昨今の不景気下では、特許出願件数を削減して、コスト削減に努めようという企業も多いと思います 。
特許出願から登録まで、ざっくり50万円程度の金額がかかりますので、確かに大きなコスト削減となるかもしれません。
しかし、本当に出願件数を削減してよいのでしょうか?
特許権は知的財産権ともいわれます。つまり、財産的価値があるとされます。
例えば、先日の切り餅事件訴訟では、越後製菓は14億5000万円の損害賠償を勝ち取り、逆にサトウ食品は差止めにより200億円程度の市場シェアを失うことになりました。
つまり、越後製菓の特許権の財産的価値は、10~100億円となるのではないでしょうか(かなり大まかな考えですが)。
このように、特許権の価値が明らかになれば、特許出願の50万円程度のコストは安いものであり、大きな問題ではないことがわかると思います。
逆に、コスト削減にとらわれ特許出願を減らした場合には、将来の自社の財産を減らしている可能性があります。
したがって、 特許が市場に与える金額的影響を予測し、大きな利益があるのであれば、コストを気にせずどんどん出願することも必要でしょう。
2012年6月15日金曜日
2012年6月4日月曜日
切り餅事件と請求項の記載について
サトウの切り餅事件を調べる機会がありましたので、ついでに越後製菓の特許権の請求項の記載がどうなっているか調べて見ました。
【請求項1】
焼き網に載置して焼き上げて食する輪郭形状が方形の小片餅体である切餅の載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に、この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に長さを有する一若しくは複数の切り込み部又は溝部を設け、この切り込み部又は溝部は、この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に一周連続させて角環状とした若しくは前記立直側面である側周表面の対向二側面に形成した切り込み部又は溝部として、焼き上げるに際して前記切り込み部又は溝部の上側が下側に対して持ち上がり、最中やサンドウイッチのように上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされている状態に膨化変形することで膨化による外部への噴き出しを抑制するように構成したことを特徴とする餅。
このように一見して理解が難しい非常に長い請求項となっております。単純に 「側面に切り込みが入った餅」では、ダメなのかとも思ってしまいます。
このような複雑な請求項の記載は、読む人間によって解釈が分かれるリスクがあります。実際、地裁では越後製菓が敗訴し、高裁で越後製菓が勝訴したのは、請求項の解釈が地裁と高裁で分かれたためです。
解釈が分かれた部分は「切餅の載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に」の「なく」の部分です。「なく」の解釈によっては、切り込みは上面、底面には「なく」と解釈されますので、上面に切り込みのあるサトウ食品の餅は越後製菓の特許権を侵害しないことになります。
一般に「ない」という表現は請求の範囲の記載に使用しないことが好ましいとされます。請求の範囲には発明の構成として存在するものを記載してゆきますので、「ない」と書いた場合には、では何があるのか?不明確になるためです。(同様な理由で、数値「0」や「穴」なども使用に注意が必要です。)
訴訟では請求項の語句の解釈が厳密に行われますので、「ない」について地裁と高裁とで分かれた判断となりました。もう少し簡単に請求項を記載すれば解釈が分かれる可能性も低くなり、場合によっては判決によらずとも和解で早期に解決できる可能性もあったかもしれません。
ただし、このように複雑な請求項の記載となるのは特別なことではありません。なぜなら、特許されるためには、審査官に本発明が特許性(進歩性、新規性)を有すると認めてもらわなければならないからです。
日本の審査では進歩性が厳しく見られますので、 「側面に切り込みが入った餅」だけでは、当業者には容易に想到できるとして、確実に拒絶査定となったでしょう。特許性(新規性、進歩性)を満たすためには構成要件を多くし請求項の記載を長くして、先行技術と差別化を図るしか方法がありません。
このあたりが請求項の記載の難しいところであり、苦しいところです。
しかしながら、特許されなければ本訴訟を提起することができなかったことを考えれば、越後製菓にとっては、請求項の記載はともかくとして、特許されたという事実がまず重要であったといえるでしょう。
【請求項1】
焼き網に載置して焼き上げて食する輪郭形状が方形の小片餅体である切餅の載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に、この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に長さを有する一若しくは複数の切り込み部又は溝部を設け、この切り込み部又は溝部は、この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に一周連続させて角環状とした若しくは前記立直側面である側周表面の対向二側面に形成した切り込み部又は溝部として、焼き上げるに際して前記切り込み部又は溝部の上側が下側に対して持ち上がり、最中やサンドウイッチのように上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされている状態に膨化変形することで膨化による外部への噴き出しを抑制するように構成したことを特徴とする餅。
