでは、その理由は特許権自体の価値が見えないためだと思います。特許権の中身を示す特許明細書は単なる法律的、技術的言語の羅列にすぎませんので、価値がよくわかりません。 したがって、特許権を売るためには、特許権の価値が見えるようにしなければなりません。

価値を可視化する一つの手段としては、具体的な特許製品(自動車など)を提示して売り込み、この製品に付随した形で特許権を売り込むことが考えられます。具体的な製品があれば技術的な価値がわかりますし、売れそうかどうか経済的な価値も判断できます。

二つ目の手段としては、特許権を購入した場合、収益が向上する企業を見つけて営業することが考えられます。例えば、自動車のメーカーに対して、この特許権の技術を導入した場合には、さらに燃費が向上し商品性が上がるなどのプレゼンを行えば購入につながるかもしれません。

そのような企業を探す方法としては特許情報を活用することが考えられます。特許明細書の特許分類や技術キーワードに基づいて特許調査を行い、検索結果に頻出する出願人や権利者が営業の候補となると思います。

このように、特許権自体に価値は見出しにくく、特定の製品やビジネスモデルと組み合わさった場合にのみ、その価値は明確になります。

したがって、特許権を売却する場合には、特許明細書の記載のみでプレゼンするのではなく、製品や収益モデルも合わせてプレゼンすることも考えてみてはいかがでしょう。

2012年2月13日月曜日

個人のコア・コンピタンス経営について

私は、生産機械の製造をする仕事をしておりました。この仕事は、機械の設計のみならず、エレキ、ソフトの基本設計、資材の購入管理、工数管理、日程管理等、様々な仕事をせねばならず、プロジェクトを終えると一種の燃え尽き感が生じる程でした。

1つ目のプロジェクトは1年~2年程度でひとまず完了します。その後、2つ目のプロジェクトに関わった時に、仕事のキツさが変わらないということに驚きと絶望を感じました。

1つ目と2つ目のプロジェクトは技術的関連が低い(塗布装置と搭載装置など)ため、2つ目のプロジェクトも「0」からのスタートとなり、仕事のノウハウ蓄積による負荷の軽減を期待できず、同じキツさを繰り返すことになりました。

それでも3つ目のプロジェクトまではこなしましたが、その時点で30歳を超え、トレッドミルのようなこの仕事を続けることは体力的に難しいと判断し、転職することにしました。

そういう部署でしたが、比較的ゆったりと仕事をしている人もいました。その方は、ある特殊な照明装置を開発された方です。照明装置の構造はとても簡単なのですが、汎用性があり、様々な装置に流用されていました。

照明装置の受注があれば、設計図面を工場に流すだけでよいため、特に自分の作業は生じず、仕事を右から左に流すだけの仕事になります。したがって、多くの仕事を同時にこなすことができ、それなりに売上を上げられます。

また、私の場合には製造装置全体を担当する仕事でしたので、装置に不具合が生じれば、土日、深夜を問わず電話がかかってくるような仕事でしたが、その照明装置に関しては、数多く生産され不具合の多くがすでに潰されていますので、緊急の仕事が生じることもありません。

そして、その照明装置に関しては特許権が取得されておりましたので、模倣が生じることもなく、さらに高性能な別の装置が開発されるまでは、安定して受注が得られることになります。

結局私の場合には、何でもすることが逆に競争力を奪うことになり、逆に、照明装置を開発された方は、照明という技術分野に集中することにより競争優位が得られたということになります。

したがって、差別化でき応用範囲の広い特定の分野に集中して実務経験を積み重ねることが、会社内における一つの生き残り戦略になると思います。

ただ、私の場合、いろいろやったことが無駄になったかというとそうでもありません。予算管理を通じて得たお金の知識は会社を作る際に役立ちましたし、広く様々な製造機械に接した経験は、その後明細書を書く際の基礎知識として活用できてます。

