2025年5月17日土曜日

スプレッドシートだけで特許分析⁉ Google Sheets AI関数を徹底検証した最新ワーキングペーパーを公開しました。

生成AIがついに表計算ソフトのセルまで入り込み、翻訳・要約・分類をワンストップでこなす——。

5月16日に公開された私のワーキングペーパー Vol. 11 No. 11 では、試験運用中の Google スプレッドシート“AI関数” を用いて、50件の掃除機関連特許を**「翻訳 → 要約 → 自動分類」**する一連のプロセスを詳しく実演しています。処理済みデータをそのまま Gemini 分析につなげ、出願年次推移や企業別動向を瞬時に可視化できる点は必見です。

ワーキングペーパーへのリンクはこちらです。

https://www.j-mac.or.jp/wp/dtl.php?wp_id=173

論文では、

  • AI関数の基本構文と有効化手順(Workspace Labsへの参加・英語プロンプトのコツ)

  • 課題/解決手段の英訳・10語要約・カテゴリ抽出を関数だけで完結させる手順

  • Geminiで得られた**「ユーザビリティとデザイン」が最多課題、「集じん・分離」が主要ソリューション**といった洞察例

  • 英語限定・機密情報の扱い・結果検証など実務上の留意点

を網羅。従来、外部スクリプトや専門ツールが欠かせなかった特許テキスト解析を、“いつものシート”上で完結させるポテンシャルを示しています。

こんな方にオススメ

  • 特許・技術調査をもっとスピーディーに行いたい知財・R&D部門

  • 生成AIの“実戦投入”事例を探しているデータ分析担当者

  • Google Workspace Labsの最新機能をキャッチアップしたい方

ブログでは、本稿のキーメッセージと実装サンプルをかみ砕いて紹介予定です。
「AI関数 × 特許データ」に興味がある方はぜひチェックしてみてください!

2025年5月11日日曜日

特許文書分類作成アプリを公開しました

 「特許文書分類作成アプリ」を公開しました。

画像
操作画面

URL:https://patent-classifier-app-7m7kbz9hwmkrhcuhh2laya.streamlit.app/

このアプリでは、GoogleのGemini APIを活用して、特許情報(要約)を記載したExcelファイルをアップロードするだけで、自動的に課題と解決手段を分類し、それぞれの分類ごとの分かりやすい説明を生成できます。

アプリでできること:

  • Gemini APIキーの設定:Google Geminiを利用してAIによる高度なテキスト分析を行います。

  • Excelファイルアップロード:特許文書(要約)をアップロードし、自動で内容を分析します。

  • 分類数の指定:特許文書を分類する際のカテゴリー数を自由に指定可能です。

  • AIによる自動分類と説明生成:特許の課題と解決手段を分類し、それぞれの内容を短く的確に説明。

使用シーン:

  • 特許出願や調査において、大量の文書(1000件が上限の目安です)から課題や解決手段の傾向を短時間で把握できます。

  • 研究テーマの方向性や技術課題や解決手段を明確にし、効率的な研究開発活動をサポートします。

利用方法:

  1. アプリにアクセス  URL:https://patent-classifier-app-7m7kbz9hwmkrhcuhh2laya.streamlit.app/

  2. Gemini APIキーを入力

  3. 要約が含まれるExcelファイルをアップロード

  4. 必要な分類数を指定し、「分類を実行」をクリック

ぜひ特許文書分類作成アプリを活用して、特許分析や技術開発の業務効率化にお役立てください!

補足1:

利用は無料です。特許権(特許第7650476号)の関係から個人的な使用に留めていただけますようお願いいたします。アプリの操作感等の体験に使用いただければと思います。

補足2:

使用LLMは、Gemini 2.0 Flashです。当初は、Gemini 2.5 Flashを使う予定でしたが、thnikingモデルに由来する動作不良が解消しませんでしたので、非thinkingモデルとしました(したがって、能力はそれなりです)。

補足3:

GeminiAPIキーは、Google AI Studio https://aistudio.google.com/prompts/new_chat
から無料で取得できます。(APIも無料で使用できますので、本アプリの使用に際し一切料金は発生しません。)

補足4:

当方アプリづくりは初心者ですので、予期せぬエラーや、管理ミスによるアプリ消滅等の不測の事態が生じる可能性がありますので、あしからずご了解願います。

2025年5月7日水曜日

生成AI関連の特許:「発想支援プログラム及び方法」(特許第7672120号)取得のお知らせ

この度、生成AI関連の特許として、「発想支援プログラム及び方法」(特許第7672120号)を取得しました。

特許の出願は【出願日:2024年9月30日】に行われ、【登録日:2025年4月】に設定登録されました。

特許化の目的としては、

  1. 生成AI(大規模言語モデル・埋め込みモデル)を活用し、特定製品に関するユーザーの要求に応じたソリューション案を効率的に生成する技術を権利化すること。

  2. 生成AIを活用した発想支援技術の独自性を明確にし、この分野における知的財産権を確立すること。

などが挙げられます。

従来の発想支援技術では、自然言語文の形態素解析によりコンテキストが失われ、その後の関係性再構築を人間が行う必要がありました。本特許技術では、大規模言語モデル(例えばOpenAIのGPTシリーズやGoogleのGemini、AnthropicのClaudeシリーズなど)や埋め込みモデル(例えばOpenAIのtext-embeddingシリーズ)を用いて、特許文書やユーザーレビューなどの情報から高い類似度を持つ文字列を抽出し、これらを組み合わせて具体的で実現可能性の高いソリューションを自動生成します。

今回の特許取得により、この発想支援技術の独自性と実用性が正式に認められ、生成AI技術が急速に発展する現代において意義深い成果となりました。

今後は、企業の研究開発部門やAIソリューション提供企業などを対象に、本特許技術のライセンス提供を積極的に推進する予定です。また、ライセンシーとの協業を通じて得られるフィードバックを技術の更なる改良や発展に活かし、広範な産業分野での応用を目指します。