このように一見して理解が難しい非常に長い請求項となっております。単純に 「側面に切り込みが入った餅」では、ダメなのかとも思ってしまいます。
このような複雑な請求項の記載は、読む人間によって解釈が分かれるリスクがあります。実際、地裁では越後製菓が敗訴し、高裁で越後製菓が勝訴したのは、請求項の解釈が地裁と高裁で分かれたためです。
解釈が分かれた部分は「切餅の載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に」の「なく」の部分です。「なく」の解釈によっては、切り込みは上面、底面には「なく」と解釈されますので、上面に切り込みのあるサトウ食品の餅は越後製菓の特許権を侵害しないことになります。
一般に「ない」という表現は請求の範囲の記載に使用しないことが好ましいとされます。請求の範囲には発明の構成として存在するものを記載してゆきますので、「ない」と書いた場合には、では何があるのか?不明確になるためです。(同様な理由で、数値「0」や「穴」なども使用に注意が必要です。)
訴訟では請求項の語句の解釈が厳密に行われますので、「ない」について地裁と高裁とで分かれた判断となりました。もう少し簡単に請求項を記載すれば解釈が分かれる可能性も低くなり、場合によっては判決によらずとも和解で早期に解決できる可能性もあったかもしれません。
ただし、このように複雑な請求項の記載となるのは特別なことではありません。なぜなら、特許されるためには、審査官に本発明が特許性(進歩性、新規性)を有すると認めてもらわなければならないからです。
日本の審査では進歩性が厳しく見られますので、 「側面に切り込みが入った餅」だけでは、当業者には容易に想到できるとして、確実に拒絶査定となったでしょう。特許性(新規性、進歩性)を満たすためには構成要件を多くし請求項の記載を長くして、先行技術と差別化を図るしか方法がありません。
このあたりが請求項の記載の難しいところであり、苦しいところです。
しかしながら、特許されなければ本訴訟を提起することができなかったことを考えれば、越後製菓にとっては、請求項の記載はともかくとして、特許されたという事実がまず重要であったといえるでしょう。
2012年5月26日土曜日
戦略と戦術について
知財関連の機関の方とお話をする機会がありました。その機関に相談に来られる方は、個人や中小企業の社長さんが多く、相談内容としては特許出願の方法が多いようでした。
何らかの技術を開発したので特許出願するという考えはよくわかるのですが、その前に少々検討が必要と思います。なぜなら、特許権を取得したからといって事業が成功するわけではありません。
失敗の本質という本には「戦術の失敗は戦闘で補うことはできず、 戦略の失敗は戦術で補うことはできない」とあります。
特許権を取得することは一つの戦術でありますので、戦略が失敗している場合には、いくら特許権を取得しても、事業の成功は覚束ないでしょう。
まずは、マーケティングを行い事業戦略をうち立てて、必要な技術を開発する技術戦略を構築し、必要な知財を確保する知財戦略を構築し、それらの結果として、特許出願を行うことが必要でしょう。
ただし、中小企業の社長さんは、経営者でもあり、技術者でもあり、知財担当者でもありますので、三位一体などというまでもなく、本当に一体ですので、相談に行かれている社長さんは無意識に最適な戦略を打ち立てているのかもしれません。
それでもやはり明確な事業戦略を構築して、特許出願を行ないたいものです。
何らかの技術を開発したので特許出願するという考えはよくわかるのですが、その前に少々検討が必要と思います。なぜなら、特許権を取得したからといって事業が成功するわけではありません。
失敗の本質という本には「戦術の失敗は戦闘で補うことはできず、 戦略の失敗は戦術で補うことはできない」とあります。
特許権を取得することは一つの戦術でありますので、戦略が失敗している場合には、いくら特許権を取得しても、事業の成功は覚束ないでしょう。
したがって、まず戦略の方を構築することが必要と思います。ここで、よく言われておりますのが、事業戦略、技術(研究)開発戦略、知財戦略をミックスした、三位一体の戦略の構築です。
(出典:特許行政年次報告書2000年版)
まずは、マーケティングを行い事業戦略をうち立てて、必要な技術を開発する技術戦略を構築し、必要な知財を確保する知財戦略を構築し、それらの結果として、特許出願を行うことが必要でしょう。
ただし、中小企業の社長さんは、経営者でもあり、技術者でもあり、知財担当者でもありますので、三位一体などというまでもなく、本当に一体ですので、相談に行かれている社長さんは無意識に最適な戦略を打ち立てているのかもしれません。
それでもやはり明確な事業戦略を構築して、特許出願を行ないたいものです。
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ご無沙汰しております。 最近投稿をさぼっておりますが、これはこのHPのアクセス数がなさ過ぎて、モチベーションが上がらないからです。 1つの記事のアクセス数が5くらいしかありません(1日ではなく、総アクセスで)ので、さすがにひどいと言わざるをえません。 このような状態になったのは、...
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