2012年4月2日月曜日

特許権の売却について(その3)

前回は船井電機の出願傾向を把握いたしました。特許権が売れそうな可能性は感じさせますが、これではまだ特許権が売れるかどうかの判断はつきかねます。

そこで次に、農工大特許が船井電機が必要とする技術か否かを検討したいと思います。必要とする技術には次の2つのパターンがあると思います。

一つ目は、船井電機の技術上の強みを更に強化する技術であり、二つ目は、船井電機の技術上の弱みを補完する技術です。

そこで、船井電機の出願のFIと農工大特許のFIを比較してみたいと思います。なお、FIとは日本独自の特許分類であり、内容はIPCとほぼ共通してます。IPCと同様に全ての特許出願に割り振られております。



図からわかりますように、船井電機と農工大とはG06F 3/048 630(マウス等におけるユーザインターフェース)で共通することがわかります(赤枠内)。

一方、農工大はG09G 5/34 Z(スクロールに関する事項に特徴の有るもの)等に関して、船井電機にはない技術を有していることがわかります(青枠内)。

つまり、農工大の特許技術は船井電機の技術を補完する技術であることがわかります。そして、船井電機は農工大特許を購入することにより、自己の特許ポートフォリオを抜けのないものとすることが可能となります。

したがって、農工大特許の売却先に船井電機は好適であることがわかります。次回はまとめです。

2012年3月31日土曜日

特許権の売却について(その2)

さて、今回は農工大が船井電機に特許権を販売することを考えたいと思います。船井電機に特許権を買ってもらうためにはどのような検討をすればよいのでしょうか。

営業をするとか、販売価格を安くするとかの方法が考えられますが、ここでは技術的な面からのアプローチを考えたいと思います。

例えば、農工大の特許権の技術分野が船井電機の求める技術にマッチしていれば、購入してもらえる可能性が高まります。技術的なマッチングを確認する方法としては特許情報を解析する手法があります。

農工大特許の技術分野を特許公報で確認しますと、IPCでいえば、G06F 3/033、G06F 3/041、G06F 3/048あたりですので、この分野の船井電機の出願状況を確認してみましょう。

ちなみにIPC(国際特許分類)は、国際的に統一されて用いられる特許文献の技術内容による分類のことをいいます。すべての特許出願にはこのIPCが割り振られておりますので、特許解析に用いるには非常に便利です。

また、G06Fは「電気的デジタルデータ処理」を示す分類です(特許電子図書館のパテントマップガイダンスで詳細な内容を確認することができます)。

まず、船井電機のIPC別出願件数を時系列で確認します。




上の図の縦軸がIPC、横軸が出願年です。なお、図では2010年以降の出願がほとんどありませんが、これは出願公開は出願から1年6ヶ月以降になされるため、出願の有無を確認できないからです。

赤枠内が、船井電機のG06F 3/033、G06F 3/041、G06F 3/048の時系列の出願件数を示しております(丸(バブル)の大きさが出願件数の多さを示しております)。

図からわかりますように、船井電機はこの技術分野の出願を2004年から始めており2009年まで出願件数は増加傾向にあります。

したがって、船井電機はこの分野に多くの投資を行なっていることが想像できますので、特許権を売却できる可能性は高いと判断できます。

次回は、農工大特許と船井電機の技術との関係を考えたいと思います。

2012年3月27日火曜日

特許権の売却について(その1)

少々前ですが、東京農工大が情報端末の画面操作性を高める特許5件を船井電機に売却するなどして2億6千万円超の収入を得たとのニュースがありました。⇒【特許ウォーズ(上)】生き残りかけた争奪戦 宝の山を守れるのか 

