2020年3月15日日曜日

特許判断マトリクス?について

3月も半ばとなりましたが、コロナウィルスの世界的蔓延が止まりません。心理的には、東日本大震災のときのような不安感があります。

コロナウィルス対策の決め手となるのは、ワクチン開発、抗ウィルス剤開発と思いますので、関係機関には頑張ってもらいたいと思います。

さて、コロナウィルス感染の診断には、現状PCR検査が主に使用されています。しかし、PCR検査の確度は100%ではなく、偽陽性もありますし、偽陰性もあります。

偽陽性とは、陰性であるのに間違って陽性と判定されることをいい、偽陰性とは陽性であるのに間違って陰性と判断されることをいいます。

偽陰性の場合には、陽性であるのに間違っておりますので、感染を正しく判断できず、よろしくない判断ともいえるかと思います。

偽陽性の場合には、陰性であるのに間違っておりますので、安全サイドに考えれば問題ないのかもしれませんが、日本のように医療資源に限界がある場合には、偽陽性の人が病院に殺到し医療崩壊の原因にもなりかねないので、こちらもよろしくはありません。

と、専門外のことについて語るとボロがでますので、ここでやめます。

似たような判断は、特許でもあります。特許出願時には、特許されるか、拒絶されるか予想して、出願して審査結果を得るのですが、その関係は以下の行列のような関係になるかと思います。



行列内の「特」は、特許されると予想し、審査結果も特許のもの
行列内の「偽特」は、特許されると予想し、審査結果は拒絶のもの
行列内の「偽拒」は、拒絶されると予想し、審査結果は特許のもの
行列内の「拒」は、拒絶されると予想し、審査結果も拒絶のもの

「偽拒」と「拒」は、出願時に拒絶が予想されているので、出願が行われることは基本的にはなく、このケースを想定するのは意味がないかもしれません。

例えば、特許査定率90%以上を宣伝文句とする特許事務所における特許査定率とは
 特許査定率(90%)=「特」件数 (例えば90件)/(「特」件数(例えば90件)+「偽特」件数(例えば10件))
となります。

予想に問題がないのは「特」と「拒」であり、これを100%できるのが完ぺきな弁理士となりますが、実際には進歩性の判断にあいまいな部分もあることから、必然的に「偽特」と「偽拒」が生じてしまいます。

特に目立つのは「偽特」となります。つまり、特許と思ったのに拒絶となったケースです。このようなケースでは、クライアントによっては弁理士に不信感を持ち、仕事がなくなったりします。

そうしますと、弁理士としては、商売あがったりにならないように「偽特」を減らすような行動をとることになります。具体的には、特許性判断基準を厳しくして、特許の見込みの低い発明は出願しないように誘導する、などです。

そうしますと、特許査定率も上がり、クライアントも弁理士も万々歳となるような気もしますが、本当でしょうか?

このように「偽特」を減らす行動をとると「偽拒」が増えることになります。つまり、本来特許されるのに、出願されない(すなわち権利化されない)発明が増大します。

「偽拒」については出願しませんので、「偽拒」は通常はみえず、「偽拒」の有無は出願時には問題とはなりません。

しかし、「偽拒」について、競合他社が自由実施し始めたり、競合他社が権利化してしまった場合には、「偽特」を減らす行動をしたことのリスクが、突如表出することになります。

したがって、「偽拒」を出願できる判断もしなければなりませんが、弁理士は上記の事情もあり、積極的には言えません。企業の知財部も同様かと思います。

結局、「偽拒」を出願する判断ができるのは、リスク判断ができる企業の経営層となるかと思います。

経営層が知財に積極的に関与している企業は、②「特」と「偽拒」を出願でき、知財部が孤立して知財活動をしている企業は、①「特」と「偽特」を出願することになるでしょうか。

現実的には、「偽特」と「偽拒」のバランスをとる(「偽特」を減らしすぎない、など)ことが必要と思います。そういう意味では、特許査定率を実務品質の基準とするのは危険と思います(もちろん、目安にはなりますが)。

2020年3月8日日曜日

特許が生き残るには。

先日、先行技術調査をしていましたら、2000年代前半のビジネスモデル関係の出願をいくつか見つけました。

経過情報を見ましたところ、軒並み「発明ではない」という理由で拒絶査定となっておりました。

明細書を幾らしっかり書いても、数行の拒絶理由で処理されてしまいますので、出願する方としては、やってられないような気持だったのではないでしょうか。

確か、当時のビジネスモデルの特許査定率は20%程度だったと思います(今はもっと高いようです)。

なぜ、このようなこととなったかといえば、一つにはビジネスモデルのような特許を認めると、独占権が乱立して経済活動が阻害されるというアンチパテント的な意見があったと思います。

