2025年5月7日水曜日

生成AI関連の特許:「発想支援プログラム及び方法」(特許第7672120号)取得のお知らせ

この度、生成AI関連の特許として、「発想支援プログラム及び方法」(特許第7672120号)を取得しました。

特許の出願は【出願日:2024年9月30日】に行われ、【登録日:2025年4月】に設定登録されました。

特許化の目的としては、

  1. 生成AI(大規模言語モデル・埋め込みモデル)を活用し、特定製品に関するユーザーの要求に応じたソリューション案を効率的に生成する技術を権利化すること。

  2. 生成AIを活用した発想支援技術の独自性を明確にし、この分野における知的財産権を確立すること。

などが挙げられます。

従来の発想支援技術では、自然言語文の形態素解析によりコンテキストが失われ、その後の関係性再構築を人間が行う必要がありました。本特許技術では、大規模言語モデル(例えばOpenAIのGPTシリーズやGoogleのGemini、AnthropicのClaudeシリーズなど)や埋め込みモデル(例えばOpenAIのtext-embeddingシリーズ)を用いて、特許文書やユーザーレビューなどの情報から高い類似度を持つ文字列を抽出し、これらを組み合わせて具体的で実現可能性の高いソリューションを自動生成します。

今回の特許取得により、この発想支援技術の独自性と実用性が正式に認められ、生成AI技術が急速に発展する現代において意義深い成果となりました。

今後は、企業の研究開発部門やAIソリューション提供企業などを対象に、本特許技術のライセンス提供を積極的に推進する予定です。また、ライセンシーとの協業を通じて得られるフィードバックを技術の更なる改良や発展に活かし、広範な産業分野での応用を目指します。

最後に、本特許の取得にご支援いただいた関係者の皆様に心より感謝申し上げます。これを機に、更なる技術革新と研究開発を続けて参ります。

【特許請求の範囲】

【請求項1】
 コンピュータに、
 大規模言語モデルに、特定製品に関する文書から抽出した複数の情報文字列の各々と、前記複数の情報文字列の各々と前記特定製品に対するユーザーの要求を示す要求文字列との類似度の評価指示を含む類似度評価指示情報とを入力し、前記大規模言語モデルから、前記複数の情報文字列の各々と前記要求文字列との類似度の出力を得る処理と、
 前記複数の情報文字列から所定以上の類似度を有する情報文字列を抽出し、前記抽出された所定以上の類似度を有する情報文字列を一つの入力文字列に結合する処理と、
 前記大規模言語モデルに、前記入力文字列と、前記要求文字列に対応するソリューションの生成を指示するソリューション生成指示情報を入力し、前記大規模言語モデルから、前記要求文字列に対応するソリューションの出力を得る処理と、
を実行させる発想支援プログラム。
【請求項2】
 コンピュータに、
 埋め込みモデルに、特定製品に関する文書から抽出した複数の情報文字列の各々を入力し、前記埋め込みモデルから、前記複数の情報文字列の各々のベクトルの出力を得る処理と、
 前記埋め込みモデルに、前記特定製品に対するユーザーの要求を示す要求文字列を入力し、前記埋め込みモデルから、前記要求文字列のベクトルの出力を得る処理と、
 前記複数の情報文字列の各々のベクトルと前記要求文字列のベクトルとの類似度を算出する処理と、
 前記複数の情報文字列から所定以上の類似度を有する情報文字列を抽出し、前記抽出された所定以上の類似度を有する情報文字列を一つの入力文字列に結合する処理と、
 前記大規模言語モデルに、前記入力文字列と、前記要求文字列に対応するソリューションの生成を指示するソリューション生成指示情報を入力し、前記大規模言語モデルから、前記要求文字列に対応するソリューションの出力を得る処理と、
を実行させる発想支援プログラム。
【請求項3】
 コンピュータが、
 大規模言語モデルに、特定製品に関する文書から抽出した複数の情報文字列の各々と、前記複数の情報文字列の各々と前記特定製品に対するユーザーの要求を示す要求文字列との類似度の評価指示を含む類似度評価指示情報とを入力し、前記大規模言語モデルから、前記複数の情報文字列の各々と前記要求文字列との類似度の出力を得る処理と、
 前記複数の情報文字列から所定以上の類似度を有する情報文字列を抽出し、前記抽出された所定以上の類似度を有する情報文字列を一つの入力文字列に結合する処理と、
 前記大規模言語モデルに、前記入力文字列と、前記要求文字列に対応するソリューションの生成を指示するソリューション生成指示情報を入力し、前記大規模言語モデルから、前記要求文字列に対応するソリューションの出力を得る処理と、
を実行する発想支援方法。