最後に、本特許の取得にご支援いただいた関係者の皆様に心より感謝申し上げます。これを機に、更なる技術革新と研究開発を続けて参ります。

【特許請求の範囲】

【請求項1】
 コンピュータに、
 大規模言語モデルに、特定製品に関する文書から抽出した複数の情報文字列の各々と、前記複数の情報文字列の各々と前記特定製品に対するユーザーの要求を示す要求文字列との類似度の評価指示を含む類似度評価指示情報とを入力し、前記大規模言語モデルから、前記複数の情報文字列の各々と前記要求文字列との類似度の出力を得る処理と、
 前記複数の情報文字列から所定以上の類似度を有する情報文字列を抽出し、前記抽出された所定以上の類似度を有する情報文字列を一つの入力文字列に結合する処理と、
 前記大規模言語モデルに、前記入力文字列と、前記要求文字列に対応するソリューションの生成を指示するソリューション生成指示情報を入力し、前記大規模言語モデルから、前記要求文字列に対応するソリューションの出力を得る処理と、
を実行させる発想支援プログラム。
【請求項2】
 コンピュータに、
 埋め込みモデルに、特定製品に関する文書から抽出した複数の情報文字列の各々を入力し、前記埋め込みモデルから、前記複数の情報文字列の各々のベクトルの出力を得る処理と、
 前記埋め込みモデルに、前記特定製品に対するユーザーの要求を示す要求文字列を入力し、前記埋め込みモデルから、前記要求文字列のベクトルの出力を得る処理と、
 前記複数の情報文字列の各々のベクトルと前記要求文字列のベクトルとの類似度を算出する処理と、
 前記複数の情報文字列から所定以上の類似度を有する情報文字列を抽出し、前記抽出された所定以上の類似度を有する情報文字列を一つの入力文字列に結合する処理と、
 前記大規模言語モデルに、前記入力文字列と、前記要求文字列に対応するソリューションの生成を指示するソリューション生成指示情報を入力し、前記大規模言語モデルから、前記要求文字列に対応するソリューションの出力を得る処理と、
を実行させる発想支援プログラム。
【請求項3】
 コンピュータが、
 大規模言語モデルに、特定製品に関する文書から抽出した複数の情報文字列の各々と、前記複数の情報文字列の各々と前記特定製品に対するユーザーの要求を示す要求文字列との類似度の評価指示を含む類似度評価指示情報とを入力し、前記大規模言語モデルから、前記複数の情報文字列の各々と前記要求文字列との類似度の出力を得る処理と、
 前記複数の情報文字列から所定以上の類似度を有する情報文字列を抽出し、前記抽出された所定以上の類似度を有する情報文字列を一つの入力文字列に結合する処理と、
 前記大規模言語モデルに、前記入力文字列と、前記要求文字列に対応するソリューションの生成を指示するソリューション生成指示情報を入力し、前記大規模言語モデルから、前記要求文字列に対応するソリューションの出力を得る処理と、
を実行する発想支援方法。

【発明者】川上 成年 【特許出願人】川上 成年

詳細については、J-PlatPatでご確認ください。

(J-PlatPatリンク:https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7672120/15/ja )

2025年5月2日金曜日

知財実務オンラインに出演します。

 2025年5月8日の18:30から、知財実務オンラインに出演します。

当日は以下のリンクからご視聴いただければと思います。

知財実務オンラインのYouTube

出演依頼をいただいた際、テーマは自由とのことでしたので、検討の結果、パテント誌4月号に掲載された私の論文に関連する、AIを活用したアイデア発想法についてお話しすることにいたしました。

セミナーは約1時間を予定しており、下記の内容で進める予定です。

セミナー内容(予定)


セミナータイトル:
 生成AIで発想のマンネリ打破!知財実務家のためのアイデア発想法「多空間発想法」実践と自作AIアプリデモ

1. はじめに

  • ご挨拶と自己紹介

  • 本日のゴール:

    • 特許実務におけるアイデア発想の重要性と、多くの実務家が抱える「発想の難しさ」という課題を共有します。

    • アイデア発想を支援する「多空間デザインモデル」と、生成AI技術がこの課題解決にどのように貢献できるかのヒントを提供します。

    • 自作AIアプリケーションのデモンストレーションを通じて、具体的な活用イメージを掴んでいただきます。

2. 特許実務におけるアイデア発想の重要性と課題

  • アイデアが求められる場面: 発明者ヒアリング、先行技術調査で見つけた課題からの展開、権利範囲の検討など、特許実務の様々な場面で創造的なアイデアが不可欠です。

  • 発想の難しさ: ブレインストーミングの限界、TRIZ等の手法習得の困難さ、アイデアが出ないことへのプレッシャーなど、多くの実務家が発想に行き詰まりを感じています。

  • アイデア発想の基礎: 新規アイデア創出の基盤となる推論(演繹、帰納、仮説形成/アブダクション)について概説します。

3. アイデア発想法「多空間デザインモデル」

  • 従来の発想手法の課題: 人間の能力に依存するため、限界や負担が大きい。

  • 多空間デザインモデル: 複数の要素空間(例:価値、技術など)と推論プロセスを組み合わせる体系的な発想法です。特許情報分析との親和性が高い点に着目しました。

  • 研究の動機:アイデア発想プロセスにおける人間の負担を軽減し、さらに、AIを使用することにより、効率化・自動化を目指します。

4. AIによるアイデア発想支援の研究紹介とデモンストレーション

  • 研究1 (2021年 論文): 多空間モデルの自動生成

    • アプローチ: テキストマイニング技術で特許情報等から多空間デザインモデルを自動構築。

    • 成果: 情報からのモデル自動作成に成功。

    • 課題: モデルを用いたアイデア創出は依然人間の思考に依存。

  • 研究2 (2023年 GPTs): アイデア生成の完全自動化への挑戦 (デモ1)

    • アプローチ: 生成AI(GPTs)でモデル生成からアイデア発想までの一連プロセス自動化を検証(【デモ1】)。

    • 成果: 人間の思考を介さないアイデア自動生成を実証。

    • 課題: 生成アイデアの具体性・解像度が低い

  • 研究3 (2024年 論文): 多空間デザインモデル構築とアイデア創出プロセスの効率化・高度化

    • アプローチ: 生成AIで洗練された多空間モデルを構築し、質の高いアイデアを効率的に創出するプロセスを研究。

    • 成果: モデル構築とアイデア創出の両立に成功し、実用化(アプリ開発)への道筋を示す。

    • 課題: 研究成果を実用的なアプリケーションとして実装すること。

  • 研究4 (2025年 アプリ): アイデア自動生成アプリのプロトタイプ (デモ2)

    • アプローチ: 研究3の成果に基づき、自作AIアプリ "Idea Generator (2025)" を開発・実装(【デモ2】)。

    • 成果: ユーザーのクエリに基づき、AIが関連特許情報を選択し具体的なアイデアを自動生成。

    • 課題: 生成アイデアの客観的評価手法の確立。

5. まとめと今後の展望

  • 本日の学び: 多空間デザインモデルの概要と、生成AIによるアイデア発想支援の具体的な研究進展、そして自作アプリによる実現例について解説しました。

  • AI活用の可能性: 生成AIは、アイデアの種探し、発想の壁打ち、多角的な視点の提供など、特許実務の様々な場面で有効なツールとなり得ます。

  • 留意点: AIは万能ではなく、最終的な判断や深い洞察には人間の知見が不可欠です。AIの特性を理解し、適切に活用することが重要です。

  • 若い方へのメッセージ: まずはAIツールに触れ、アイデア発想のプロセスを意識することから始めてみましょう。

  • 今後の展望: アイデア評価の自動化など、更なる研究開発を進めていきます。

6. 質疑応答

まとめ

当日は、具体的な手法や自作ツールのデモを交え、皆様の知財実務に役立つヒントをご提供できればと考えております。

生成AIを活用した新しいアイデア発想にご興味のある知財実務家の皆様、ぜひご視聴いただけますと幸いです。当日お会いできることを楽しみにしております。

2025年4月26日土曜日

巨大な壁に爪楊枝で挑む?マクロ問題とミクロ解決策のズレ

 SNSを眺めていると、時々「ん?」と首をかしげたくなるような意見に出会います。最近見かけたのは、こんな感じのポスト。

「就職氷河期って騒ぐけどさ、結局、英検とか資格とか、ちゃんと努力すれば就職できたんじゃないの?」

…うーん、これはなかなか。案の定、コメント欄は紛糾していましたが、それもそのはず。だって、このロジック、ちょっと無理がありませんか?

