2015年10月24日土曜日

ノウハウ秘匿について

先日、とあるセミナーに参加しましたところ、帰りがけに雑誌記事のコピーを渡されまして、帰りの電車の中で読んだところ、次のようなことが書いてありました。

とあるコンサルタントの方が、とある中小企業を訪問した際に、特許出願を見せてもらったところ、明細書に製造ノウハウが事細かに記載されており、大丈夫なのかと心配になったとのこと。

しかも、その明細書を書いた代理人を確認したところ、弁理士会の会長(副会長?)をされていた方ということで、 二重に驚いたとのこと。

・・・

上記の記事の内容はさておき、近年、製造方法等はノウハウとして秘匿すべきとの考えが強くなっています。それは当然誤りではないのですが、何も考えずに製造方法であればノウハウ秘匿とするのは、ちょっと危ないと思います。

そこで、以下のノウハウ秘匿判断ツリーを考えてみました。(はみ出しているかもしれませんが・・・。)



まず考えるべきは、そのノウハウについて、他社が権利化する可能性があるかどうかです。他社が権利化してしまえば、もはや自社はそのノウハウを実施することはできません。

コカ・コーラの製造方法のように他社が絶対に製造不能のものもありますが、たいていのノウハウについては、技術者の試行錯誤により到達できる技術レベルと思います。そうすると、他社により権利化される状況も考慮しなければなりません。

他社に権利化された場合の対策として、先使用権を主張することが考えられます。ただし、先使用権を主張するためには、特許法79条の要件事実をすべて立証する必要がありますので、常日頃から証拠を確保する活動が社内に必要となります。

そのような体制がない場合には、自社で先に特許出願して権利化してしまうという考えもあるかもしれません。

また、他社の権利化の可能性が低い場合には、ノウハウ秘匿とすることは、大いに考えられますが、その場合には、自社に営業秘密が流出しないような管理体制があることが必要となります。

具体的には、営業秘密管理規程を作成し、従業員の教育を行い、社内システムを整備する、ことなどです。

しかしながら、最近、新日鉄の方向性電磁鋼板の技術が退職者を通じて、韓国・中国へ流出したことがニュースとなりましたが、営業秘密管理をしっかりやっている会社でも、技術情報が流出してしまう場合があります。

一度情報が洩れますと、情報は無体物ですから回収することは難しいですし、拡散を止める手立てはありません。

したがって、そのようなリスクがある場合には、やはり、自社で先に特許出願して権利化してしまうという考えもあるかもしれません。

最後に、ノウハウの特許出願ですが、これは、早期審査制度を利用することをお勧めします。通常の出願ですと、出願公開されたのち、査定がなされるケースが多いと思われます。

特許査定であれば何の問題もありませんが、拒絶査定となった場合には、ノウハウが無駄に公開されてしまうことになります。(公開されたノウハウは誰でも自由に実施できます。)

早期審査制度を利用することにより、出願公開前に査定(特許、拒絶)を得ることが可能となりますので、拒絶査定となった場合でも、そのノウハウが公開されることはありません。

なお、早期審査制度の利用には、一定の要件があり、誰でも利用できるというものではありませんので、特許庁HPで確認いただければと思います。

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上の記事につきましても、表面的には弁理士のミスのようにも感じられますが、実際のところは、様々な事情を考慮しないと何とも言えないといえます。

また、ノウハウを積極的に公開することにより、市場形成に成功した例として、即席麺の事例もありますし、要は、目的があればノウハウ開示もありうるということになります。

したがって、ノウハウ秘匿は絶対であるとして、思考停止になることは避けたいと思いました。

2015年10月18日日曜日

周知技術問題について


以前このブログで、1回目の拒絶理由通知で新たな事項を組み込む補正をすると、周知技術で拒絶査定となり困っていることを記事にしたことがあります。

http://chizai-design.blogspot.jp/2015_06_07_archive.html

審査基準も新しくなりましたので、この周知技術問題(と、勝手に名付けましたが・・・)が新審査基準下で今後どう扱われるのか、考えてみたいと思います。

まず、審査基準の「第III部 第2章 第2節  進歩性」の「3.3 進歩性の判断における留意事項」には以下の記載があります。

(3)審査官は、論理付けのために引用発明として用いたり、設計変更等の根拠として用いたりする周知技術について、周知技術であるという理由だけで、論理付けができるか否かの検討(その周知技術の適用に阻害要因がないか等の検討)を省略してはならない.

ということは、周知技術で拒絶するには、論理付けもしなければならないのが原則といえますので、論理付けを明示するために、次のアクションは、再度の拒絶理由となるのが素直な考えと思います。

拒絶査定の「備考」で、無理やり論理付けをしてしまうという荒業もあるかもしれませんが・・・。これは、止めてほしいです・・・。

次に、審査基準の「第I部 第2章 第2節 先行技術調査及び新規性・進歩性等の判断」 の「2.2 調査対象を決定する際に考慮すべき事項」には以下の記載があります。

(2)審査官は、査定までの審査の効率性を踏まえて、補正により請求項に繰り入れられることが合理的に予測できる事項も調査対象として考慮に入れる。

つまり、補正により請求項に繰り入れられそうな事項についても、先行技術調査の範囲にあらかじめ組み込まれていることから、周知技術についても、最初の拒絶理由通知時に周知文献として先回り的に出願人に提示することもできるのではないでしょうか。

拒絶査定にていきなり不意打ち的に周知文献を提示するよりも、このようにしていただいた方が、出願人も対応の方針を立てやすいと思います。

以上のように、審査基準の内容は、実は結構ユーザーフレンドリーな内容となっています。あとは、この審査基準に基づいて粛々と審査がなされれば、周知技術問題も自然となくなると思います。さて、どうなるでしょうか。

2015年10月16日金曜日

特許、意匠の審査基準など

本日は、知的財産権制度説明会というものに参加してまいりました。講義の題目は「特許審査基準」と「意匠審査基準」でした。

特に、特許審査基準は2015年10月1日に改定されたばかりですので、何か新しい話が聞けるのではと思いました。

結果的には、特に目新しい話はありませんでした。しかし、これはこれでよいことです。

この手の説明会は新しい知識を仕入れるというより、自分の知識に穴がないか、認識に誤りがないかを確認する意味が大きいです。

特に、審査基準に関する認識が誤っていた場合には、大きな手続き上のミスにつながり、お客さんに回復不能な損害を与えることになります。

説明会の内容がすんなり入ってくるということは、実務上の勘が鈍っていないといえますので、しばらくは、弁理士としての仕事を無難にすることができそうです。

逆に、審査基準説明会の内容がよくわからなくなって来たら、この仕事をやめる時期が来た、すなわち引退の時期と思います。

さて、上で申し上げましたように、特許の審査基準は2015年10月1日に改定されました。

改定の考え方としては、簡潔・明瞭化、事例・裁判例の充実、英語に翻訳できる日本語を使用(今の記載では外国人に説明するのがしんどいですし)・・・、というようなコンセプトのようで、従前の780ページから、約500ページへとボリュームが減らされました。

