少し前に、無形資産評価の研修を受けました。講師は、ベンチャーキャピタルなどで活躍されている方でした。
研修の最後に質問時間が設けられ、いくつか質問があったのですが、その中に印象に残る質問がありました。
「アップルの時価総額はトヨタの時価総額の倍以上ある。トヨタは工場もたくさんあるし、従業員もたくさんいるので価値があることはわかる。一方、アップルには何もない。なんで時価総額にそんな差が出るのか理由がわからない。」という感じでした(正確ではありません。)
質問された方は弁理士であったので、無体財産を守るのが仕事である弁理士がこういう質問をするのもなんだかと思いましたが、確かに、そう考えたくなる気持ちも、やはりわかります。
トヨタといえば、名古屋や世界中の多数の工場を所有し、その土地や施設・設備の価値を考えれば、膨大な額となると思います。また、従業員も世界で何十万人もいると思われ、系列会社も考えますと大企業というイメージです。
一方、アップルはカリフォルニアあたりに本社があるのかな・・・、というイメージしかわきません。工場もまったくありませんし、正直どこに価値があるのかイメージしにくいものがあります。
講師の方の回答は、アップルの有している無形資産に価値がある、ということでしたが、質問した方はあまり納得できなかったようです。
とはいえ、講師の方の話の中に、これまた印象に残る言葉がありました。それは、「無形資産は化ける」 という言葉です。
講師の方は元VCの方ですので、企業に投資するのが仕事となりますが、その考えの基本が「無形資産は化ける」ということになるかと思います。
要は、無形資産を有する企業は化ける可能性があるから、優先的に投資するということになるでしょうか。
工場などの有形資産は、ある程度の価値を生み出しますが、それは予想の範囲にとどまり、予想を超えて大きく儲かるということはないと思います。
一方、無形資産を有する企業は、(ダメになる企業も多いと思いますが)、予想を超えて儲かる可能性があり、 VCとしては、投資した企業の1社でも当たれば儲かるという感じで投資しているとのことです。
そう考えますと、米国企業はファブレス企業が多いですが、これは、有形資産に投資しても企業価値が高まらないため、無形資産に集中的に投資して企業価値を高めていると考えられます。
ということで、日本企業も無形資産の構築を図ることが、企業価値を高めるために必要といえます。
もちろん、アップルも今はたまたま調子がよいだけで、何年かしたらやっぱり有形資産も重要ということになるのかもしれませんが、これはどうなるかよくわかりません。
2016年4月10日日曜日
2016年3月31日木曜日
デザイン思考vsブランド思考
最近感じますのが、いろいろなことの陳腐化速度が速いことです。
たとえば、オープンクローズ戦略というのも、5年前であれば、某先生が盛んに言っておられただけで、世間一般では認知されておりませんでしたが、現在では、中小企業でもオープンクローズ戦略を実行するという時代になっております。
今の旬に、デザイン思考があると思いますが、これもまた、何年後かには、多くの企業で実施されることになると思います。
デザイン思考は有効な考えですが、多くの企業で導入されますと、差別化要因とならなくなるデメリットがあると思います。つまり、やって当たり前ではあるが、それだけでは足りない、という状況になります。
そうしますと、新たな考えをさらに導入する必要が出てまいりますが、その一つにはブランドというもので差別化を図ることが考えられるのではないでしょうか。
ここで、デザイン思考とブランド思考を簡単に比較してみます。
ブランド思考の大きなメリットには、模倣困難ということがあると思います。
特許は、技術を守るものですが、技術は(ほぼ完全な)論理で構成されるため、分析が可能であり、容易に模倣されるという性質を有します(なので、特許権で保護することになります)
一方、ブランドはその世界観が技術だけではなく、文化、芸術、宗教、感性、・・・等、非論理的内容も含みますので、分析しきれず、模倣もしにくいといえるかと思います。
