2012年12月19日水曜日

法律文章について

ものづくり革新ナビに、ストレート麺訴訟に関する記事を投稿いたしました。知的財産と 三位一体の戦略について説明させていただきましたのでご参考に願います。

(記事はこちらです)
http://www.monodukuri.com/jirei/article/50


この事件は、日清食品がサンヨー食品を相手取って起こした訴訟ですが、まず、日清食品の特許の請求項をみてみましょう。 

【請求項1】 複数の麺線が重なり合って略扁平な束になった即席麺用生麺であって、 前記生麺は、麺生地から切り出され、コンベア上で、当該コンベアの搬送方向に向けて配列されて製造されるものであり、 前記生麺を構成する各麺線は、前記コンベア上で屈曲しつつ繰り返し輪を描き、 前記輪は、前記コンベアの搬送方向と逆方向に順次ずれながら配置され、 前記各麺線の描く軌道は、隣り合う麺線の描く軌道と同調せず、 前記各麺線は、前記各麺線中の輪の位置が隣り合う麺線の輪の位置とずれた状態で、相互に交差して重なり合っており、 その重なり合った状態のまま蒸煮され、延伸され、切断され、乾燥されると、湯戻し時に麺線が略直線状となることを特徴とする、前記束になった即席麺用生麺。(特許第4381470号)

少々長くてわかりすらいですが、この請求項には、 「コンベアの搬送方向に向けて配列されて製造される」という製法の記載があることに注目ください。

この発明は「生麺」という物の発明ですが、製法で物を特定する記載を含む請求項をプロダクト・バイ・プロセス・クレームといいます。

物の発明は、形状や構造で特定すべきでありますので、このような製法で物を特定する記載は、発明が不明確となり一般的には好ましくはないとされます。

では、なぜこのような記載となってしまったのでしょうか?

出願経過をみてみますと、この出願に関しては、早期審査の事情説明書が提出されております。

そこには、「請求項1に記載された即席麺用の生麺の束を用いて、請求項2に記載するような製造方法に従って製造した即席麺を平成20年9月頃より商品として製造・販売しています。」とあります。

この出願は平成21年2月に出願されてますので、出願人自ら、早期審査の事情説明書において、本願発明は公然実施された製品と自白してしまっています。

当然、拒絶理由として特許法第29条第1項第2号が通知されますので、この拒絶理由を解消するために、製品を見ただけではわからない製造方法を請求項に加えて、特許になった、というのが実際のところのようです。

ただし、特許されたものの、物の発明の特許性は、結果物で判断されるのが原則であり、製法は考慮されないのが原則であることを考えると、無効理由を含んでいる可能性もあります。

また、他の製法(例えば、コンベアを用いない製法)の麺には権利行使できない可能性が高いので、はたして、特許権侵害を立証できるか不確かな部分もあります。

法律文書に使用する用語は様々な効果を生じることを考えると、不用意な表現を用いることは危険であり、早期審査の事情説明書のような、重要性の低い文章でも、注意が必要ということがわかります。

少々固い話でしたが、一度提出した文章は撤回がむずかしいことを考えると、充分に注意して文章を作成したいものです。

2012年11月23日金曜日

販売について

遅ればせながら我が家でもiPad2を買いました。ただしセッティングができてませんので、使用できてはおりません。

ご存知の通りiPadはアップル社の製品ですが、昔から不思議に思っていたのがアップルストアの存在です。

銀座の一等地に直営店を設けたりするのは非常にコストがかかると思うのですが、わざわざお金をかける意味があるのでしょうか。

家電量販店でもアップルは独自の売り場を確保しておりますので、意識的に販売にコストをかけていることは間違いありません。

一般に、製品は、技術開発から販売まで複数のプロセスを経て消費者に渡ることになります。アップルと他のメーカのこのプロセスを比較すると以下の様な感じとなると思います。

 