単純な私は読む量が減ると思って喜んだのですが、ぬか喜びでした・・・。

審査基準は確かに簡略化されましたが、やはり、簡略化しにくい部分もありますので、それらは、「新・審査ハンドブック」に移動したようです(すいません、私はまだ読めていません)。

新・審査ハンドブックは、従前の140ページから2000ページ!へと大ボリュームアップされました。

したがって、今後は基本的なところは「審査基準」でおさえて、よりつっこんだところは、「審査ハンドブック」を参照して実務をこなす必要がありそうです。

2015年10月13日火曜日

付記試験の勉強について

そろそろ付記試験の季節と思います。googleで付記試験を検索しますと、あまり盛り上がっていないようですので、弁理士試験と同様に、受験者数も減っているのかと思います。

さて、この時期の勉強としては、もうじたばたしてもしょうがありませんので、基本に返って「知的財産権侵害訴訟実務ハンドブック」を1ページ目から通読することをお勧めいたします。

結局のところ、付記試験の問題は、この本に基づいて作られるといえますので、この本がスラスラ読めれば、合格に近いということがいえます。

私も試験前日はこの本を通読して、知識の最終確認をしました。

しかし、通読するとわかりますが、初見の内容も多々あり、えっと思う内容もあると思います。

勉強不足が一つの理由ですが、過去問に聞かれていない部分も知識としてごっそり落ちている場合もあります。

過去問で聞かれたことがない部分は、出題されるとしても条文レベルの問題となりますので、条文の位置だけでも簡単に押さえておくとよいことがあるかもしれません。

私もこれで、5点ほど得をしました・・・。

昨年の問題で驚いたのが、「請求項の分説」をさせる部分がないことでした。一応特許専門にやっている私でも試験現場で請求項の分説作業をするのは非常にしんどいものがありました。

去年はそれがありませんでしたので、特許実務をやっていない方にも、取り組みやすい問題だったといえます。実際、合格率も例年に比べて高かったように思います。

もちろん、去年でなかったからといって、今年も「請求項の分説」がないわけでもありませんので、試験対策上は慣れておくのがいいと思います。

最後ですが、合格率は50%くらいありますので、2回受ければ合格する、くらいの楽な気持ちで試験に臨むのがよいのではないでしょうか。

2015年10月3日土曜日

失敗しないための知識について

先週、ある登山家の方が、エベレスト登頂を断念したことがニュースになっていました。

断念の理由としては、雪が深くラッセルが困難ということで、素人の私には、それではしょうがないという印象でした。

ところが、某登山ファンの集まるサイトを覗いたところ、かなり早い段階で登頂は無理であることが予見されていました。

その理由としては、最終キャンプの位置が山頂から遠すぎ、山頂にたどり着く前に体力がつきるというものでした。

たとえ辿り着いても、最終キャンプに戻る体力はなく、山頂付近でビバークする必要があり、8000m超でのビバークは死を意味するということでした。

実際に、雪を掻きわける体力が失われたことが断念の理由ですので、この予見は正しかったことになります。

よく考えてみますと、エベレストに登頂した人は無数におりますので、その登山の方法論というものは無数の登頂事例からほぼ確立していると考えられます。

したがって、あるべき最終キャンプの位置というものも、いくつか特定された位置があると思われ、その位置に最終キャンプがなかった段階で失敗は確実という訳です。常人を超えたテクニックや体力があれば別ですが・・・。

そう考えると、つまらない話ですが、登山計画を立てた段階で、失敗することは、ほぼ明らかとなるのではと思います。

次に、その登山計画を正確にトレースできるか否かで最終的な、成功・失敗が決まることになります。

登頂が成功することは、体調や天候など不確定要素に左右されるため、予想することは難しいですが、登頂が失敗することは、計画段階でほぼ確実に分かってしまうわけです。

・・・

よくMBAは役に立たないといわれます。MBAで教えていることといえば、過去の企業の成功事例を体系化した知識です。

確かにMBAで得た知識に基づいて経営を行っても、成功するかどうかは、よくわかりません。成功が確実であるならば、MBAの教授はみなお金持ちですが、そういう訳でもないようです。

しかしながら、MBAで教えるような経営戦略を無視した経営は失敗する可能性が高いということができると思います。

経営戦略は成功事例に基づいて理論化されていますので、理論を計画に落とし込んで、実行することが成功へ到達する道筋となると思います。(それでも、不確定要素により失敗することはあります。)

そういう意味では、MBAの知識は成功するためというより、失敗しないための知識といえるかもしれません。

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先の登山家の方は、登頂に再チャレンジするそうですか、登山計画はどうなっているのか興味深いところです。最終キャンプ地がどこになるか注目したいと思います。

2015年9月16日水曜日

解決手段と提案について

弁理士キャラバン研修の最終回に参加してまいりました。本日は前回抽出した課題の解決手段を考えてお客さんに提案する、という内容でした。

そこでも感じたことはいろいろありました。一つは、解決手段の提示は課題とセットにした方がよいということです。

お客さんに解決手段のみを説明しても、課題がわからないと、「なんでやるの?」という反応しかかえってきません。

したがって、「特許出願しましょう!」というのではなく、「貴社の技術が模倣されるおそれがある」、ので、「特許出願しましょう!」という方がわかってもらえることになります。

また、提案する解決手段がどうしても自分のできることに引きずられてしまうこともわかりました。

例えば、本当であれば会社の組織体制を見直すことを提案すべきところ、当然弁理士はそのような提案は実行できませんので、知財部をつくりましょうというような、ちょっと本質から遠い、自分でできる提案をしてしまいます。

ただし、自分にできないことを提案しても仕事にはなりませんので、これはやむを得ないと思います。

さて、いろいろなチームの提案を聞かせてもらいましたが、提案としては、管理規程類の整備、秘密保持体制の整備、特許出願の活性化、従業員への知財教育等を1件うん十万円、もしくは、月何回か訪問して指導するというものが多くみられました。

そう考えますと、私が「御社の知財部®:http://www.ip-design.co.jp/」で行っているサービスもまさにこのようなことであり、相場よりも安くやらせていただいておりますので、ご要望があればぜひ当社にご相談ください。