まあ、これは会社を辞めたからいえることで、会社に残っていたら過労で倒れていたかもしれませんが・・・。

ということで、広くやるか、狭くやるか、自分のキャリアプランと合わせて考えてみてはいかがでしょうか。

2012年2月10日金曜日

中小企業の特許戦略について

これからの企業には特許戦略が重要といわれています。大企業の場合には、自社の製品・サービスを防護できる特許網を築くことが特許戦略の要となります。したがって、多数の出願を戦略的に出願してゆくことが求められます。

このような大企業の特許戦略については、参考となる文献が多く存在し様々な手法が研究されているため、 これら情報に基づいて自社に適合する特許戦略を構築することが可能といえます。

一方、中小企業の特許戦略については、参考となる文献も少なく、研究されている手法も少ないため、情報不足の感もあり、効果的な中小企業の特許戦略というものは存在しません。

大企業向けの特許戦略を中小企業に適応することは可能な部分もありますが、可能でない部分も多くあります。例えば、中小企業は資力が大企業ほど潤沢ではないため、多数の特許による特許網を構築することは困難といえます。

それでは、中小企業の特許戦略はどのようにすればよいのでしょうか。

まず、オーソドックスに自社開発製品を守ることができるよう特許出願を行なってゆくことが考えられます。

ただし、大企業との競争に巻きこまれないように、ニッチな分野で製品開発を行い、出願を行なってゆく必要があります。また、ニッチな分野であれば出願件数が少なくても製品を保護できる場合もあると思います。

一方、下請けを主とする中小企業の場合には自社製品がない企業も多いと思います。この場合には、保護対象が存在しませんので特許戦略が必要ないともいえます。

しかしながら、特許戦略がない場合には、差別化できずコスト削減競争に巻き込まれることになります。

対応としては、大企業が欲しい技術を、先手を打って技術開発を行い、特許網を築いてしまうことが考えられます。この場合には大企業は高いお金を出してでも技術を入手したいと考えますので、コスト削減の圧力がかかることはありません。

では、先回りして技術開発を行うことは可能なのでしょうか?

方法としては、大企業の特許情報を解析して、大企業の抱える課題を分析し、自社の強みをもってその課題を解決する方法を考案することがあると思います(ソリューションビジネスへの転換ともいえます)。

大企業が課題を提示してくる前に、課題を解決してしまうというのは格好いいと思いますので是非実践してみてください。

2012年2月4日土曜日

3つの I

私は知財に関わる仕事をしておりますが、そのときどきで知財という概念の捉え方が変化している気がします。ここでは「3つのI」で説明したいと思います。

1つ目は、Invention、すなわち発明です。メーカーの技術者であった時代は、技術的優位性を有する発明を行う努力をし、現在は代理人として法的な観点から発明を捉えて明細書の作成を行っています。

発明は、先行技術に対する相違と効果が重要なわけで、いろいろ先行技術をサーチしながら新たな構成要件を加えたりします。したがって、発明の多くは、改良を積み重ねたものになります。

従来は、知財活動といえばこのような発明創出を示すものだったのですが、近年、日本は特許出願件数多い割には事業の強みに結びついていないとの指摘がなされ、実際に国際競争力が低下しつつありました。

2つ目は、Innovation、イノベーションです。 発明は従来技術の改良の積み重ねとなりますので、大きな技術的な変化を伴うわけではありません。日本はこの改良発明に強みを有していました。

ところが、こういう地道な改良を飛び越えた技術革新(イノベーション)がなされる場合があり、イノベーションが生じると地道な改良が全く役に立たなくなりますので、アメリカのイノベーション戦略によって日本の競争力は低下したわけです。

イノベーションを図るには、技術とビジネスモデルの融合を図ることが有効であり、事業部門と開発部門と知財部門の協業、すなわち三位一体の経営が必要となります。

3つ目は、Intelligence、すなわち、情報を生かした事業活動です。知財というのは技術情報の塊と捉えることができ、それらの情報が特許データベースから容易に取り出すことができますので、これを利用しない手はありません。

