2015年12月24日木曜日

2015/12/13~12/19の知財高裁判決




20151213日から19日までになされた裁判は、侵害訴訟1件(特許1件)、審決取消訴訟5件(特許4件、実案1件)、です 

1.侵害訴訟 
(1) 平成26()10124  特許権侵害差止等(東京地方裁判所 平成25()32665
平成271216日判決 原判決取消(3部)
特許権 (シートカッター)
特許の有効性(新規性)


*コメント
本件特許発明は新規性がなく、本件特許権を行使することはできない、とされました。本件請求項1の「ガイド板」の形状,大きさ,厚さ,材質などの態様の説明が明細書に無く、「ガイド板」が広く解釈されて従来技術を含んでしまい、従来技術と同一とされました。 

2.審決取消訴訟 
(1)平成27(行ケ)10060  審決(拒絶)取消
平成271217日判決 請求棄却(2部)
特許権 (光伝送システム向けレート適応型前方誤り訂正)
進歩性 


*コメントはありません・・・。 

(2)平成27()10018  審決(拒絶)取消 (今週の注目)
平成271217日判決 審決取消(4部)
特許権 (マルチデバイスに対応したシステムにおいて用いられる装置,その装置において実行される方法およびプログラム)
進歩性(相違点の判断)


*コメント
引用発明に周知技術Aを適用すれば,引用発明の課題を解決することができなくなることは明らかであるから,上記適用については,阻害要因があるものというべきであり、本件審決の判断は,誤りであるとされました。

審査では相違点は単純に周知技術であるとして進歩性なしとされることが多いのですが、今後は周知技術についても組み合わせの阻害要因を検討することが有効と考えられます。

(3)平成26(行ケ)10245  審決(拒絶)取消
平成271217日判決 審決取消(4部)
特許権 (計器パネルおよび計器パネル向けのボードユニット)
進歩性(相違点の判断) 


*コメント
引用発明において周知技術1を適用することには,阻害要因があり、課題や効果の観点からは,引用発明において,周知技術1を適用する動機付けがあるとはいえない(構成についての示唆もない)、とされました。上記判決もそうですが、審決取消訴訟では周知技術の論理付けが厳しく見られるようです。

(4)平成27(行ケ)10055  審決(無効・成立)取消
平成271216日判決 請求棄却(3部)
実用新案権 (つけまつげ用の試着ツール)
新規性・進歩性(相違点の認定,相違点の判断)


*コメント
本件登録実用新案1の「前記グリップ部から延びる棒状の支持部」の文言から直ちに棒状の支持部の一端のみがグリップ部につながっていることを意味するものと解することはできない、とされて、当該構成は同じとされ、その他構成も含めて先行技術と同一とされました。

権利行使時には請求項を広く解釈し、無効審判時には狭く解釈してもらいたいものですが、だめだったようです・・・。

実用新案は無審査登録ということで、何となくで出願してしまいがちですが、無効審判を請求されたとき、どうしようもない状況になってしまいます。そうしますと、最低限新規性チェックぐらいやっておいた方が無難と思います(コストはかかりますが・・・)。

(5)平成26(行ケ)10198  審決(無効・不成立)取消
平成271216日判決 請求棄却(3部)
特許権 (シートカッター)
明細書の記載要件(明確性),補正・訂正の許否(新規事項の追加)


*コメント
1.侵害訴訟の(1)に関連する訴訟です。本訴訟では、補正の要件、記載要件について争われましたが、審決に誤りはないとされ、特許権が維持されました。しかし、上記侵害訴訟では、本件発明は新規性がないと認定されておりますので、結局のところ、無効であるということになりますが・・・。

2015年12月19日土曜日

2015/12/6~12/12の知財高裁判決


2015年126日から12日までになされた裁判は、審決取消訴訟5件(特許4件、商標1件)、侵害訴訟1件(不競法1件)です

1.侵害訴訟

(1)平成27(ネ)10070  不正競争行為差止等(東京地方裁判所 平成26()21163
平成27128日判決 控訴棄却(2部)
不正競争
周知性

*コメント
需要者を取引者、消費者と定義した場合に、行うべき主張と提出すべき証拠の整合性がとれていなかったため、原告の商品等表示に周知性が認められませんでした。

2.審決取消訴訟

(1)平成27(行ケ)10067  審決(取消・不成立)取消
平成271210日判決 請求棄却(4部)
商標権 (サンローラン)
不使用(50)

*コメント
被告の証拠に信用力がないとする原告の主張に関して、原告の主張立証活動が何らされていないとされました。

(2)平成27(行ケ)10042  審決(拒絶)取消
平成271210日判決 審決取消(4部)
特許権 (可撓性骨複合材)
進歩性(相違点の判断)

*コメント
本件発明の「顆粒の外表面のほとんどはポリマーで覆われていない」については、引用発明には示されてもおらず技術常識でもないから動機付けがなく、本件発明には進歩性がないということはできないとされました。

動機付け云々については、私も意見書で主張したりするのですが、スルーされたり、設計事項であるとされたり、周知の事項であるとされたりすることが多く、主張の意味はほとんどありませんでした。こういう判決がでますと、特許庁の審査も変わってゆくのではと思います。