ということで、これを題材に特許権の売却について考えたいと思います。

実際に売却されたのは以下の5件の特許権です。

番号
特 許 名 称
番 号
発明者
所 有 者
概 要
Human Interactive
Type Display System
U.S. Patent
No. 6,128,014
(2000.10.3)
中川 正樹
小國 健
国立大学法人
東京農工大学
ペン先の移動量と移動速度に応じてウインドウをスクロールする方法
Human Interactive
Type Display System
U.S. Patent
No. 6,683,628
(2004.1.27)
中川 正樹
小國 健
国立大学法人
東京農工大学
上記で、間接指示でありながら直接指示の感覚を与える関係を図示
表示装置の表示内容
制御方法
特許3475235
15926
登録
中川 正樹
澤田 伸一
小國 健
堀田 耕一郎
国立大学法人
東京農工大学
ペン操作に適したGUIの操作方法
表示装置の表示内容
制御方法
特許3959462
19525
登録
中川 正樹
澤田 伸一
小國 健
堀田 耕一郎
国立大学法人
東京農工大学
ペン操作に適したGUIの操作方法
Method for
Controlling Displayed
Contents on a Display
Device
U.S. Patent
No. 6,862,712
(2005.3.1)
中川 正樹
澤田 伸一
小國 健
堀田 耕一郎
国立大学法人
東京農工大学
ペン操作に適したGUIの操作方法


表にあるように、5件中3件が米国特許で2件が日本国特許です。ご存知のように船井電機は日本では特に製品を販売しておらず、もっぱら欧米を中心に液晶テレビなどを販売している会社です。

したがって、この米国特許の存在は、船井電機の購入の決断に有効に作用したことが想像できます。

また、発明の名称から上記特許はスマホ等に使用されるタッチパネル関係の特許であることがわかります。

スマホ関連の特許は米国では1件当たり50万ドル程度の値段が相場であるそうですので(参考:アップルが電機業界に促す「特許戦略の転換」:日本経済新聞)、5件で2億6千万円という価格は概ね妥当と考えられます。

なお、米国では発明の名称に「スマートフォン」 と入っているだけで、かなりの値段がつくそうですので、ややバブル気味とも思います。

しかしながら、スマホ関連特許については米国に確実にマーケットが存在するわけで、特許権の価値判断を簡略にできるマーケット法を使用できる点で、やはり日本にも特許市場が欲しいと思わせます。

さて、次回は特許情報から見た特許権の売却についてまとめてみたいと思います。

2012年3月24日土曜日

ノウハウの管理について

近年、企業内の技術的なノウハウを秘密情報として管理することが求められています。

これは、ノウハウも企業の重要な知的資産であり、不正競争防止法上の保護を受けるためには適切に管理する必要があるからです。

したがって、取引先に技術情報を開示するときや、従業員が退職する際などには、ノウハウに関する秘密保持契約を結ぶ必要があります。

さて、この場合、客体としてのノウハウをどのように特定すればよろしいでしょうか。

例えば、「~に関するデータ」や「◯◯装置に関する情報」など概括的な特定の方法があると思います。ただし、ノウハウ部分以外も含む広い表現となりますので、秘密保持義務が過大となる可能性があります。

また、「Xノートに記録された情報」、「Yメモリーに格納された情報」など媒体で特定することも考えられます。この場合も上記と同様の問題があります。

特定法の一つとしては、特許明細書と同様のフォーマットでノウハウに関する明細書を記載することが考えられます。

明細書化することにより、ノウハウの範囲の解釈に、判例の蓄積がある特許明細書の解釈手法を流用できますので、ノウハウの範囲を明確に定めることが可能となります。

なおかつ、特許発明とノウハウとが同一フォーマットで作成されるため、会社内の特許・ノウハウを含めた技術ポートフォリオの管理やノウハウ創作者の特定が容易となるでしょう。

さて、ノウハウの明細書の記載はどうあるべきでしょうか。特許庁で審査を受けるわけではありませんので、ある程度簡略化してもよいと思います。ただし、特許法の要件(新規性、記載要件)はある程度満たすような記載とした方が、後々役に立つと思います。

例えば、ノウハウの範囲につきましては新規性を満たすことを特許調査により確認したほうがよいと思います。これは不正競争防止法上の秘密情報として保護されるためには、非公知性の要件を満たす必要があるからです。

また、非公知性を確認することにより、法上保護されない不要なノウハウを管理することを避けられ、管理工数を削減することが可能となります。

実際問題としてノウハウの明細書を作成することは、コスト的に厳しいため(弁理士に頼めば1件20~30万円必要)、すべてのノウハウに適用することは難しいと思いますが、重要な案件についてはトライされてみてはいかがでしょうか。

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