現在は、特許情報を研究開発活動と結びつけたり、マーケティング活動と結び付けたりできないか考えています。このあたりも、三位一体の経営が必要です。

そこで、Invention、Innovation及びIntelligenceの面から知財の様々な活用を図り三位一体の経営を実現するために立ち上げましたのが、株式会社知財デザインです。

と、最後は宣伝になりましたが、単に特許出願を行うだけでなく、経営に貢献する知財の活用法を様々考えてみることも必要と思います。

2012年1月31日火曜日

リストラについて

NECが従業員を1万人リストラするというニュースを最近聞きました。近年の事業環境の激変に耐えられなくなってきたのでしょうか。

私は以前NECで生産技術者として働いておりましたが、10年ほど前に自主的に退職いたしました。その理由は会社全体がソフトウェア関係の事業を強化する中、自分の居所が無くなりつつあったからです。独身であり身軽だったという事情もあります。

さて、会社と従業員の関係は、以前お話しした大企業と下請けの関係に似ていると思います。つまり、会社が「課題」を提供し、従業員はその「解決手段」を提供します。

会社の「課題」は変化してゆきますから、その「課題」に対する「解決手段」を提供できない従業員はリストラ候補となると考えられます。

私の例でいえば、会社の課題は「ものづくり」から「ソリューション事業」へ変化してゆきましたので、「ものつくり」に対する解決手段しか提供できない私は遅かれ早かれリストラされる運命にあったといえます。

どうすればよいかといえばこれは難しい問題ですが、3つの考え方があると思います。

1つめは、解決手段としてより高度な技能を身につけることです。私の例であれば、生産現場は完全に無くなるわけではありませんので、より高度な設計技術を身につけることにより、生き残りを図る戦術です。

しかしながら、この方法は誰もが考える手段ですので、小さくなるパイの中では椅子取りゲームのように競争が激化し、レッドオーシャンの中に飛び込むことになります。

2つめは、解決手段として現在とは異なる技能を身につけることです。例えば、機械技術者がプログラミング能力を新たに身につけて生き残りを図る戦術です。

しかしながら、新たな技能を身につけるためには多くの時間が必要であり、他部署へ異動させてもらうなどの配慮が必要と思います。しかし、異動希望が叶えられる可能性は低いとも考えます。

3つめは、解決手段を提供することは諦め、課題を提供する側に回る、すなわち、起業するということです。

この場合には会社を辞めなければなりませんのでリスクが高いといえます。会社によっては社内ベンチャー制度もあるようですが、有効に活用されている例はあまり聞きません。

このように、会社で働いている間には、今の技能を高めるという1つめの手段しかとれませんので、競争が過酷になる、つまり生き残れる可能性が低くなるジレンマがあります。

しかしながら、夜間の社会人大学院に通うとか、週末起業をするなどして、2、3つめの手段を取ることも可能ですので、金銭的・精神的に余裕があるうちに次の手をいろいろ考えることも必要と思います。

2012年1月27日金曜日

ソリューションビジネスについて

私は10年ほど前、NECの生産技術開発本部という部署で働いておりました。その名の通り、NECグループの製造機械を開発・設計する部署でありまして、男ばかりのお固い部署でした。

私がNECに入ってしばらくすると「・・・ソリューション技術部」など横文字が入った部署が増えてまいりました。3K職場の私には、「ソリューション」の部分がなんとなくいけ好かない気がしていました。

ソリューションビジネスの元祖はIBMといわれています。日本勢の攻勢によりメインフレームの販売で劣勢に立たされたIBMが始めたモデルであり、コンサルテーションやシステムインテグレーション、アウトソーシング等のサービスを組み合わせたビジネスをいいます。

簡単にいえば、単なるハードウェアの販売に、情報処理システムを構築するために好適なハードウェアの組み合わせを提案するサービスを組み合わせたものといえるでしょうか。

このようなビジネスモデルのメリットは顧客の課題解決を自社でできることと思います。従来の販売は、顧客が課題を感じ、その解決手段としてハードが売れますので、販売はあくまでも待ちの姿勢となります。

