2025年2月1日土曜日

『土地がないのに店を出すの!?』特許のない商売も同じですよ、というお話

皆さん、特許ってなんのためにあるか考えたことありますか?

「そりゃ、まねされないためでしょ?」 「模倣品が出たら訴えるため?」

よくこんな声を聞きます。確かにその通りなんですが、実はそれだけじゃないんですよ。

「でもうちは訴訟なんてする気ないし、まねされても仕方ないから特許なんていらないよ」

こんな声も時々聞きます。一見もっともらしく聞こえますよね。でも、ちょっと待ってください!それって特許の大事な役割を見落としているかもしれません。

特許の本当の価値って?

特許には実は2つの大切な役割があるんです:

  1. まねされたときに文句が言える権利(これは皆さんご存知ですよね)
  2. 自分の事業を守るための「土地」(ここが重要!)

特に2番目の「土地」という考え方、ちょっとピンとこないかもしれませんね。じゃあ、身近な例で考えてみましょう。

ラーメン屋さんの話で考えてみよう

例えば、あなたがラーメン屋さんを開こうとしているとします。

繁華街で良い場所を見つけて、はりきって店舗を建てました。お客さんもたくさん来て、バリバリ商売繁盛!

...でもある日、突然知らないおじさんが来店。 「すみませんが、この土地、実は私の所有地なんですよ。店舗、撤去してもらえます?」

え゛っ!?

さらに「これまでの土地の使用料も払ってくださいね」なんて言われたら...最悪ですよね。

特許も同じなんです

実は特許も、このラーメン屋さんの土地と同じような役割があるんです。

技術を使ってビジネスをするなら、その技術の「土地」(=特許)をちゃんと確保しておかないと、後から「それ、私の特許ですよ?」って言われかねません。

もちろん特許があっても100%安全というわけじゃありません(法律の世界って複雑なので)。でも、特許を持っていれば、かなりの確率で安心してビジネスを続けられます。

「訴訟はしない」は理由にならない

「でもうちは訴訟なんてしないから...」

これって、「私は人の土地を奪ったりしないから、自分の土地の権利書はいらない」って言っているようなものです。

大事なのは、自分から訴えるかどうかじゃなくて、他の人から訴えられたときの「盾」になるってことなんです。

結局どうすればいいの?

特許って、ビジネスをする上での「土地」みたいなものです。

  • 攻撃的な使い方:他人の模倣を止めることができる
  • 防御的な使い方:自分の事業を守ることができる

だから、訴訟をする気がなくても、事業を安全に続けたいなら、やっぱり特許は取っておいた方が無難ですよ。

お店を出すときに土地を買うのと同じように、新しい技術でビジネスを始めるなら、その技術の「土地」(特許)も確保しておく。

そうすれば、せっかく軌道に乗ったビジネスを、突然の権利主張で止められる心配も少なくなりますからね。

特許って面倒くさそう...って思う方も多いと思います。でも、事業を守るための「保険」だと思えば、そんなに高い買い物でもないかもしれませんね。

2025年1月25日土曜日

「当たり前の技術になぜ特許が?」という疑問への回答

「こんな当たり前の技術に特許を与えてはいけない」

Xを見ていると、よくこんな意見を目にします。確かに一見もっともらしく聞こえますよね。でも、ちょっと待ってください。この考え方、実は特許制度の本質を見誤っているかもしれません。

なぜ「当たり前の技術」の特許が重要なのか?

実は、特許戦略において「当たり前の技術」こそが宝の山なんです。その理由を、現場の経験を交えてお話ししましょう。

1. 経済的価値は「実用性」で決まる

「当たり前」と感じる技術って、つまり「誰もが使いたい」技術ですよね。だからこそ、ビジネス的な価値が高いんです。特許の真の価値は技術の難しさではなく、市場での有用性にあります。

2. 高度な技術は特許より秘匿が有効なことも

逆説的ですが、すごく高度な技術って、実は特許化する必要性が低かったりします。理由は2つ:

  • 他社が真似できないので、権利化の必要性が低い
  • 特許を取ると技術内容が公開され、競合にヒントを与えてしまう

3. タイミングの問題

高度な技術には、もう一つ注意点があります。特許権の存続期間は出願から20年。技術が実用化される頃には権利が切れちゃう...なんてことも。これって、もったいないですよね。

