2017年6月19日月曜日

自分を変えるか、相手を変えるか。

浪人時代、駿台予備校に通っていまして、そこで奥井先生の英語の講義を受けていました。

他の講師は大学受験対策を重視した講義内容でしたが、奥井先生は欧米文学の一説を題材に文学を語るという受験に役立つかよくわからない、優雅な内容でした。

その講義の中で今でも印象に残っているのが、スタンダールの恋愛論の一節です(浪人生にこういう講義をするのもなんだかと思いますが・・・。)

ドイツのお土産に、ザルツブルグの小枝というものがあるそうで、これは、岩塩採掘の坑道に、そこいらへんで適当に拾った木の枝を放り込んでおくと、木の枝の周囲に空気中の塩の成分が結晶化して蒸着し、きらきらしたダイヤのような輝きを放ち、それをお土産として売っているそうです。

小枝は原価がただのようなものですので、なかなか良い商売です・・・。

恋愛も似たようなもので、一人一人の人間は、どこにでもいる大して差がないかわり映えしないものですが、相手の心の中に投射された場合には、相手の心の中で、いろいろなものが蒸着してゆき、相手にとってかけがえのない人間になるそうです(結晶化作用といいます。)

異性にもてるには、収入力を上げる、ファッションセンスを磨く、など、自分を変えることに焦点を当てがちですが、スタンダールは、個々の人間はそう違いはないから、自分を変えるよりは、相手の内心を変える努力が効果的と語っているのではと思います(違うかもしれませんが・・・。)

私の感想としては、そうですか・・・、としか言えませんが、最近仕事をしていて似たような感覚にとらわれることがあります。

マーケティングを重視した商品開発では、まず顧客のニーズを調査して、どういう製品にするか決めてゆきます。つまり、顧客ニーズに合わせて製品を作り変えてゆきます。最近流行りのデザイン思考はこの製品変化をスピードアップする方法論です。

こういうニーズに合わせて自らを積極的に変えてゆくという製品がある一方、あまり変わらない製品があります。

例えば、ハーレーダビッドソンというメーカーがありますが、製品外形は半世紀変わらないというシーラカンスのようなバイクです。日本のバイクメーカーはユーザーニーズに応えるよう変化し続けているのと対照的です。

ハーレーは性能的には日本のバイクに劣っておりますので、普通に考えれば、全く売れないはずなのですが、実際には全く逆で、日本の大型バイクの半分くらいのシェアをとっておりますし、単価も日本のバイクより非常に高いので、大変儲かっているはずです。

では、人はなぜハーレーを買うかというと、上で述べた結晶化作用のようなものが内心に生じて、もはやハーレー以外目に入らなくなってしまうのではないでしょうか。

簡単にいえば、日本のバイクは自分が変わる派で、ハーレーは相手を変える派といえるでしょうか。こういう状態を一言でいってしまえば、ハーレーにはブランド力がある、となります。

ユーザーニーズを重視するデザイン思考の次には、ブランドアイデンティティーを重視するブランド思考が製品開発において重要となると個人的には予想しています。

駿台予備校を出て、もう30年たってますので、どういう講義が行われていたか、ほとんど覚えておりません。その中で、奥井先生の講義だけ記憶にあるのは、文学には内心を変化させて結晶化させる作用があるということでしょうか。なかなか奥が深いです。

2017年6月13日火曜日

特許査定がでたら・・・

特許査定が出たら特許料を納付するんではないか、と言われればそうなんですが、ちょっと待って考えてみましょう。

係争事件などに携わりますと、特許された発明でも、いろいろ権利行使に支障がある場合に出くわします。

例えば、意見書で発明を限定しすぎの主張をしていたり、特許されたものの請求項が過度に減縮されており権利行使しにくい場合や、そもそも何が書かれているのかよくわからないケースなどもあります。

その場合、請求項や明細書を補正したくもなるのですが、設定登録後は請求項を広くするような補正はできません。後悔先に立たずという感じとなります。

そうしますと、請求項を修正できる最後のチャンスが、特許査定後の30日以内となりますので、このチャンスを有効活用しない手はありません。

といっても、このタイミングでは補正はできませんので、権利行使可能な請求項とした分割出願をすることになります。分割出願の場合には再度の審査となりますので、場合によっては拒絶されるリスクはあります。

したがって、権利行使の可能性や拒絶されるリスクを勘案して、分割出願するかどうか決定することになります。

権利行使が難しいかどうか判断が難しい場合には、特許訴訟の経験のある弁護士か特定侵害訴訟代理業務付記有弁理士・・・に請求項のチェックをお願いすることもいいかもしれません。

特許査定となるとうれしいものですが、落ち着いて考えてみましょうという話でした。

2017年6月10日土曜日

製品と組織について

スマホは今や海外メーカーが主流となりましたが、よく考えてみますとスマホは日本の技術力で十分製造可能ですので、日本メーカの存在感がないというのは不思議なことともいえます。

