2017年11月11日土曜日

情緒的/自己表現的便益について


先日、知財ビジネスアカデミーのブランド戦略基礎の講座を受講いたしました。

ブランドは本を読むだけの自己流で勉強してきましたので、こういう講座で勉強するのは初めてでした。

(知財ビジネスアカデミーは弁理士会主催ではありますが、弁理士以外の方もゲスト参加可能です(受講料はかかります・・・。数回コースで数万円ですので内容に対して非常にリーズナブルと思います。)。)

講座の中では、ブランドアイデンティティー策定の演習がありました。

ブランドアイデンティティの策定は、

STEP1)現在・将来のブランド資産の評価
STEP2)ブランドが提供する便益の階層分析
STEP3)ブランドアイデンティティ の策定

の3ステップで策定作業を進めます。

ここで、STEP2の「便益の階層」ですが、

第1階層が、情緒的/自己表現的便益
第2階層が、機能的便益
第3階層が、属性

となります。

と、講義でここまで聞いて、頭にピンときました。それは、ブランドQFDとの共通性です。

(ブランドQFDについては、過去記事を参照願います。)

ブランドQFDでは、消費目的、品質特性、ブランド属性の関係を明らかにしますが、便益階層と対比しますと以下のようになります。



比較しますと、便益階層とブランドQFDは、内容としては同じであり、そうしますと、ブランドアイデンティティー策定にブランドQFDを活用できる可能性があります。

すごいことを思い付いたと、一瞬思いましたが、よく考えれば当たり前のことで、ブランドQFD自体は、名工大のブランドの先生が考案したもので、当然便益階層は頭にあったと思います。

つまりは、私の知識不足で、恥ずかしながら後付け的に理解したということになります。そういう意味では勉強が足りてません。

さて、この便益階層の作成ですが、実際に企業内で行う場合には、社内各部署から20~30名を集め、ブレインストーミングをしながら、半年~1年かけて完成させるようです。

この便益階層づくりに、ブランドQFDを利用した場合には、以下の効果が見込まれます。

(1)一人でつくれる。
ブランドQFDはデータを集めて処理するだけですので、社内の人間を集めて議論せずともつくれます・・・。

(2)客観性がある
人間を集めて議論しますと、主観的な議論になりやすいですが、ブランドQFDはデータを集めて処理するだけですので、主観が入らず、客観的な分析ができます。

(3)もれがない
人間の議論のみでは、重要な観点がうっかり漏れてしまう可能性がありますが、ブランドQFDは多数のデータを集めて処理するだけですので、観点の漏れを防ぐことができます。

(4)各便益間の関係性がわかる
人間の議論では、便益はたくさん挙がると思いますが、各便益間の関係はわかりません。ブランドQFDは各便益間の関係性が数値化されますので、単なる便益の羅列ではなく、便益の知識構造としての理解が可能となります。

ということで、ブランドアイデンティティ の策定には、ブランドQFDを是非ご利用ください。

さて、ここからが本題ですが、便益階層の頂点にありますのが、情緒的/自己表現的便益となります。

頂点にあることからわかるように、ブランドアイデンティティの策定に対して、もっとも重要な便益となります。

つまり、情緒的/自己表現的便益が優れているほど、顧客ロイヤルティが高く、模倣が困難なブランドとなります。

情緒的/自己表現的便益とは具体的に何かといえば、自分は優れている!、本当の自分になれる!、と感じるとか、優越感、安心感が得られる、などのような便益です。

私も機械の分野で生きてきましたが、製品開発に際し、このような情緒的/自己表現的便益というようなものは考えたことがありません。

もっぱら仕様を充たすことと、コストを下げること、のみを念頭に開発をしており、それ以外のことをした場合には、コスト上昇につながることから、上司や先輩に怒られることもあります。

