2022年1月22日土曜日

パテント誌の件

拙稿「テキストマイニングを使用した新市場の探索」ですが、月刊「パテント」の4月号に掲載される予定となりました。

予定というのは、決定ではなく、査読により掲載されない可能性もある、ということになりますので、掲載されませんでしたら、そういうことだったということでご理解願います・・・。

パテント誌はこの1月号から原則電子データで発行されることになりました。弁理士会のHPにアップされますので、すぐに見れますのは弁理士のみとなります。ただし希望すれば弁理士以外の方でも書籍としても入手できます(ただし、年間契約だった?と思います)。

以前と同様、記事は発行から2月程度で無料公開されると思いますので、6月くらいには、ここで紹介できると思います。 したがって、無理に購入する必要はないと思います。

さて、今年の目標の一つ、「Excelでできる特許データ分析入門(仮)」のkindle本の方ですが、本業の方も暇になってしまいました・・・ので、今のうちに着手しようかと思います。

しかし、着手するといっても、何から手をつければよいかわかりません・・・。作業量は膨大となると予想されますので、効率的に処理したいところです。

進め方としましては、項目だけ先につくり、その項目に対応する文章を日々地道につくろうかと思います。

項目については、無料のマインドマップソフト(Free MIndなど)を使用して、つくろうかと思います。マインドマップソフトは項目の入れ替えや修正が楽ですし、項目体系を把握できますので、漏れなく重複の無い項目が作成できると思います。

余談ですが、付記試験を受けた時も、マインドマップソフトで訴状体系を自分で作成しましたので、訴状の構成が頭によく入りました。 

項目が100個できたとしたら、1日1個の項目を処理すれば100日で完成となるわけです。これで、だいたいの進捗の管理もできることになります。

内容としては、初級レベル、新書レベル、1000~2000円の本レベル、を目指します。本当であれば専門書レベルと行きたいところですが、その実力がありません。

進捗につきましては、当ブログで逐次ご報告したいと思います。

2022年1月5日水曜日

特許権を取得する意義について

特許権には資産性もなく、有効性も不明確ということで、現状では特許権を取得する意義というのは低そうな気がします。そのため日本の特許出願件数も低下傾向にあります。

とはいえ、特許出願しなくてよいかといえば、そうでもないと考えております(これは弁理士という立場上、バイアスがかかった考えであることはご了解願います・・)。

特許権を取得する意義には、「知識の固定化」があると個人的には考えております。

(1)知識主体の固定化

巷では、「ノウハウは出願せず秘匿すべき」との言説が多く聞かれます。今の会社にはお金がありませんので、出願経費削減の理由づけに上記言説が利用されることもあります。

実際そのとおりですが、問題がないわけでもありません。その一つには、知識の所有主体が不明確となることかと思います。

ノウハウ秘匿を選択した場合には、そのノウハウの帰属は会社となると思いますが、明示されるわけでも確定できるわけでもありません。

例えば、そのノウハウを考案した発明者が転職した場合には、そのノウハウを転職先で使用するかもしれません。もちろん退職者には秘密保持義務はありますが、せいぜい数年の義務ですので、それ以降は、自由に使用する可能性があります。

結局ノウハウ秘匿を選択した場合には、知識の保有主体は考案者にもあるような状態となります。

一方、特許権を取得した場合には、権利主体は、「その会社」であることが明示され確定されますので、退職者が転職先でそのノウハウを使用することは特許権侵害となりますので、自由に使用はできなくなります。

(2)知識内容の固定化

一般に「ノウハウ」といいますが、それは「ふわっとした情報」となります。つまり、技術内容は文章化されておらず、ふわっとした内容となります。

そうしますと、社内のノウハウは何か?と聞かれたときは、ふわっとしか答えられませんし、社内でノウハウを担当者に伝達する場合には、ふわっとしか伝えられません。

知識というのは、単独で存在するのではなく、レゴブロックのような積み重ねで構成されますので、ふわっとしておりますと、その上に新しい知識を積み重ねることができません。

結果として、企業内の知識の蓄積がなされないこととなります。

また、ノウハウについては、特許庁の審査を受けておらず、自社がノウハウと思っているだけで、実際には公知と同等であることも多いと思います。

そして、固定化された知識の積み重ねが石垣となって、ビジネスを守りますので、ノウハウ秘匿ばかりですと、無防備の城のようで、簡単に攻め落とされてしまいます。

特許出願をしますと、特許庁が方式や特許性を審査して、内容を公示しますので、技術内容と主体は、かなり確定的な情報となります。つまり、知識の(自社)固定化が図られます。