さて、弁理士キャラバンの話に戻りますが、研修の終了とともに、最終的には1000人程度の多くの支援員が生まれることになります。

中小企業からの弁理士キャラバンへの申し込み件数は現状数件しかないそうです。そうすると、支援員となって場合でも、ほとんど仕事がないことが想定されます。

もともとこの企画には無理があったのか、はたまた、今後の頑張りで挽回できるか、よくわかりません。

2015年9月6日日曜日

オリンピックのエンブレムの件

東京オリンピックのエンブレムの件、ひとまず選定やり直しとなったようです。この件については、何か書こうと思いつつ、さぼっている間にあまりにも速い動きがありタイミングを逃しました。

世の中の意見を見て、一つ誤解があると思いましたのが、ロゴが似ているから著作権侵害になるとの考えです。

あまり著作権をうるさくいうとデザイナーが委縮するとか、アンチ著作権的な意見も見受けられます。

しかし、著作権侵害とされるには、ロゴが似ている以外にも、様々な要件が必要とされます。その一つには「依拠性」があります。

簡単に言えば、そのロゴを見てまねをした事実が必要です。

逆に言えば、著作権法的には、似たロゴがいくつ存在しても問題がなく、まねをした場合にのみ問題が生じる構造となっています。

これは、著作物は人間の人格の表れであり、似たロゴを拒絶するのは、似た人間の存在も拒絶することになり都合が悪いということです。世の中に似た人間、違う人間がいるのは当然ということです。

今回のオリンピックエンブレムも似た部分はありますが、「依拠性」が不明ですので、実際に裁判となって証拠を出し合わないと、著作権侵害かどうかはなんとも言えないということになります。

したがって、著作権侵害だというのは言い過ぎですし、著作権侵害ではないというのも言わなさ過ぎということになります。

今回、致命的であったのが、トートバックの「BEACH」、「フランスパン」、プレゼンに使用した「風景写真」です。

「BEACH」には微妙なフリーハンドのペインティングによるグラデーションがあり、「フランスパン」には焼きあがりの模様があり、「風景」には人混みがあります。

このような「ランダム性」の高い表現は、偶然に一致することはありませんので、両ロゴに同一の表現がある場合には、 「依拠した」ことが明らかとなります。

今回のエンブレムのような幾何学的要素の組み合わせの場合には、偶然似てしまうことがあるかもしれませんが、ランダム性の高い要素の場合には、言い逃れはできません。

さて、今後の東京オリンピックのエンブレムの件ですが、審査に際し著作物の詳細な調査が避けて通れないと思います。

しかし、著作物には登録制度がなく、広く公開されているものでもありませんので、調査には労力が必要となり、すべての著作物を調査することは現実的ではありません。

そうすると、例えば、候補をいくつか絞り込んだ段階で世の中に開示し、一般国民の意見を収集するのが現実的かと思います。

2015年9月5日土曜日

課題分析の難しさについて

先日、弁理士キャラバン研修の4回目に参加してまいりました。

今回からグループワークということで、研修は最終ステージとなります。

グループワークはしんどいからなのでしょうか、今回は多少欠席された方も見受けられました。

私もグループワークが非常に苦手で、最近は聞くだけの座学研修に参加することが多いです。

苦手な理由の一つとしては、私は時間をかけて考えるタイプなので5分10分の検討で自分の意見を表明するのが難しいこともあります。(単に頭が悪いともいえますが)

あと、どうしても声の大きい方の意見にまとまりがちなので、たまに、結果に納得できない場合もあるからです。まあ、人を説得できるような自分の意見をしっかり述べればいいんでしょうけど・・・・。

今回のテーマは、対象企業の「課題」を分析して、対象企業へのインタビュー項目を考える、というものでした。

課題分析ですが、いろいろな方の意見を目にしますと、分析の難しさを改めて考えさせられました。

難しさの一つには、課題の抽出に、解決手段が混入することです。

例えば、「知財対応の人材がいない」、や、「特許出願件数が少ない」、は、「課題」といえますが、「知財の部署をつくるべき」、や、「特許出願を増やすべき」、は、「解決手段」といえます。

特に、弁理士は解決手段を提案することが得意ですから、抽出内容に、どうしても解決手段が多くなり、課題がなにかよくわからなくなります。

また、課題と解決手段は、「特許出願が少ない」、「特許出願を多くすべき」、と表現上裏腹の関係に過ぎないことありますので、 深く考えると切り分けが難しいということもあるかと思います。

そうすると、対象企業のインタビュー時に、「特許出願件数が少ないですが、どのようにお考えでしょうか」と聞いて、対象企業の課題をえぐりだすべきところ、「御社は特許出願件数が少ないので、知財部をつくって出願を増やしましょう」と聞くことになり、対象企業からは「わかりました」との意見しか引き出せないことになります。

もう一つの難しさは、目に見える課題に分析が引きずられることです。

対象企業の内部的な問題点を説明する紙が配られてから、対象企業の経営上の課題の分析をしたのですが、そうすると、抽出される課題には、対象企業の内部事情がどうしても多くなります。

企業の内部事情の課題を解決すれば経営がうまくゆくということになってしまいますが、当然そうではありません。

経営上の課題は、内部事情のみならず、外部環境や、競合企業の状況や、顧客の嗜好等から生じる課題もあります(人口減少、大企業の参入等)。

そうすると、バランスよく情報をとって、特定の要因に引きずられないような分析を心がける必要があります。これは、各種フレームワークを使用することにより、片寄りを防げそうです。

弁理士キャラバン研修の次回最終回は「解決手段を考える」ことがテーマとなりますので、また、新たな気づきがあるのではと思います。

2015年8月19日水曜日

オープン・クローズ戦略について

本日は、弁理士知財キャラバンの支援員となるための第3回目の研修を受けてまいりました。

本日の研修では、近年話題のオープン・クローズ戦略のお話がありました。

一つ興味深かったのが、オープン・クローズ戦略の定義が現状ではいろいろとあり、一つに定まっていないことでした。

オープン・クローズ戦略の定義は、大まかに言えば、以下の2つに区分できると思います。

①特許出願を行い技術を開示する領域をオープン領域とし、ノウハウ秘匿とする領域をクローズ領域とし、これらを組み合わせる戦略をオープン・クローズ戦略とする。

②自社独占実施をする領域をクローズ領域とし、他社実施を許容する領域をオープン領域とし、これらを組み合わせる戦略をオープン・クローズ戦略とする。

最近流行りのオープン・クローズ戦略の意味は②に近いのではないでしょうか。

②の場合には、オープン領域、クローズ領域に自社特許権があってもかまいませんし、なくてもかまいません。

自社特許がある場合は、自社特許権の独占性によりクローズ領域を容易に形成できますし、オープン領域は他社に無償、もしくは、リーズナブルなライセンス料で実施を許諾することにより容易に形成できます。