「個人の努力」 vs 「時代のうねり」

ここで提示されているのは、「就職氷河期」という、どうしようもなくマクロ(=巨大)な社会問題に対して、「個人の努力」というミクロ(=極小)な解決策です。

例えるなら、巨大なダムの決壊を、指一本で塞ごうとするようなものでしょうか。いや、もっと言えば、押し寄せる津波に対して「気合で乗り切れ!」と叫んでいるようなものかもしれません。

歴史を紐解けば、似たような話はゴロゴロしています。例えば、かの太平洋戦争。アメリカが工業力にモノを言わせて航空機を大量生産してきたのに対し、日本軍の一部は「大和魂」「精神力」といった、いわばパイロット個人のミクロな力で対抗しようとしました。その結果はどうだったか…皆さんご存知の通りです。

マクロな視点とミクロな視点の往復

「就職氷河期」の話に戻れば、社会全体の停滞(マクロ)に対しては、個人の頑張り(ミクロ)を求めるだけでなく、国や社会全体での大規模な雇用創出策、セーフティネットの拡充といったマクロな支援が不可欠だったはずです。

それを「個人の努力不足」にすり替えてしまうのは、問題を矮小化するだけでなく、その時代を生きた人々に対してあまりにも酷ではありませんか? まるで、嵐で家を失った人に「もっと頑丈な家を建てておけばよかったのに」と言うようなものです。

「自己責任論」が残す禍根

さらに言えば、こうした「自己責任論」は、社会に対する不信感や恨みを生み出す原因にもなりかねません。本来であれば社会全体で支えるべき困難を個人の責任とされた人々が、そのシステムに対して不満を抱くのは当然のこと。それは、将来にわたって社会に重い影を落とすことになりかねません。

でも、巨大な社会問題の前では、個人の力だけでは見えない部分が大きい。その現実から目をそらして、「努力が足りない」と個人を責めたりするのは、やはり違うのではないでしょうか。

知財の世界におけるマクロとミクロ

この「マクロな問題にミクロで対応してしまう」という構図は、実は私たち知財の世界における戦略立案や分析においても、陥りやすい罠なのです。それが、特許のマクロ分析ミクロ分析の関係です。

  • マクロ分析(パテントマップ、ランドスケープ分析など): これは、特定の技術分野や競合他社の特許出願動向を俯瞰的に捉える分析です。何千、何万という特許情報を統計的に処理し、「どの技術分野が伸びているか」「競合はどこに注力しているか」「空白の技術領域はどこか」といった**大きな流れ(マクロ)**を読み解きます。経営戦略や研究開発戦略といった、大きな意思決定に役立ちます。

  • ミクロ分析(個別特許の精査): 一方こちらは、個々の特許公報を詳細に読み込み、「この特許は有効か?」「権利範囲はどこまでか?」「自社製品はこの特許を侵害していないか?」といった**具体的な点(ミクロ)**を評価する作業です。無効審判の請求や、ライセンス交渉、設計変更の要否など、個別の具体的なアクションにつながります。

マクロ分析の結果だけでミクロな判断を下そうとしたり、逆にミクロな分析だけでマクロな戦略を語ろうとすることの危うさは、先に述べた通りです。両者は補完関係にあり、どちらか一方だけでは全体像を見誤る可能性があります。

【知財トピック】ポートフォリオ構築の視点:木を見て森も見る

ここで少し視点を変えて、知財戦略、特に特許ポートフォリオの構築について考えてみましょう。これもまた、「マクロ」と「ミクロ」のバランスが問われる領域です。

個々の発明(ミクロ)が素晴らしいものであっても、それだけでは強力なポートフォリオ(マクロ)にはなりません。市場や競合の動向(マクロ分析)を踏まえ、自社の事業戦略に沿って、どの技術分野に、どのような権利範囲の特許を、どれくらいの数、配置していくか、という全体設計(マクロ)が不可欠です。

一方で、いくら立派な全体設計(マクロ)があっても、それを構成する個々の特許(ミクロ)の質が低ければ、いざという時に役に立たない「砂上の楼閣」になりかねません。一つ一つの特許について、権利範囲の広さや有効性、回避設計の困難性などを厳しく評価(ミクロ分析)していく必要があります。

つまり、優れた特許ポートフォリオとは、単なる質の高い特許(ミクロ)の集合体ではなく、事業戦略(マクロ)と連動し、競合の動きを牽制しうる戦略的な配置がなされた『生きた森』なのです。そのためには、マクロとミクロ、両方の視点からの継続的な評価と見直しが欠かせません。単に特許の数を増やす(マクロ的な量)だけでなく、個々の特許の質(ミクロ的な質)を高め、それらを戦略的に組み合わせることが重要になります。

まとめ

社会問題から知財戦略まで、私たちはしばしば「マクロ(全体・構造)」と「ミクロ(個別・個人)」という二つの視点の間で揺れ動きます。大切なのは、どちらか一方に偏るのではなく、両方の視点を理解し、使い分けることです。

巨大な問題に対して個人の努力だけを求めることの危うさ、そして、全体戦略を描く上で個別の要素の質を見極める重要性。どちらの視点も欠かすことなく、バランスの取れた判断を心がけていきたいものですね。

2025年4月19日土曜日

後知恵のこわさ - 特許判断の落とし穴

皆さん、「後知恵バイアス」って聞いたことありますか?特に特許の世界では大きな問題なんです。このバイアスは私たちの日常生活にも潜んでいますが、特許の世界では特に厄介な存在となっています。今日はその話をじっくりしていきましょう。

知財高裁ってなに?

約20年前、日本は「知財立国」を宣言し、その一環として知的財産を専門に扱う「知財高裁」が設立されました。これは画期的なことだったんです!当時は、特許や著作権などの知的財産権を守ることで、日本の産業競争力を高めようという意気込みがありました。

知財高裁の設立は、知的財産権の重要性が増す中で、専門的な知識を持った裁判官が判断する場が必要だという認識から生まれたものです。世界的に見ても先進的な取り組みとして注目されていたんですよ。

特許訴訟で勝てない現実

しかし、期待されていたほど知財関連の裁判は活発にならなかったんですよね。なぜでしょう?

