2017年6月26日月曜日

調査なしの出願について

今月号のパテント誌は弁理士キャラバンの特集号でした。

私も認定コンサルタント(正式名称は忘れました・・・)なのですが、何年も依頼が来ない幽霊状態ですので、本当にやっているのかと感心しました・・・。

そのような中で少し気になったのが、キャラバン弁理士が企業の方からヒアリングした際、「以前、弁理士から特許調査に時間をかけるくらいなら早く特許出願したほうがいいといわれたことがある」というような話が出た部分です。

どのような状況下でその弁理士はこのようなアドバイスをしたのかわかりませんが、特許調査をせずに特許出願をする場合には、次の2つのリスクに注意しなければなりません。

1つ目は、拒絶査定となるリスクです。特許調査をせずに特許出願をするということは、特許性が不明なまま出願をすることになりますので、審査で近い文献が見つかり、拒絶査定となる可能性は大です。

特許出願には50~100万円の費用が掛かりますので、拒絶査定となった場合には、そのコストが無駄になることになります。この程度の費用の無駄はなんともない、という会社でしたら問題ないのですが、そうではないと思いますので、少し考えようということになります。

特許調査自体は、調査会社で5~10万円程度で調査してもらえますので、費用は掛かりますが、あきらかに特許性がない発明は調査でわかりますので、出願費用が無駄となることを削減できると思います。

2つ目は、1発で特許査定となるリスクです。特許になればいいではないか、と考えてしまいがちですが、1発で特許査定ということは先行文献が0ということですから、不必要に狭い権利となっている可能性があります。

拒絶理由通知が1回でもあれば、先行文献の存在がわかりますので、あとは、特許になるギリギリの線を狙って請求項を減縮補正するのですが、1発特許査定ですとそれもできません。

この場合には、分割出願してもう少し広い請求項に置き換えたいところですが、特許査定が出たので分割出願しましょう、などと担当者の方に説明しても、「なんで?」となるでしょうし、分割出願にも通常出願と同等の費用が掛かりますので、余計に出願費用がかかるということにもなりかねません。

そう考えますと、調査するくらいなら出願した方がいいとはいわずに、きちんと調査をした方が、結果的に、出願コストは安くなると思います。

逆にいえば、調査をしない方が、手続きが増えて弁理士は儲かるともいえてしまいますので、まあそう思われないようにしなくてはなりません・・・。

私の場合には、基本的に調査をしてから出願してもらうようにしています。これは上記2つのリスクに加えて、拒絶査定となるとメンタル的にダメージがありますので、自分は弁理士としてだめだ・・・、無力だ・・・と感じて仕事の意欲が低下することもあり、できるだけ調査して特許性を高めてから出願するようにしています。

2017年6月19日月曜日

自分を変えるか、相手を変えるか。

浪人時代、駿台予備校に通っていまして、そこで奥井先生の英語の講義を受けていました。

他の講師は大学受験対策を重視した講義内容でしたが、奥井先生は欧米文学の一説を題材に文学を語るという受験に役立つかよくわからない、優雅な内容でした。

その講義の中で今でも印象に残っているのが、スタンダールの恋愛論の一節です(浪人生にこういう講義をするのもなんだかと思いますが・・・。)

ドイツのお土産に、ザルツブルグの小枝というものがあるそうで、これは、岩塩採掘の坑道に、そこいらへんで適当に拾った木の枝を放り込んでおくと、木の枝の周囲に空気中の塩の成分が結晶化して蒸着し、きらきらしたダイヤのような輝きを放ち、それをお土産として売っているそうです。

小枝は原価がただのようなものですので、なかなか良い商売です・・・。

恋愛も似たようなもので、一人一人の人間は、どこにでもいる大して差がないかわり映えしないものですが、相手の心の中に投射された場合には、相手の心の中で、いろいろなものが蒸着してゆき、相手にとってかけがえのない人間になるそうです(結晶化作用といいます。)

異性にもてるには、収入力を上げる、ファッションセンスを磨く、など、自分を変えることに焦点を当てがちですが、スタンダールは、個々の人間はそう違いはないから、自分を変えるよりは、相手の内心を変える努力が効果的と語っているのではと思います(違うかもしれませんが・・・。)

私の感想としては、そうですか・・・、としか言えませんが、最近仕事をしていて似たような感覚にとらわれることがあります。

マーケティングを重視した商品開発では、まず顧客のニーズを調査して、どういう製品にするか決めてゆきます。つまり、顧客ニーズに合わせて製品を作り変えてゆきます。最近流行りのデザイン思考はこの製品変化をスピードアップする方法論です。