自社特許がない場合には、契約によってオープン領域とクローズ領域の境界を定めることになります。

とはいえ、この戦略がうまくゆくかといえば、このままではうまくいかないと思われます。

まず、オープン領域とはいいますが、通常はライセンス料を払うくらいであれば、設計変更して特許権に抵触しないような実施をすると思います。

したがって、オープン領域に他社を誘引する何らかの仕組みが必要となります。

また、オープン領域とするよりも、すべてクローズ領域にして自社で独占実施するほうが利益率は高くなりますので、通常はオープン領域を設けないと思います。

したがって、オープン領域を設けても利益率が低下しない仕組みが必要となります。

オープン領域に他社を誘引する仕組みとしては、標準化が一つの可能性として考えられます。標準化技術は使用することが義務付けられますので、オープン領域と標準の技術内容が重なり合うようにすればよさそうです。

オープン領域を設けても利益率が低下しない仕組みとしては、製品のバリューチェーンを分析し、付加価値の高い場所をクローズ領域とし、付加価値の低いところをオープン領域にして、自社は儲かる部分に専念し、他社には儲からない部分をやらせれば、うまくゆきそうです。

ということで、オープン・クローズ戦略は単に知財だけの問題ではなく、ビジネスモデルや標準化の知識がないとうまくゆく仕組みを作れないということになるかと思います。

あと、中小企業がオープン・クローズ戦略をはたして実行できるかという疑問もあります。

オープン・クローズ戦略を実行するためには、特定の技術領域に、多数の自社知財権を分布させる必要がありますが、中小企業の特許出願件数はそもそも多くはありませんので、少ない知財権ではオープン領域とクローズ領域とをうまく規定できない可能性があります。

そうすると、中小企業向けにアレンジしたオープン・クローズ戦略を開発する必要があると思いますが、どなたか考えてもらえないでしょうか・・・。

2015年8月17日月曜日

機能美と装飾美について

東京オリンピックのメインスタジアムの建設費用が高すぎるとして問題となっています。

今の日本であれば3000億円程度であれば、出せない額ではありませんが、世論的には批判の的となっています。

その理由はなぜかといえば、あのヌメッとしたデザインに3000億円の価値はないと日本国民が認識しているからと思います。

デザインが備える美には、機能美と装飾美があるといわれています。

機能美とは機械や建築物等が機能を発揮するために必要な形態から生じる美といえると思います。

美しい形態は優れた機能を発揮することが期待できますので、人間がこのような形態に本能的に美を感じるのかもしれません。

装飾美とは、機能とは関係なくデコレーションした形態から生ずる美といえると思います。例えば、花柄とか、意味不明な突起とか、まあそういうものです。

工業製品の場合には、機能を満たすことが必須ですので、機能美を重視しつつ、コストや性能に余裕がある場合には、装飾美を付加することになるかと思います。

例えば、刀や戦闘機などの武器類は装飾美「0」といえますが、カッコよく見えるのは、研ぎ澄まされた機能から生ずる機能美があるからです。

民生品でも、乗用車のように多少の遊びが可能な場合には、セクシーな曲面を多用するなど外形に装飾を施すことも可能です。この場合には、機能美と装飾美のバランスを考えることになるかと思います。

さて、以前の案のメインスタジアムのデザインを見ますと、装飾的な形態が多すぎると思われます。

巨大なキール部分や 、女性器を連想させる外形には機能上の必要性がありません。

したがって、ヌメッとした形態に美が感じられない人には、やめてほしい建物となると思います。

もちろん、機能的な形態だけでは無味乾燥なスタジアムができますので、久しぶりのオリンピックであることも考えますと、お年寄りの審査員からみれば装飾をてんこ盛りとしたい気持ちもわかります。

しかし、それは多くの国民の感性とは異なるものであったということでしょう。

そうすると、今後のスタジアムのデザインについては、多くの人が本能的に理解できる機能美部分を多くして、装飾美部分については、多くの人が美を感じられる形態とする必要があると思います。

日本人が共通して感じられる美としては、神社・仏閣のデザインや、森や花など自然をモチーフとした形態などがあり、これらは外国人も日本的と感じますので、こういう形態をとりいれるのが無難と思います。

あとは、 2020年の東京オリンピックを予言していたAKIRAなどのサイバーパンク的なデザインも私世代以下の人には受け入れられる余地があるかもしれません。

さて、新たにデザインされるスタジアムはどのような形態になるのでしょうか。楽しみです。

2015年8月8日土曜日

フレームワークについて

最近は弁理士知財コンサルの研修に励む日々ですが、こういう研修で必ず紹介されるのがSWOT分析です。

ご存じとは思いますが、SWOT分析は、自社の状況について、強み、弱み、機会、脅威の4象限に分けて記入して、自社の状況を分析する手法です。

私が初めてSWOT分析を知ったのは、5、6年前の農工大MOTでのクラス討議でしたが、私以外の社会人学生は当然その程度は知っており、自分の馬鹿さ加減に驚いた記憶があります。

何年か前、某コンサルタントの先生が、あなたたちのSWOT分析は間違っている。本当はこうやるのだ、とおっしゃってましたが、逆に言えば、初心者でも初心者なりの分析ができる点で、とっつきやすいと思いますし、人気の理由と思います。

その他、フレームワークというものは無数にありますが、SWOT分析が生き残る理由としては、情報の分類数が、たった4つというところにあると思います。

分類数が多いと表をつくるのも大変ですし、見る方もパッと見で内容を理解することは難しいと思います。

何年か前の研修で、知財フレームワーク的なものを考案された方の解説を聞いたことがありますが、確かに、よく分析できるとは思いましたが、項目が若干多く、表を作るのが大変と思いました。そうすると一般に定着させることは難しいと思います。

世の中で使われているフレームワークといえば、PEST、4P、3C、アンゾフのマトリクス等、3つ、4つの分類となるのが多く、5フォースとなるとあまり使われておりませんので、このあたりの3つ、4つの分類数が上限なのかと思います。

そう考えると、知財関係のフレームワークを新たに考案しようとする場合には、2×2のマトリクス位とするのがよいと思いますが、どういう分類にすればよいのでしょうか・・・。

2015年7月25日土曜日

弁理士知財キャラバンについて

先日、弁理士知財キャラバンの支援員となるための第1回研修を受けてまいりました。

弁理士知財キャラバンとは、日本弁理士会が各地の中小企業に弁理士を派遣し、知的財産活動についてコンサルティングを行う事業のことをいいます。

弁理士知財キャラバンを利用すれば、中小企業は、無料で弁理士によるコンサルティングを受けられるそうです。

支援員となるための研修は、1回が1日みっちり使った研修を5回うけ、その後所定の要件を満たすと実行委員会に認められれば、めでたく支援員となり、中小企業のコンサルを行えることになります。