(3)平成27(行ケ)10059  審決(拒絶)取消
平成271210日判決 請求棄却(4部)
特許権 (農産物の選別装置)
新規性,進歩性(引用発明の認定,相違点の認定,相違点の判断)

*コメント
引用例1には,本件発明1の「オーバーフロー」の課題についての記載も示唆もないことから,引用発明1に引用発明2を適用する動機付けがないということで、本件発明には進歩性がないということはできないとされました。

(4)平成26(行ケ)10257  審決(拒絶)取消
平成27129日判決 請求棄却(1部)
特許権 (マイクロ波照射による衣類のしわ除去)
新規性

*コメントはありません。

(5)平成27(行ケ)10119  審決(無効・成立)取消
平成27128日判決 請求棄却(2部)
特許権 (渋味のマスキング方法)

*コメント
本件請求項1の、「『0.0012~0.003重量%』の範囲であって,『甘味を呈さない量』」を、「『甘味を呈さない範囲の量』であって且つ、該飲料の『0.0012~0.003重量%』」」へ訂正した場合の発明の同一性について争われましたが、記載の順序を入れ替えたのみで実質的に同一であるとされました。こう書いてしまうと当たりまえと感じてしまいますが・・・。

2015年12月17日木曜日

会社の終わりについて

先日、出願費用の支払いをいただいていない会社へ確認の電話をしたところ、この電話は使われておりません、とのアナウンスがあり、それではと、会社を訪ねたところ、もぬけの殻となっていました。

仕事がら様々な会社とお付き合いがありますが、会社の終わる瞬間に出くわすことが、(辛いですが)あります。

会社がうまくゆくかどうかは、わからない部分もありますので、仕方がないとも言えます。しかし、終わり方には注意が必要と思います。

会社がつぶれましても、人間の人生はその後も続きますので、終わり方がよろしくないと、再起ができず、残りの人生が苦しいものとなります。

とはいっても、特別なことはする必要はなく、弁護士に頼んで法的に粛々と会社を清算すればよいと思います。雲隠れは印象がよくありません。

私の記憶に残っている方は、会社が倒産した際にも、個別に連絡いただき、売掛金となっている特許の調査費用をわざわざ支払っていただいた方です。このときは、本当に申し訳ない気持ちになりました。

また、こういうケースで感じますのが、自分が無力であることです。こうなる前に、もう少し何らかのアドバイスができなかったのかと思います。

私が、農工大MOTへ入学したのも、特許出願だけではなく、中小企業に対してもう少し経営よりの加勢をしたいと思ったからなのですが、まだまだ修行不足のようです。

また、起業を志す方には、こういう厳しい状況になることがあると知っていただきたいです。そうすると思い付きで起業するのではなく、知識面、金銭面、人材面で充実を図れる状況で起業していただきたいです。

会社を作りますと、ビジネスアイデアだけではどうにもならず(アイデアは重要ではあるのですが・・・)、マーケティングや、財務、法務、知財、税務等の様々な問題が生じ、一人の力で解決するのはとても無理です。

したがって、それらについてアドバイスを(安く)受けられる人を探しておくことも必要と思います。 そして、最悪のケースとして会社が倒産したらどうするか考えておくことも必要かと思います。

2015年12月12日土曜日

外部環境を変えることについて


前回の記事では標準化戦略の要諦として

一. 自社と他社の実施領域を切り離す
一. 他社を多数呼び込んで競争させる

としました。

http://chizai-design.blogspot.jp/2015/12/blog-post_5.html

これは、簡単にいえば、自社は(できるだけ)競争しない、他社には競争してもらう、という考えと思います。

競争戦略とは競争しない戦略である、とはよくいいますが、日本人的な考えとしては、少々卑怯な考えとも思います。

特に、企業のトップにおられる方は、小さいころからの受験戦争や会社での出世競争を勝ち抜いてきた方なので、競争に勝ち抜くことが正しいという考えにもなってしまうかもしれません。

とはいえ、競争に勝ち抜くには、自分が変化するのではなく、外部環境を変えるという手段もあると思います。要は、自己が変わるのではなく、自己が有利になるように、周囲の環境を変えてしまう考えです。

外部環境を有利に変えるには、国であれば条約や法律、個人であれば各種契約、企業であれば、契約、知財、標準などの内容を、自分に有利な内容とすることになります。

例えば、お医者さんが儲かるのは、お医者さんは努力しているとは思いますが、国の方針で医者の数を制限している政策となっていることが大きいと思います。つまり医者に有利な外部環境ができているといえます。

企業が外部環境を能動的に変える手段としては、知財や標準があるということになります。自社の事業領域に自社知財をちりばめることにより、他社のビジネスを阻害し、自社が有利に動ける環境が出来上がります。

また、自社に有利な標準を定めることにより、他社の技術的長所を無力化し、自社に有利な環境が出来上がります。

この自分を変えるのではなく、周りを変える、というのは、なんとなく納得できない考えとも思いますが、どうやったら自分が有利になるか考えてみるのも面白いと思います。

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