2012年5月19日土曜日

研究発表のリスクについて

大学の特許出願の仕事をさせていただくことが度々あります。大学出願の場合に必ずといっていい程問題になるのが、学会での発表との兼ね合いです。

特定の技術について学会で発表しますと、その技術は公知となり新規性を失いますので、その技術については特許を受けることができなくなります。

したがって、学会での発表の前に(もしくは、予稿集等の発行の前に)、特許出願を完了させる必要があります。

ただし、特許法には、発明の新規性喪失の例外規定(特許法第30条)があり、所定の手続きを行うことにより、学会での発表後も新規性が喪失しないものとして取り扱う規定があります。

この規定は、学会での発表は産業の発展にも寄与しますので、一定の範囲で例外を認めてもよいではないか、という考えにより設けられた規定です。

では、この制度を利用すればよいではないかと思われますが、少々注意が必要です。

例えば、Aさんがとてもよい発明をした場合を考えてみましょう。学会の発表まで期間がない場合には学会での発表を優先し、その後、新規性喪失の例外規定を利用して発表から6ヶ月以内に出願すればいいと考えてしまいます。

ところが、Aさんの発表を学会で聞いた大企業B社の方が、これはいい発明だということで、研究開発部、知財部の総力を上げて、改良技術をどんどん発明し、短期間に100件出願してしまったとします(極端な例ですが・・・)。

そうすると、Aさんが出願する頃には、すでにB社により強力な特許出願網が構築されてしまっておりますので、Aさんが発明を実用化しようとしても、実用化においてはB社が圧倒的に優位な位置を占めることになります。

さらに、B社の発明が先願である場合には、Aさんの出願が拒絶されてしまう場合もあります。(新規性喪失の例外規定では、出願日が遡及するわけではありません。)

したがって、 新規性喪失の例外規定の利用は基本的には避けて、公開前に出願したほうがリスクは格段に低くなるといえるでしょう。

また、学会発表に限らず、技術情報の公開は知財管理上の様々なリスクが伴いますので、公開の目的を明確とし、慎重の上に慎重を期することが必要でしょう。

追記)
改正特許法の施行(平成24年4月1日)により、発明の新規性喪失の例外規定の適用対象とされていなかった、集会・セミナー等(特許庁長官の指定のない学会等)で公開された発明、テレビ・ラジオ等で公開された発明、及び、販売によって公開された発明等が、新たに適用対象となりました。

詳しくは、特許庁HPを参照下さい。


2012年5月12日土曜日

明細書は誰が書くべきか?

先日、発明協会の方のお話を聞く機会がありました。発明協会では無料の知財相談を実施されているそうで、1人あたり1回1時間程度の相談をされているようです。

少々驚きましたのが、この無料相談に何回も通って、自分が書いた特許明細書を添削してもらい出願する人がいるそうです。

特許事務所に明細書作成を依頼しますと費用が発生しますので、自分で書けば費用の節約になるような気もします。しかしながら、目先のお金にとらわれすぎているような気もします。

特許明細書を書くことは難しいため、一般の方が明細書を作成した場合には膨大な時間が必要となります。このような自分の強みを発揮できないことに時間を投入することは経営的には問題があるといえるでしょう。

特許事務所に依頼すれば短時間で明細書を作成してもらえますし、その時間をもっと付加価値の高い作業へ投入することができます。

例えば、営業や事業化活動など他の人ができない活動を行うことによりビジネスの成功確率も上がると思います。

よくあるパターンが、特許権は取ったけれども、提携先がみつからず、ライセンス先も見つからず、特許権を誰も買ってくれず、結局、特許権の維持を放棄してしまうケースです。

したがって、明細書作成に時間を割く余裕は実際には無いはずであり、営業や事業化へ時間を投入すべきでしょう。

自分にしかできないことは何かを考え、作業を外注に出してゆく勇気も必要と思います。

2012年5月7日月曜日

特許出願経験と開発活動について


本年度の中小企業の知財活用調査報告書が公開されました(報告書はこちらから無料でダウンロードできます。)

この報告書は関東経済産業局/広域関東圏知財戦略本部が毎年作成しているものです。中小企業にアンケートを行った結果が記載されておりますので、中小企業の知財の現状が得られる貴重な情報源といえます。

本年度は特に「特許出願を行ったことがない中小企業」に対してもアンケートを行なっている点で、非常に興味深いデータが見受けられます。以下にいくつかのデータを抜粋いたします。

まず、研究開発に投入している従業員数を見てみましょう。下記のグループAが特許出願の経験がある中小企業を示し、グループBが特許出願の経験がない中小企業を示します。



図からは、グループAの中小企業の多くは研究開発に何らかの従業員を専属で配置していることがわかります。一方、グループBの中小企業の約半数は特定の人材をまったく配置していないことがわかります。

次に研究開発費です。



図からは、グループAの中小企業は研究開発にある程度の費用を投入していることがわかります。一方、グループBの中小企業は60%が300万円以下、おそらく研究開発費が0の企業も多いのではと推測します。

一言でいえば、特許出願経験のある企業は継続的な研究開発が社内でなされていると考えることができ、特許出願経験のない企業は、研究開発体制が社内に存在しないと考えてよいかと思います(少々驚きですが)。

さて、この事実は少々気をつけなければならないと思います。というのは、特許出願をしている企業、いない企業というのは、特許電子図書館(IPDL)で検索すれば一発で誰でも無料で検索出来てしまうからです。

したがって、特許出願をしていない場合には、研究開発体制がないとみなされ、銀行からの融資の場面や、アライアンス交渉の場面で不利に取り扱われる可能性があります。

逆に、特許出願の経験のある企業にとっては、自社の研究開発体制をアピールできるいい広告手段となると思います。

このように、特許出願は自社技術を権利化するのみならず、自社の研究開発への姿勢をアピールできるよいツールとなると思いますので、 どんどん活用してみてはいかがでしょうか。

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