実は、特許権者が訴えても敗訴するケースが多かったんです。「負けるなら裁判する意味がない」と思われるようになってしまいました。特許取得のために多大な時間とコストをかけたにもかかわらず、裁判で権利が否定されるのであれば、企業としても二の足を踏んでしまいますよね。

特に大きな問題は、特許庁の審査を通過して特許になったものが、裁判で「進歩性がない」と判断され、無効にされてしまうこと。せっかく取得した特許が覆されるのは理不尽ですよね。これでは、企業の特許取得へのモチベーションも下がってしまいます。

「後知恵」という落とし穴の正体

この現象の背景には「後知恵バイアス」があると思います。裁判官は非常に頭の良い方々なので「こんな発明、誰でも思いつくじゃないか」と考えてしまうんですね。

心理学的に見ると、人間は結果を知った後では「自分ならそれを予測できた」と思いがちです。これは私たち全員が持っている認知バイアスなんです。発明についても同じことが言えます。

中国では「事後諸葛亮(じごしょかつりょう)」とも呼ばれるこの現象。後から知恵を働かせて三国志の賢者・諸葛亮のように振る舞うことを皮肉った表現です。発明が完成した後から見ると、「そんなの当たり前じゃん!」と思えてしまうんです。

後知恵バイアスの具体例

例えるなら、手品の種を知ってしまうと手品が面白く感じなくなるようなもの。裁判では多くの証拠に囲まれて判断するため、発明が当たり前のように思えてしまうんです。

たとえば、スマートフォンのスワイプ操作。今では当たり前ですが、初めて提案された時は革新的でした。しかし今から見ると「そんなの誰でも思いつくでしょ」と後知恵で判断されかねないんです。

また、発明時点では利用できなかった技術や知識を基に判断してしまうことも問題です。当時の技術水準で考えれば画期的なアイデアでも、現在の知識で判断すると「簡単」に感じてしまうんですね。

特許システムへの影響

この後知恵バイアスは特許システム全体に悪影響を及ぼしています。発明者は本当に革新的なアイデアを持っていても、後知恵によって価値を過小評価されるリスクがあります。

特に中小企業やスタートアップにとっては、特許取得だけでも大変なのに、さらに無効化のリスクを抱えるのは大きな負担です。知的財産権が適切に保護されないと、イノベーションへの投資意欲も減少してしまいます。

身近な場面でも起こる後知恵問題

後知恵は特許裁判だけでなく、様々な場面で見られます:

  • 特許審査でも審査官によっては後知恵で拒絶するケースがあります。このような場合、審判や訴訟へ進むには多額の費用がかかるため、特に中小企業は断念せざるを得ないこともあります。
  • 会社内での発明提案でも「これくらい誰でも思いつく」と判断され、特許化されないことも。実は、多くの企業で貴重なアイデアがこのようにして埋もれています。
  • その結果、競合他社が同じアイデアを権利化して大慌てする事態も起こりうるんです。後から「あのアイデアを特許化しておけば...」と悔やんでも遅いのです。
  • プロジェクト評価においても、結果を知った後では「そうなるのは明らかだった」と判断されがちです。これにより、実際には優れた判断をした人が正当に評価されないこともあります。

国際的な視点から見た問題

この後知恵バイアスの問題は日本だけではなく、世界中の特許制度で課題となっています。米国では「KSR判決」以降、進歩性の判断基準が厳しくなり、多くの特許が無効化されるケースが増えました。

一方、欧州では「課題解決アプローチ」という方法で、より客観的な判断を目指しています。世界各国が後知恵バイアスとの闘いに取り組んでいるのです。

最近の動向と解決への道

最近は「無効になりすぎ」との批判もあり、日本の裁判での特許無効判断は抑制的になってきているようです。これは特許権者にとっては良いニュースかもしれません。

個人的には、訴訟では進歩性の判断をしないか、後知恵バイアスのないAIに判断させるなどの措置が必要だと思います。AIは人間のような感情や先入観に左右されにくいため、より客観的な判断ができる可能性があります。

発明者や企業ができること

後知恵バイアスに対抗するため、発明者や企業ができることもあります:

  • 発明の過程や試行錯誤の記録を詳細に残しておくこと
  • 当時の技術水準と比較して何が画期的だったのかを明確に説明できるようにすること
  • 特許明細書では、発明の効果や意外性を十分に記載すること

これらの対策は、後知恵バイアスによる不当な判断から発明を守るのに役立ちます。

まとめ:後知恵バイアスとの上手な付き合い方

特許実務は「後知恵との闘い」とも言えるでしょう。人間が判断する以上、完全に避けるのは難しいかもしれませんが、AIの発展によって、より公平な判断ができるようになることを期待しています。

私たち一人ひとりも、「今なら簡単に思いつく」という考えに惑わされないよう注意が必要です。真のイノベーションは、当時の状況下では決して「当たり前」ではなかったのです。

みなさんも日常生活で「後から見ればわかる」と思うことがあるかもしれませんが、それは実は発明当時には簡単ではなかったかもしれませんよ。発明や創意工夫を正当に評価する目を持ちたいものですね。

そして特許制度が本来の目的である「発明の保護とイノベーションの促進」をしっかり果たせるよう、後知恵バイアスについての理解を深めていくことが大切だと思います。

2025年4月12日土曜日

本当に「潜在ニーズ」って探せるの?🤔

 みなさん、こんにちは!今日は多くのビジネスパーソンや企業が頭を悩ませている「潜在ニーズ」について、じっくり考えてみたいと思います。マーケティング会議やビジネス書でよく耳にするこの言葉、実際のところはどうなのでしょうか?

潜在ニーズ探しの落とし穴

ビジネスの世界でよく「潜在ニーズを探せ」って言われますよね。まるで宝の地図を持って埋蔵金を探すかのように、どこかに眠っている「まだ気づかれていないニーズ」を見つけ出せば大成功への道が開けるという考え方です。でも、これって本当に現実的なアプローチなのでしょうか?🧐

マーケティングリサーチを使えば顕在ニーズ(すでに表面化している欲求)を分析するのは比較的得意です。アンケート調査やインタビュー、データ分析などの手法を駆使すれば、「今」消費者が何を求めているかはある程度把握できます。でも、ここから一歩進んで「優れた分析者なら潜在ニーズも見つけられるはず」という考え方には、実は大きな誤解が潜んでいるんです。

なぜなら、情報をいくら丹念に集めて緻密に分析しても、それで分かるのは「現時点での状況」だけであり、将来的に人々が「これが欲しかった!」と気づくようなものを予測するのは極めて困難だからです。潜在ニーズとは、実は製品やサービスが世に出た後になって「あ、これこそ私が求めていたものだったんだ!」と気づかれるものなんですよね。つまり、時間軸の問題が大きく関わっているのです💡

ウォークマンの真実:分析ではなく創造から生まれた革命

潜在ニーズを見事に掘り起こした成功例としてビジネス書などでよく挙げられるのが「ウォークマン」です。「外出先で音楽を聴きたいという潜在ニーズを発見した」というストーリーはとても魅力的ですよね。

でも実際のところ、ウォークマンは緻密なマーケティング分析から生まれたわけではないんです。ソニーの井深大氏や盛田昭夫氏らの「音楽を持ち歩けたら楽しいだろうな」というひらめきと創造的発想から生まれたものです。当時、誰も「小型のヘッドホンステレオが欲しい」とは明確に言っていませんでした。むしろ「録音機能のない再生専用機なんて売れるはずがない」と多くの人が懐疑的だったくらいです。

