2015年11月17日火曜日

周知技術問題について(最終回)


以前何回かこのブログで、1回目の拒絶理由通知で新たな事項を組み込む補正をすると、周知技術で拒絶査定となり困っていることを記事にしたことがあります。

http://chizai-design.blogspot.jp/2015/10/blog-post_18.html

結局、全件拒絶査定不服審判を請求して、何とか全件特許査定となりました。

本屋で、「拒絶理由通知との対話」というような題名の本を見かけたことがあります。(読んではいません。)

私もこのような感じで、拒絶理由は審査官からのメッセージと捉えて、拒絶理由通知を事細かに分析して対応することが正しいという考えで仕事を進めてきました。

しかし今回の件で、この考えにはリスクがあることがわかりました。

要は、拒絶理由通知には記載も示唆もされていない、審査官の考えのようなものがあるということです。

また、一発で拒絶査定ということは、審査官側には、出願人とコミュニケーションをとる意欲もあまりないといえるかと思います。

したがって、今後は拒絶理由通知の分析だけではなく、例えば、面接なども駆使して、審査官の意図を探って行こうと思います。

拒絶理由通知に際し、全件面接を義務付けている企業もあるようですが、 無用な審判請求を避けるためには確実な方法かもしれません。

今回は、審判請求により権利化できましたが、出願人が審判請求の意思を示さなければ権利化できず、資金を投入した開発の成果を他社にただで提供するような、ひどい状況となるところでした。

2015年11月15日日曜日

言葉の使い方などについて

最近は少なくなりましたが、駅前で楽器を演奏して歌っている人がいます。こういうのを聞くととても迷惑な気分になることが多いです。

それはなぜかと考えましたら、駅前で歌うような素人の作る曲というのは、自己顕示欲を満たすためのものが多く、歌詞なども自分の感情を押し出すのみであり、聞く人のことを考えていないからと思います。

多くの人は他人に興味はありませんので、通勤通学途中に、無理やり聞かされても迷惑というわけです。

そう考えますと、プロのつくる音楽というものは、自分の考えを押し出すというよりは、聞く人の感情を引き出すような仕掛けがされていると思います。

聞く人の記憶につながるような言葉を選んで歌詞として構成し、聞く人の感情を引き出すことにより、自分の曲として聞けるようになり、それでCDを買おうという行動につながると思います。