また、デザイン思考に基づく製品は、ユーザーニーズを的確にとらえた製品となりますが、逆にいえば、ユーザーニーズの延長の範囲内の製品しかつくれないといえます。
一方、ブランド思考によれば、ユーザーとは多少の距離がありますので、ユーザーの意表をつく面白い製品ができる可能性があります。
i-phoneやルンバなどは、ユーザーのニーズからは生まれない製品と思いますので、ブランド思考的な製品といえるかと思います。(出た当初は、本当に売れるのかという危惧はありましたが・・・。)
そう考えますと、デザイン思考とブランド思考は対立するものではなく、組み合わせて用いることにより、ユーザーのニーズをとらえつつ、面白い製品ができるのではないかと思います。
たとえば、オープンクローズ戦略というのも、5年前であれば、某先生が盛んに言っておられただけで、世間一般では認知されておりませんでしたが、現在では、中小企業でもオープンクローズ戦略を実行するという時代になっております。
今の旬に、デザイン思考があると思いますが、これもまた、何年後かには、多くの企業で実施されることになると思います。
デザイン思考は有効な考えですが、多くの企業で導入されますと、差別化要因とならなくなるデメリットがあると思います。つまり、やって当たり前ではあるが、それだけでは足りない、という状況になります。
そうしますと、新たな考えをさらに導入する必要が出てまいりますが、その一つにはブランドというもので差別化を図ることが考えられるのではないでしょうか。
ここで、デザイン思考とブランド思考を簡単に比較してみます。
ブランド思考の大きなメリットには、模倣困難ということがあると思います。
特許は、技術を守るものですが、技術は(ほぼ完全な)論理で構成されるため、分析が可能であり、容易に模倣されるという性質を有します(なので、特許権で保護することになります)
一方、ブランドはその世界観が技術だけではなく、文化、芸術、宗教、感性、・・・等、非論理的内容も含みますので、分析しきれず、模倣もしにくいといえるかと思います。
また、デザイン思考に基づく製品は、ユーザーニーズを的確にとらえた製品となりますが、逆にいえば、ユーザーニーズの延長の範囲内の製品しかつくれないといえます。
一方、ブランド思考によれば、ユーザーとは多少の距離がありますので、ユーザーの意表をつく面白い製品ができる可能性があります。
i-phoneやルンバなどは、ユーザーのニーズからは生まれない製品と思いますので、ブランド思考的な製品といえるかと思います。(出た当初は、本当に売れるのかという危惧はありましたが・・・。)
そう考えますと、デザイン思考とブランド思考は対立するものではなく、組み合わせて用いることにより、ユーザーのニーズをとらえつつ、面白い製品ができるのではないかと思います。
2016年3月27日日曜日
2016/2/14~2/20の知財高裁判決
2016年2月14日から2016年2月20日までになされた裁判は、侵害訴訟2件(商標1件、著作権1件,)、審決取消訴訟7件(特許6件、商標1件)です。
先日(2016年3月25日)に均等論について判示した大合議判決があったようですが、なかなか追いつけませんね・・・。
1.侵害訴訟
*コメント
1審被告が,1審原告が原告標章を使用する行為が1審被告の有する反訴商標権の侵害に当たる旨主張して,1審原告に対し,商標の使用の差止め等を求めた点については、1審原告が営業譲渡契約前から及び契約後も原告標章を使用していたこと、1審被告は原状回復義務を有すること、などから、1審原告が原告標章を使用することを禁じることは,当事者間の衡平を著しく欠く結果となるものと認められるから,1審被告による1審原告らに対する商標権の行使は,権利の濫用として許されないとされました。
前回の裁判例もそうでしたが、ビジネス上の関係が破たんした場合には商標上の争いが生じるリスクが多々ありそうです。権利があるからと言って権利行使しても契約内容によっては権利濫用となりますので、商標権侵害と契約内容の双方の面からの検討が必要なようです。
*コメントはありません。
2.審決取消訴訟
*コメント