顧客の課題を分析できることができれば、必要な解決手段を販売側で提案できますので、攻めの営業を行うことができます。顧客が気づいていない潜在的な課題を抽出できれば、さらに販売を伸ばすことも可能となります。

マーケティングでは顧客のニーズを探ることが重要とされます。しかしながら、近年ではニーズといえるようなニーズは存在せず、潜在的なニーズを探ることが重要となっています。

ソリューションビジネスは、顧客の課題解決を通じて潜在的なニーズを浮き彫りにできますので、IBMはこのあたりをうまくやって復活を果たしたということでしょうか。

さて、私がNECを退社したのち、NECは半導体やPDPなどの事業を切り離し、ソリューションビジネスに経営資源を集中しました。コアコンピタンス経営というやつです。IBMと同じ土俵で戦うことになりますが、なんとか頑張ってもらいたいものです・・。

2012年1月24日火曜日

第8回「サロン・ド・MOT」 講演について

1月23日の夜、「サロン・ド・MOT」にて日米特許法改正についての講演をしてまいりました。

「サロン・ド・MOT」とは、農工大MOT卒業生、MOT在籍者、MOT教員などが月1回都内の某所に集まりまして、技術経営に関して語り合う場のことです。

今回は光栄にも私が演者ということで、何をお話しようと考えましたが、日米の特許法改正が重なりましたので、このネタにしました。

日本の特許法改正で大きな話題となったのは以下の図です(法改正とは関係ないですが・・・)。


                                                                                             (出典:日本経済新聞)

こうみると、日本の特許出願件数は減少傾向にあり、事実上、中国に抜かれておりますので、これはどうなんだという話となりました。確かに、日本の開発活動が低下した結果、出願件数も低下したならゆゆしき事態です。

一方、従来の出願できるものは何でも出願するというスタイルが修正され、不必要な出願が削減された結果ともいえます。

日本の発明は新興国において即座に翻訳され真似されてきましたので、そういう意味では日本の出願件数が減って不利益を被るのは中国あたりかもしれません。

いずれにせよ数字にはいろいろな見方があることを再認識いたしました。

また、米国特許法改正については、やはり先願主義への移行が話題となりました。


発明をあらかじめ公表してしまえば、米国出願まで最大2年の時間的猶予がありますので、この2年間をどう考えるべきか議論となりました。結論はでませんでしたが。

その後、田町の飲み屋で今後の「サロン・ド・MOT」の進め方など議論させていただきました。(その他就職問題など)

発表の機会をいただき誠にありがとうございました。

2012年1月21日土曜日

課題と解決手段について

私は会議が苦手です。時間を取りますし、声の大きい人の意見が通ることが多く、参加する意味が無いと思うこともあります(単なる議論下手かもしれませんが)。

先日ある経営会議に出席したのですが、議題は「売上向上」という、どの会社でもあるような議題でした。様々な解決方法を議論した結果、「特定の会社に営業に行く」ことに決定しました。つまり、「売上向上」という課題に対し、「営業」という解決手段を選択したことになります。

こういう会議には、私は2点の問題があると思います。1点目は解決手段を出しあうことには意味がないということです。

解決手段自体は巷に存在する方法を適宜選択すればよいため、googleで「売上向上」を検索すればよいだけの話であり、時間をかけて会議でアイデア出しをするほどのものではありません。会議の前に検索しておいて、参考資料として会議で提示すれば会議も早く終わります。

2点目は、「売上向上」という課題に対して「営業」という解決手段が妥当であるか不明確な点です。「売上向上」という課題はそのままでは解決できない大きさの課題であり、解決できる程度まで課題を分割(ブレークダウン)する必要があります。

マーケティングの4P(place, price, promotion, product)というフレームワークを用いて分割すれば、「売上向上」という課題は、「製品上の課題」、「販売ルート上の課題」、「価格上の課題」、「宣伝上の課題」という単位に分解できます。