【発明者】川上 成年 【特許出願人】川上 成年

詳細については、J-PlatPatでご確認ください。

(J-PlatPatリンク:https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7672120/15/ja )

2025年5月2日金曜日

知財実務オンラインに出演します。

 2025年5月8日の18:30から、知財実務オンラインに出演します。

当日は以下のリンクからご視聴いただければと思います。

知財実務オンラインのYouTube

出演依頼をいただいた際、テーマは自由とのことでしたので、検討の結果、パテント誌4月号に掲載された私の論文に関連する、AIを活用したアイデア発想法についてお話しすることにいたしました。

セミナーは約1時間を予定しており、下記の内容で進める予定です。

セミナー内容(予定)


セミナータイトル:
 生成AIで発想のマンネリ打破!知財実務家のためのアイデア発想法「多空間発想法」実践と自作AIアプリデモ

1. はじめに

  • ご挨拶と自己紹介

  • 本日のゴール:

    • 特許実務におけるアイデア発想の重要性と、多くの実務家が抱える「発想の難しさ」という課題を共有します。

    • アイデア発想を支援する「多空間デザインモデル」と、生成AI技術がこの課題解決にどのように貢献できるかのヒントを提供します。

    • 自作AIアプリケーションのデモンストレーションを通じて、具体的な活用イメージを掴んでいただきます。

2. 特許実務におけるアイデア発想の重要性と課題

  • アイデアが求められる場面: 発明者ヒアリング、先行技術調査で見つけた課題からの展開、権利範囲の検討など、特許実務の様々な場面で創造的なアイデアが不可欠です。

  • 発想の難しさ: ブレインストーミングの限界、TRIZ等の手法習得の困難さ、アイデアが出ないことへのプレッシャーなど、多くの実務家が発想に行き詰まりを感じています。

  • アイデア発想の基礎: 新規アイデア創出の基盤となる推論(演繹、帰納、仮説形成/アブダクション)について概説します。

3. アイデア発想法「多空間デザインモデル」

  • 従来の発想手法の課題: 人間の能力に依存するため、限界や負担が大きい。

  • 多空間デザインモデル: 複数の要素空間(例:価値、技術など)と推論プロセスを組み合わせる体系的な発想法です。特許情報分析との親和性が高い点に着目しました。

  • 研究の動機:アイデア発想プロセスにおける人間の負担を軽減し、さらに、AIを使用することにより、効率化・自動化を目指します。

4. AIによるアイデア発想支援の研究紹介とデモンストレーション

  • 研究1 (2021年 論文): 多空間モデルの自動生成

    • アプローチ: テキストマイニング技術で特許情報等から多空間デザインモデルを自動構築。

    • 成果: 情報からのモデル自動作成に成功。

    • 課題: モデルを用いたアイデア創出は依然人間の思考に依存。

  • 研究2 (2023年 GPTs): アイデア生成の完全自動化への挑戦 (デモ1)

    • アプローチ: 生成AI(GPTs)でモデル生成からアイデア発想までの一連プロセス自動化を検証(【デモ1】)。

    • 成果: 人間の思考を介さないアイデア自動生成を実証。

    • 課題: 生成アイデアの具体性・解像度が低い

  • 研究3 (2024年 論文): 多空間デザインモデル構築とアイデア創出プロセスの効率化・高度化

    • アプローチ: 生成AIで洗練された多空間モデルを構築し、質の高いアイデアを効率的に創出するプロセスを研究。

    • 成果: モデル構築とアイデア創出の両立に成功し、実用化(アプリ開発)への道筋を示す。

    • 課題: 研究成果を実用的なアプリケーションとして実装すること。

  • 研究4 (2025年 アプリ): アイデア自動生成アプリのプロトタイプ (デモ2)