こういうニーズに合わせて自らを積極的に変えてゆくという製品がある一方、あまり変わらない製品があります。

例えば、ハーレーダビッドソンというメーカーがありますが、製品外形は半世紀変わらないというシーラカンスのようなバイクです。日本のバイクメーカーはユーザーニーズに応えるよう変化し続けているのと対照的です。

ハーレーは性能的には日本のバイクに劣っておりますので、普通に考えれば、全く売れないはずなのですが、実際には全く逆で、日本の大型バイクの半分くらいのシェアをとっておりますし、単価も日本のバイクより非常に高いので、大変儲かっているはずです。

では、人はなぜハーレーを買うかというと、上で述べた結晶化作用のようなものが内心に生じて、もはやハーレー以外目に入らなくなってしまうのではないでしょうか。

簡単にいえば、日本のバイクは自分が変わる派で、ハーレーは相手を変える派といえるでしょうか。こういう状態を一言でいってしまえば、ハーレーにはブランド力がある、となります。

ユーザーニーズを重視するデザイン思考の次には、ブランドアイデンティティーを重視するブランド思考が製品開発において重要となると個人的には予想しています。

駿台予備校を出て、もう30年たってますので、どういう講義が行われていたか、ほとんど覚えておりません。その中で、奥井先生の講義だけ記憶にあるのは、文学には内心を変化させて結晶化させる作用があるということでしょうか。なかなか奥が深いです。

2017年6月13日火曜日

特許査定がでたら・・・

特許査定が出たら特許料を納付するんではないか、と言われればそうなんですが、ちょっと待って考えてみましょう。

係争事件などに携わりますと、特許された発明でも、いろいろ権利行使に支障がある場合に出くわします。

例えば、意見書で発明を限定しすぎの主張をしていたり、特許されたものの請求項が過度に減縮されており権利行使しにくい場合や、そもそも何が書かれているのかよくわからないケースなどもあります。

その場合、請求項や明細書を補正したくもなるのですが、設定登録後は請求項を広くするような補正はできません。後悔先に立たずという感じとなります。

そうしますと、請求項を修正できる最後のチャンスが、特許査定後の30日以内となりますので、このチャンスを有効活用しない手はありません。

といっても、このタイミングでは補正はできませんので、権利行使可能な請求項とした分割出願をすることになります。分割出願の場合には再度の審査となりますので、場合によっては拒絶されるリスクはあります。

したがって、権利行使の可能性や拒絶されるリスクを勘案して、分割出願するかどうか決定することになります。

権利行使が難しいかどうか判断が難しい場合には、特許訴訟の経験のある弁護士か特定侵害訴訟代理業務付記有弁理士・・・に請求項のチェックをお願いすることもいいかもしれません。

特許査定となるとうれしいものですが、落ち着いて考えてみましょうという話でした。

2017年6月10日土曜日

製品と組織について

スマホは今や海外メーカーが主流となりましたが、よく考えてみますとスマホは日本の技術力で十分製造可能ですので、日本メーカの存在感がないというのは不思議なことともいえます。

この理由としては、スマホは(国際)水平分業で作られることにより、低コストの製造が可能となるので、垂直統合的な組織の日本メーカーでは高コストにならざるを得ず、価格競争力がない、という説明がよくなされます。

では、日本メーカーも水平分業的になればよいではないかと思いますが、そうは簡単にはいかないようです。

日本の電機メーカといえば、従業員数が数万人~10万人という規模になりますので、垂直統合をやめて水平分業的な組織に移行しようと考えた場合には、大規模な組織変更、人員整理が必要となると思います。

そうすると、役員会の意思統一や労働組合との交渉など、多大な労力が必要となりますので、社長の相当な力量が必要ですが、創業者でもない、サラリーマン社長の立場では、そこまでの改革は困難と思います。

日本の電機メーカーはスマホだけ作っているのではなく、国や電力企業からのインフラ製造の仕事もしており、こちらも有力な収入源となっています(というより、こちらに注力しています)。

インフラ関係は垂直統合的な組織でも対応できる仕事ですので、社内に垂直統合組織と水平分業組織を両立させるのも非効率であり、スマホを捨てて、垂直統合、インフラへ電機メーカーが進むのも合理的といえます。

そう考えますと、ソニーやパナソニックのように国の仕事に依存していない企業や、シャープのように外資系となった企業であれば、水平分業的な組織に移行しやすいと思われます。

私も、NECに以前勤めておりましたが、売上高、株価とも、私が辞めた年がピークであり、今は売上高1/2、株価1/3となっているそうです。そう考えると、組織変更に伴い、自分は実のところ人員整理された側の人間といえるのかもしれません・・・。

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