本年度だけで1000人の支援員が誕生する予定です・・・。

ここで疑問なのが、はたして1000人も支援員が必要なほどの支援の要請があるのか、ということです。

この辺りは、弁理士会のプロモーションによることとなると思いますが、支援要請が少ない場合には、実行委員会にコネのない私のようなものには仕事が回ってこないことを危惧します。

研修で得たスキルをもとに独自に仕事を得ることも考えられますが、弁理士会が無料でやっているのにあえて有料でのコンサルをやろうという中小企業はないと思われます。

そう考えると勉強する意欲も薄れますが、とりあえず支援員にはなろうと考えています。

コンサルティングをご希望の中小企業の方は、募集が始まりましたら、当ブログで詳細な情報をお知らせしますので、少々お待ちください。

2015年7月16日木曜日

法的妥当性について

プロダクト・バイ・プロセスクレームに関する最高裁判決が平成27年6月5日にありました。

それに応じて、特許庁における審査・審判の取り扱いも修正されました。
(特許庁HP http://www.jpo.go.jp/torikumi/t_torikumi/product_process_C150706.htm )

今後は、物の発明に係る請求項にその物の製造方法が記載されている場合は、審査官が「不可能・非実際的事情」があると判断できるときを除き、当該物の発明は不明確であると判断し、拒絶理由を通知されることになります。

簡単に言えば、プロダクト・バイ・プロセスクレームを書いてはダメ、ということになるでしょうか。

今回の判決により請求項の表現は著しく制限されることになります。 技術分野によっては、発明の保護が十分に図れないという事態が生じるのではないでしょうか。

裁判官は、こう判断することが法的に妥当であると判断したと思いますが、たかだか4名の判事による判断が対世的に効力を持つことに、少々怖さを感じます。

特許は、法律、技術、ビジネスの境界に存在するため、各方面からの検討が必要と思います。しかし、裁判官は、法的妥当性から判断を行います。そうすると、今回の判決は技術的に妥当なのかという疑問があります。

近年、侵害訴訟の原告勝訴率が20%くらいしかないことが問題となっています。裁判官の方のお話を伺ったことがありますが、勝訴率うんぬんを問題にするのはよろしくない、というようなニュアンスの話をされておりました(正確ではありません。)

もちろん、法的には妥当な判断をされていると思いますが、それだけでよいのでしょうか?

企業はボランティアで特許出願をしているわけではありませんので、勝訴率が20%では、特許出願はしませんし、特許権があっても権利行使はしません。

そうすると、権利はあるのに行使しないという、法的に歪んだ状態が作り出されますし、権利行使がされないということは、そもそも、特許法が無意味化(いらない?)するという、法的に変な状態となります。

そう考えると、裁判官の判断が国民経済に不利益な方向に向かわないようにコントロールする必要があると思います。その一つの方法が、適切な立法をしてゆくことがあるのかと思います。

プロダクト・バイ・プロセスクレームについても、ビジネス、技術の分野の方々から、請求項の記載のあるべき姿をヒアリングし、必要であれば立法化してゆくことも必要なのかと考えます。

2015年7月11日土曜日

知財の予算など

たまに、特許や商標にあまりお金をかけない方法がないかと、聞かれることがあります。確かに、特許権、商標権をとるには、結構な費用が掛かりますので、お気持ちはわかります。

この場合、例えば、ノウハウで守るとか、先使用権を主張できるよう証拠を残すとか、そういう風なアドバイスをすることになります。

しかし、ノウハウで守るといっても高度な秘密管理体制が求められますし、先使用権を主張といっても証拠を保存して確定日付をもらう手続きが必要ですし、はたして実行できるのかという疑問は残ります。

そう考えると、権利なくして知財を保護するというのは、無理難題なのかもしれません。

なぜ権利をとるのかといえば、最終的には訴訟で勝つためです。訴訟では、権利に基づいて主張を行いますので、権利がない場合には、何も主張できずそのまま敗訴となります。

したがって、どんなに優秀な弁護士を雇っても、権利がなければ勝ち目はない、ということになります。

逆に、多くの権利があれば、権利をいろいろ組み合わせて戦うような、戦略の自由度を確保できます。こうなれば優秀な弁護士を雇う意味もでてくるかもしれません。

とにかく権利を取りなさいという弁理士は、あながち間違っていることをいっているわけではないいといえます。(権利化しないのであれば、弁理士の腕の見せ所がないという事情もありますが・・・。)

そうはいっても予算には限界もありますので、まずは、必要な知財権を洗い出し、優先度の高い知財権から予算を確保して、権利化を進めるのが、現実的な線と思います。

2015年6月10日水曜日

周知技術について

中間処理で拒絶理由を解消すべく補正して対処したところ、周知文献をいくつか追加的に提示されて拒絶査定となるケースが、何件か続きました。

周知文献を拒絶理由通知時に提示してもらえれば対処の方法もあるのですが、後出し的に証拠を出されると手の打ちようがありません。

大企業であれば、拒絶査定不服審判を請求すればよいので、あまり問題ないのかもしれませんが、中小企業に審判を請求させることは費用的に酷と思われます。

ユーザーフレンドリーな審査を目指すのであれば、

(1)進歩性を否定する根拠となる証拠については拒絶理由にすべて明示する。

(2)新たな証拠を追加する場合には、再度の拒絶理由を通知する。

となると思いますが、審査の迅速化の要請のためか、上記の無理な運用になっているようです。

そう考えると、今後の中間処理は、周知文献という「見えない証拠」があることを前提に対応する必要があると思います。

例えば、

(1)中間処理時には、出願人自ら「補足的な特許調査」を行い、拒絶査定にて不意打ち的に追加される可能性のある証拠を事前に把握する。

特許調査には費用がかかりますが、審判請求の費用に比べれば安くできると思いますので、検討の余地はあると思います。

追加的な特許調査を行わない場合には以下のような対応かと思います。

(2) 補正は、引用文献との差別化を図るだけで安心せず、拒絶査定にて不意打ち的に追加される可能性のある証拠の存在を前提に、さらなる減縮を図る。

過度に減縮補正をすることにより、周知技術とされるリスクを低減できます。ただし、権利範囲が必要以上に狭くなりますので、使えない特許権が量産されることになるかもしれません。

話はそれますが、最近は、中小企業が特許出願する意味を少し考えてしまいます。特許出願するにしても、審判、訴訟と結構な費用がかかりますので、技術開発やマーケティングにその費用を投じたほうが有益なのではとも考えてしまいます。