    • アプローチ: 研究3の成果に基づき、自作AIアプリ "Idea Generator (2025)" を開発・実装(【デモ2】)。

    • 成果: ユーザーのクエリに基づき、AIが関連特許情報を選択し具体的なアイデアを自動生成。

    • 課題: 生成アイデアの客観的評価手法の確立。

5. まとめと今後の展望

  • 本日の学び: 多空間デザインモデルの概要と、生成AIによるアイデア発想支援の具体的な研究進展、そして自作アプリによる実現例について解説しました。

  • AI活用の可能性: 生成AIは、アイデアの種探し、発想の壁打ち、多角的な視点の提供など、特許実務の様々な場面で有効なツールとなり得ます。

  • 留意点: AIは万能ではなく、最終的な判断や深い洞察には人間の知見が不可欠です。AIの特性を理解し、適切に活用することが重要です。

  • 若い方へのメッセージ: まずはAIツールに触れ、アイデア発想のプロセスを意識することから始めてみましょう。

  • 今後の展望: アイデア評価の自動化など、更なる研究開発を進めていきます。

6. 質疑応答

まとめ

当日は、具体的な手法や自作ツールのデモを交え、皆様の知財実務に役立つヒントをご提供できればと考えております。

生成AIを活用した新しいアイデア発想にご興味のある知財実務家の皆様、ぜひご視聴いただけますと幸いです。当日お会いできることを楽しみにしております。

2025年4月26日土曜日

巨大な壁に爪楊枝で挑む?マクロ問題とミクロ解決策のズレ

 SNSを眺めていると、時々「ん?」と首をかしげたくなるような意見に出会います。最近見かけたのは、こんな感じのポスト。

「就職氷河期って騒ぐけどさ、結局、英検とか資格とか、ちゃんと努力すれば就職できたんじゃないの?」

…うーん、これはなかなか。案の定、コメント欄は紛糾していましたが、それもそのはず。だって、このロジック、ちょっと無理がありませんか?

「個人の努力」 vs 「時代のうねり」

ここで提示されているのは、「就職氷河期」という、どうしようもなくマクロ(=巨大)な社会問題に対して、「個人の努力」というミクロ(=極小)な解決策です。

例えるなら、巨大なダムの決壊を、指一本で塞ごうとするようなものでしょうか。いや、もっと言えば、押し寄せる津波に対して「気合で乗り切れ!」と叫んでいるようなものかもしれません。

歴史を紐解けば、似たような話はゴロゴロしています。例えば、かの太平洋戦争。アメリカが工業力にモノを言わせて航空機を大量生産してきたのに対し、日本軍の一部は「大和魂」「精神力」といった、いわばパイロット個人のミクロな力で対抗しようとしました。その結果はどうだったか…皆さんご存知の通りです。

マクロな視点とミクロな視点の往復

「就職氷河期」の話に戻れば、社会全体の停滞(マクロ)に対しては、個人の頑張り(ミクロ)を求めるだけでなく、国や社会全体での大規模な雇用創出策、セーフティネットの拡充といったマクロな支援が不可欠だったはずです。

それを「個人の努力不足」にすり替えてしまうのは、問題を矮小化するだけでなく、その時代を生きた人々に対してあまりにも酷ではありませんか? まるで、嵐で家を失った人に「もっと頑丈な家を建てておけばよかったのに」と言うようなものです。

「自己責任論」が残す禍根

さらに言えば、こうした「自己責任論」は、社会に対する不信感や恨みを生み出す原因にもなりかねません。本来であれば社会全体で支えるべき困難を個人の責任とされた人々が、そのシステムに対して不満を抱くのは当然のこと。それは、将来にわたって社会に重い影を落とすことになりかねません。

でも、巨大な社会問題の前では、個人の力だけでは見えない部分が大きい。その現実から目をそらして、「努力が足りない」と個人を責めたりするのは、やはり違うのではないでしょうか。

知財の世界におけるマクロとミクロ

この「マクロな問題にミクロで対応してしまう」という構図は、実は私たち知財の世界における戦略立案や分析においても、陥りやすい罠なのです。それが、特許のマクロ分析ミクロ分析の関係です。

  • マクロ分析(パテントマップ、ランドスケープ分析など): これは、特定の技術分野や競合他社の特許出願動向を俯瞰的に捉える分析です。何千、何万という特許情報を統計的に処理し、「どの技術分野が伸びているか」「競合はどこに注力しているか」「空白の技術領域はどこか」といった**大きな流れ(マクロ)**を読み解きます。経営戦略や研究開発戦略といった、大きな意思決定に役立ちます。