「宣伝方法」に課題がある場合には、「営業」という解決手段はそれなりに妥当ではありますが、価格が高い点に課題がある場合には営業しても効果はなく、価格戦略をどうすべきか考える必要があります。

したがって、有効な会議とするには、根本の課題を見出す議論を行うか、予め課題をブレークダウンしておいて会議に参考資料として提出するような工夫が必要でしょう。課題がきちんと設定できれば、解決手段をgoogle検索する程度で効果的なoutputを出せるのではないでしょうか。

時間をかけて会議を沢山行い、仕事をしたつもりにならないよう注意したいものです。

2012年1月12日木曜日

無理難題について

以前の投稿で、下請けの企業は大企業から技術的な課題を提示されるので、下請けの企業は特許情報を収集する必要はないと書きました。この点について、もう少し丁寧に書きたいと思います。(下請け企業とは大企業の仕事を請ける企業とします。企業のレベル云々を表現するものではありません。私自身も下請けの仕事をしています。)

まず、大企業は自社の経営上の課題を設定します。大企業の場合には世界市場におけるシェアを拡大するとか、新たな技術分野に進出するとか、比較的大きな課題となると思います。ただし、大きな課題のままでは課題を解決できませんので、課題を細かく分解して、解決可能な大きさの課題まで小さくします。

これを図解すると次のような感じになります。
大課題⇒中課題⇒小課題の順に課題が小さくなります。例えば、自動車の場合には「燃費の向上」⇒「エンジンの軽量化」⇒「バルブスプリングの軽量化」とでもなるでしょうか。つまり、大企業が車の燃費を向上したい場合には、下請けの企業には、バルブスプリングを現状のものより軽量化してください、との要求を出すことになります。そして、小課題をすべて解決することにより、結果として大課題が解決されることになります。

したがって、大企業は、①課題設定機能、②課題分析機能、③課題分配機能を有するといえます。

このように、下請け企業は大企業の課題の一部を解決することになります。ここで、10%軽量化とか、5%コストを押さえるなどの比較的リーズナブルな課題であれば良いのですが、一部の報道で伝えられているような、50%値下げ要求などの無理難題ともいえる課題が提示された場合にはどうすればよいのでしょうか?

まず、何とかして解決することが考えられます。しかし、課題が無理難題の場合には赤字前提で受注するということになるでしょうか。

また、仕事をお断りするという考えもあると思います。この場合には、大企業からの仕事が今後来なくなることを覚悟しなければなりません。

なかなか難しいかと思いますが、代案を出すという考えもあると思います。大企業の課題分析の結果、50%コストカットという課題が導かれたとしても、課題の設定や課題の分析に問題がある可能性もあります。また、他の見解もあるかもしれません。

ただし、代案を出すためには独自に課題を分析する必要があり、下請け企業には荷が重いといわざるをえません。一番の解決法は、大企業の課題設定及び課題分析作業に下請け企業も加わってもらって、一緒にアイデアを出すことと思います。

そうすれば、無理難題ともいえる課題が下請け企業に提示されることはなくなるのではないでしょうか。

2012年1月7日土曜日

イノベーションについて

さて、もう一つのキーワードである「イノベーション」ですが、これは前にも述べましたように既存のアイデアの新しい組み合わせを考えることが必要です。イノベーションというと何か新しいことをしなければならない気がしますが、考えのベースとなるのは既存の物に過ぎません。

したがって、今あるものをまず知るということが大切と思われます。そして、いろいろな観点でものごとを見てみることが必要なのではないでしょうか。 鳥の目、虫の目、魚の目などともいいますが、観点を変えるとまた違う風景が見えるものです。

例えば、i-podなども出た当時は、あまり売れないだろうという評判が多かったですし、私もそう思っていました。なぜなら、mp3プレイヤーというものが既にありましたので、今更アップルが音楽プレーヤを出しても売れる理由がありませんでした。