せめて、特許庁には手続きコストを押さえる審査を期待したいところです。

2015年5月2日土曜日

外部環境の変化について

私の知り合いが相次いで職場を辞めて、別の職場に移りました。

理由は、経営者の経営方針と合わないとか、組織変更のあおりをうけて居場所がなくなったとか、そういう理由です。

こういう、自分には原因がないのに、外部の環境変化で辞めざるを得ない状況というのは、誰にでも多々あると思います。

内に原因がある場合には、自分自身を改善してゆけばよいわけで、やることは単純です。

しかし、外に原因がある場合には、外を変えるというのは個人の力では無理ですので、対処を考える必要があります。

対応の一つとしては、職場を変えるなど、異なる外部環境へ移動することです。

A特許事務所がだめならB特許事務所へ、C大学がだめならD大学へ、日本がだめならアメリカへ、などです。

これは、移動先でも同じ状況となるリスクや、景気が悪いときなどはそもそも転職が困難というリスクもあります。

したがって、今の職場でうまくいっているとしても、日ごろから転職の情報収集を行い、転職可能な状態を維持する努力が必要となります。

他の対応としては、「ビバーク」があります。

ビバークとは山等で緊急避難的に野営することをいいます。これは、嵐や大雪の中で行動すると体力を消耗し命の危険が生ずるため、穴などに一時退避して体力を温存するものです。

職場でも、外部環境に逆らって活動するよりは、一時的に死んだふりをして目立たぬようにし、外部環境の変化を待ちます。

外部環境は一定ではなく、数年で改善することもありますので、その機会を狙って、活動を再開する作戦です。

この作戦の欠点は、外部環境の変化がいつになるか予期できないことと、人生の時間をロスすることにもなりますので、研究者やスポーツマン、芸能人など旬が短い仕事の人には向かないことです。

自分の経験でいえば、大学院は一年休学して「ビバーク」しました。その1年の間にそりの合わない方がいなくなりましたので、1年無駄にしたとは思いますが、修士号はなんとかとれました。

NEC時代は、私が仕事とする生産現場がなくなる方向にあり、会社に残っても仕事がないことと、年齢も30歳を超え、転職も難しくなることから、「ビバーク」はあきらめ、異なる分野への移動を図りました。

結局、転職は「場所」を移動する、ビバークは「時間」を移動する点で、移動することでは同じかと思います。

あとは、外部環境の変化にも動じないほどの実力をつければよいかと思いますが、私のような凡人にはなかなか難しく、悲しいですが 外部環境の変化に右往左往することがずっと続くと思います。



写真は、GWに行った鞆の浦です。

この港は、瀬戸内海の潮の流れのちょうど境界に位置するそうで、江戸時代のような無動力の船の時代には、潮の流れの変化を待つ船で賑わったそうです。

つまり、鞆の浦はビバーク地点であったわけで、人生にもこういう場所があればよいと思います。

2015年4月25日土曜日

弁理士の営業について

プロフェッショナルは営業してはいけないのが原則ですが、開業したての頃は仕事がありませんので、背に腹は代えられず、営業をすることになります。

営業をして実際に仕事に結びつく確率というのは1%もないと思いますので、 数百社から千社程度、飛び込み営業をする必要があります。

1日5社営業に回るとしても、数か月から半年は営業をし続けて、何とか仕事をいくつか貰えるレベルといえます。

ただし、数十社断られ続けた段階で、多くの人は心が折れてしまいますので、もう少し営業の効率を高めたいところです。

特許の場合には、特許データベースを利用して、営業先を絞り込むことができるかと思います。

例えば、 出願人住所を「神奈川県」に絞り込んで検索すれば、神奈川県内で出願を行っている会社を知ることができます。

また、さらに、特許分類(IPC、FI、Fターム)で絞り込めば、自分が対応できる技術(機械、電気、化学等)を有する会社に、さらに絞り込むことができます。

さらに、マップソフトをつかえば、出願件数動向から、出願の意欲の高い会社を知ることができます。

出願人住所検索はJ-PlatPatではできませんので、有料の特許データベースを利用する必要があります。

ただし、特許情報を利用しても、仕事を得られる確率が劇的に向上するとも思いませんので、 多少の効率化が図れる程度と考えたほうがよいと思います。

また、特許情報のみではなく、企業のIR情報やその他開示されている情報をさらに分析して確率を高めることも考えられます。

しかし、こういう作業も時間がかかりますので、分析に時間をかけるよりも、適当な段階で実際に回ったほうが早い場合もあると思います。

とはいえ、何とか引き合いがあった場合でも、会社によっては、足元を見られて、最初は無料で出願してくれ、と無理な要求がなされる場合も多々あるのがつらいところですが・・・。

2015年4月10日金曜日

長い明細書について

私は弁理士の仕事しつつ、企業の知財部支援の仕事もやらせていただいております。

知財部的な仕事をする際に避けて通れないのが、他の弁理士等が書いた明細書の評価です。他の弁理士の書いた明細書を読ませていただくのは、自分にも非常に勉強になります。

そうするといろいろな明細書が見受けられるのですが、長文の明細書に出会うことが多々あります。こういう明細書は読むのもしんどいですし、理解するのも大変、時間がかかります。

日本の国語教育を受けていると長文に価値があると感じてしまいがちですので、こういう明細書が喜ばれる素地があるのかもしれません。

とはいえ、明細書は小学校の作文と違いますので、長ければよいというものではなく、デメリットもいくつかあります。

一つ目は、明細書作成コストがかかるということです。

弁理士に明細書作成を依頼する場合には、ページ数に応じてその料金が上昇しますので、長い明細書はコスト高といえます(弁理士には売上が上がるのでメリットともいえますが・・・)。

二つ目は、翻訳費用がかかるということです。

外国へ出願する場合には、原則各国の言語に明細書を翻訳する必要があります。出願する国数に応じて翻訳費用がレバレッジされて増加します。

三つ目は、不要な開示を含む可能性があるということです

明細書で公開された情報は、公知になるとともに、権利範囲に含まれない部分については、誰でも自由に実施できることになります。

したがって、権利に関係ない部分の記載については、「ただ」で情報をあげているようなものになりますので、記載は厳選して減らすようにしなければなりません。

四つ目は、検討コストがかかるということです。

拒絶理由対応や侵害対応をする場合、担当者が明細書を読み込む必要がありますが、長い明細書は読むのも時間ががかりますので、検討に工数が多く必要となります。

担当者が複数の場合には、担当者数でレバレッジされて工数が必要となります。

五つ目は、論理不明確となりやすいことです。

明細書は論理を組み立てて、矛盾が生じないように記載する必要がありますが、文章が長くなりますと、論理に齟齬が生じる可能性が高くなります。

論理に矛盾がある場合には、記載不備として拒絶される可能性が高くなりますし、侵害訴訟では矛盾を突かれて、権利範囲が狭く解釈される可能性があります。

結局、明細書は短くする努力というのが最終的には必要となると思います。

それでも、長い明細書が製造されてしまう理由としましては、やはり、拒絶査定となったときの言い訳とできるからなのかと思います。

拒絶査定となると、弁理士の責任が問われる可能性がありますが、長文に価値があると感じてしまいがちですので、これだけ一生懸命書いたのだから、しょうがないといいやすいと思います。

