2013年7月27日土曜日

ちょっと確認して、について

先日、契約書作成実務の研修を受けたのですが、その講師の弁護士の方のコメントで印象に残りましたのが、「ちょっと」が一番怖いという話でした。

お客さんから、「ちょっと契約書の文面をチェックして」と頼まれ、その通り、簡単にチェックしてOKを出してしまうと、その後契約書に問題が発生した場合、チェックした弁護士の責任となってしまうケースがあるそうです。

契約書の文面のチェックを仕事として正式に受任した場合には数十万から数百万(数千万?)の費用が発生すると思いますが、ちょっとチェックの場合には、10万円程度もしくは「ただ」で行う場合が多いと思います。

ただし、10万円のレベルで仕事をしてしまうと、思わぬ責任問題が生じるので、仕事を受任するときに注意が必要という話でした。

私も同じような悩みを感じるときがあります。この発明は特許になるかちょっと教えて、とか、この製品はうちの特許権を侵害しているかちょっと教えて、と頼まれる場合があります。

特に会議の場などで、こういう質問をされると非常に困ります。即答できないとプロとして恥ずかしいと思う反面、特許性の判断は非常に難しく、先行技術を調査して、相違点の検討などに時間をかけて、ようやくそれなりの結論を導き出せますので、即答するのは無責任とも考えてしまいます。

さらに、「ちょっと」とお願いされる場合には、要は、「ただ」でやって、サービスでやってとの暗黙の要望もあり、この場合には、調査費用は請求できず、赤字となってしまいます。

そもそも日本では「サービス」にお金を払うという意識が低く(サービス残業という言葉もあるくらいですし・・・)、サービス業が成立しにくい国なのかも知れません。

脱線しましたが、「ちょっと」依頼された場合には、「ちょっと」出来る範囲の仕事の内容をお客さんに説明して合意をとり、その合意内容を書面で残すことが必要と思います。

また、結局「ちょっと」で請け負った仕事では内容が不十分な場合も多いと思いますので、正式な料金をお客さんに理解していただき、正式に仕事を受任する努力も必要かもしれません。


2013年7月20日土曜日

仕事のマニュアル化について

特許事務所で働いていたりすると、人の出入りが激しいため、仕事の引き継ぎ作業が大変だったりします。そういう時は仕事の内容がマニュアル化されていると、引き継ぎも楽に行えます。

事務所の経営から見た場合には、人の出入りのリスクに対応するため、業務のマニュアル化が必須ともいえます。

ただし、マニュアル化というのは従業員にとっては、良くもあり悪くもあります。

良い点としましては、マニュアル化により業務内容が明確となりますので、忙しい時や急用があるときは他の人に仕事を分担してもらうことができます。

悪い点としましては、仕事が特定の人のスキルに依存しなくなりますので、いわゆる「自分の代わりはいくらでもいる」という状態になり、他の人との競争の結果、解雇されやすくなったり、給料が低く抑えられたりします。

特許事務所では、ひとりで仕事を抱え込んでいる人もいますが、そういう人はマニュアル化に抵抗して、自分を守っているのかもしれません・・・。

さて、同じようなことが、技術の標準化にもいえると思います。

近年、知財戦略の一環として、国際技術標準に取り組む企業が増え、国もその後押しをしています。

ただし、何でもかんでも標準にすればよいというものではありません。技術の標準が進みますと、一定の品質の製品を誰でも製造することができるようになります。

したがって、標準を満たした製品であれば、結局安く作れる企業や国の製品が市場のシェアを伸ばすことになります。

例えば、パソコンや携帯電話は、安く作れる企業の製品がシェアを伸ばし、日本の製品は苦しい戦いを強いられております。

一昔前では、信頼出来るブランドの製品しか売れませんでしたが、今では、同様の規格で製造されておりますので、後は価格勝負となります。

したがって、標準化活動というのは、実際には自社のコア技術が標準化されないようにする活動ともいえます。

自社のコア技術についてはブラックボックス化し、その周辺の重要性の低い部分を標準化してゆくことにより、「自社の代わりはいくらでもいる」という状況を回避できるのではと思います。
 

2013年5月19日日曜日

商売というものについて

私も社会人として20年働いて来ましたが、たまに商売とはなんだろうと考えることがあります。

私の前職は生産機械の技術者でしたが、この仕事は結構きつかった記憶があります。

お客さんの要望に応じて生産機械を設計・製造する仕事でしたが、毎回違う機械を設計することになるため、毎回0からの設計となり、必然的に長時間労働となります。

しかも業務範囲が広く、工数の管理や、資材の調達、設計・製造、現地での立ち上げなどを行わなければならず、ただ忙しい毎日で、30歳を過ぎた当たりで、このままでよいのかと不安感もつのりました。

