2011年8月7日日曜日

陣取り合戦について

「下町ロケット」では、主人公が経営する佃製作所(T社)がナカシマ工業(N社)に訴えられるエピソードが前半の山場ですが、いろいろ興味深いのでいろいろ考えてみたいと思います。

T社は以前N社から、T社の製品(エンジン)が、N社特許権を侵害しているとの警告を受け、そのときは侵害していないとの結果となったが、しばらくしていきなり侵害訴訟を提起され主人公が当惑することになります。

では、以前は特許権を侵害していないものが、時間が経つと特許権を侵害するということはあるのでしょうか?

当初の状態では、このような感じです。

T社は自己の実施の製品(エンジン)に対応した特許権を保有している、ただし、その特許はクレームの記載が悪く、製品(エンジン)の技術をすべてカバーする特許とはなっていない。

一方、N社はT社の製品に関連する特許権を有しているが、T社の製品はN社の特許権を侵害するまでとはなっていない。

ただし、そのままほおっておくと、次のようなことが起こります。

自社の製品(エンジン):図中の点線の円は、時間と共に技術的に改良がなされ、次第に大きな円(技術範囲)と変化してゆきます。したがって、自社の特許が自社の製品をカバーしている範囲は相対的に狭くなってゆきます。また、自社の製品の範囲が広がるため他社の権利を侵害する可能性が高まります。

一方、N社はT社の権利を模倣して次々と改良発明を特許化してゆきます。N社の技術は公開されていますので模倣、改良は容易です。 さらに、出願を進めると、T社の製品を完全に包囲することが可能となり、T社はN社の特許を利用しなければ、これ以上製品の改良を進められないことになります。





このように、特許出願戦略とは陣取り合戦のようなもので、排他的力を有効に機能させるためにはある程度の出願数が必要といえるでしょう。最近は特許は量より質といわれ出願数が低下する傾向がありますが、量が重要であることに注意が必要と思います。

また、時間と共に勢力が変化しますので、継続的な特許の監視が必要です。

ただし、中小企業の場合には大企業のように年に何千件も出願するわけにはいきませんので、対応をどうするかを考えねばなりません。対応としては次の2つが考えられると思います。

(1)改良発明については細目に出願をしてゆく。
たとえ年1件出願でも、10年で10件出願となるわけですから、長い目で見て地道に特許網が強化されてゆくことになり、他社からの模倣や他社の権利の発生を邪魔できる可能性が高まります。

(2)特許情報の細目な収集
定期的に自社製品関連の特許情報を収集しておくことにより、あやしい動きを見せる企業を早期に察知することができ、手遅れにならない段階でいろいろな対応をとる余裕ができます。

いずれにしましても、特許出願とは陣取り合戦をイメージしていただくと、次にどう手を打てばよいか考えやすいと思います。

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