この知識の固定は、世の中に対して行われますので、客観性も高い情報となります。これが特許権を取得する意義かな、と今は考えております。もちろん、これを費用をかけて行うかどうかは会社ごとの判断となります。

余談ですが、あまりに特許出願件数が少ないと、自社の特許情報分析ができないことがあります。つまり、出願件数の多い競合の分析は進みますが、自社分析ができませんので、自社・競合比較ができず、特許情報分析自体が無意味化することがあります。結局、自社の強みも明確化できず、ふわっとしたノウハウに依存することになります。

これらを防ぐには、ノウハウも、特許明細書に準拠した文章化をし、新規性進歩性を自社でチェックする必要がありますが、コストをかけてこのようなことをしている企業はあるでしょうか?もしかしたら、あるかもしれません。 

ということで、特許権は石垣の岩の一つ一つのようなものですので、地道に特許出願を積み重ねて立派な石垣を作っていただきたいと思います。

2021年12月30日木曜日

有効な特許権について(雑な私見)

ちまたの特許戦略本を読みますと、「特許は数を出すのは無意味で、有効な特許を出すことが必要だ」的な言説を見かけます。

今の会社にはお金がありませんので、出願経費削減の理由づけに上記言説が利用されることもあります。

しかし、有効な特許権とはどのようなものかと考えますと、なかなか難しいものがあります。

(1)訴訟に使える説

訴訟で使えるのが有効な特許権という説があります。つまり、出願の要否を訴訟で使えるか否か、という判断基準で選別する考えです。

確かにその通りですが、具体的にはどんな特許なんでしょう?

請求項を広めの表現で記載し特許できれば、権利行使しやすそうです。しかし、広い請求項は無効にされやすいという大きな欠点があります。

一方、無効にされにくい狭い権利としますと、今度は非侵害とされる可能性が高くなります。

そうしますと、技術的範囲は適度に広く、無効にされないよう適度に狭い請求項が有効な特許権の条件となります。

あまりに抽象的すぎてよくわかりません・・・。銀河英雄伝説の「高度の柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対処する」 というセリフを思い出します。

技術的範囲の広さについては、将来上市されるであろう製品の構成を想定する、いわゆる予知能力のようなものが必要となるかと思いますが、そんなこと人間にできるでしょうか?

無効にされない狭さについては、世界中に存在する公知文献をすべて把握できればできるかもしれませんが、調査費用は青天井となると思います。 

訴訟に使える特許というものは事例としては存在しますが、これは、いわゆる後知恵の分析(事後諸葛亮)が多いのではないでしょうか。

たまたまうまくいったケースは裁判例などで目立ちますので、有効な特許権の事例と紹介されがちで、無駄な特許権は無視されるようなイメージです。

(2)事業を守れる説

自社事業をサポートできる特許権が有効という説です。確かにその通りですが、具体的にはどんな特許なんでしょう? 

例えば、事業Aと事業Bとがあって、それぞれサポートする特許を100件ずつ出願したとします。

ところが、事業Aは成功し、事業Bは失敗した場合には、事業Aで出願した特許は有効で、事業Bで出願した特許は無駄という結論となるのでしょうか。

事業が成功する確率は千三つ程度ですので、ほとんどの特許は無駄となります。

また、成功した事業Aについても、その後ビジネスの内容が変化してゆくと思われますので、請求項については、将来上市されるであろう製品の構成を想定する、いわゆる予知能力のようなものが必要となるかと思いますが、そんなこと人間にできるでしょうか?