しかしながら、ブランドというものを考える場合には、情緒的/自己表現的便益を考慮する必要があり、さてどうしようとなります。

1つは、技術者も情緒的/自己表現的便益に対応できるよう、人間の感情を研究するということがあると思います。技術というのはロジカルに考えがちですが、ブランドの観点からは、人間というものを理解する必要があります。

ただし、技術者が何でも勉強するというのも、現実的ではありませんので、その場合には、 情緒的/自己表現的便益については、それに長けた人(具体的にはよくわかりませんが・・・)にお任せして、技術者の方はロジカルな便益を検討し、それら便益を結合するという考えもあると思います。

ブランドQFDは、そのような知識の結合に便利にできておりますので、ここでも活用できるかと思います。

また、情緒的/自己表現的便益がもっとも重要な便益というのは、BtoCビジネスの場合には腑に落ちると思いますが、BtoBビジネスの場合はどうなのか、という気がします。

BtoCビジネスの場合には、需要者が自然人となりますので、情緒/自己表現に訴えるのは効果的とおもいます。しかし、BtoBビジネスの場合には、需要者が、情緒もなく、自己表現もない企業となりますので、情緒的/自己表現的便益は効果がないと思われます。

模倣困難な情緒的/自己表現的便益が無意味となると、BtoBビジネスのブランド化は困難となります。とはいえ、BtoBビジネスのブランドというのは存在しますので、機能的便益で差別化を図っているのかもしれません。

電機メーカーなどは、BtoCビジネスからBtoBビジネスに軸足を移していますが、これは、企業が老化して、情緒的/自己表現的便益をユーザーに提供できなくなっているからかもしれません。


と、ブランド戦略の講座を受けていろいろ感じたところを書いてみました。

2017年10月22日日曜日

金がないなら知恵を出せ

会社のスローガンで、たまに「金がないなら知恵を出せ」のような標語を見かけることがあります。

実際その通りの部分もありますが、文字通りに受け取るとまずい部分もあります。

1つは、知恵のみでは経営に対するインパクトがない点です。知恵というのはただのアイデアですから、これに、人・物・金の資源を投入して、はじめて経営に貢献することが可能となります。

アイデアに人・物・金を投入してレバレッジを効かせることが重要となりますので、知恵のみでなんとかなるという考えは、悪い精神論となります。

また、例えば、「すごく良いアイデア×少ないお金の投入」の戦略と、「そこそこのアイデア×大量のお金の投入」の戦略とでは、どちらが成功する可能性が高いかといえば、これはなんとも言えないところとなります。

しかし、アイデアが良くても資金の量で負けたという事例はいろいろあると思いますので、お金で負けたというのは、なんとも悔しい結果となります。

私個人としては、物量戦略というのは好きでして、なぜなら、細かいミスも物量でカバーできるからです。一方、日本は精神論好きですので、こういう考えは嫌われると思います。

あとは、ベンチャー企業の仕事でたまにありますのが、 人・物・金は何とかするから、結果を出してくれという状況です。

ベンチャー企業は「成長が命」ですので、 人・物・金を投入してでも、成長したいという状況が生じます。

こういう仕事ですと、人・物・金が投入できるのだからいいのではと思いますが、全く逆で、投入した資源に見合う成果を出さなくてはいけませんから、プレッシャーは大きなものとなります。

そうしますと、アイデアが重要なことは変わりませんが、人・物・金の効率的な使い方が重要となります。

「金がないなら知恵を出せ」的な考えで仕事をしておりますと、人・物・金を使用する経験を積むことができず、金がでる(でてしまう・・・)状況下での仕事の進め方がわからなくなります。

ということで、知恵も重要ですが、やはりお金も重要と思います。        

2017年10月14日土曜日

人間性のいらない仕事について

先日、高校の同期の男が暗黒舞踏の世界で成功している、という話をSNS経由で知りました。

なんでも、平井堅のPVで踊ってるそうで、自分はPVをちょっとテレビで見た記憶はあるのですが、こわいという印象しかありませんでした・・・。

私のようなレベルの低い人間からすると、暗黒舞踏で生活できるなんて、すごいなと、舞踏の内容よりも収入の方が気になったりもします。

暗黒舞踏を知らない私がいうのもなんですが、こういう世界で生きてゆくためには、特殊なセンスが必要と思います。

単なる舞踏テクニックだけでは見る人の心に染み入らない(すなわち、お金を出さない)とも思いますので、一般人が知ることは無い、人生経験から滲み出る、内心の世界観の潤沢さが必要と思います。