特許性の判断において、本件請求項の「防草傾斜面」の意味が、本件明細書の記載に基づいて解釈されました。リパーゼ判決という有名な判例があるのですが、これとは少し違うニュアンスとなっています。
甲1明細書には「防草機能」の記載はありませんでしたので、甲1発明の「連接傾斜面」は、本件発明の「防草傾斜面」とは(形状が近似するにしても)、相違すると認定されました。
特許庁の審査では、機能は異なるのに形状が近似するだけで、実質的に同一とされてしまうことが非常に多いのですが、機能で差別化できれば相違点といえます。妥当な判決と感じます。
*コメント
医療用の「体脂肪測定器,体組成計」と家庭用の「脂肪計付き体重計,体組成計付き体重計,体重計」とが類似した商品であるか否かについて争われましたが、医療用も家庭用も性能が近づいてきており、性能による区別が困難であり、需要者も一部重複することから類似とされました。
*コメント
引用発明に周知技術を適用しても、本件発明の構成に(技術的に)ならないとされ、特許庁の相違点の認定についての判断誤りがあるとされました。
(4)平成27(行ケ)10077 審決(無効・不成立)取消
平成28年2月17日判決 請求棄却(2部)
特許権 (水洗便器)
進歩性(発明の要旨認定,引用発明の認定,相違点の認定,相違点の判断),特許請求の範囲の記載要件,明細書の記載要件(明確性),補正・訂正の許否(新規事項の追加)
平成28年2月17日判決 請求棄却(2部)
特許権 (水洗便器)
進歩性(発明の要旨認定,引用発明の認定,相違点の認定,相違点の判断),特許請求の範囲の記載要件,明細書の記載要件(明確性),補正・訂正の許否(新規事項の追加)
*コメントはありません
(5)平成26(行ケ)10272
審決(拒絶)取消
平成28年2月17日判決 審決取消(2部)
特許権 (自己乳化性の活性物質配合物およびこの配合物の使用)
進歩性(相違点の認定,相違点の判断),手続違背(50条)
平成28年2月17日判決 審決取消(2部)
特許権 (自己乳化性の活性物質配合物およびこの配合物の使用)
進歩性(相違点の認定,相違点の判断),手続違背(50条)
*コメント
審決において初めて相違点の存在を認定し,それに当該技術を適用して,不成立という結論を示すのは,実質的には,査定の理由とは全く異なる理由に基づいて判断したに等しく,当該技術の周知性や適用可能性の有無,これらに対応した手続補正等について,特許出願人に何らの主張の機会を与えないものといわざるを得ず,特許出願人に対する手続保障から許されないとされました(すなわち特50条違反)。
(6)平成27(行ケ)10120 審決(拒絶)取消
平成28年2月17日判決 請求棄却(4部)
特許権 (モータ駆動双方向弁とそのシール構造)
進歩性(相違点の認定,相違点の判断),特許請求の範囲の記載要件
平成28年2月17日判決 請求棄却(4部)
特許権 (モータ駆動双方向弁とそのシール構造)
進歩性(相違点の認定,相違点の判断),特許請求の範囲の記載要件
*コメント
非容易想到性の論理付けについて、相違点がある⇒相違点は設計事項ではない⇒相違点とする技術的必然性もない(動機づけがない)⇒相違点とする記載も示唆もない⇒相違点とした場合には技術的に支障が生じる(阻害要因)と、されております。
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ご無沙汰しております。 最近投稿をさぼっておりますが、これはこのHPのアクセス数がなさ過ぎて、モチベーションが上がらないからです。 1つの記事のアクセス数が5くらいしかありません(1日ではなく、総アクセスで)ので、さすがにひどいと言わざるをえません。 このような状態になったのは、...
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東京オリンピックのメインスタジアムの建設費用が高すぎるとして問題となっています。 今の日本であれば3000億円程度であれば、出せない額ではありませんが、世論的には批判の的となっています。 その理由はなぜかといえば、あのヌメッとしたデザインに3000億円の価値はないと日本国...