もちろんそういう歌詞を書くためには、詞の勉強も必要ですし、生きた言葉とするにはそれなりの苦労をした人生経験も必要かと思います。

・・・

特許の仕事も言葉を使って明細書という文章を作るという点で、言葉を使用する仕事といえます。

明細書作成は国語的というよりは、機械設計、回路設計、プログラミングのような世界に近いです。論理に基づいて言葉を組み立ててゆくのみです。

そんな特許の世界ですが、感情を引き出そうと努力する場面があります。

それは、審査・審判・訴訟の段階において、審査官・審判官・裁判官に、発明の進歩性を主張する場面です。

少々まずいのは、自分は進歩性があると思う、とか、特許すべきとか、一方的に自分の感情を審査官にストレートにぶつけてしまうケースです。

しかし、これでは、審査官の心証は動きませんので、ほとんど意味はないと思います。そうすると、、審査官の感情を引き出して共感を得て、進歩性を認めさせる必要があります

たまに見かけるのが 、審査官の悪い感情を引き出す言葉の使用です。

例えば、「審査官殿の認定は片腹痛い」、「笑止千万」、「技術がわかっていない」、「愚かである」・・・、等、読んでいるだけで怒りが生じる言葉です。

もちろん、 審査官が怒れば、非論理的になり、進歩性否定のロジックに穴があけられるという高等戦術もあると思いますが、たいていは、良い結果につながらないと思います。

できれば、審査官の良い感情を引き出したいところですが、 ポイントは「意外感」となると思います。

これまたまずいのが、法律論のみで攻めることです。例えば、組み合わせの動議づけや、阻害要因などを一生懸命論じることです。

しかし、審査官も、そのあたりの検討は十分にやっていますので、声高に主張しても意外感がなく、あまり効果的ではありません。

そこで、意外感を演出するには、技術論に持ち込むことが効果的と思います。

審査官は技術開発を実際にしているわけではありませんので、技術開発の細かい点まで検討できているわけでもありません。そこで、技術論に持ち込めば意外性が出てきます。

例えば、技術的な背景、技術の詳細、発明をなすことが困難であった技術的理由、などです。そして、技術論を法律論に変換することにより、進歩性があるとの心証を得ることができるかと思います。

もちろん、技術論で攻めるにしても、うわべだけの言葉では死んだ言葉となってしまいますので、その技術分野の深い知識や、開発に苦労した経験に基づく、生きた言葉にしなければなりません。

そうすると、企業での開発経験がある弁理士に文書作成を依頼したり、発明者の生の言葉をつかって反論したりすることが有効となります。

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ということで、音楽にせよ特許にせよ、仕事として言葉を使うには、たゆまぬ勉強と血肉となる経験が必要ということになるかと思います。

2015年11月3日火曜日

文化の日について

本日は文化の日ということで、近くの小学校にて文化祭が開かれていました。そこに集まる子供たちを見ていると、自分もこのころが一番楽しかったと感じます。

その理由としては、小学校には男女がいて、勉強ができる・できない、運動が得意・不得意と、いろいろな人がいて、いろいろな価値観の中で、特定の価値観に固定されずに過ごせたからと思います。

しかしながら、成長とともに属する集団の価値観が狭まってきたように感じます。

中学では都内の男子校に入ったため、男の(まあまあ)賢い集団に属することになりました。価値観としては、男女→男のみ、勉強ができるできない→勉強が(まあまあ)できると、一気に1/4の大きさとなったため、かなり息苦しかった覚えがあります。

大学ではさらに理系単科大学に入ったため、理系・文系→理系のみと、さらに1/2の集団となり、昔からの1/8の狭い価値観のなかで研究生活を送り、その後、メーカに入りましたが、そこも大学と似たような感じでした。

こういう狭い考えの世界というのは、適応できる人にとっては天国のような環境ですが、そうでない人は、なかなか苦しい環境となります。

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近年、商品開発に際し、デザイン思考という考えが広まっています。デザイン思考の方法論としては、 (1)ユーザー視点、(2)多様な選択肢と統合、(3)視覚化、が重要なステップとなります。

このうち、(2)多様な選択肢と統合に際しては、多人数によるブレーンストーミングを行い、選択肢を増やすことが推奨されます。

ただし、ブレーンストーミングに参加するメンバーによって、その効果が異なります。メンバーの同質性が高い場合には、アイデアの質は向上しますが、ブレークスルーに結びつくアイデアはほとんどでません。

一方、多様なメンバーによってブレインストーミングをすれば、アイデアの質は低下しますが、たまにブレークスルーに結びつくアイデアが出やすくなります。

したがって、既存の技術の改善を目的とする場合には、同質性の高いメンバーでブレインストーミングを行うことが有効ですが、何か新しいことをやりたい場合には、多様性のあるメンバーで行う必要があります。

そう考えますと、日本のメーカーの開発部門には、理系の勉強のまあできる男子が集まっていることから、同質性が高く、技術の改良には向いていますが、突飛もないアイデアというものは出にくい状況なのではと考えます。

そうすると、新しいことをやるには、考えの異質性のようなものを積極的に確保する必要がありますが、そのような方法論に、デザイン・ドリブン・イノベーションがあるのかと思います。

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個人にせよ、組織にせよ、一つのことに集中することが時間的、コスト的に効率が高いですし、成果も出易いと思います。