後になって学者やマーケティング専門家が「これは潜在ニーズを見事に掘り起こした事例だ」と説明するようになったのであって、開発当初からそのような戦略的な分析があったわけではないのです。実は、多くの「潜在ニーズを掘り起こした革新的製品」も、こうした後知恵で説明されることが非常に多いんですよね。

違うアプローチを考えてみよう:分析から創造へのシフト

個人的には、「どこかに眠っている潜在ニーズを探し出そう」というアプローチよりも、「全く新しい価値を創造しよう」「これまでになかった文脈や使用シーンを作り出そう」というアプローチの方が、はるかに実りある結果につながると思います✨

つまり、エンジニアやクリエイターがこれまでの常識や枠組みにとらわれず、様々なアイデアを考えて試行錯誤していく方法です。iPhoneやAirPodsなどのヒット商品も、既存のニーズ分析からというよりは、「こんな使い方ができたら素晴らしいだろう」という創造的発想から生まれたものが多いのです。

このアプローチは、実行する側の心理的負担も格段に軽くなります。「こんなことができたら面白いかも」というワクワク感で進められるからです。

分析と創造:心理的プレッシャーの違い

前にもお話ししましたが、分析という行為は時間とリソースをかければかなりの精度を実現できる性質があります。だからこそ、「潜在ニーズの分析」となると、完璧な結果が求められ、もし予測が外れれば「分析者の能力が不足している」「方法論が間違っている」と厳しく評価されてしまう傾向があります😓

これはかなりのプレッシャーですよね。「まだ存在していない欲求を正確に予測しなさい」と言われているようなものですから。

一方で、「価値創造」や「新しい文脈構築」というアプローチであれば、ある程度の失敗は創造プロセスの一部として受け入れられます。Appleのスティーブ・ジョブズもGoogle Glassも、すべての製品が大成功したわけではありません。でも、そうした試行錯誤の積み重ねがiPhoneやAndroidといった革新的製品を生み出してきたのです。

もちろん、無制限に失敗が許されるわけではありませんが(経営資源には限りがありますからね)、「当たるも八卦、当たらぬも八卦」的な挑戦的姿勢が許容される環境の方が、イノベーションには圧倒的に有利なのです。

まとめ:分析より創造を大切に、そして両者のバランスを

結局のところ、「潜在ニーズを分析して正確に見つけ出す」というよりは、「新しい価値を創造することでニーズそのものを生み出していく」方が、より現実的で実り多いアプローチだと言えるでしょう。歴史上の革新的製品やサービスを振り返ってみれば、多くはひらめきや大胆な発想、そして何度もの試行錯誤から生まれたものであり、精緻な分析だけで潜在ニーズを完璧に特定できたケースはむしろ稀なのです。

もちろん、既存市場の顕在ニーズをしっかり分析することは重要です。また、ユーザー観察や共創的なアプローチでヒントを得ることも価値があります。しかし最終的には、「こんな世界があったら素晴らしいだろう」という創造的なビジョンと、それを実現する勇気こそが、真のイノベーションを生み出す原動力になるのではないでしょうか。

失敗を過度に恐れず、新しいアイデアを試し続ける姿勢。それこそが、私たちの生活を豊かにする製品やサービスを生み出してきた本質なのかもしれませんね!🚀

みなさんは、新しい製品やサービスを考える時、どのようなアプローチを取っていますか?分析派?それとも創造派?あるいは両方のバランスを大切にしていますか?コメント欄でぜひあなたの考えや経験をシェアしてください!次回の記事でも、みなさんの意見を参考にさせていただきたいと思います。

2025年4月5日土曜日

「専門家なのに、なぜ予測を外すのか?」~未来予測と特許戦略のお話~

 大学生の頃の思い出話から始めさせてください。1987年ごろ、私が国際関係論の講義を取ったときのこと。

教室に入ってきた先生の第一声が、今でも耳に残っています。

「君たちは国際関係論というと、いろんな国の関係を勉強すると思っているだろうが、違う。世界には米ソの2つの超大国しかない。この2国の関係を分析するのが国際関係論なんだ」

その先生はアメリカで研究してきた、自信満々の若手研究者。当時の私は「さすが専門家!自分の浅はかな考えが恥ずかしい...」なんて思ったものです。

そして歴史は意外な展開を見せる

ところが、その数年後...。

ベルリンの壁が崩壊し、ソビエト連邦は解体され、「2極体制」はあっさりと歴史の彼方へ消えていきました。

アメリカの一流大学で博士号を取った、その道のエキスパートだった先生でさえ、ソ連崩壊という大きな変化を予測できなかったんです。

これって、いったい何なんでしょう?

優秀だからこそ陥る罠

私なりに考えてみたのですが、専門家が予測を外す理由はこんなところにあるのではないかと思います。

優秀な人ほど分析能力が高い。だから現状分析は素晴らしくできるんです。そして、「未来は現状分析の延長線上にある」と考えがち。

でも、実際の未来って、そんな単純なものではないんですよね。時には予想もしなかった方向に突然曲がったりする。

未来は「確率」で考えるべきもの

個人的には、未来はこう考えた方がいいと思います:

「あらゆる可能性が、それぞれ一定の確率で存在している」

先ほどの例で言えば:

  • 米ソ2極体制が続く確率:高い(当時はそう見えた)
  • ソ連が崩壊する確率:低い(でも、ゼロではなかった)

専門家の本当の役割は、「これが起きる!」と断言することではなく、様々なシナリオを想定して、それぞれに対応策を考えておくことなんじゃないでしょうか。

知財戦略にも同じことが言える

この考え方は特許出願にも当てはまります。

例えば、ある技術分野だけに特許を集中させるのではなく、関連する分野にも幅広く出願しておく。そうすれば、予想外の方向に市場が動いても、ある程度対応できるわけです。

特許というのは「未来の事業領域を確保する」ためのもの。だからこそ、予想が外れた場合の保険としても機能させる戦略が重要なんです。

「私の予測は当たっていた」という人を信じないで

余談ですが、時々こんなことを言う人がいます。

「私はこうなると3年前から予測していた」 「私の分析では、この結果は明らかだった」

こういう「後出しジャンケン」的な発言、実はほとんど詐欺と同じです。未来は確率的なものである以上、どんな専門家でも100%の確率で予測することはできません。

結局のところ

専門家の本当の価値は、「未来を言い当てること」ではなく、「様々な可能性に備えておくこと」なんだと思います。

知財戦略も同じ。一つの予測だけに賭けるのではなく、様々なシナリオに対応できるよう、幅広く布石を打っておく。

それが、不確実な未来に立ち向かうための賢い戦略なのではないでしょうか。

2025年3月29日土曜日

お金の使い方が変わる時代に~インフレ時代の企業戦略と知財戦略~

最近、スーパーに行くたびに「あれ?また値上がりした?」と驚くことが増えましたよね。我が家も家計が火の車です...(涙)

この状況、ご存じの通り「インフレ」と呼ばれるものです。今日は、このインフレが企業の戦略、特に知財戦略にどんな影響を与えるのか、ちょっと考えてみたいと思います。 

インフレとデフレ、超シンプル解説

まず、基本中の基本から!