こういう内心の世界観をここでは、ひとまず人間性とします。こういう人間性が必要な仕事は、芸術家とかデザイナーということになるでしょうか。

一方、世の中の仕事のほとんどは人間性が不要であり、論理的に仕事を処理すればよい仕事となります。弁理士の仕事も100%論理の世界であり、仕事の処理に人間性は不要です。

そういう意味では、特別な才能がある人が人間性のある仕事をし、私のような才能のない人間は、人間性のない仕事をすればよい・・・、というのが今までの話でした。

しかし、そうも言えない状況が生じつつあります。それはAI(+ロボット)の進化です。

AIは論理的な仕事が得意ですので、人間性のいらない仕事はAIに置換されてゆくことが考えられます。弁理士の仕事も92%がAIに置換可能というニュースもありました。

もちろん、危険性の高い仕事や負荷の高い仕事はAI(+ロボット)に置換することがよいのですが、普通の仕事もAIとなると、一般人は失業して生活できません。

そうしますと、今後はAIに置換されないように、自分の仕事に人間性を取り入れてゆくしかないのかと感じます。

そういう意味では、仕事を一生懸命やることもいいですが、今後は仕事以外の本を読んだり、芸術作品に触れたり、いろいろな所を旅するような人間性を高める経験をしてゆくことも必要なのかと思います。

2017年9月30日土曜日

ブランドとデザインについて(その2)

以前こんな記事を書きました経産省の産業競争力とデザインを考える研究会ですが、9月28日(木)に3回目の会議が終了したようです。

2回目までの会議資料が、こちらに開示されております。2回目の配布資料の中に田中委員のプレゼン資料が開示されております(PDFへの直接リンク

この資料の26ページ以降を読みますと(非公表だらけですが・・・)、デザインとブランドの関係が、おぼろげながら見えてまいります。

といっても話は簡単で、統一性のあるデザインを使用し続ければ、ブランド(出所表示)として機能を発揮し始めるいうものかな・・・と思います(詳しくは資料をお読みください)。

他の研究会の様子をみますと、この研究会の取りまとめ内容によって、直ちに法改正がなされることは無いようですが、その結果は今後に生かされる、ということでしょうか。

法改正はすぐにはされないようですが、ブランド化したデザインをうまく保護する手段が今はありませんので、私なりに法改正案を考えてみました。

意匠法の改正からのアプローチとしては、周知性を獲得した意匠については存続期間を(10~20年程度)延長することなどが考えられます。

現状では、存続期間が満了した意匠については誰でも自由に使えるのが建前ですので、存続期間を延長することにより、それを防ぎます。

商標法改正からのアプローチとしましては、意匠権の存続期間が満了した意匠については、立体商標の登録を受けやすくすることが考えられます。

これにより、デザインの保護が意匠法から商標法による保護へ移行できますので、半永久的なデザインの保護が可能です。

不競法も同様の改正を行い、デザインが周知商品等表示として認められやすくすることがあると思います。

と、思い付きで考えましたので、上記案には論理的に穴があるかもしれませんが、ご容赦願います。

余談ですが、田中委員はGKデザインの方で、私が7台乗り継いでいるYAMAHAのバイクは昔からGKデザインによるデザインが多いです。

とはいえ、ブランド化したデザインというのはYAMAHAのバイクにはほとんどなく(SRくらいでしょうか)、一方、ハーレーのデザインはブランド化していますし、HONDAのスーパーカブは立体商標登録まで受けている点でやはりブランド化している点が、なんとも難しいところであります。

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