2017年7月5日水曜日

ブランドとデザインについて

ブランドデザイン保護 経産省、意匠法改正を検討」という記事をネット上に見かけました(新聞社の記事のリンクはすぐに消えてしまいますので、リンクは割愛いたします。)

その新聞社の会員ではありませんので、記事を最後まで読めないのですが、記事の題名に違和感を感じました。

「ブランドデザイン」というのが意味不明ですし、そもそも「ブランド」と「デザイン」とは異なる概念ですので、無造作にくっつけてよいのかと思います。

その後、経産省のホームページで以下のニュースリリースを見つけました(リンクあり)

「産業競争力とデザインを考える研究会」を設置します


先のニュースはこの研究会のことをいっているのかと思います。

この1次ソースを読みますと、「ブランドデザイン」なる用語は一言も使われておらず、 「ブランド」と「デザイン」をきちんと区別して使用しております。

官庁は新聞社とは異なり慎重に用語を選んで使っているようです。やはり、1次ソースに当たることが重要とあらためて思いました。

研究会でどのようなことが議論されるのかはよくわかりませんが、ブランドアイデンティティたる物品の形態について、効果的に意匠権で保護できるよう、意匠法の改正を念頭においた議論を行うようです。

このような考えは方向性としてはありと思いますが、そうはうまくゆかない事情もあります。一番の問題は意匠権には存続期間20年という縛りがあることです。

例えば、自社ブランドアイデンティティたる商品の形態について無事に意匠権が取れたとします。そうすると、商品形態が保護された状態で自社ビジネスを行うことができます。

しかしながら20年後には意匠権が消滅しますので、法律の建前上、誰でもその商品形態を実施することが可能となります。

20年間商品形態を実施することにより、ブランド価値が高まりますが、意匠権消滅後は誰でも実施できますので、20年間のブランド価値を高める活動が無意味となる、おかしな結果となります。

ブランドというのは半永続的に使用することにより価値が高まりますので、存続期間に限りのある権利とはマッチングが悪いことになります。やはり、半永久的に保護可能な商標権による保護が望ましいことになります。

研究会では、このあたりも議論されると思いますので(されないかもしれませんが・・・)、本年度末に出される結論に注目したいと思います。

2017年7月2日日曜日

課題分析型コンサルティングの課題について

今月号のパテント誌の特集は弁理士キャラバンでした(パテント誌の内容は3か月後に弁理士会ホームページで公開されますので、10月ごろには誰でも見れるようになります)。

しかしながら、コンサルティングを受けた企業の感想が書かれているのみで、実際にどのようなコンサルティングが行われたかは、よくわかりませんでした。

感想からコンサルティング内容を推測すると、複数の弁理士が複数回中小企業を訪問して、その企業の課題を分析して、中小企業の経営者様に報告する、というような手順のようです。

こういうコンサルティングの手法の課題としてよくいわれるのが、課題が放置されるとか、課題が解決されない、という事態の発生です。

例えば、分析の結果、特許出願件数が少ない、という課題が発見されて、その旨企業の方に報告した場合には、「そうですね・・・。」と納得感の高い反応があると思います。

それでは、その課題が解決されるかといえば、いつかやろう、と考えて先の伸ばしになり、そのままうやむやとなるケースが多いのではないでしょうか。

これは中小企業の場合には仕方のないことともいえます。他に業務を抱えた人が多いですので、課題解決に回せる人もいないですし、予算もありません。(大企業であればプロジェクトチームを作ったり、予算を当てたりするのでしょうけど。)

そう考えると、中小企業には課題分析型コンサルティングよりも、企業の課題はとりあえず横に置いておいて、社内で知財活動が回るよう、社内規程を整える、組織を作る、人材教育をする、というような足元を固めるところから始めた方がよいのかもしれません。

足元を固めれば、課題についても外部の人間に指摘されるまでもなく自然と社内のリソースで解決できるようになります。これ以上書くと弊社の宣伝になりますので、このあたりでやめておきます・・・。

話は変わりますが、弁理士キャラバンは無料でのサービスとなりますので、中小企業にとっては使いやすいサービスなのですが(コストパフォーマンスが無限大!)、同様に中小企業に対するサービスを行っているコンサルタントからみると事業が圧迫される存在でもあります。

ということで、民業圧迫とならない程度で活動いただければというのが希望となります。

2017年6月26日月曜日

調査なしの出願について

今月号のパテント誌は弁理士キャラバンの特集号でした。

私も認定コンサルタント(正式名称は忘れました・・・)なのですが、何年も依頼が来ない幽霊状態ですので、本当にやっているのかと感心しました・・・。

そのような中で少し気になったのが、キャラバン弁理士が企業の方からヒアリングした際、「以前、弁理士から特許調査に時間をかけるくらいなら早く特許出願したほうがいいといわれたことがある」というような話が出た部分です。

どのような状況下でその弁理士はこのようなアドバイスをしたのかわかりませんが、特許調査をせずに特許出願をする場合には、次の2つのリスクに注意しなければなりません。

1つ目は、拒絶査定となるリスクです。特許調査をせずに特許出願をするということは、特許性が不明なまま出願をすることになりますので、審査で近い文献が見つかり、拒絶査定となる可能性は大です。

特許出願には50~100万円の費用が掛かりますので、拒絶査定となった場合には、そのコストが無駄になることになります。この程度の費用の無駄はなんともない、という会社でしたら問題ないのですが、そうではないと思いますので、少し考えようということになります。

