2017年5月10日水曜日

ブランドと不自由さについて

GWに、とある城下町を観光してきました。

武家屋敷を見学したところ、武家屋敷の構造・高さには、幕府の厳しいお達しがあり、設計の自由度はかなり低いようでした。幕府のお達しに逆らうと、お家取りつぶしのような厳しい処分がなされます。

前回の記事で、江戸時代の街並みに統一感があるのはコスト的制約からとしましたが、幕府の厳しいお達しの方もかなりの制約条件といえ、これらの過剰な制約から、似たような構造にならざる得なかったと思われます。

結局、これらの過剰な制約による不自由さから、逆に町全体の統一感が生じているという皮肉な結果ともいえます。

今は自由な世の中ですので、昔のような不自由さはありませんが、逆に、自由さゆえにブランド的には難しいのかと思います。

例えば、製品開発などする場合には、ユーザーニーズや技術革新の成果を積極的に取り入れて設計したりできますが、逆にいえば、ブランド属性がユーザーニーズや技術革新に合わせて、ころころ変わることになり、ブランドの継続性というものが感じられなくなると思います。

また、競合も当然ユーザーニーズや技術革新を取り入れた設計をしてきますので、似たり寄ったりの製品になりがちで、やはりブランドの個性というものが感じられなくなります。

例えば、自動車などは、昔はメーカーごとに個性があったものですが、今はもうどこの車か区別がつきにくくなっております。

そうすると、ブランド的には、あえて不自由さを入れてゆくことが、ブランドを確立するためによいのかと思います。

例えば、スバルという会社は水平対向エンジンに固執しており、これが他メーカとの大きな差となっております。

昔は水平対向エンジンにより低重心化が図れるという技術的意味があったと思いますが、今は、他の形式のエンジンの改良も進んだため、水平対向エンジンによるメリットはほとんどないと思います。

他の形式のエンジンの改良がさらに進んだ場合には、スバルは水平対向エンジンをやめるという選択肢もでてくると思いますが、その場合にはブランド属性が他メーカーと相違しなくなるため、ブランド力は低下すると思います。

そう考えると、最終的には、ユーザーが不自由さを許容するかどうかが、ブランド維持に大きくかかわるのかと思います。

ハーレーダビッドソンは、ニーズや技術革新とは無縁な古臭いバイクを作っておりますが、これは根強いファンがいるからできることです。ファンづくりがブランド維持に欠かせないのではないでしょうか。

2017年5月3日水曜日

コストと統一感について


ゴールデンウィークとなると、国内小旅行に出かけることが多いですが、国内を旅行していて感じるのは、江戸時代以前のコンテンツの強さです。

地方の名物といえば、街並み、食べ物、祭り等、江戸時代以前に成立したものが多く、こういうものがある地方は、このようなコンテンツを利用して観光客を集めています。

江戸時代以前の街並みのよいところは、風景に統一感があることです。似たような建物が並ぶことにより、建物単体ではなく、地域としてのブランド価値が生じます。

ブランド戦略の要諦は、ブランド属性のコントロールにありますが、昔の街並みはこれができているということになります。

ブランドマネージャーみたいな人がいない時代で、どうしてこういうことができたかといえば、その理由にロジスティクスが未発達であったことがあると思います。

昔は物の輸送にはコストがかかるため、家を建てる際には、近場で入手できる材料を使わざるを得ない状況があります。また、大工さんも遠くの人を呼ぶにはコストがかかるため近場の人に頼まざるをえません。

結局、似たような材料で似たような人が建築しますので、町全体が似たような建物だらけになり統一感が生まれます。結局、コスト的制約が統一感を生み出しているといえるでしょう。

現代では、個々が自由な設計で自由な材料で建物を建てますので全体としてはごちゃ混ぜ感のあるアジア的な風景となってしまいます。もちろん、こういうアジア的な風景も味わい深いものがあります・・・。

地域ブランドが最近話題ですが、地域全体としてブランド属性をそろえて、統一感を出せるかがポイントとなると思います。

例えば、特産品として醤油を作ろうとした場合、ブランド属性として、原材料、製法等があると思いますが、輸入の大豆、輸入の塩、水道水、他の地域の製法を使った場合には、ブランド属性がバラバラとなり、ブランドをユーザーが認識できなくなります。