この理由としては、スマホは(国際)水平分業で作られることにより、低コストの製造が可能となるので、垂直統合的な組織の日本メーカーでは高コストにならざるを得ず、価格競争力がない、という説明がよくなされます。

では、日本メーカーも水平分業的になればよいではないかと思いますが、そうは簡単にはいかないようです。

日本の電機メーカといえば、従業員数が数万人~10万人という規模になりますので、垂直統合をやめて水平分業的な組織に移行しようと考えた場合には、大規模な組織変更、人員整理が必要となると思います。

そうすると、役員会の意思統一や労働組合との交渉など、多大な労力が必要となりますので、社長の相当な力量が必要ですが、創業者でもない、サラリーマン社長の立場では、そこまでの改革は困難と思います。

日本の電機メーカーはスマホだけ作っているのではなく、国や電力企業からのインフラ製造の仕事もしており、こちらも有力な収入源となっています(というより、こちらに注力しています)。

インフラ関係は垂直統合的な組織でも対応できる仕事ですので、社内に垂直統合組織と水平分業組織を両立させるのも非効率であり、スマホを捨てて、垂直統合、インフラへ電機メーカーが進むのも合理的といえます。

そう考えますと、ソニーやパナソニックのように国の仕事に依存していない企業や、シャープのように外資系となった企業であれば、水平分業的な組織に移行しやすいと思われます。

私も、NECに以前勤めておりましたが、売上高、株価とも、私が辞めた年がピークであり、今は売上高1/2、株価1/3となっているそうです。そう考えると、組織変更に伴い、自分は実のところ人員整理された側の人間といえるのかもしれません・・・。

2017年5月13日土曜日

意味のイノベーションについて

前前前回の記事で、コンデジはスマホに対抗しようがないという、救いのない内容を書いてしまいましたが、それでは思考停止過ぎですので、少し考えてみました。

破壊的イノベーションに対抗するには、こちらも新たなイノベーションを起こすのが有効と思われます。

使えそうなイノベーション手法に、デザイン・ドリブン・イノベーションというのがあります。これは、製品の意味を探求するイノベーション手法です。

写真の意味は「記録」というものがあり、カメラはこの意味において性能を発揮するよう技術開発が行われてきました。

スマホのカメラの場合には、「共有」という新たな意味が見いだされ、この意味の重要性が高い場合には、ユーザーはこの意味を受け入れ始めます。

古い意味性しかないカメラは廃れ、スマホにユーザーは移行するという流れとなります。

そうしますと、スマホに対抗するには「共有」を超える意味性を見出すことが考えられるかと思います。

といっても、新たな意味を見出すにはどうすればよいのかとなりますが、これは「デザイン・ドリブン・イノベーション」という本に書いてあります。

まずは、自分一人で「写真」の意味を考えるという、なんとも哲学的な作業となります。

次に、意味を考えついたら、その意味をいろいろな専門家に解釈してもらい、意味を評価してもらいます。

通常の製品開発では、製品の評価はユーザーにゆだねますが、デザイン・ドリブン・イノベーションでは、歴史学者とか文化人類学者、マーケティングの専門家やら、日頃から物事を深く探求している人に解釈してもらうことが重要となります。

さて、このように意味を見出す作業となりますが、「技術」のウェイトがこの段階では高くないことになります。つまり、開発というと技術開発を考えがちですが、 デザイン・ドリブン・イノベーションの場合にはまず意味開発となります。

逆にいえば、新たな意味が開発できれば、技術自体は既存のものの組み合わせでも構いません(「枯れた技術の水平展開」とかいいます)。

もちろん、新たな意味に、新たな技術が組み合わされば、鬼に金棒ですので、技術が無意味ということではありません(「技術が悟る瞬間」とかいいます)。

では、具体的にはどうするかといえば、私は、カメラの専門家でないので、よくわかりません・・・。とはいえ、意味という観点で考えると、カメラも新しい製品がいろいろ出てきていることがわかります。

例えば、GoProなどのウェアラブルカメラがあります。この意味は何かといえば、「視線」とかそういうものになるでしょうか。

また、チェキのような取ってすぐにプリントできるカメラがあると思います。この製品の意味はなんでしょうか?同様なカメラは昔からポラロイドカメラとしてありますので、技術的には陳腐であり、一度は廃れた製品ですので、新たな意味性があると思います。

パーティーとかの集合写真で使われるようですので、「今の切り取り」とかそういうことになるのでしょうか。

個人的には、新たな意味性を見出しつつある製品として、 カシオの肌をきれいに加工してしまうカメラがあると思います。従来のカメラは「記録」するために、忠実な絵作りを実現しようとしていましたが、「フィクション」にまで加工してしまうというのは新たな意味と思います。

こういう考えると、意味を考えるのには、ソムリエのような語彙力が必要であることに今気が付きました。これからの技術者は、技術の本だけではなく、文学も読んだ方がよいかもしれません。

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