また、明細書が長い方が、高額を請求できるという事情もあると思います。

したがって、弁理士の側から明細書を短文化するというのは、難しいと思いますので、クライアントの側が明細書を精査して短くするのが現実的と思います。

2015年4月8日水曜日

弁護士のマーケティングについて

この間twitterを見ていましたら、「仕事がない弁護士はマーケティングをすればよい。コトラーを読め」的なツイートを見かけました。

確かにそうなのかもしれませんが、少々違和感がありました。まあ、話半分なのかもしれませんが。

ということで、私なりに弁護士のマーケティングを考えてみました(弁護士ではありませんが・・・。)

マーケティングといえば、いろいろなフレームワークがありますが、有名なのが4Pです。

4Pとは、製品(Product)、価格(Price)、流通(Place)、プロモーション(Promotion)の各要件について、市場に受け入れられる組み合わせを考えるようなことをいいます。

ます、製品(Product)ですが、弁護士の業務は民事、刑事、渉外等の法律事務ですので、業務自体で差別化することはできません。

ただし、レベルの高い仕事をすることにより、質で差別化することは可能です。

したがって、製品(Product)の面からは、実務をこなし、裁判例を研究するなどして実務能力を向上することがマーケティング的には有効と思います。

次に、価格(Price)ですが、手数料を安くすれば差別化することは可能です。

しかし、ここで考えなければならないのは、弁護士はプロフェッショナルであるということです。

波頭亮さんの「プロフェッショナル原論」という本には、「プロは値引きをしない」とありますので、これはなし、ということになります。(詳しくはこの本を読んでください。とてもよい本です。)

流通(Place)につきましては、なかなかピンときませんが、例えば、人が集まるいろいろなところ(商工会、異業種交流会、同窓会、・・・)に顔を出して活動し、名前を売る活動をすることにより、仕事の紹介が得られるかもしれません。

プロモーション(Promotion)につきましては、プロフェッショナルは営業してはならないという固有のルールがあることが悩ましいところです。

波頭亮さんの「プロフェッショナル原論」という本には「プロフェッショナルの仕事はクライアントの依頼があって初めて発生するものなのである。つまり自ら売り込んだり営業活動を行ってはならない」との記載があります。

したがって、プロモーション(Promotion)もなし、ということになります。

そうすると、4Pから考える弁護士のマーケティングとは、実務能力を高め、いろいろなところに顔を出す、ということになります。

しかしこのようなことは、当たり前のことで、わざわざコトラーを持ち出す必要もありません。

先ほどのツィートは、通常のビジネスには当てはまりますが、弁護士というプロフェッショナルの特性を知らないで、つぶやいたのかもしれません。

ということで、コトラーを読む暇があるのなら、判例の研究でもしたほうが、マーケティング的には正しいということになります。

2015年3月10日火曜日

商工会議所の名刺交換会について

3/10に横浜商工会議所の新会員交流会に参加してまいりました。

交流会の前半では商工会議所のレクチャーが行われ、交流会の後半では会員同士の名刺交換が行われるのですが、ここでは少々苦戦して帰ってきました。

名刺交換はビジネスチャンスを広げる目的で行われます。

当社の事業は「知財支援」ですが、あまり知財が関係しないような企業の方には、どうにもピンとこないようで、名刺交換しても話があまり盛り上がらず、少し落ち込みました・・。

横浜商工会議所の会員の業種割合を見ますと、多い順に、建設18.7%、小売16.9%、観光・サービス14.8%、卸・貿易11.2%、機械・金属工業8.9%、情報関連8.0%、・・・となっておりますので、 特許が関係する企業は10%ない、ということになります。

そうすると、やたらめったらに名刺交換をしても、仕事の依頼につながる確率は非常に低いということになります。

もちろん、機械・金属工業系の企業を見つけて名刺交換すればよいのですが、胸の名札から業種を見分けるのは無理でしたので、早々にあきらめました。

一方、税理士や社労士のような、すべての企業にかかわる仕事の場合には、新会員は立ち上げたばかりの企業も多いと思いますので、名刺交換はビジネスチャンスを得る有効な機会となります。

同様に、小売など需要層が広い業種の場合には、 名刺交換は非常に有効と思います。

よく、「魚を釣るには、魚のいる場所で釣れ」といいますが、営業に関しても同様で、知財上の課題を抱えている企業がいる場所で営業をしたほうがよさそうです。

逆に、当社でも需要者を広くできるような商品・サービスを開発できればよいのかと思いましたが、これもまた難しく、新会員になってはみたもの、商工会議所をどう利用していくか悩みどころです。

2015年2月15日日曜日

評価軸について

BABYMETAL(以下、単にBMにします。)というグループが世界的に人気だそうです。

ベイビーメタルではなく、ヘビーメタルに引っかけて、ベビーメタルというそうです。

昨年末のテレビで見たときは、あまり魅力を感じませんでしたが、sonisphereでのライブをyoutubeで見ましたら、一流アーティストのオーラが出ており驚きました。

さて、 BMに関しましてはメタラーからはいろいろな評価がなされているようですが、当初はやはり最低の評価をする人もいたようです。

ネット上で見かけたのは、1stアルバムの評価を100点満点中30点と最低の評価をしたものの、最近は評価が変わり80点としている人です。こういう人は多いのではないかと思います。

同じものに対して評価が時間変化しているところが面白いと感じました。

もともとへヴィーメタルは様式美のようなものが強いのでメタラーの評価は固定的なものが多いと思います。

そういう人がBMを評価すると以下のようなイメージとなると思います。





女性ボーカルですので、パワーに見劣りし、様式的には、白人至上主義が強いジャンルでもありますし、そもそも十代前半の女の子がやる音楽ではありません。演奏については職人が演奏しておりますので、優っている部分も多いかと思います。

このような感じで5段階で評価してゆきますと、全体的な印象では、従来のバンドに対し評価は低い感じとなります。

一方、BMをアイドルとした場合には、以下のイメージかと思います(数値に根拠はありません。あくまでもイメージです・・・。)



さて、メタラーの評価が変化した、というのは、すなわち、メタラーの頭の中に、メタルに対しての新しい評価軸が形成されたのでは、という仮説を立ててみました。

その評価軸は、以下のようにメタルとアイドルを組み合わせたものになります。



新しい評価軸では、従来のバンドはダンスもしませんし、ポップさもあまりありませんので、評価が低くなります。一方BMは、全体的に従来バンドを上回り、評価も高くなります。