ビジネスに使える特許というものは事例としては存在しますが、これもまた、いわゆる後知恵の分析(事後諸葛亮)が多いのではないでしょうか。

(3)私見(ガトリング砲理論)

戦闘機のF-35が搭載しているGAU-22というガトリング砲は、一分間に3300発の砲弾を発射します。

なんでこんなに発射する必要があるかといえば、戦闘機の速度は速いので、狙って撃っても当たらないからです。要は、戦闘機を狙うというより、将来戦闘機の存在するであろう空間へ何百発も一斉発射することになります。

そのうち1、2発も当たれば十分ということになります。残りの90発は無駄となるかと思います。旧日本軍の人であれば、一撃必殺が好ましい、弾が無駄だ、などと文句を言うかもしれません。

特許も同様で、未来は人間にはわからないので、可能性のある分野へ、特許権を多数ばらまいておくべきと思います(あくまで雑な私見です)。

そうすれば、将来、その中の1、2件が、「有効な特許権」だった、事後諸葛亮の方々から評価を受けるかもしれません。

ちなみに私はこの話をお客さんにすることはありません。こういうことを言いますと、「この弁理士は出願件数を増やしたいからこんなことをいっているんだ」といわれる可能性があるからです。

結論としましては、「有効な特許権とは、事前にはわからない」と、「有効な特許権があると思っているのは、事後諸葛亮の方々のみ」 と、「下手な鉄砲、数打てばあたる」、ということになるでしょうか。

2021年12月29日水曜日

知財は資産か費用か?

年末年始休暇に入り、暇となりましたので、たまには知財の現状について、個人的に考えてゆきたいと思います。

テーマは、

(1) 知財は資産か費用か?

(2) 有効な特許権とは?

(3) ((1),(2)にもかかわらず)特許権をとる意義とは?

について、まったく個人的な意見を述べたいと思いますが、やっぱり休みたくなりましたら、残りはまたいつかの機会に述べたいと思います。

今回は、(1)知財は資産か費用か?をテーマとしたいと思います。

最近、略称「知財・無形資産ガバナンスガイドライン」案が公開されました。

これを読みますと、強調されておりますのが、知財を費用としてではなく、資産として認識すべき、ということです。

「資産」とはいろいろな捉え方がありますが、会計上の定義は以下の通りです。 

そうしますと、特許権は無形固定資産に該当しますので、形式的には、資産といえます・・・とここで話が終わってしまいますが・・・。

資産であるなら、世の企業は積極的に特許権を取得するはずですが、そうではないのは、上記のごとく特許権は費用という考えの人の方が多いからと思います。

どうして費用ととらえてしまうのか、その理由を考えてみました。

(1)価格が不明

都内の住宅地を歩いておりますと、高級車が停まった豪邸を見かけることがあります。こういう家はいわゆる資産家といわれます。

資産家の保有資産といえば、不動産、株、高級車、金塊?となるでしょうか。これらの共通点といえば、価格がわかる、ということになります。

なぜ価格が分かるかといえば市場が整備されているからです。市場があれば売り買いもできますので、現金化もできます。

一方、特許権は市場はありませんし、売ろうと思っても誰も買ってくれません。したがって、特許権を幾ら持っていても、悲しいことに資産家といわれることはありません・・・。 

売り買いできない、ということは、価値は「0円」と同等ということもできてしまいますので、世間的には資産と見なされないのではないでしょうか。

(2)権利を実現できない

自分の土地に誰か見知らぬ人が勝手に建物を建てた場合には、民事、刑事で排除することができますし、株や金塊を奪われた場合でも同様に取り戻すことができます。

特許権についても、他社が勝手に使用した場合には民事訴訟を提起することになります。

ところが、侵害訴訟の勝訴率は2割ともいわれ(最近はもっと増えたかもしれませんが・・・)、基本的には勝つことは難しいのが現状です。

また、大企業を訴えたりしますと、カウンターで無効審判を請求されたり、相手方代理人に元知財高裁判事の方が出てきたり、訴訟も高裁、最高裁と、何年も続くことになり、金銭的、精神的に非常に厳しい状態となります。

また、勝訴したとしても、得られる賠償金は低く、訴訟費用を賄えればラッキーの程度となります。

そうしますと、特許権をもってても、あまり役に立たない見なされているのが現状で、このことから、世間的には資産と見なされないのではないでしょうか。

このように、株や不動産と比べて、特許権は資産として見劣りがするような気がします。

ガイドラインで、知財を費用としてではなく、資産として認識すべき、というのは私もそう思いますし、非常に結構なのですが、これらの課題を解決しませんと、知財は費用との認識を変えることは難しいのではないでしょうか。

この話は、日本での話で、例えば、米国では違うのかもしれません。米国では賠償額も高額ですし、特許市場を設けるトライも昔からされております。

そういう意味では、米国では特許権は資産と見なされており、したがって、多くの企業は(日本には出願せずに・・・)米国へ多数出願をしているのかもしれませんね。

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