そういう中、知り合いの友人のお父さんがやっているカレー屋の話を聞くことがありました。

そのカレー屋は、午後2時には閉店して、その後の時間は、お父さんの趣味の時間(三味線など)の時間となるそうです。

工場地帯の中にあるカレー屋ですので、労働者の昼ごはんに絞ってお店を開け、お客がこない夜や土日はお休みだそうです。

メニューはカレーだけですので、注文を受けてからすぐにお客さんに出せますし、お客さんも数分で食べてしまうでしょうから、お客の回転も早く、それなりの売上も上がります。

ということで、毎日同じカレーを仕込むだけで、生活できる程度の売上も上がりますし、空いた時間は自由に使えるというわけです。

当時の自分は、技術的に高度な仕事をいろいろこなし、長時間働かなければ生きていけないという脅迫観念がありましたが、実際の商売はそういう原理で動いているのではないことに気づかされました。

むしろ、やることを絞って仕事を効率化し、顧客のニーズを捉えて、適切なビジネスモデルを構築すれば、あとは自力で仕事をすることも可能だということかもしれません。

その後自分は会社を辞め、いろいろと仕事を変えておりますが、ビジネスモデルの理想の一つとしていつも思うのは、そのカレー屋さんであり、高度な仕事をしよう、長時間働こうという方向へ考えが行かないよう気をつけています。

2013年4月21日日曜日

公開の代償?としての特許権について

無料で受講できるとのことで、無料好きな私は、この4月から週1コマで某大学の知財系の講座を受講しています。

この時期の大学は新入生もいるせいか非常に活気があり、自分の学生時代を思い出したりもします。

5月に入ると真面目に講義に出席する学生も減り、雰囲気も落ち着くようですが・・・。

2回目の講義は、特許法を知らない学生が多いためか、特許法の基礎について説明がありました。

講義では質問すると加点対象となるようで、学生さんも積極的に質問しておりました。質問の中に、次のようなものがありました。

「公開の代償として特許権を付与するのに、拒絶査定となってしまった出願は公開されるだけで特許権は付与されないのだから、損なだけではないか?」

確かに、ごもっともな意見だと思いました。

出願費用が無駄になるだけではなく、公開した技術は誰でも実施できるため、 自社の技術が公開されることによる不利益は非常に大きいものとなります。

特許庁の工業所有権法逐条解説によれば、出願公開制度の趣旨としましては、出願された発明の内容が長期間公開されないことによる、企業活動の不安定化や、重複研究、重複投資、(重複出願)という弊害の除去にあるとされます。

したがって、出願公開制度は、出願人の利益を守るというよりも、公益性の高い制度といえると思います。

講師の方は学生に対して、「拒絶される出願は価値がないので問題ない」というような回答をされていましたが、これは少々乱暴かなと感じました。

拒絶理由にはいろいろあるのですが、新規性がない場合には確かに価値はあまり無いといえると思います。

しかし、進歩性がないと判断された出願については、技術的価値がまったくないとはいえません。

進歩性の判断は難しいので、審査官の判断にばらつきがあり、他の審査官が審査した場合には、特許されたかも知れません。

また、審査の厳しい時期、ゆるい時期などもありますので、時期をずらせば特許されたかもしれません。

さらに、審査でダメでも、拒絶査定不服審判や審決取消訴訟へ進むことにより、特許される場合もありますが、費用がかかりますので、あきらめてしまう会社も多いと思います。

さらに、記載要件違反や単一性違反で拒絶された場合には、技術の価値は判断されず、もっぱら明細書の書き方が悪いという理由だけで、権利化できません。

このように技術的価値がある出願についても、権利化されずただ公開されてしまうケースも多いと思われ、この場合出願人の不利益が大きくなると思います。

そこで、出願人としては、特許化されずに公開されることを防ぐことが重要となります。

そのためには、出願前に先行技術調査を行い、特許性をある程度確認してから出願を行うことや、早期審査を利用して公開前に査定を得てしまうことなどが考えられます。

大学の講義は7月まで続くのですが、どういう質問がされるかとても楽しみです。こういう本質をつく質問は大変勉強になります。

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