このことはいろいろ考えさせるものがあります。

一つ目は、イノベーションは新結合とはいいますが、評価軸の結合でもあるということです。イノベーションは単に物事を組み合わせただけでは生じません。

そこでイノベーションを人々に普及させることが必要となりますが、それには新しい評価軸を構想し、人々の頭に植え付けることがは必要と思います。

ではどうすればよいかというと、よくわかりません・・・が、早くプロトタイプを作って市場に投入し、人々の心理的な影響を考察し、改善してゆくプロセスとなると思います。

新しい評価軸の構築に成功すれば、従来のものの評価は一気に低くなり、ライバル不在の状態となります(このあたりはブルーオーシャン戦略にも通じます)。

二つ目は、新しいものを評価する場合に、既存の評価軸を用いることは危ないということです。

例えば、スマホが登場した際に、携帯電話の評価軸をもって評価すると、電池がもたない、フリーズする、大きく重い、などネガティブな評価ばかりとなり、スマホなどやる必要がないという評価になってしまいます。

実際、日本のメーカーはスマホへの参入が遅れ、取り返しのつかない状態となってしまいました。

そうすると、新しいものを見る場合には、まず、新しい評価軸とは何ぞや、というところから始める必要があると思います。

三つめは、非常にうまくやっていたとしても、評価軸の変化に気がつかないと、相対的な評価が下がってゆくということです。

ガラケーあたりも既存の評価軸を改善する技術開発を行って高度なものとなっておりましたが、スマホの登場によって評価軸が変わり、高度な技術であるにも関わらず製品の競争力が低下してゆきました。

さて、 BMに戻り、5、6万人もの白人のおっさんを前に臆することなくパフォーマンスをしていることに感心しました。

おそらく、日ごろから非常な修練を積んでいるのだと思います。この調子で頑張ってほしいと思います。

2015年2月8日日曜日

円安と円高について

昨年末、気分転換に数日沖縄へ行ってきました。


(写真は勝連城です。)

沖縄へは毎年年末に行っているのですが、今年は外国人観光客が非常に多いと感じました。

私は主に路線バスを利用して移動します。北部の方のバスは、運転手と私だけ乗っているという状況が従来なのですが、今年は中国人(台湾人)でいっぱいということもありました。

また、基地で働く米国人はクリスマス休暇で本国へ帰還してしまうのが従来なのですが、今年は家族連れで観光している姿が多く見受けられました。

そんな感じですので、今年の沖縄は例年に比べて活気があり、円安の効果を実感しました。

思えば、ここ何年かは大変な円高の時代でした。

円高になりますと、日本のものや、サービスの相対価値が上昇しますので、平均的な労働者の給料も相対的に高くなって競争力を失い、仕事が海外に逃げてゆきます。

したがって、日本国内に仕事がなくなり、一般的な労働者は失業のリスクが高まります。

ただし、資産のある人や、一定の収入が確保されている人(公務員、年金生活者)については、相対的な資産価値や収入が上昇しますので、よい生活ができます。

一方、円安になりますと、日本の物、サービスの相対価値が低下しますので、日本人の給料が相対的に安くなり競争力が向上し、日本国内に仕事が戻ってきます。

ただし、円の価値は低下しますので、働いて収入を得ても、あまり豊かにはなりません。

結局どちらが良いかといえば、私のような国際競争力のない普通の労働者には、円安の方が給料は安いものの、失業のリスクが低くなる点で有利かと思います。

とはいえ、理想としては、仕事のスキルを高め、国際競争力のある人材となり、資産を蓄積することが、円安、円高にかかわらずいい生活ができますので目指すところになりますが・・・。


さて、今年はさらに円安になるのでしょうか。それとも円高に戻るのでしょうか。

2015年1月25日日曜日

ブランドの強弱について

私は味付け海苔が好きで、よくスーパーに買いにゆきます。

スーパーの陳列棚には、PBの海苔と国産メーカーの海苔が並んでいるのですが、PBは韓国産海苔とパッケージに表記され、国産メーカーは有明海苔と表記されています。

売れ行きを見ていると、需要者は国産を好みますので、やはり有明海苔が売れており、韓国産は売れ残り気味です。

ところが、最近PBのパッケージが変更されているのに気づきました。前面には「日高昆布で味付けした」と大きく書かれており、原産地については製造欄に「韓国」と小さく書かれているのみです。

日高昆布はブランドとして認知されていますので、国産でないことによるブランドの弱さを日高昆布で補完しているのか、と感心しました。

こういう、1つの製品に複数のブランドを付すことは、他の製品でも行われており、有名なところでは、「インテルインサイド」があります。

従来のパソコンは、NEC、富士通、日立、東芝のようなブランドが付されており、このブランドを需要者が認識してパソコンを買っていました。

つまり、最終組立・販売を行うメーカーのブランドに業務上の信用が蓄積して、ブランドとしての価値が生まれることになります。

一方、MPUのような部品に関しては、マニアは認識できますが、一般の需要者は会社名も知らず、ブランドとしての価値はあまりありません。

ところが、ある時期から「インテルインサイド」のブランドがパソコンに付されるようになり、同時に、インテルのMPUのCMも始まりました。

このようにプロモーションに費用をかけると、需要者もMPUのブランドとしてインテルを認識するようになり、ブランド価値も高まります。

一般に、自社製品に他社のブランドが使用されるのは、ただ乗りされてる感もあり、好ましくはありません。

しかし、例えば、プロモーション費用を一部負担する場合や、複数のブランドを組み合わせることによるブランド価値の補完効果が見込まれる場合には、そのようなブランドの使用法もあると思います。

とはいえ、問題が無いわけでもありません。インテルのMPUの場合には、当初はパソコンメーカーのブランドの方が需要者に訴求するものでした。

しかし、多くのパソコンにインテルの商標が付され、インテル単体のテレビCMもなされる状況になると、次第に需要者はインテルのブランドを識別してパソコンを購入するようになります。

極端にいえば、よく知らない国のよく知らないメーカーのパソコンでも、インテルの商標が付されていればいいや、ということになります。

そうすると、インテルの商標が付されている安いパソコンに需要者が流れるようになり、日本のパソコンは一気に売れなくなることになります。

そう考えると、自社製品に他社の商標を付することは、主従が逆転することに繋がる可能性があり、リスクが高いといえます。

さて、味付け海苔の方ですが、日高昆布の表記をしても、やはり売れ残りがちのようです。

やはり、最近の消費者は原産地を厳しくチェックしますし、味付け海苔の品質を決定するのは、出汁ではなく、海苔本体ですので、日高昆布の効果もあまりないということになるのでしょうか。

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