  • ミクロ分析(個別特許の精査): 一方こちらは、個々の特許公報を詳細に読み込み、「この特許は有効か?」「権利範囲はどこまでか?」「自社製品はこの特許を侵害していないか?」といった**具体的な点(ミクロ)**を評価する作業です。無効審判の請求や、ライセンス交渉、設計変更の要否など、個別の具体的なアクションにつながります。

マクロ分析の結果だけでミクロな判断を下そうとしたり、逆にミクロな分析だけでマクロな戦略を語ろうとすることの危うさは、先に述べた通りです。両者は補完関係にあり、どちらか一方だけでは全体像を見誤る可能性があります。

【知財トピック】ポートフォリオ構築の視点:木を見て森も見る

ここで少し視点を変えて、知財戦略、特に特許ポートフォリオの構築について考えてみましょう。これもまた、「マクロ」と「ミクロ」のバランスが問われる領域です。

個々の発明(ミクロ)が素晴らしいものであっても、それだけでは強力なポートフォリオ(マクロ)にはなりません。市場や競合の動向(マクロ分析)を踏まえ、自社の事業戦略に沿って、どの技術分野に、どのような権利範囲の特許を、どれくらいの数、配置していくか、という全体設計(マクロ)が不可欠です。

一方で、いくら立派な全体設計(マクロ)があっても、それを構成する個々の特許(ミクロ)の質が低ければ、いざという時に役に立たない「砂上の楼閣」になりかねません。一つ一つの特許について、権利範囲の広さや有効性、回避設計の困難性などを厳しく評価(ミクロ分析)していく必要があります。

つまり、優れた特許ポートフォリオとは、単なる質の高い特許(ミクロ)の集合体ではなく、事業戦略(マクロ)と連動し、競合の動きを牽制しうる戦略的な配置がなされた『生きた森』なのです。そのためには、マクロとミクロ、両方の視点からの継続的な評価と見直しが欠かせません。単に特許の数を増やす(マクロ的な量)だけでなく、個々の特許の質(ミクロ的な質)を高め、それらを戦略的に組み合わせることが重要になります。

まとめ

社会問題から知財戦略まで、私たちはしばしば「マクロ(全体・構造)」と「ミクロ(個別・個人)」という二つの視点の間で揺れ動きます。大切なのは、どちらか一方に偏るのではなく、両方の視点を理解し、使い分けることです。

巨大な問題に対して個人の努力だけを求めることの危うさ、そして、全体戦略を描く上で個別の要素の質を見極める重要性。どちらの視点も欠かすことなく、バランスの取れた判断を心がけていきたいものですね。

2025年4月19日土曜日

後知恵のこわさ - 特許判断の落とし穴

皆さん、「後知恵バイアス」って聞いたことありますか?特に特許の世界では大きな問題なんです。このバイアスは私たちの日常生活にも潜んでいますが、特許の世界では特に厄介な存在となっています。今日はその話をじっくりしていきましょう。

知財高裁ってなに?

約20年前、日本は「知財立国」を宣言し、その一環として知的財産を専門に扱う「知財高裁」が設立されました。これは画期的なことだったんです!当時は、特許や著作権などの知的財産権を守ることで、日本の産業競争力を高めようという意気込みがありました。

知財高裁の設立は、知的財産権の重要性が増す中で、専門的な知識を持った裁判官が判断する場が必要だという認識から生まれたものです。世界的に見ても先進的な取り組みとして注目されていたんですよ。

特許訴訟で勝てない現実

しかし、期待されていたほど知財関連の裁判は活発にならなかったんですよね。なぜでしょう?

実は、特許権者が訴えても敗訴するケースが多かったんです。「負けるなら裁判する意味がない」と思われるようになってしまいました。特許取得のために多大な時間とコストをかけたにもかかわらず、裁判で権利が否定されるのであれば、企業としても二の足を踏んでしまいますよね。

特に大きな問題は、特許庁の審査を通過して特許になったものが、裁判で「進歩性がない」と判断され、無効にされてしまうこと。せっかく取得した特許が覆されるのは理不尽ですよね。これでは、企業の特許取得へのモチベーションも下がってしまいます。

「後知恵」という落とし穴の正体

この現象の背景には「後知恵バイアス」があると思います。裁判官は非常に頭の良い方々なので「こんな発明、誰でも思いつくじゃないか」と考えてしまうんですね。

心理学的に見ると、人間は結果を知った後では「自分ならそれを予測できた」と思いがちです。これは私たち全員が持っている認知バイアスなんです。発明についても同じことが言えます。