4. 特許取得のリアル

「当たり前の技術なら誰でも特許が取れる」 ...そう思われがちですが、現実はそう単純じゃありません。

特許を1件取るのに必要な費用は、おおよそ100万円。

  • 弁理士への依頼費用
  • 特許庁への出願料
  • 審査請求料
  • 特許料...etc

もちろん、権利化も大変で、審査、審判、訴訟と戦う必要がでてくるかもしれません。

つまり、「当たり前」と批判する前に、自分で出願する覚悟があるかどうか。それが本当の分かれ目なんです。

特許戦略の真髄

実は、特許制度の本質は「画期的な発明の保護」だけじゃないんです。むしろ、実用的で広く使える技術を適切に保護することで、産業の発展を促進する。それが特許制度の重要な役割なんです。

だから私からのアドバイスは simple: 「これ、特許取れるかな?」と思ったら、技術レベルの高低にこだわらず、まずは出願を検討してみること。

結局のところ、批判は簡単です。でも、実際に行動を起こして、費用も負担して、特許を取得する。その過程を経験してこそ、特許制度の本質が見えてくるんじゃないでしょうか。

まとめ

「当たり前すぎる」という批判は、ある意味でその特許の価値を証明しているのかもしれません。だって、みんなが使いたいと思う技術だからこそ、そういう声が上がるわけですから。

特許の真の価値は、技術の難しさではなく、市場での有用性にある。このシンプルな事実を忘れないでください。

アイデアがあるなら、「当たり前かも」なんて思わずに、ぜひ特許出願にチャレンジしてみてはいかがでしょうか?

2025年1月18日土曜日

重要なのはIPづくり ~テレビ局の失敗から学ぶ、私たちの働き方~

最近、YouTubeである方の発言が面白かったので、みなさんと考えたいことがあります。その方が指摘していたのは、「今のテレビってバラエティばっかりで、IP(知的財産のこと)づくりができてないよね」ということ。

なるほど、確かに!と思いました。例えば、ドラマは一回作れば、再放送したり、映画化したり、続編を作ったり。いろんな形で活用できますよね。でも、バラエティって放送したらそれっきり。いわば"使い切り"なんです。

テレビ局さんも分かってるんでしょうけど、最近はテレビ離れもあって、お金のかかるドラマを作る余裕がない。だから低予算のバラエティに頼らざるを得ない。でもそれが、さらに視聴者離れを招いて...という悪循環に陥っているみたいです。

ここで「それって、私たちにも当てはまるんじゃない?」と気づきました。

私たちビジネスパーソンも、毎日バリバリ働いています。でも、その仕事って「フロー」の仕事、つまり"その場限り"になってないでしょうか?漫然と仕事をこなしているだけだと、10年20年働いても、手元に残るものが意外と少なかったりするんですよね。

だから私は、この10年くらい、意識的に「ストック」を作ることを心がけてきました。具体的には、仕事で得た知見を論文にまとめて発表するようにしています。

最初は「こんなの、誰が読むんだろう...」って思ってました。でも、続けているうちに少しずつ変化が。去年なんか、知財フェアで会った人や、マーケティング学会の授賞式で出会った方、それに知財学会やセミナーで声をかけていただいて。「論文読ませてもらってます」って言われることが増えてきたんです。

正直、すごく嬉しかった!地道にやってきたことが、少しずつ実を結んでいるんだなって。

みなさんも、日々の仕事の中で「これ、形に残せるかも?」というものがあるはずです。例えば:

  • 仕事のコツやノウハウをまとめる
  • 得意分野について記事を書く
  • 業務改善の仕組みを考える
  • ブログやSNSで専門的な情報を発信する

なんでもいいんです。大事なのは、今やっている仕事の中から「残せるもの」を意識的に見つけていくこと。それが、あなた自身の"IP"になっていくんです。

実は私、IPづくりの大切さに気づいたのは、ある本がきっかけでした。今でも時々読み返す大事な本です。よかったら、みなさんも読んでみてください:

『知ってなアカン!知的資産活用術』 https://amzn.asia/d/1xkkX2g

みなさんも、明日から少しずつでいいので、自分なりのIPづくりを始めてみませんか?きっと、数年後の自分に「やっておいてよかった!」って思ってもらえると信じています。

2025年1月3日金曜日

生成AIが示唆する知財業界の悲しい未来

2025年になりました!本年もよろしくお願いいたします!ということで、元気よく始めましたが、これからは暗い話題です。

先日、X上で、仕事がなくなった翻訳者の方のツィートが話題になってました(リンクは貼りませんが、検索すればすぐ出てくると思います。)

内容としては、生成AIが翻訳してしまうので、翻訳の仕事がなくなった、という話となります。

翻訳の仕事がなくなることは予期されていましたので、驚きはありませんが、いよいよこのような事態が現実化してきたと感じました。

知財業務が生成AIに置き換わり始めるのが2025年となるかと思います。以下は、私の悲観的な予想となりますので、当たらないかもしれませんし、当たらないでほしくもあります。

予想1:明細書作成業務

まず、生成AIに置き換わる可能性があるのが明細書作成業務となります。生成AIが生成する明細書は、現状大したことはありませんが、生成AIの能力の急速な発展を鑑みますと、そろそろ今年あたりから生成AIに置き換わり始めるのではないかと思います。

おそらく、明細書作成AI的なものが大企業を中心に普及を始めるのではないかと思います。そうしますと、明細書につきましては大企業を中心に内製化が進み、特許事務所へ依頼する件数が激減するのではないかと思います。

予想2:特許分析業務

特許分析業務も生成AIに置き換えが進むと思います。もともと分析自体はコンピュータが得意なところではありますが、それに生成AIの解釈能力が加わりますので、人間が太刀打ちできるところはまったくありません。

そうしますと、特許分析業務も大企業の内製化が進み、特許分析業者への依頼も激減するとと思います。

つまり、翻訳業界と同じように、明細書作成や特許分析をやっている人の仕事はなくなるのが2025年以降の宿命という悲しい未来がやってきます。

それでは、どうすればよいかも考えてみました。

1.若い人(20~30歳代)

若い人につきましては、まず、知財業界からの脱出を検討すべきと思います。若い人は転身が容易ですので、生成AIの影響が少ない業界へ転身するのがよいと思います。

具体的には、どんな仕事かといわれると困るのですが(知っていたら、私も転職します)、少なくとも生成AIに置き換わる可能性がある仕事は選ばないのがよいと思います。

2.中堅(30~40歳代)

中堅どころは、他の収入源の確保を考えるべきと思います。明細書作成や特許分析の売り上げが激減すると思いますので、他の収入源を確保して、収入の低下を補完するのがよいと思います。

具体的には、どんな収入源かといわれると困るのですが(知っていたら、私もやります)、今の仕事と相乗効果がある仕事や、逆にまったく関係ない仕事を副業的にするなどの対応が必要と思います。

場合によっては、新たなスキルを得るために、大学院へ通ったり、資格を取るなどのリスキリングが必要となると思います。

3.お年寄り(50歳以上)

50歳以上は、転職もリスキリングも容易でないので、残存者利益を狙うことになるかと思います。明細書の仕事が激減するといっても、まったくなくなるわけでもないので、少なくなった仕事を拾って生き延びることが考えられます。

ただし、売り上げは低下すると思いますので、固定費の削減等、売り上げが低下しても生き延びられる対策が必要となると思います。

しかし、知財業界の悲しい未来というタイトルにしましたが、知財業界自体は生成AIの活用により大きくレベルアップしますので、悲しいのは生成AIに置き換えられる実務者のみで、業界自体は発展するということになります。

私も、弁理士を廃業することを含めて、いろいろ考えております。まあ、人手不足で仕事は選ばなければあるようですので、深刻に考えず、どうにかなるという楽観的な考えでいたいとは思います。

「量より質」って本当?~歴史から学ぶ特許戦略のヒント~

 最近、特許の世界でよく聞く言葉があります。 「量より質が大切です!」 確かに、いいことのように聞こえますよね。でも、ちょっと待ってください。本当にそうなんでしょうか? 昔の日本はすごかった! 実は、日本には「特許出願件数世界一」だった時代があるんです。そして、その頃の日...