特許調査自体は、調査会社で5~10万円程度で調査してもらえますので、費用は掛かりますが、あきらかに特許性がない発明は調査でわかりますので、出願費用が無駄となることを削減できると思います。

2つ目は、1発で特許査定となるリスクです。特許になればいいではないか、と考えてしまいがちですが、1発で特許査定ということは先行文献が0ということですから、不必要に狭い権利となっている可能性があります。

拒絶理由通知が1回でもあれば、先行文献の存在がわかりますので、あとは、特許になるギリギリの線を狙って請求項を減縮補正するのですが、1発特許査定ですとそれもできません。

この場合には、分割出願してもう少し広い請求項に置き換えたいところですが、特許査定が出たので分割出願しましょう、などと担当者の方に説明しても、「なんで?」となるでしょうし、分割出願にも通常出願と同等の費用が掛かりますので、余計に出願費用がかかるということにもなりかねません。

そう考えますと、調査するくらいなら出願した方がいいとはいわずに、きちんと調査をした方が、結果的に、出願コストは安くなると思います。

逆にいえば、調査をしない方が、手続きが増えて弁理士は儲かるともいえてしまいますので、まあそう思われないようにしなくてはなりません・・・。

私の場合には、基本的に調査をしてから出願してもらうようにしています。これは上記2つのリスクに加えて、拒絶査定となるとメンタル的にダメージがありますので、自分は弁理士としてだめだ・・・、無力だ・・・と感じて仕事の意欲が低下することもあり、できるだけ調査して特許性を高めてから出願するようにしています。

2017年6月19日月曜日

自分を変えるか、相手を変えるか。

浪人時代、駿台予備校に通っていまして、そこで奥井先生の英語の講義を受けていました。

他の講師は大学受験対策を重視した講義内容でしたが、奥井先生は欧米文学の一説を題材に文学を語るという受験に役立つかよくわからない、優雅な内容でした。

その講義の中で今でも印象に残っているのが、スタンダールの恋愛論の一節です(浪人生にこういう講義をするのもなんだかと思いますが・・・。)

ドイツのお土産に、ザルツブルグの小枝というものがあるそうで、これは、岩塩採掘の坑道に、そこいらへんで適当に拾った木の枝を放り込んでおくと、木の枝の周囲に空気中の塩の成分が結晶化して蒸着し、きらきらしたダイヤのような輝きを放ち、それをお土産として売っているそうです。

小枝は原価がただのようなものですので、なかなか良い商売です・・・。

恋愛も似たようなもので、一人一人の人間は、どこにでもいる大して差がないかわり映えしないものですが、相手の心の中に投射された場合には、相手の心の中で、いろいろなものが蒸着してゆき、相手にとってかけがえのない人間になるそうです(結晶化作用といいます。)

異性にもてるには、収入力を上げる、ファッションセンスを磨く、など、自分を変えることに焦点を当てがちですが、スタンダールは、個々の人間はそう違いはないから、自分を変えるよりは、相手の内心を変える努力が効果的と語っているのではと思います(違うかもしれませんが・・・。)

私の感想としては、そうですか・・・、としか言えませんが、最近仕事をしていて似たような感覚にとらわれることがあります。

マーケティングを重視した商品開発では、まず顧客のニーズを調査して、どういう製品にするか決めてゆきます。つまり、顧客ニーズに合わせて製品を作り変えてゆきます。最近流行りのデザイン思考はこの製品変化をスピードアップする方法論です。

こういうニーズに合わせて自らを積極的に変えてゆくという製品がある一方、あまり変わらない製品があります。

例えば、ハーレーダビッドソンというメーカーがありますが、製品外形は半世紀変わらないというシーラカンスのようなバイクです。日本のバイクメーカーはユーザーニーズに応えるよう変化し続けているのと対照的です。

ハーレーは性能的には日本のバイクに劣っておりますので、普通に考えれば、全く売れないはずなのですが、実際には全く逆で、日本の大型バイクの半分くらいのシェアをとっておりますし、単価も日本のバイクより非常に高いので、大変儲かっているはずです。

では、人はなぜハーレーを買うかというと、上で述べた結晶化作用のようなものが内心に生じて、もはやハーレー以外目に入らなくなってしまうのではないでしょうか。

簡単にいえば、日本のバイクは自分が変わる派で、ハーレーは相手を変える派といえるでしょうか。こういう状態を一言でいってしまえば、ハーレーにはブランド力がある、となります。

ユーザーニーズを重視するデザイン思考の次には、ブランドアイデンティティーを重視するブランド思考が製品開発において重要となると個人的には予想しています。

駿台予備校を出て、もう30年たってますので、どういう講義が行われていたか、ほとんど覚えておりません。その中で、奥井先生の講義だけ記憶にあるのは、文学には内心を変化させて結晶化させる作用があるということでしょうか。なかなか奥が深いです。

【PR】“AI、生成AI”による知財業務の効率化、スピード化のセミナーについて(9/27開催)

掲題の件、セミナーの1/4を担当することになりました。私の担当分は、「【第2部】生成AIで革新する特許データ分析」です。URLは以下となります。 AI 生成AI 特許調査 分析 翻訳 技術情報協会はセミナー・出版・通信教育を通じて企業の最前線に立つ研究者、技術者をサポートし社会に...