しかし、それでは、新しいアイデアが浮かばない状態となり、集中した一つの分野の沈没とともに自身も沈没することになると思います。

そうすると、効率は悪いですが、個人にせよ、組織にせよ、異質なものを受け入れることが、変化の速い現在の世の中では必要なのかと考えます。

2015年10月31日土曜日

特別顕著性について

BABYMETALの人形がアメリカで販売されるそうです。

(FunkoのHP)
http://funko.com/blogs/news/72330947-straight-from-japan

こういうデフォルメした人形は、アニメのキャラクターが主で、実在の人間の人形が作られるのはなかなかないようです。

それはやはり、アニメのキャラクターは外観上の特徴が捉えやすいのに対し、実在の人間はそうとはいきませんので、デフォルメしにくいからなのではないでしょうか。

そう意味では、BABYMETALの外観は万人にわかる特徴があるといえます。こういう状態を知財的には、「特別顕著性」があるということになるかと思います。

特別顕著性があるとされるには、(1)ありふれた形態でない、(2)機能から定まる形態でない、(3) 周知である、という要件をすべて満たす必要があります。

それでは、余計なことかもしれませんが、暇つぶしに、各要件について確認したいと思います。

まず、「ありふれた形態」ですが、 BABYMETALのコスチュームはいわゆるゴシックロリータと呼ばれるそうですが、このゴシックロリータ自体はありふれていますので、これだけでは足りません。

次に、BABYMETALは3人グループですので、3人ともゴシックロリータということで、少しありふれていない感が出てくると思います。

次に、3人が並んだとき、真ん中の人が背が高く、両端の人は背が低く、かつ、同じくらいの背となります。つまり、シンメトリーとなりますので、外観のありふれていない感が強まります。

さらに、真ん中の人が、ポニーテールで、両端の人がツインテールで、シンメトリーであり、このあたりで、ありふれていない外観となるかと思います。

そう考えると、両端の人が、「そっくり」というところに、外観上の特徴があるかと思います。(実際、人形は見分けがつきません。)

「機能上の形態」ですが、機械ではありませんので、これは考慮しなくてもよいかと思います。

「周知性」ですが、これは興味深いところで、他の人形が、ビートルズやマイケルジャクソンというレジェンドクラスであり、人形になって当然と思われるのに対し、 BABYMETALは短期間に周知性を獲得している点です。

周知性があるとされるには、(1)広告宣伝の実績(費用、地域)、(2)広告宣伝に外観がちゃんと表示されている、(3)外観の特徴を変更せずに使用し続けていること、などが考慮されます。

「広告宣伝実績」ですが、これは、よくわかりません。 BABYMETALが所属している事務所は上場しているそうですので、財務諸表やIR資料からわかるかもしれません。

「広告への外観表示」ですが、これはインタビューを受ける際にもコスチュームを着用し、3人の並びも変更ないようにしていますので、気を使っているのだと思います。

逆に、コスチューム以外の服装を見せることや、3人ばらばらに活動することは、周知性に悪影響がありそうです。

「外観の不変更」ですが、これはデビュー以来、ずっと同じような恰好をしておりますので、厳しく守られているようです。これは、ヘビーメタルという様式を重んじるジャンルから自然とこうなっているのかと思います。

以上から、総合的に考えますと、 BABYMETALの外観は特別顕著性があるということになるかと思います。

これは、戦略的にやっているのか、偶然なのかはよくわかりません。しかし、今後は、この特別顕著性を利用したビジネス(キャラクター商品、多メディア展開)も可能となるかと思います。

また、特別顕著性を有していることから、BABYMETALを模倣したグループは参入しにくい状況かもしれません。

ということで、いいことづくめのようですが、一つ問題となるのが、イメージチェンジができないということになると思います。つまり、メタル以外の音楽をやりたくなった場合どうするか、ということです。

イメージチェンジしますと、せっかく築いた特別顕著性がリセットされますので、また、0からの活動となります。このあたりの舵取りは難しいところですが、外野としては興味深いところであります。

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