デフレってこんな感じ:

  • 現金の価値が上がっていく
  • 今ある100万円が、5年後にはもっと価値を持つ
  • モノの値段が下がる傾向

インフレはこんな感じ:

  • 現金の価値が下がっていく
  • 今ある100万円が、5年後には価値が減っている
  • モノの値段が上がる傾向

実は日本は約30年間、デフレの時代が続いていました。それが今、大きく変わろうとしているんです。

デフレ時代の「正解」だった考え方

デフレの時代、企業にとっての「正解」はこんな感じでした:

😎 お金を使わない 「せっかくお金があるんだから、使わずに持っておこう。だって、時間が経つほど価値が上がるんだもの!」

💼 リストラこそ王道 「人件費を削って、支出を減らそう。現金を守ることが大事!」

💰 借金は悪 「借りたお金は、返すときにはもっと価値が上がっているから、借金は避けよう」

今の経営者さんたちの多くは、このデフレの30年を生き抜いてきた方々。だから、この考え方が「当たり前」になっているんですよね。

でも、インフレ時代は180度違う!

ところが、インフレになると、この「正解」が一気にひっくり返ります。

🛍️ お金は使うもの 「現金の価値はどんどん下がるから、価値のある資産に変えておこう!」

📈 積極投資が王道 「お金を寝かせておくより、事業に投資したほうが将来リターンが大きい」

💸 賢い借金は味方 「今借りたお金は、将来的には価値が下がるから、返すのが楽になる。今のうちに投資のための資金を調達しよう」

知財戦略も変わります!

さて、ここからが知財の話。

デフレ時代の知財戦略

  • 特許出願を減らす(コスト削減)
  • 特許ポートフォリオを小さく、スリムに

インフレ時代の知財戦略

  • 特許出願を増やす(将来の資産づくり)
  • 特許ポートフォリオを拡大、強化する

「でも、それって弁理士さんが出願料稼ぎたいだけでは?」

なんて思う方もいるかもしれませんね。でも、10年後に振り返ってみれば、どちらが正解だったか、ハッキリわかるはずです。

活気ある未来のために

個人的には、インフレ時代の「積極投資型」の方が、社会に活気が生まれると思うんです。

デフレ時代って、「何もしない」「小さく縮める」が正解だったから、なんだか息苦しかったですよね。会社も個人も、どこか停滞感がありました。

これからのインフレ時代は、ポジティブな投資や挑戦が報われる時代。

企業も個人も、「お金の使い方」に対する考え方を切り替えていく必要があるんじゃないでしょうか。知財戦略も例外ではなく、むしろ最前線かもしれません。

みなさんも、この変化に気づいて、新しい時代の波に乗りましょう!

2025年3月22日土曜日

中央研究所はいらないの?

 

こんにちは!今日は企業の研究開発についての大切なお話です。最近「イノベーション」という言葉をよく耳にしますが、その源泉となる研究開発の現場はどうなっているのでしょうか?

昔、「中央研究所なんてコスパ悪いから廃止しちゃおう!必要な技術は買ってくればいいじゃん」と考えた企業がありました。実際、日本の大手企業でも研究所を縮小したり、統廃合したりする動きが増えていますよね。

確かに、研究所を維持しても成果がすぐに出ないし、お金もかかるし...周りを見渡せば優れた技術がすでに世の中にある状況だと、そう思っちゃうのも無理ないかも。四半期ごとの決算や短期的な業績を求められる現代のビジネス環境では、なおさらその誘惑は強いと思います。

でも、特にメーカーさんがこんな判断をすると、だんだん先細りになっちゃうと思うんです。理由は3つ!それぞれ掘り下げて考えてみましょう。

なぜ研究開発能力は必要なの?

  1. 技術を買おうとしても高額になる
    「お金さえ出せば技術は買える」と思いがちですが、開発費用がかかっているから簡単には売ってくれません。さらに、「この会社は自分で研究開発できないんだな」と見られると、足元を見られて高い金額を請求されるかも😓 例えば、ある自動車メーカーが電気自動車の基幹技術を持っていなかったため、他社から高額なライセンス料を支払って導入することになり、結果的に製品の価格競争力が失われてしまったケースがあります。自前で開発していれば、そのコストを10年以上かけて回収できたかもしれないのに、短期間で支払わなければならなくなったんですね。
  2. そもそも売ってくれないこともある
    良い技術ほど、開発した会社は「これは自社だけで使おう!」と考えます。だって独占した方が儲かりますからね。そうなると、その技術が必要なビジネスはあきらめるしかなくなります。 スマートフォン業界を見てみると、画面技術や半導体技術など、最先端の技術を持つ企業は自社製品に優先的に使い、他社には古い世代の技術しか提供しないことがよくあります。結果的に、技術を持たない企業は常に一歩遅れた製品しか出せなくなるんですよね。
  3. 欲しい技術がまだ市場に存在しないことも
    「買おう!」と思っても、まだ誰も開発していない技術だったらどうしますか?誰かが開発するのをただ待つしかなくなり、新しい事業に参入するタイミングも他人任せになっちゃいます。 例えば、カーボンニュートラルや循環型社会に対応する新素材の開発。これから需要が高まる分野ですが、まだ誰も完全な解決策を持っていません。こういった未来の市場で勝負するには、自分たちで技術を作り出す力が必須なんです。

このように考えると、「技術は買えばいい」という考え方には大きな落とし穴があるんですね。短期的にはコスト削減になっても、長期的には会社の競争力を弱めてしまうかもしれません。

なぜこういう考え方が生まれるの?

これって、分析が得意な人が経営トップになると起きやすい問題かなと思います。私たちの周りにもこういうタイプの上司、いませんか?

分析の仕事って、確度の高い作業を99回積み重ねて1つの結論を出すような感じで、無駄が少なくコスパが見えやすいんですよね。数字で成果を示しやすく、「この施策でコストが15%削減できました」と報告できるから評価もされやすい。

一方で、発想や創造の仕事は、99回失敗して1回成功するような感じ。分析タイプの経営者からすると「この99回の失敗って無駄じゃない?」と思えちゃうんです。研究開発の価値を数字で示すのは難しいですよね。「今は成果が出ていないけど、10年後に花開くかもしれない」なんて説明では、短期的な成果を求める株主も納得しにくいでしょう。

だから「失敗にお金を使うくらいなら、できあがった技術を買った方がいい」という考えになりがち。でも、そうすると新技術が生まれず、高いお金で技術を導入することになって、結局は会社の収益が徐々に減っていく...

発想型の人がトップに立てばいいんですけど、残念ながら発想型の人って出世しにくいんですよね😢 企業文化として「失敗を許容する」「長期的な視点を持つ」という価値観が根付いていないと、なかなか難しい問題です。

成功している企業の研究開発の特徴

でも、世界を見渡すと研究開発に力を入れて成功している企業もたくさんありますよね。そういった企業には、どんな共通点があるのでしょうか?