 一般のメーカは、開発と製造を行い、販売は商社や家電量販店などに任せて自社で積極的に販売したりはしません。

アップルは、開発と販売は自社で行いますが、製造はフォックスコンなどの企業に丸投げしています。

このようにアップルと他のメーカーとは、ビジネスモデルが異なり、このあたりにアップルの強さの秘密がありそうです。

それでは、日本の企業も販売に力を入れればアップルのようになれるかといえば、そう簡単には行きません。

アップルには先行者利益がありますので、今からアップルの真似をしても、追いつくことは難しいでしょう。

しかしながら、日本のメーカも技術力を高めると同時に、ビジネスモデルを他者と異なるものとし、差別化を図ってゆくことが必要とはいえるでしょう。

2012年11月17日土曜日

技術と用途について

最近寒くなってきて、いよいよ鍋の季節になってきました。鍋といえば、レモン鍋というものが登場したことをニュースで知りました。

http://mainichi.jp/select/news/20121116mog00m040018000c.html

レモンに鍋とは思いもつかない組み合わせですが、ニュースにあるように美味しいのであれば、なかなか面白いアイデアと思います。

日本のような人口が減少局面にある国では、レモンのようなコモデティの需要は、伸びることはないと思います。

ただし、新たな用途を見つけ出せば、新たな用途向けの需要が生まれますので、レモンの需要が伸びる可能性があります。

また、皮ごとに煮込めるというのは国産レモンならではですので、安い外国産レモンに需要が流れるおそれもありません。

このように新たな用途を見出す、というのはレモンに限った話ではありません。技術でも同じことがいえます。

例えば、富士フィルムという会社は優れたフィルム製造技術を有しています。ただし、写真用のフィルムの需要は、デジカメの普及もあり、現在ではほとんどなくなりました。

それでは、富士フィルムのフィルム製造技術は消滅したかというと、そうではありません。

現在は、液晶ディスプレイ用の光学フィルムに用途を変えて、フィルム製造技術の開発が続けられております。

このように新たな用途を見出せば、技術が生き残る可能性もでますし、さらに、発展してゆく可能性もあります。

では、新たな用途を見出すにはどうしたらよいかといえば、方法の一つに特許情報の利用があると思います。

IPDLのキーワードに技術内容を簡単に入れて検索を行えば、関連する出願が何百とヒットしますので、それらをざっと見れば技術がいろいろな用途に使用されていることがわかると思います。

このように既存の用途にこだわらず、新規の用途を探してゆくことは、いろいろな分野でも応用がきくと思います。

現状に行き詰まったら、新たな世界を目指すことが必要なのかもしれません。

2012年11月3日土曜日

技術力と事業について

「技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか」は妹尾先生の有名な本ですが、技術開発をやっている人間にとっては、どうしても技術力の向上が目的化してしまう傾向があります。

私も技術者をやっていたためか、無意識にそういう考えをしてしまうことがあります。

何年か前、母校の大学を訪問し、私の元指導教官とお話する機会がありました。最近の日本の競争力低下が話題になりましたが、私は「日本は自動車よりナノテクのような未来の技術に投資したほうがよいのではないか」などど意見を述べたところ、元指導教官にこう言われました。

「ナノテクは扱う質量が小さいので雇用を生み出す産業になりにくい。その点、自動車産業は裾野が広く雇用を生み出し、日本人がそれで生活できる。ナノテクは果たしてそういう産業になるのか?」

もちろん、ナノテクも技術の発展によっては主要な産業になる可能性はあると思いますが、当時の私は、技術力のみ目を奪われ、日本人全体の生活にまで考えが及んでいませんでした。

つまり、技術力はあくまで手段であって、日本人の生活向上が目的であるという当たり前のことに気がついていなかった訳です。

そう考えれば、技術力というのも必ずしも必須の要件では無いことにも気が付きます。

例えば、日露戦争で活躍した戦艦三笠は日本製ではなくイギリス製です。当時の明治政府の首脳は、戊辰戦争、西南戦争などの戦火の生き残りですので、最新の兵器しか役に立たないことが実感としてあったとされます。

したがって、戦争に勝つ目的のために、外国の最新技術を導入することは当たり前であり、自国技術にこだわることはありませんでした。

また、企業には知財部というものがあり、主に特許出願業務などを行なっていますが、今から40~50年くらい前は特許部といい、その主な業務は、外国からの技術導入でした。

当時の日本企業は発展途上であり、外国の優れた技術を導入して事業化するのが一般的でした。当時の特許マンはアメリカ、ヨーロッパを飛び回り、いろいろな企業のライセンスを得ることが、重要な任務でした。

外国の空港で、ライバル企業の人間と出会うと、どのような企業とライセンス交渉を行なっているかバレてしまいますので、海外では変装したり、中国人を装っていたりスパイ小説のようなこともあったそうです。

しかしながら、日本企業はこのライセンス導入により大きく力をつけ、現在。世界的な成功を得ることができたのは、ご存知のことと思います。

まとめますと、技術力というのはあくまでも手段であって、目的ではありません。技術力があっても事業に失敗することはありますし、逆に、技術力がなくても事業に成功することは可能です。

したがって、まずは、目的を明確化することが必要といえるでしょう。

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