ブランド的には、地元の大豆、塩、湧き水、地元独自の発酵手法を使いたいところですが、そうすると今度はコストがかかりますのでとても高い醤油となり、商品としては微妙になります。

 そうすると地域ブランドというのは、コストと地域性とのバランスをどうとるかという部分が課題となり、このあたりがマネージャーの腕の見せ所となりそうです。

2017年4月22日土曜日

破壊的イノベーションの怖さについて

桜の季節も終わりとなりました。満開となると写真を撮りたくなるものですが、今はもうスマホで写真を撮っている人がほとんどです。

写真といえば、大昔は、一眼レフのカメラ、少し前はコンパクトデジタルカメラと相場が決まっておりましたが、今は、写真マニアを除いてカメラを持ち歩くことはなくなりました。

こういうスペックに劣る製品が先行製品を駆逐するさまを破壊的イノベーションといいます。 1995年ごろクリステンセンという方が唱えた説で、今ではもう一般化した考えです。

スマホは破壊的イノベーションの代表選手みたいなもので、携帯電話、携帯音楽プレーヤー、ナビゲーション、カメラ、パソコン等を次々と市場から駆逐し、日本の電機メーカーも苦しい立場となりました。

とはいえ、破壊的イノベーションという考えは昔からありますので、例えば、カメラメーカーは対策をとれなかったのでしょうか?

そう考えると、破壊的イノベーションの怖さがわかります。つまり、一度破壊的イノベーションが始まりますと、旧来の企業は対策の立てようがないということです。

カメラメーカーもカメラの性能を向上したり、ネットワークに接続しやすくしたりして製品の改良を進めましたが、あまり効果はありませんでした。

スマホの使い勝手の良さの前に、カメラを単独の製品として成立させることはもう無理といえるでしょう(マニア向けや特殊用途は除く)。

自分がカメラメーカーの技術者であったらどうするかと考えてみましたが、私もあまりいいアイデアがありません。

自社でカメラ機能に特化したスマホを作ってみればいいとも思いましたが、スマホ自体、日本のメーカーがほぼ駆逐された状況であり、また、リスクをとって新規事業を始める気力も日本企業にないでしょうから、あとは製品の寿命を1年でも伸ばし、撤退の時期を先延ばしするような努力をするのがせいぜいとなります。

さて、次の破壊的イノベーションが生じる分野は、誰でもわかる通り自動車なのですが、現状の自動車メーカーは対策をとれるのか、それとも撤退に追い込まれるのか、注目したいと思います。

2017年4月8日土曜日

アイデア出しについて

クライアントのところへ明細書作成相談へ伺うと、権利を含まらせたいので、実施例や変形例を追加してほしいと要望されることがあります。

私もこの仕事を始めて10年になりますので、得意の技術分野でしたらアイデアは無数に浮かぶのですが(実現可能性はない単なる思い付きである場合が多いですが・・・)、少し悩むところがあります。

それは、新しいアイデアの発明者がどうなるかということです。

私がアイデアを出した場合には、少なくとも発明者の1人に私が加わるのが特許法上の原則ですが、クライアントとしては実施例を追加する程度はサービスの一つに過ぎないとの認識と思いますので、発明者に加えることはしないと思います。

その場合には、冒認出願ということになり、拒絶・無効の理由となりますが、弁理士としてもクライアントとの間に波風を立てたくないため何も言わないと思います。

とはいえ、そのアイデアが当たった場合には(可能性はとても低いと思いますが・・・)、正当な対価を受けられないことになります。

そもそも、無体財産を守るべき弁理士が、アイデアを安売りするようなマインドでよいのかという疑問もあり、無価値でアイデアを出すようなことは慎むべきと考えます。

このあたりの心の整理がつかないので、クライアントでのアイデア出しの現場に立ち会う場合には、私からはアイデアを出さず、もっぱらファシリテーションに専念することにしています。

昔、インテレクチュアルベンチャースという会社を見学させていただいたことがあるのですが、そこでは弁理士や専門家の方が集まって発明創出会議を行い、固まったアイデアから順次出願してゆくという活動をされておりました。

アメリカではこのようなビジネスが成立していることから、アイデア自体を重視し、それを収益につなげていることがわかります。

そうしますと、私も今後は、発明者に加えていただけるクライアントに関しては積極的にアイデア出しをしてゆけるかなと考えています。まあ、いやがられると思いますし、それなら他の弁理士に頼むということになりそうですが・・・。

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