  1. 長期的な視点を持っている
    四半期ごとの成果にこだわりすぎず、5年、10年単位の成果を期待している企業は強いです。アップルやグーグルといった企業は、すぐに収益にならない技術にも投資し続けています。
  2. 失敗を許容する文化がある
    「失敗は成功のもと」という言葉がありますが、本当にそう考えている企業は、研究者の挑戦を応援します。3Mは「15%ルール」といって、勤務時間の15%を自分の好きな研究に使っていいという文化があります。
  3. 研究と事業の橋渡しをする仕組みがある
    研究所と事業部の間の「死の谷」を乗り越える仕組みを持っている企業は強いです。研究だけでなく、それを製品化するプロセスまでしっかり考えているんですね。

まとめ

研究所を「コスパが悪い」と切り捨てるのは短期的な見方。長い目で見ると、自社の研究開発能力は会社の未来を支える大切な力なんです。99回の失敗も、実は次の成功への大切なステップ。研究所を大事にする企業文化が、これからの時代を生き抜くカギかもしれませんね!

2025年3月18日火曜日

生成AI関連特許取得の件(特許7650476:分類処理プログラム及び方法)

この度、生成AI関連の特許を取得しました。

昨年の夏の終わりに出願をし早期審査をかけ、この2025年3月14日に設定登録されました。

登録番号は、特許第7650476号です。

特許化の目的としては

1.私が考案した生成AI(LLM)による分類生成方法を権利化する

2.生成AI(LLM)関連の特許明細書作成テクニックを実際の出願を通じて確認する

ことがあります。今回特許されたことにより目的は達成されました。

今回の特許取得により、私の生成AIによる分類生成方法の独自性が認められたことは非常に意義深いものです。特に、昨今の生成AI技術の急速な発展において、この分野での知的財産権の確立は重要な一歩となりました。

特許出願から登録までの過程では、AIの発明に関する審査基準の理解や、技術的効果の明確な説明方法など、多くの知見を得ることができました。これらの経験は今後の研究開発や特許戦略にも活かせるものと考えています。

今後はこの特許技術をベースに、実用化に向けた開発を進めるとともに、学術的な面からも研究成果を発表していく予定です。また、この分類生成方法を活用した新しいAIアプリケーションの可能性も模索していきたいと思います。

最後に、この特許取得にあたりご支援いただいた関係者の皆様に心より感謝申し上げます。これを機に、さらなる技術革新への挑戦を続けていく所存です。

・J-platpatのリンクはこちらです。

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2025-010130/11/ja

・特許証はこちらです。


・請求項の記載は以下となっています。

【書類名】特許請求の範囲
  【請求項1】
 コンピュータに、
 分類対象の内容を記述した複数の分類対象文章を、一つの入力文章に結合する処理と、
 大規模言語モデル、前記入力文章と、前記入力文章から、分類の名称、又は、分類の名称と分類の説明、を含む分類説明文章を生成するための指示情報と、を入力し、前記大規模言語モデルから、前記分類説明文章を出力として得る処理と、を実行させる分類処理プログラム。
  【請求項2】
 前記大規模言語モデルを用いて、前記複数の分類対象文章を要約する処理と、
 前記複数の分類対象文章の要約を、前記一つの入力文章に結合する処理と、
をさらに実行させる請求項1に記載の分類処理プログラム。
  【請求項3】
 コンピュータが、
 分類対象の内容を記述した複数の分類対象文章を、一つの入力文章に結合する処理と、
 大規模言語モデル、前記入力文章と、前記入力文章から、分類の名称、又は、分類の名称と分類の説明、を含む分類説明文章を生成するための指示情報と、を入力し、前記大規模言語モデルから、前記分類説明文章を出力として得る処理と、を実行する分類処理方法。


・発明の概要は以下です。

 本願発明によれば、複数の分類対象文章から分類名やその説明を含む分類説明文章を自動的に生成できるため、従来難易度が高かった分類作成を省力化できます。この技術的効果は、明細書の実施形態で説明したように、特許データ、論文、アンケート、ユーザーレビューなど、さまざまな種類のテキストデータに適用可能です。

 また、本願発明の分類説明文章は、内容に応じて解決手段、課題、ニーズ、品質、効果、用途、便益など、さまざまな観点での分類基準として機能し得ます。このように、本願発明は、分類対象文章の内容や分類の観点を限定することなく、幅広い分野で利用可能な汎用的な分類生成手段を提供します。

 以上のように、本願発明は、発明の課題である分類の生成処理を、明確に定義された構成要素と処理手順によって実現しており、さらに広範な技術分野への応用可能性を有する、産業上有用な発明です。


2025年3月15日土曜日

0.3%の挑戦と99.7%の安全策~なぜ大企業は面白くなくなるのか~

「最近の大企業って、なんか面白くないよね...」

こんな声、よく聞きませんか?新製品が出ても「まあまあかな」という感じ、新しいサービスも「無難だよね」という印象。昔の大企業が持っていたワクワク感が最近は薄れているような...。

実はですね、この「面白くない」の裏には、ある理由が隠れているんです。今日はその話をしたいと思います。

仕事には2種類あるんです!

会社の仕事って、大きく分けると2つのタイプがあります。まず「創造系の仕事」。これは例えば、誰も見たことがないような新商品を作ったり、今までにない仕組みのビジネスを考えたり、常識を覆すような新しい技術を生み出したり、誰もやったことのないような宣伝方法を考えたりする仕事です。

もう一つは「分析系の仕事」。市場調査をしたり、データを分析したり、リスクを管理したり、業務を効率化したりする仕事です。

おもしろい違い:成功確率

この2つの仕事、実は成功する確率がぜんぜん違うんです。創造系の仕事は、成功する確率がなんと0.3%!「千三つ」という言葉があるように、1000個のアイデアがあっても当たるのは3つだけかもしれません。でも、当たれば大きな価値を生み出せます。失敗も次の成功のヒントになることが多いんですよ。

例えば、こんな話を聞いたことありませんか?「この商品、若い社員が独自に開発したものなんですが、予想外に大ヒットしまして...」「失敗した製品から思わぬ発見があって...」

一方、分析系の仕事は時間とお金をかければ99.7%の精度が出せます。確実に成果を出せて、失敗も少なく、努力が数字として見えやすいんです。「前年より15%も効率が上がりました!」「問題を98%も減らせました!」というような成果が出やすいですね。

大企業でよく起こること

ここからが大事なポイントです。大企業になればなるほど、優秀な分析型の人が増えます。一流大学出身者は分析が得意な人が多いですし(入試が分析力重視だから)、安定を求める人が大企業に集まりやすいですね。また採用時にも分析力が評価されがちです。