また、当時は審査の滞貨が増大しており、これ以上特許出願が増えると困るという事情もあったと思います。

とはいえ、今考えれば、このときビジネスモデル特許を積極的に保護していれば、今のような出願件数低下に苦しむことはなかったのだろうなと思います。

また、近年、商標法や意匠法はサービス業対応の法改正がなされ、内容が世の中の変化についていけている気がしますが、特許法の方もそろそろ世の中の変化に合わせる必要があるのではないでしょうか。

ここで問題となりますのが、特許法における発明の定義に「自然法則の利用」という要件が入っているところです。

私の勝手な予想ですが、今後の技術開発は、AIなどの仮想空間や、ブランド・デザインなどの心理空間へ伸長してゆくと考えます。



しかし、特許法の保護対象は物理空間内に限られますので、仮想空間内や心理空間内の発明特定事項は、人為的取り決めとかに過ぎず、自然法則を利用せず、発明でない、すなわち特許できない、となってしまうのではないでしょうか。

今の特許実務では、物理空間内の発明特定事項(サーバーやネットワークなどのハードウェア)などを無理やり含ませて請求項を記載しますが、このようなハードウェア依存の請求項では、発明をうまく保護できません。

そうしますと、発明の定義を変えて、仮想空間や心理空間の発明をうまく保護できるような特許法の改正が望まれますが、まあ、どうなんでしょうか?

2020年3月1日日曜日

パテント誌の件

3/16ごろ発行のパテント誌3月号にわたくしの論文が掲載されることとなりました。

12月に投稿しましたので、早くても5、6月号掲載という予想でしたが、ページに空きがあったのか、早くなりました。

3月号の特集は「知財と刑事罰」ということで、非常に興味深いテーマですので、これだけでも買う価値はあると思います。

パテント誌は本屋には売っておりませんが、弁理士会のホームページから誰でも買うことができます(900円+送料)。

が、パテント誌の内容は数か月後に弁理士会のホームページで無料公開されますので、実は無理に買う必要もありません。

わたくしの論文は例のごとく「テキストマイニングによるブランドQFD作成」というテーマですが、論文作成には苦慮いたしました。

パテント誌の文章は2段組みですが、うまく図がレイアウトできないというか、大きくなったり、小さくなったりで、どうしようもなくなったので、パテント誌の編集の方にレイアウトをお任せしました。

論文のこだわりとしましては、テキストマイニングにありがちな「例の図」を使用しないよう頑張ったところにあります。

例の図とは、共起マップのことで、この図を出しますと、テキストマイニング感がでてまいりますが、わたくしはいつも思うのですが、この図の意味を理解できる人間はいるのか?理解できない私が馬鹿なのか?と感じます。

特許解析のアウトプットとしてヒートマップとか共起マップとかを出してくるのを見かけますが、人間が理解できる図は1次元か、マトリクス図程度が限度だと思いますので、今回は共起マップをできるだけ出さないようにしております。

ということで、詳しい内容については後日ということでよろしくお願いいたします。

2020年1月27日月曜日

分析と発想について

デザイン科学概論という本を読んでおりますが、理解度は2割といったところです。

しかしながら、いろいろ気付きがありました。

デザイン思考においては、分析→発想→評価というステップをとることが重要となります。

つまり、「分析」で終わるのではなく、次のステップの「発想」が重要となります(もちろん、その次の「評価」も重要ですが・・・)。

私も以前から特許情報分析に関して、もやもや感がありましたが、これは分析した次はどうするのか?という疑問があったからです。

発想ができませんと、発明も生まれませんので、特許出願も増えない(特許明細書を書く仕事も増えず、貧乏弁理士のまま・・・)という深刻なことになります。

デザイン科学概論という本では、この点に関してフォローされておりまして、M-BAR(多空間発想法)というものが提案されております(こういう内容が想起できないネーミングは困りますが・・・)。

M-BARでも、結局は従来の発想法であるブレインストーミングやKJ法を使用するのですが、多空間化されている点で、ちょっとわかりやすいことになっております。

この本では、分析・評価はM-QFD(多空間QFD)で行い、発想はM-BAR(多空間発想法)で行うという、穴のない、なかなか優れた内容となっております(この本は、何年か前、SNS上で話題になったようです。)

さらに都合のよいことに、M-QFDとM-BARとの関係は、わたくしが12月の知財学会で発表しましたブランドQFDとコンテクストの関係と類似しておりますので、いろいろ応用が利きそうです(知財学会での発表内容については年内に何らかの形で公表します)。

そうしますと、最終的には多空間QFDを用いて、ブランド・デザイン・テクノロジーの分析をし、多空間モデルを用いて、ブランド・デザイン・テクノロジーの発想を行うというのが、一つの目標となるでしょうか。

2年後くらいには、このような感じでまとめられればと思います。

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