中国では「事後諸葛亮(じごしょかつりょう)」とも呼ばれるこの現象。後から知恵を働かせて三国志の賢者・諸葛亮のように振る舞うことを皮肉った表現です。発明が完成した後から見ると、「そんなの当たり前じゃん!」と思えてしまうんです。

後知恵バイアスの具体例

例えるなら、手品の種を知ってしまうと手品が面白く感じなくなるようなもの。裁判では多くの証拠に囲まれて判断するため、発明が当たり前のように思えてしまうんです。

たとえば、スマートフォンのスワイプ操作。今では当たり前ですが、初めて提案された時は革新的でした。しかし今から見ると「そんなの誰でも思いつくでしょ」と後知恵で判断されかねないんです。

また、発明時点では利用できなかった技術や知識を基に判断してしまうことも問題です。当時の技術水準で考えれば画期的なアイデアでも、現在の知識で判断すると「簡単」に感じてしまうんですね。

特許システムへの影響

この後知恵バイアスは特許システム全体に悪影響を及ぼしています。発明者は本当に革新的なアイデアを持っていても、後知恵によって価値を過小評価されるリスクがあります。

特に中小企業やスタートアップにとっては、特許取得だけでも大変なのに、さらに無効化のリスクを抱えるのは大きな負担です。知的財産権が適切に保護されないと、イノベーションへの投資意欲も減少してしまいます。

身近な場面でも起こる後知恵問題

後知恵は特許裁判だけでなく、様々な場面で見られます:

  • 特許審査でも審査官によっては後知恵で拒絶するケースがあります。このような場合、審判や訴訟へ進むには多額の費用がかかるため、特に中小企業は断念せざるを得ないこともあります。
  • 会社内での発明提案でも「これくらい誰でも思いつく」と判断され、特許化されないことも。実は、多くの企業で貴重なアイデアがこのようにして埋もれています。
  • その結果、競合他社が同じアイデアを権利化して大慌てする事態も起こりうるんです。後から「あのアイデアを特許化しておけば...」と悔やんでも遅いのです。
  • プロジェクト評価においても、結果を知った後では「そうなるのは明らかだった」と判断されがちです。これにより、実際には優れた判断をした人が正当に評価されないこともあります。

国際的な視点から見た問題

この後知恵バイアスの問題は日本だけではなく、世界中の特許制度で課題となっています。米国では「KSR判決」以降、進歩性の判断基準が厳しくなり、多くの特許が無効化されるケースが増えました。

一方、欧州では「課題解決アプローチ」という方法で、より客観的な判断を目指しています。世界各国が後知恵バイアスとの闘いに取り組んでいるのです。

最近の動向と解決への道

最近は「無効になりすぎ」との批判もあり、日本の裁判での特許無効判断は抑制的になってきているようです。これは特許権者にとっては良いニュースかもしれません。

個人的には、訴訟では進歩性の判断をしないか、後知恵バイアスのないAIに判断させるなどの措置が必要だと思います。AIは人間のような感情や先入観に左右されにくいため、より客観的な判断ができる可能性があります。

発明者や企業ができること

後知恵バイアスに対抗するため、発明者や企業ができることもあります:

  • 発明の過程や試行錯誤の記録を詳細に残しておくこと
  • 当時の技術水準と比較して何が画期的だったのかを明確に説明できるようにすること
  • 特許明細書では、発明の効果や意外性を十分に記載すること

これらの対策は、後知恵バイアスによる不当な判断から発明を守るのに役立ちます。

まとめ:後知恵バイアスとの上手な付き合い方

特許実務は「後知恵との闘い」とも言えるでしょう。人間が判断する以上、完全に避けるのは難しいかもしれませんが、AIの発展によって、より公平な判断ができるようになることを期待しています。

私たち一人ひとりも、「今なら簡単に思いつく」という考えに惑わされないよう注意が必要です。真のイノベーションは、当時の状況下では決して「当たり前」ではなかったのです。

みなさんも日常生活で「後から見ればわかる」と思うことがあるかもしれませんが、それは実は発明当時には簡単ではなかったかもしれませんよ。発明や創意工夫を正当に評価する目を持ちたいものですね。

そして特許制度が本来の目的である「発明の保護とイノベーションの促進」をしっかり果たせるよう、後知恵バイアスについての理解を深めていくことが大切だと思います。

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