そして分析型の人は出世しやすくなります。なぜなら、失敗が少ないから評価も安定していて、成果を数字で示せて、短期間で結果を出しやすく、お金の管理も上手だからです。

逆に創造型の人は出世しにくくなります。失敗が目立ちやすいですし(大企業は失敗に厳しいことが多い)、成果を数字で示しにくく、予算を超えてしまうことがあり、「変わった人」と見られがちだからです。

こうして、大企業では分析型の上司や経営者が増えていきます。

会議室での風景

分析型が多い会社の会議では: 「新しい事業の案について:市場の大きさは約〇〇億円、成功する確率は35%、初めに必要なお金は△△億円、回収までに◇年かかります→リスクが高いので、もう少し検討しましょう」

創造型が多い会社の会議では: 「面白そうだから、まず小さく始めてみない?失敗しても勉強になるし、お客さんの反応を見てから考えればいいよね。みんなのやる気も上がるし!」

特許でのケース

例えば、競争相手が特許を真似してきた場合も違いが出ます。分析型の専門家は「裁判のリスク分析です:勝つ確率は65%、費用は〇〇百万円、会社の評判への影響も考えると、もう少し証拠を集めてからでは?」と言いますが、創造型の経営者は「勝つ確率30%?それって結構いいじゃない!戦うことで学ぶこともあるし、社内のやる気も上がる。将来への抑止力にもなるよね」と考えるかもしれません。

成功企業から学ぶこと:ソニーとホンダの例

昔の成功企業には、実はある共通点がありました。例えばソニーでは、井深大さんが創造系のリーダーとして次々と新しいアイデアを生み出していました。そして盛田昭夫さんが分析系のリーダーとして、そのアイデアを実際のビジネスとして形にしていったんです。二人がタッグを組んだからこそ、ソニーは革新的な会社として成長できたんですね。

同じようにホンダでも、本田宗一郎さんが創造系のリーダーとして革新的なエンジン技術を開発し続けました。その一方で、藤沢武夫さんは分析系のリーダーとして経営面をしっかり支え、販売網を築いていきました。この二人の組み合わせがあったからこそ、ホンダは世界的な企業に成長できたんです。

つまり、会社が成功するためには、新しいアイデアを生み出す力と、それを現実のビジネスにする力の両方が必要なんですね。

スタートアップに期待が集まる理由

今、多くの人がスタートアップに期待するのは、この「創造と分析のバランス」がまだ取れているからなんです。スタートアップでは、たいてい創造系の創業者がビジョンを示します。「こんな世界を作りたい!」「この問題をこう解決したい!」という大きな夢を描くんですね。

その一方で、分析系のメンバーがそのビジョンを現実のものにするための道筋を考えます。資金計画を立てたり、市場を分析したり、リスクを管理したりするんです。

スタートアップは小さな組織なので、意思決定が速いのも特徴です。「やってみよう!」と思ったらすぐに行動できます。また失敗を恐れない雰囲気があって、「失敗したら次に活かせばいい」という前向きな考え方が浸透しています。小さな組織なので、創造系と分析系のメンバーが日常的に会話し、アイデアを交換できるのも強みです。

これからの企業に必要なこと

では、これからの企業がバランスを保つためにはどうすればいいでしょうか?

まず大切なのは、創造系と分析系の人材を意識的に混ぜることです。同じような考え方の人ばかりでチームを作るのではなく、あえて違うタイプの人を一緒に働かせることで、お互いの良さを引き出せます。

次に、小さな挑戦を許す雰囲気を作ることも大切です。「失敗したらどうしよう」と恐れるのではなく、「小さく始めて、うまくいったら広げていこう」という考え方を広めることで、新しいアイデアが生まれやすくなります。

また、失敗から学べる仕組みを作ることも重要です。失敗を責めるのではなく、「何を学んだか」を共有し、次に活かせる文化を作りましょう。

長い目で見た評価の仕方を取り入れることも必要です。短期的な数字だけでなく、「新しいことにチャレンジしたか」「将来につながる学びがあったか」といった点も評価すると、創造的な取り組みが増えます。

最後に、部門を超えた会話を増やすことも効果的です。営業と開発、マーケティングと技術など、普段あまり話さない部門同士が交流することで、新しいアイデアが生まれやすくなります。

まとめ:大切なのはバランス

0.3%の挑戦か、99.7%の安全策か。正解はきっと、両方のバランスなんです。会社の大きさに関係なく、この2つの考え方のバランスを保つこと。それが企業の元気の秘訣かもしれません。

このバランスを保つのは、実は私たち一人一人の意識次第。あなたの会社や部署はどちらが多いですか?あなた自身はどちらが得意ですか?ぜひ、周りを見てみてください。きっと新しい発見があるはずですよ!

2025年3月8日土曜日

「量より質」って本当?~歴史から学ぶ特許戦略のヒント~

 最近、特許の世界でよく聞く言葉があります。

「量より質が大切です!」

確かに、いいことのように聞こえますよね。でも、ちょっと待ってください。本当にそうなんでしょうか?

昔の日本はすごかった!

実は、日本には「特許出願件数世界一」だった時代があるんです。そして、その頃の日本経済は世界でもトップクラスの強さを誇っていました。

「量は質を生む」っていう言葉、ご存知ですか? もしかしたら、当時の日本は、世界一の特許出願数(量)があったからこそ、世界一の経済力(質)を手に入れることができたのかもしれません。

歴史から学ぶヒント

ここで、ちょっと歴史の話をさせてください。 (戦争の話で恐縮ですが、とても分かりやすい例なんです)

日露戦争の時、日本の指導者たちは何を考えていたと思いますか? 実は、「とにかくロシアと同じくらいの数の戦力を持とう!」ということに必死だったんです。

  • 陸上戦力を20万人くらいに
  • 戦艦も5隻くらいに

国の予算をかなり使って、この数字を実現したんです(その分、国民は大変だったみたいですが...)。

そして面白いのは、この「数」が揃ってから、はじめて質の勝負ができたということ。

  • イギリス製の高性能な戦艦
  • 良質な石炭
  • 熱意あふれる日本兵

こういった「質」の面での強みを活かすことができたんです。

逆に、太平洋戦争ではどうだったでしょう? アメリカの圧倒的な物量の前に、質の勝負にすら持ち込めませんでした。

何が言いたいか?

この歴史から、二つの大切なことが見えてきます:

  1. 量があってこそ、質も育つ
  2. 質が効いてくるのは、量が十分にある時

今の日本企業は大丈夫?

実は、最近の「量より質」という話には、ちょっと怪しいところがあるんです。

バブル崩壊後、多くの日本企業は経費削減に走りました。その時の言い訳として、「量より質」という理屈が使われたんじゃないか...というのが私の見方です。

その結果どうなったか? たくさんの特許を出願し続けているアメリカや中国の企業に、どんどん追い抜かれているんです。

まとめ

「量より質が大切」

確かにその通りなんです。でも、それは「十分な量がある」という前提があってこその話。量を無視して質だけを追求しても、うまくいかないかもしれません。

特許戦略を考えるとき、まずは「必要な量」をしっかり確保すること。そこから質を高めていく。そんな順番で考えてみてはいかがでしょうか?

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