しかしながら、現在ではi-podは私も持ってますし、音楽プレーヤーの代名詞ともなっています。これは、音楽プレーヤーというハードウェアとインターネットを組み合わせた部分にイノベーションがあったともいえます。

余談ですが、私は、10年以上前にレコード会社の友人にmp3ファイルを使って音楽のデータだけで販売してみてはどうかと提案したことがあります。しかし、当然ビジネスにはなりませんでした。その理由は、CDより音質が劣るとか、課金システムや著作権の管理をどうするかとか細かい問題もありますが、一番の理由はCD市場を食ってしまう可能性があったからです。

当時はミリオンセラーも多く出ていた時代ですので、わざわざCDの売上を減らすようなビジネスは会社として実行できないのは当然といえるでしょう。

何を言いたいのかといいますと、「イノベーション」とはアイデアだけではダメであり、実行し、世の中に定着して初めて「イノベーション」 といえるということです。i-podに似たアイデアは世界中で考えられていたと思いますが、実際に実行できたのはアップルだけでした。

アップルはCDを製造しておりませんでしたのでネット販売を行いやすかったともいえますが、様々な課題を乗り越えてゆくマネジメントも重要といえるでしょう。

2012年1月4日水曜日

グローバル化について


前回はパラダイムシフトの話をしましたが、現在生じているパラダイムシフトのキーワードとなるのは「グローバル化」と「イノベーション」と個人的には思っています。つまり、「グローバル化」と「イノベーション」を推進することが生き残りの鍵と考えます。

さて、「グローバル化」と簡単にいいますが実際にはどうすればよいのでしょうか。ちまたでは「グローバル化」に対応するために英語を勉強することが薦められておりますが、語学を習熟すればグローバル化に対応できるのでしょうか?

確かに語学はコミュニケーションを図る意味で重要と思いますが、会社内に通訳の方を沢山雇っただけではグローバル化企業となれるわけではないことは明らかと思います。

「グローバル化」の一つの考え方としては、「課題」や「解決手段」のネタを日本国内だけではなく国外に求めることにあると思います。つまり、従来は日本国内で閉じていた「課題」や「解決手段」の探索の範囲を国外に広げるということです。

例えば、製造コストを低減したいという課題を解決するために、「解決手段」として、人件費、土地代、税金が安い外国に工場を建設することなどがあります。従来は、国内に工場を建設していましたが、この検討範囲を海外にまで広げることが、「グローバル化」の一つの形なのではないでしょうか。

実際に日本企業は中国やベトナム、タイに工場を立てて、ユニクロなど成功している企業も多くあります。

ただし、「解決手段」をグローバル化することは非常に容易であり、第三者が模倣しやすいというデメリットがあります。つまり、「解決手段」をグローバル化しても差別化できる期間は短く、競争優位はすぐに失われることになり、価格競争から逃れることはできません。

それでは、「課題」のグローバル化はどうでしょうか?例えば、PGなどはインドで歯磨きを売るために超低価格のハミガキを販売していたりもします。これは、インドの低収入や歯磨きの習慣がないという課題に対応するものです。

同様にサムスン電子などは、低価格のテレビをブラジルなどの新興国に投入しております。このような国に応じた「課題」をうまく拾えれば、中々真似されにくく競争優位を長く維持することが可能となるでしょう。

ただし、このような国に応じた「課題」を抽出するには、その国の課題を把握する必要があり、非常に難易度が高いともいえます。ある程度のリソースを投入してその国の情報収集(マーケティング)に時間をかける必要があるといえるでしょう。

このような考え方は、グローカルとか現地化とも言われますが、マクドナルドやi-podなど現地化せずとも世界中に普及するビジネスもありますので、世界共通の課題を解決するという考え方もあるかもしれません。

したがって、日本国内に限らずこの世に存在する課題をいろいろ考えてみることが「グローバル化」の第一歩といえるでしょう。

2012年1月1日日曜日

謹賀新年

本年が皆様にとって幸多き年となりますようお祈り申し上げます。

 (2011.12.29 竹富島にて)

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